金沢大学先端科学・社会共創推進機構

VBL

.社長から社員へのメッセージ(4)  

 今回も社長として社員に向けた毎週のメッセージの中から皆さんにも役に立ちそうなものをピックアップしてお送りします。

<和倉温泉加賀屋に学ぶ>

 和倉温泉の加賀屋といえば、36年連続日本一の温泉旅館です。地元でもなかなか行けない憧れの宿です。
 その加賀屋の経営理念の一つに「顧客満足度(CS)と社員満足度(ES)のシナジー」があります。お客様が感激するサービスを提供して顧客満足度(CS)を高めることは、そのサービスを提供する社員満足度(ES)の向上があってこそだという考え方です。
 その実現のために加賀屋では女性社員が子供を育てながら安心して働けるよう企業内保育所を設けたり、オンラインのコンピュータシステムを導入したりしていますが、何といってもユニークなのが世界初の料理自動搬送システムです。
 客室数246、宿泊定員数1450、年間宿泊客22万人の大規模な旅館で、ほぼ同じ時間に出来たての料理を個々の客室で提供する、というのは不可能としか思えません。おおぜいの客室係が時に廊下で衝突しそうになりながら走り回っても、待たせた挙句に冷めた料理を運ぶのが精一杯です。ほとんどの大手旅館が大食堂に宿泊客を集めて一斉に食事を提供するバイキング方式にとって替わっているのも当然です。
 しかしそれでは、お客様にNOと言わない「おもてなしの心」をモットーとする理念が実現できないと考えた加賀屋は、リフトやレールを組み合わせた料理搬送ロボットを導入し、厨房で作りたての料理を各フロアに自動搬送するシステムを導入しました。これにより出来たての料理を各室にタイミング良く提供し、客室係が十分な接客時間をとってきめ細かなおもてなしを客室で実現することが可能となったのです。
 ヒューマンタッチのサービスを充実させるために、その舞台裏でロボットによる自動化、省力化を機能させているのです。客室係の最大の付加価値であり、やりがいのある仕事である接客に時間をとることができるよう、そうでない過重部分を徹底的に合理化して取り除いたということもできます。
 36年連続日本一の裏にはこのような秘密があったのです。

 ひるがえって当社の製造環境も安定的なQCDと新製品の開発スピードアップ、そして社員の皆さんの働く環境改善のためには工場のロボット化や自動化を進める必要があります。そのときに大切なことは、加賀屋がそうであったように、我々がお客様に提供する最大の付加価値が何であるか、ということを徹底的に考え抜き、経営理念に立ち返った"哲学"を持つことだと思うのです。

 

<仕事の優先順位>

 今日は、仕事の「優先順位」のお話です。
 当社が完全再生とV字回復をしようとしている今こそ「優先順位」を決めることが大切です。仕事においては常に時間は有限です。
 この限られた時間(とおカネ)をどう活かすか、これはまさに優先順位の問題です。
 ところがこの「優先順位をつける」ことが苦手な人が、実に多いのです。
 なぜか?
 それは一言で言うと、優先順位を決める基準がないためです。
 全てのことが"総花的に"大事に思えたり、「捨てること」による不安や後悔の恐れがぬぐえないのです。レストランに行ってもオーダーがなかなか決められず、料理が届いてから「やっぱりあっちにしておけば良かった」という人と同じです。
 また、せっかく決めたつもりの優先順位も、様々な「圧力」によりいとも簡単にくずされます。「未来より過去を」、「機会よりも危機を」、「重要よりも緊急を」優先して、本当は優先すべき仕事がどんどん後回しになっていきます。
 ひょっとすると「優先順位の高い仕事」は本当はやりたくない仕事で、「圧力」で邪魔されて、できない理由が発生することを待ち望んでいるようにさえ見えることがあります。
 そのような人はいつも仕事に追われ余裕のない状態が続いた挙句に一番大事なことには着手できていないまま疲れ果てる、ということになるのです。
 優先順位をつけるときに大切なことは、全部をやろうとはせずに「一番だけを決めて、一番だけやる」という集中の姿勢です。ものごとは「大きな影響力をもつごく少数」と「ほとんど影響力のない多数」から成り立っているからです。(パレートの法則、20:80の法則)したがって、「いま、最も優先すべきことは何か?」を常に明確にしておくことが大切です。そして、最も重要なことから実行してみてください。

 実行にあたっては、私が学んだ、以下の時間戦略をぜひ参考にしてください。

・即断即決。先延ばししない。(先延ばしするとやることが増え、余計に決められなくなる。)

・すべてを前倒しで進める。締め切りが遠いことから順番に着手すると追われる仕事から解放される。

・仕事の取りかかり方と切り上げ方を見直す。(何かを基準に自分を動かす。たとえばチャイムなどで区切る。ダラダラ深夜まで、はダメ。)

・8割の完成度で良ければ2割の時間でできる(パレートの法則)から、コマ切れの時間を活用して同時並行で仕事を進めれば、8割の完成度の仕事を5つこなせる。1つのことを完成させると100%の仕事だが、この方法なら同じ時間で400%(80×5)の仕事ができる。

 繰り返しますが、時間は有限です。
 仕事の優先順位をつける術を身につけることは、人生の優先順位をつける上でも役に立つはずです。

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<お客様の目線>

 「お客様の目線で」とか「お客様第一主義」とか言われても、今一つピンと来ないのが正直なところです。
 そんな「お客様目線」を象徴的に示してくれるお話を金沢美術工芸大学の安島諭教授から伺いました。

 アメリカのある大病院が、世界有数のデザイン会社にデザインを一新して患者がもっとリラックスできる病院に変えるよう依頼しました。
 安島先生はそのデザイン会社の提案プレゼンテーションの実際の映像を見せてくださいました。それは驚嘆に値するものでした。
 冒頭から、手持ちカメラの映像がスタートし、それが30分続きます。途中スピード再生を織り混ぜますので実際の録画時間は3時間です。
 その間写っているのが、画面全体の白地に黒ずんだシミのみ。何か出てくるのだろうと待てども何も変化がありません。
 手振れによる動きはあるものの、動いているものは一切無し。ただひたすら白地に黒いシミの映像のみ延々と続くのです。
 病院の幹部たちが退屈し、「一体これは何なんだ」とざわつき始めた終了間際、デザイン会社のプレゼンターが一言いいます。
 「これが皆さんの大切なお客様である入院患者が、一日中見続けている景色です。」
 そう、これは寝たきりの患者が見ている病室の天井の映像だったのです。
 「あとは我々に高額を支払うのではなく、皆さん自身で考える番です。」
 放心状態の病院幹部を尻目にプレゼンターは退出していきます。

 その病院が「お客様である患者が外の世界を見えるようにする」というコンセプトで、全てのベッドの脇にバックミラーを取り付けたのはそれから間もなくのことです。
 その後、その病院は、完全な患者第一主義の病院へと大変身を遂げていったのです。
 お客様第一主義とは何かを象徴的に表すエピソードです。

 私たちも反省するところ大です。お客様目線、お客様第一と言いながら、その実お客様を金儲けの手段と考えてはいないか。
 重要なお客様の名前を「さん付け」しない。そもそも「客」という。
 あるいは、こちらがお客様に迷惑をかけておきながら、平気で「クレーム(苦情)情報」という等々。
 真の「お客様第一」の会社になるためには、もっともっとお客様の視線に合わせる努力が必要なようです。

 

<頼むから仕事をさせてくれ>

 「頼むから仕事をさせてくれ」
 マンガの神様、手塚治虫の最期の言葉です。

 以前"手塚治虫展"に行ったとき、未完の遺作「ネオ・ファースト」の絶筆原稿の隣にその言葉が紹介されていました。
 「すべての子供や大人に果てない夢を与えたい」と夢見ていた手塚にとって、あれだけ多くの優れた作品を残した後でも道半ばだったのでしょう。まだまだ描きたいストーリーで頭は一杯だったのに表現するための手や体が動かなくなった悔しさが、「頼むから、もう少し、もう少しでいいから残った仕事をやらせてくれ」という最後の叫びを絞り出させたのでしょう。
 また、手塚はこうも言っています。(NHK「歴史秘話ヒストリア」の1月16日放映)
 「今まで満足した作品は1つもないんです。だから次の作品こそ満足する作品にする、という目標を持ち続けている。」
 実際、NHKの番組でも、病に倒れる直前まで、さまざまな実験的手法を取り入れたアニメーションに試行錯誤する手塚の姿が残されていました。
 現状の自分に満足することなく、大御所といえる立場になってもそこに止まることなく、死の瞬間まで全力で新しいことに挑戦し続けた手塚治虫。私たちの今年のスローガンである「やってみよう 日々新たに」を体現した人でした。
 私たちは必ずしも手塚のように自分の好きなことを仕事に選んだわけではありません。仕事のきっかけは与えられたものである場合が普通です。そして先ずは半人前からスタートします。そこから必死に努力して一人前になろうとします。必死で集中しているうちに、与えられた仕事が面白くなり「自分の好きなこと」になっていき、一人前になります。ところが残念なことに多くの人が一人前になった途端にそこで満足して一人前=二流にとどまります。
 実はそこからが面白いのに、です。
 二流から一流への道は自分で成長していくしかありません。敢えて自分に新たな試練を与えて、答えが有るか無いかも分からない難題を乗り越えるために「やってみよう 日々新たに」の精神でチャレンジしていくことが、二流から一流に進む唯一の道なのです。

 「頼むから仕事をさせてくれ」と言い残した手塚治虫の気持ちを思い、仕事をさせてもらえる喜びをかみしめながら、今週も新たなチャレンジをしてみませんか?

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このメッセージを書くために東京練馬区富士見台の虫プロに取材に行ってきました。

 

2019/02/10
文責 米川 達也