金沢大学先端科学・社会共創推進機構

VBL

7. 社長から社員へのメッセージ(3)

 

 今回も社員に送ったメッセージをご紹介したいと思います。

 

<澁谷工業の凄さに学ぶ>

 私たちが手本としたい会社は無数にあります。今日は地元企業の雄、澁谷工業株式会社(以下、澁谷工業)の凄さについて語ってみたいと思います。
 澁谷工業の凄さからの教訓は、ずばり、「コア技術を伸ばせ」「顧客に聞け」に尽きると、私は思います。

  

【コア技術を伸ばせ】

 かつて金沢大学の機械工学の学生だった私が入社したかった憧れの会社は「澁谷工業」でした。
 当時からどんな複雑な形状のビンでも洗浄する機械を作れる随一の機械メーカーとして名を馳せていました。
 先日かつての上司の口から久しぶりにその「澁谷工業」の名を聞きました。なんでも近々iPS細胞などの培養をしているバイオ企業の「澁谷工業」の視察にいくとのこと。「バイオの澁谷工業」なんて金沢にあったかなぁ、といぶかしげに思いましたが、どうやら私の憧れだったボトル洗浄機械の「澁谷工業」に間違いないことが分かりました。
 調べてみると、澁谷工業は今やボトリング設備のトップメーカーであるばかりでなく、再生医療のための培養機器やロボットを世界で初めて手掛ける凄い会社になっていました。
 しかし注目すべきは、やみくもな多角化ではなく、長年のビン洗浄・充填機械製造で培った、無菌化と自動化という2つのコア技術を伸ばすことに徹底的にこだわっているところです。
 例えば最近広く使われている薄くて軽いペットボトル。実は澁谷工業の無菌充填システムがなければ世に出ていなかったのです。以前は飲料水をペットボトルに入れてから加熱殺菌するため、一定の厚さや耐熱性のあるペットボトルでなくてはならなかったのですが、澁谷工業の、菌をセンサー自動検出し除去する技術のおかげで、常温での衛生的な充填が可能となったことであの薄くて軽いペットボトルが実現したのです。
 ボトリングマシンで得た自動化技術と無菌化技術という独自のコア技術を活かして、澁谷工業は、今や世界最先端の再生医療の分野で、iPS細胞を臓器の形状に培養するためのバイオ3Dプリンターなどの細胞培養装置などを製造する世界で唯一のメーカーに変貌していました。我々も自分の強みを知り、そこにこだわり、伸ばす努力をしていかなくてはなりません。

 

【顧客に聴く】

 「顧客と市場を知っているのはただ一人、顧客本人である。したがって顧客に聞き、顧客を見、顧客の行動を理解してはじめて、顧客とは誰であり、何を行い、いかに買い、いかに使い、何を期待し、何に価値を見いだしているかを知ることができる」とは、経営の神様、ドラッカーの言葉です。
 そしてこれが澁谷工業の凄さのもう一つの秘密でもある、ということを、先日澁谷工業を訪問した際、澁谷進副会長から直接伺うことができました。

 酒米を広げる麻布を折る織機を作っていた創業期、なじみの酒蔵のお客様から2本の一升瓶を一度に洗う瓶洗機ができないか相談を受けそれを作り上げたところから澁谷工業の歴史が始まります。それを知った別のお客様から倒れやすい多種類の瓶を洗う装置ができないか相談を受け、それらを一つ一つ苦労して実現しているうちにお客様がどんどん増え、どんな形状の瓶も洗浄でき、どんな形状の瓶にも飲料を充填できる会社として知られるようになり、ついには日本一のボトリング設備メーカーになっていきます。
 そのうち開発中のPETボトルを見せられ、「いずれこれが瓶の主流になるので、これにジュースを入れるラインが作れないか」相談を受けます。自立できないPET容器ではラインに乗せることすらできません。困っているとお客様が「コンベアに乗せなくてもクビをつかめばいいじゃないか」という決定的なヒントを授けてくれます。
 さらに問題は熱に弱いPETを煮沸消毒をできないことでしたが、医療品関係のお客様から、飲料の充填後に外から紫外線ビームを照射し無菌化する技術を紹介され、クリアします。
 さらに歴史は進みます。
 それらの技術を知ったバイオの研究者から再生医療に必要な細胞の培養機ができないか相談を受け、苦労の末実現します。そして今や再生医療に必須の装置メーカーとしての地位を確立し、将来性への期待が、澁谷工業の株価を天井知らずに押し上げているのです。

 しかし澁谷会長の言葉はシンプルでした。
 「ウチのすべての歴史はお客様が作り上げてきました。我々がやったのは、ただお客様の言うことを真剣に聴き、お客様の言う通りのことを地道にやってきただけです。」と言います。
 「顧客に聞け」
 イノベーションの源はこの言葉に尽きるということを改めて学んだ時間でした。

(2017年7月10日)

2018/01/05
文責 米川 達也