金沢大学先端科学・社会共創推進機構

VBL

3.「起業なんてするべきじゃなかった?」起業一年目のノート②

2017年2月号-2

 先日、金沢大学ベンチャー・ビジネス・ラボラトリー(VBL)から、コーディネーターとして任命していただきました。これからも、より多くの学生に起業家精神 (アントレプレナーシップ)をお伝えできるように努め、金沢大学の起業家育成に貢献していこうと思います。
 さて、前回のレポートでは『起業なんかするべきじゃなかった?』と題して、3カ月で事業の中止をせざるを得なかった私のリアルな体験から、起業の難しさや、ビジョンまたは起業家精神の重要性をわずかばかりお伝えできたかと思います。今回のレポートでは前回に引き続き、起業一年目のリアルな体験からお伝えしていこうと思います。

リスクを取るということ

 Webサービス事業では、お客様情報の保守管理は大変重要な課題です。しかし全てのサイバー攻撃に備え、対処することは現実的に不可能でしょう。仮にすべての危機対策をしようとすると、それだけで多くの時間とお金が必要になってきます。そこで、どこまでセキュリティ対策を行ない、どこから諦めるか(事故が起きた時の最低限の備えだけにするか)が重要になってきます。このような考え方が、取るべきリスクを取る、リスクマネジメントになります。このリスクに対する考えは起業活動にも当てはめることができます。では、起業を志している人の多くが実際に起業できていないのはなぜでしょうか?

リスクと向き合うのは勇気がいること

 日本政策金融公庫が毎年出している新規開業白書によると、起業関心層が起業していない理由としてあげたもののなかで最も割合が多かったものは「自己資金が不足している」という回答でした。次いで「失敗したときのリスクが大きい」「ビジネスのアイデアが思いつかない」という順に割合が高く、「ノウハウが不足している」と答えた割合はどの年齢階層でもそれ以下という結果でした(参考:日本制作金融公庫総合研究所「起業と起業意識に関する調査」)。つまり、起業を志している人の多くが「ノウハウの不足」よりも「自己資金の不足」や「失敗のリスク」を恐れて起業できていないということです。起業を志している人であれば、自己資金の不足は「出資」や「借入金」で調達できることはご存知でしょうが、出資を受けた場合や借り入れをした場合のリスクについてまでは、詳しく把握している人は 少ないです。それだけ「リスク」というものについて意識はしていてもそれを詳しく把握しようとはせず、本来であれば取れるであろうリスクも取れていないのが実際のところ伺えます。

起業のタイミング

 若くして起業する場合と、ある程度経験を積んでから起業する場合とでは、それぞれに異なるリスクがあります。若くして起業する場合であれば、圧倒的に 不足しているのがビジネス経験。ある程度のことならインターネットで検索をすればわかりますが、資本が少ない立ち上げ当初はまさにタイム・イズ・マネー。些細な ことに時間を掛けてしまうとチャンスを逃してしまいます。一方、ある程度のビジネス経験を積んでから起業をする場合(多くの人が転職を考える30歳前後)になると、許容できる失敗の範囲は20代の頃と比べてかなり狭くなります。その時には家庭がある方もいるでしょう。経済情勢も今より悪くなっているかもしれません。学生の時よりも慎重になってしまい、起業という大きな決断がしづらいのは当然です。

リスクは遅かれ早かれやってくる

 24歳で起業をした私もまた、当時どのタイミングで起業をしようかと大いに悩みました。しかし、いつ起業したとしてもリスクがなくなることはありませんので、私が取ったリスクはビジネス経験の不足から来る失敗です。リスクを取ると決めていれば、いざというときにも「自分が取ったリスクなのだから」と、ある程度は納得を せざるを得ません。実際に創業一年目で最も痛感したことがビジネス経験の不足。ビジネス経験のなさからあらゆることに時間が掛かってしまい、チャンスを逃し、いくつかの損失が出てしまいました。リスクは遅かれ早かれやってくるものです。もし社会人経験が豊富で、ある程度の管理職を経験した場合であれば、損失も出さず成長のスピード感はやはり違ったと思いますが、タラレバ話をしても仕方がないので、自分自身が「このリスクなら取る」と思えたリスクを実際に取れたことの方が 大切です。
 学生で起業を志す人の多くが、「社会人経験を4、5年積んでから起業しようと思う」と話して下さります。しかし、4、5年経ったからと言ってリスクがなくなるわけではありません。4、5年後には、おそらくまた別のリスクが現れます。ですので、ご自身の年齢や社会の流れなどから、どのリスクを取る覚悟を決められるかが、起業するのに重要なファクターになるのではないでしょうか。

2017/2/22 文責 田中 瑞規