金沢大学先端科学・社会共創推進機構

VBL

5.若手起業家のいまとこれから

 これまでのレポートでは在学中から創業にいたるまでの苦労や葛藤、そして創業期から事業を軌道に乗せるまでをお伝えして参りました。今回はこれまでとは違った視点から、これらの経験を踏まえて今現在、私自身がそして当社がどういったところを見据えているのかという点についてお伝えできればと思います。

金沢の街で生き残るためには

 金沢という街はご存知の通り、城下町として栄え、400年間戦火に遭うことなく、大きな自然災害にも遭わなかったことから、昔の面影を残す道路や建造物が多いだけでなく、創業100年以上もの老舗企業が数多く存在します。そしてそれと同じくしてその老舗企業を支えてきた2代目、3代目の後継者社長が多数いらっしゃいます。当社はWEBという業界に身を置いて、あらゆる業界の企業と関わる機会がございますが、あらためて金沢という街は、この街をつくってきた老舗企業があって、そして、そのような企業どうしが縦に横に手を取り合いながら発展してきた街なのだと、実感しています。この点では、これから起業を目指す学生や若い創業者にとって良く思わない方もいらっしゃるでしょうが、私はこうした企業ともお付き合いをさせていただく機会が増える中で、2代目、3代目の後継者社長の方が変化の激しいこの時代をどのように乗り越えていくかということを真剣に考えており、私のような若いものから学び、そして新たな技術に非常に関心を寄せていらっしゃるということを実感しています。老舗企業は変わらないというのは昔の話であり、北陸新幹線の開通によって多くの人や企業の出入りがあったこともあって、現状に危機感を持って変わろうとしている老舗企業がほとんどです。だからこそ、これまでの付き合いの長い企業との取引だけでなく、当社のような若い企業との取引も増えており、またこのような時代の流れと信頼によって繋がる地域ビジネス性が掛け合わさって、若い企業にとってはビジネスチャンスとも言えます。

 当社も、そのような地域の中でこれまでビジネスをさせていただいているのですが、そのような老舗企業の方々と想いを共有していく上で、見えてくる世界があります。それは単なる自社の利益を超えた地域社会の利益です。偽善のようにも思われますが、これは企業と企業が手を取り合う金沢という街特有の発想であり、ビジネス戦略です。そしてこのような意識が地域を発展させ、雇用を生み、そして企業が成長することで、さらに地域経済が発展していく図なのだと思います。創業してまだ間もない当社ではあるものの、この金沢という街において、生き残っていく企業の形とは、あるべき企業の形とは、まさにこのような自社の利益を超えた地域社会の利益に目を向けることではないでしょうか。

 これまで当社ではWEBをキーワードに事業を展開し、創業時よりWEBローカルメディアへの取り組みをして参りました。この取り組みの背景には、この石川県という地域においてWEB上のローカルメディアの発達が遅れていると感じているところにあります。すでに若い世代がWEBからの情報収集だけになっているにもかかわらず、WEB上にはローカルの情報が不足しています。若い世代が地域情報に興味があっても地域の最新情報を素早く獲得できなければ、どんなに優れた商品やサービスであってもマーケティングの失敗によって廃れてしまいます。まだまだ「良いものをつくれば売れる」という職人気質なところが色濃く残る街ではありますが、「ホンモノ」が数多く残る街でもあります。私はこのような「ホンモノ」と「ワカモノ」をつなぐ媒体として、地域情報にイノベーションを起こしたいと思い、これまでWEBメディア事業に取り組んで参りました。創業から3年が経ってようやく見えてきた金沢の流れに沿って、いかに地域情報をウェブに落とし込んでいくか、会社として今後もこの金沢の街で生き残るために、これからも挑戦が必要だと思っています。

真のアントレプレナーシップを持って挑戦し続けるということ

 「ある程度、事業が軌道に乗ればそれでいいのか」という問いを自分にしたとき、答えは「ノー」です。創業以前から私の気持ちは変わることなくここまで来ることができましたが、それは意地でもなく、実際に大学卒業後に企業に就職させていただいた理由のひとつに「もしかしたら起業したいという自分の気持ちは変わるかもしれない」という可能性もあったからです。今の学生が起業を志す理由はなんでしょうか。夢や理想を描いてしまったから、意地になっているのではないか、本当のところの夢や理想は何なのか、わかっている人は少ないと思います。それは私も同じです。だからこそ会社のビジョンはこれまで何度も変わり、その度に考え、より本当のところのビジョンへと変化してきました。まだまだ真意を言語化できていないとしても「若くして数億円を稼ぐような大企業をつくる」ということに対する憧れは、3年が経って事業も一通り軌道に乗り始めた今も変わりません。これが私のアントレプレナーシップ:起業家精神なのだと思います。

 アントレプレナーシップ:起業家精神とは、事業を起こすスピリットです。私の現在の役職は経営者でもあり起業家です。今の事業をさらに軌道に乗せることもしますが、新たな事業を起こし世の中を変えることも望んでいます。

 前号にもお伝えした「その事業がしたいのか」「会社をつくりたいのか」問いに対する私の答えは「会社をつくりたい」でした。そしてその先として「会社や事業を作り続ける起業家になりたいのか」という問いに対する私の答えは「イエス」です。私は起業家として真のアントレプレナーシップを持って新たな事業を再び起こし「若くして数億円を稼ぐような大企業をつくる」ことに挑戦し続けたいと思います。

若手起業家はこの先の時代をどのように見据えるか

 数年前には仕事とは言えないもののひとつに「Youtuber(ユーチューバー)」があります。彼らのトップの方の年収は億を越え、今ではYoutuberやインフルエンサーを抱えるプロダクションやマーケティング会社も数多く立ち上がる一大産業です。このような産業は「今だけのこと」ではなく、私はこのあともこのような「仕事とは言えないことが仕事になる」時代が加速すると考えています。その要因のひとつがAI技術の進歩です。ありとあらゆるものがオートメーション化し、プログラムされたシステムによって生産性が最適化されていきます。そのような生産システムの中にミスも多い、生産性にムラのある人間が入る余地はどこにもありません。こうした時代の中で人がAI、ロボティクスよりも価値を見出せるところとはどこでしょうか。それは合理的ではない部分、生産性がない部分。合理的に考えると、その行為自体は価値があるとは言えないにも関わらず、人々の目にとまり価値が見出されていく「アート」や「芸術」「遊び」の部分が仕事になっていくはずです。「そのようなものは、もはや仕事とはいえない」と思うのも当然ですが、これまでの歴史上、仕事ではないのでそれも当然のことですが、それは現代で認められている「アート」や「芸術」の領域であっても同じはずです。ですからこれからの時代は、AIやロボティクスに生産性が求められる領域は取って代わり、AIやロボティクスを開発する者、それらを管理する者、そして合理的とは言えない「アート」や「芸術」「遊び」といったクリエイティブな領域を仕事とする者、あるいはそれら両方を行う者になる時代が訪れます。そして同時に、これまでは生産的な仕事をすることによって保っていたアイデンティティを保つことが難しくなっていき、社会に対していかに自分自身の個性を発揮するかが問われる時代になっていくと考えます。

 この事実はビジョンや経営理念を軸としている企業に取っても同じことが言えます。さて、このような時代になっていく中であなたの仕事やあなたの会社は残り続けるでしょうか。私自身もまた、どのようなところに重きをおいて事業を起こしていくかという点については模索中ですが、時代が変わろうとも、起業家は時代の流れを読み、新たなことに果敢に挑戦していくものだと思います。

2019/02/18
文責 田中 瑞規