金沢大学先端科学・社会共創推進機構

VBL

10.起業の計画

-「夢を実現する創業」より-

 今回は業を起こすとはどんなことかを考えてみたいと思います。「起業」となれば、蕎麦屋の起業も、ハイテク企業の起業も基本のところは変わりません。そして参考に出来る資料は単行本、インターネット上の記事等に沢山見つけることが出来ます。ここでは、中小企業庁のホームページからもダウンロードでき、中小企業関係の公的支援機関受付で、よく目にする小冊子「夢を実現する創業」を元に、起業にいたるまでの計画の立て方を、見ることにします。

小冊子の概要

 この小冊子「夢を実現する創業」では「夢野さくら(28歳)」が将来パン屋をやりたいというところからスタートし、弟の「夢野アキラ」が協力し、アドバイザーの「まい先生」のアドバイスの元で創業するまでのステップを、53ベージの読み物として漫画風にまとめたものです。このなかで、それとなく 「創業の基礎知識」、「公的制度の活用策」などについての解説を加えています。

 小冊子の内容は次のとおりです。

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図表1.夢を実現する創業

出典 「夢を実現する創業」(中小企業庁)を参照して作成

 この図にあるように、起業を思い立ってから実施に至るまでの次に示す7項目について、わかりやすく書かれています。

Ⅰ 創業のチェックリスト
Ⅱ 事業計画書
Ⅲ 組織について
Ⅳ 経理事務
Ⅴ 税金について
Ⅵ 創業の準備
Ⅶ 創業支援策を利用

 これから、ちょっとご自身のケースに当てはめて、検討してみたいと思われる方は中小企業庁のホームページから小冊子「夢を実現する創業」をダウンロードして下さい。ここでは書いていない詳しい説明や、夢野さくらさんの記入事例を見ることができます。今回は上記Ⅰ項からⅦ項のうち、Ⅰ項とⅡ項についてまとめてみました。省略したⅢ項以下は次のようなことが記述されています。

 起業には、家業すなわち個人事業形態とするか、ある程度の規模もしくは発展を考えて事業形態としててスタートするかの二つの道があります。Ⅲ項(組織について)はその両者の利害得失を比較してどちらを選ぶべきかのチェックリストとなっています。またⅣ項目以下は、実際に業を起こすと必ず必要となる経 理事務やその他の準備事項が書かれていますので、家業もしくは事業計画にめどがつき、いよいよ行動を起こす時に参考にしてください。

Ⅰ 創業のチェックリスト

 まずは起業者として必要な資質をチェックし、創業への意気込みと、準備状況を概観するのがこの項目です。下記の項目について、自分自身に問いかけ ながら、大体どのようなことが必要かを知って頂くためのものです。軽い気持ちで、自分の創業への意気込みと準備状況を確認して次に進みましょう。

vbl-kigyo102.jpg図表2.創業者に必要とされる資質

出典 「夢を実現する創業」(中小企業庁)p03

 ここに書いてあることは、社会人として生きていくための基本的な心構えとも言えるかもしれません。しかしながら、長らくサラーリーマン生活を送り、組織の一員として、専門の仕事を繰り返し行っていると、ついおろそかになりがちな心構えであることも事実です。たとえば「幅広い人脈」などについて も、次から次へと仕事が振ってきて、その対応を続けていると、もうこれ以上「付き合い」増やしたくないとの気持ちが沸いている人もいらっしゃるかもしれません。サラリーマン経験の長い人で起業をしたい人は、普段から起業を頭の片隅において、常々心がけて準備しておかないと、急に思い立ってもなかなか十分とは言いがたい状況でないかと思います。そのような方でも、この後に述べるようなことを考えて、必要な時にすばやく起業できる準備をしておくのも一計かと思います。

 また、技術的に優れたシーズを元にした事業を起こすのであれば、少なくとも優れた独創性の前提条件は満たされているはずです。ただちょっと考えなくて はいけないことが2つばかりあります。一つ目は、それが技術としての独創性にとどまることなく、事業として商品として独創性が発揮できるかどうかです。 逆に事業や商品として独創性が発揮できるのであれば、技術シーズにそれは程独創性が必要とされるわけでもないと言うことです。二つ目は、自分が優れた独創性があると思っているだけではなく、第3者にそれを納得できるように表現できているかということです。以前に雑貨を作れる技術で日立ユーザー会の論文審査基準(独創度・有効度・表現度)にあった表現度のことです。  

 さらに事業の経験については、単にその事業について知っているとか、その事業に属する会社で仕事を行っていたでは、不十分です。理由はその事業の一部を知っていることは確かであっても、事業そのもの(特にその経営)を知っていないことが多いからです。このあたりは、幅広い人脈についても同様です。 営業系であればユーザーを知っているがユーザーのスポンサーを知らないとか、「技術シーズを持つ人」はいっぱい知っているが「経営を行う人」に知り合いが無いとかいうことがおきそうです。事業という立場に立ってみると、検討範囲が極端に広くなり、今までの人脈に質的な変化が必要となることは避けられません。そんなことを思い浮かべながら、上記のどこが準備できているかをざっと目を通してください。
 これをより具体的な質問にしたのが次の20個のチェック項目です。項目のひとつひとつを読んでYESかどうかを記入してみてください。

vbl-kigyo103.jpg図表3.創業に向けてチェックすべきこと

出典 「夢を実現する創業」(中小企業庁)p05

 できれば、これらの20項目について、自分の評価を文章に書いてみるのもよいでしょう。このとき、根拠はできるだけ数値化し、なぜそうなのかも分かるようにしましょう。数値化できないときは根拠資料を添付すれば、後から振り返ったり、次の事業計画を作成するときの助けになるかと思います。
 小冊子では、ここでYESの数が
18~20の場合 創業の準備は万全、
12~17の場合 もう少しは準備して下さい、
0~11の場合 まだ創業は早いかも、
となっています。  
 皆さんいくつになりました?????

 YESの数が十分あったしても、残されたYESとならなかった項目は、今後の計画の弱点となりかねません。今一度見直し弱点を補強されることをお勧めいたします。

Ⅱ 事業計画書

 経営が成り立つためには、有る程度の経営資源(人・もの・金・情報)とその使い方に対する方針が必要です。事業計画書は、経営資源の供給元とその使い方の計画書とも言えます。小冊子「夢を実現する創業」では、それを次の4つ視点からまとめることとしています。
(1)全体構想
(2)具体的な事業内容
(3)創業時の資金計画表
(4)損益計画表 をあげています。

(1)全体構想  
 まずは全体構想です。全体構想では創業の動機、事業を取り巻く環境や将来目標を踏まえて事業の概要(何をやるか)を記述します。ここを記述していこうとすると、新しい技術を開発したからとか、新しい発見をしたから、即創業と言うわけにはいかにことがお分かりになるかと思います。

vbl-kigyo104.jpg図表4.全体構想

出典 「夢を実現する創業」(中小企業庁)p08

 「①創業の動機」は、チェック項目の動機1(どんな目的で何をやりたいのかハッキリしていますか?)、動機2(その事業に、志と情熱を持っていますか?)、動機3(その事業は、顧客ニーズにマッチしていますか?)で考えた現状の顧客の不満を解決していくアイデア等を文章にまとめていけば、何とか記入できそうです。同様に「②の事業の概要」はチェック項目で考えた「何を、だれ、どのように、どこで、いつ」を文章にまとめていけばいい訳です。「③市場の環境」、「④事業の将来目標」については事業概要に記述した文章からキーワードを抜き出し、それを使ってインターネットで検索をかければ、参考情報はいくらでも出てきます。あまりにも情報が多いのと情報相互の矛盾に悩ませられるかもし れません(インターネット情報は正しいかどうかの保障はありません)。あくまでも自分の「①創業の動機」や「②事業の概要」関連するものに絞り込んで評価し、自分の責任で判断することです。「⑤事業の課題」、まずはチェック項目でYESにならなかった項目にどのように対処するかをまとめ、次いで「④事業の将来目標」と自分の状況さらには「③市場の環境」とのギャップにどのように対処するかを記述することになります。「夢野さくら」さんの記入例は小冊子の9ページを参照して下さい。

(2)具体的な事業内容  
 ついで、(1)全体構想の②事業の概要(何をやるか)をさらに具体的にするために具体的な事業内容(どの様に行うのか)を記述いたします。

vbl-kigyo105.jpg図表5.具体的な事業計画

出典 「夢を実現する創業」(中小企業庁)p10

 まずは商品の仕入れ(場合によっては開発)から販売にいたるまでの一連の主要な業務(今後はこれをバリューチェーンと呼びます)を書き出し、自分は、そのうちのどの部分を行うかを明確にします。全バリューチェーンを自分で実行出来きればいいのですが、起業段階では経営資源の制約からその一部に特化せざるを得ません。自分でやらなくては付加価値をうみだせないものや、誰にもやってもらえないものに特化しそのほかはパートナーに任せるしかないのが実情です(バリューチェーンからバリューネットへ)。このバリューネットとの関連で、自分が行う業務(社内のバリューチェーン)を明確したものが「①事業の内容」です。②はその事業のやり方が、どのように顧客にメリットを与えるかを述べるものです。すなわち、自社のバリューチェーンが作り出す商品とサービスの価値を述べるところです。「③販売計画」以降はバリューチェーンをどのように構築するかを、具体的な業務のやり方でまとめる部分です。「⑥の要員計画」を行えば、段々と創業のイメージが固まってきます。ここまでくると、友人や親しい友達に、創業の話を臭わせるくらいは出来るようになり、必要に応 じて協力をお願いできるようになるはずです。「夢野さくら」さんの記入例は小冊子の11ページに載っていますのでご参照下さい。

(3)創業時の資金計画
 事業内容のところで何をやるか、どの様にやるかも決まってきました。すなわち「③販売計画」、「④仕入れ計画」、「⑤設備計画」と「⑥要員計画」 が具体的に決まったわけです。従ってそのための資金の見積りも出来るようになります。そこで、次のステップはそのために必要な資金の見積もりです。 事業内容で決めたものと整合性を取りながら、以下の表を埋めてください。

vbl-kigyo106.jpg図表6.創業時の資金計画表

出典 「夢を実現する創業」(中小企業庁)p12

 創業時には必要な資金(どれくらいかかるのか) は、まだ決まっていないことも多いため、とリあえず分かる範囲で、記入していくしかありませんが、事業計画で決めたものはすべてカバーできるよう金額を見積もってください。できたらその道の先輩や、コンサルタントに相談する方がいいかもしれません。さらに必要な資金は、この段階で見積り書を取ったり、カタログ等をチェックして思わぬ出費の増減が出てこないよう出来るだけ注意することが必要です。特に、運転資金が不足になると、即倒産となりかねませ ん。現金商売で無い限り、半年くらいは収入が(金は)入らないとの前提で計画することです。その設備がないと不便であっても事業ができるものは購入しない、どうしても必要な機械装置でも新品をあきらめて中古にするとか、購入をあきらめてレンタルにするとかして設備資金を減らす等の大作をとって設備資金を削ってでも、運転資金を十分に用意しておく必要があります。設備資金で調達を予定していたものは、儲かってから買ってもいいものもかなり含まれているはずです。そこまで削っても、自己資金だけでは、必要な金額が調達できないこともあります。さらにあてにしていた、金融機関からの資金の調達や公的資金の調達がうまくいかないこともあります。最後は親兄弟にお願いとなるかも知れません。普段から人脈作り(親戚付き合い)を良くしておくことが何よりです。

 「夢野さくら」さんの記入例は小冊子の13ページを参照して下さい。

(4)損益計画表  
 企業が継続できるかは運転資金、企業の長期的継続性を見ていくにはバランスシートが重要であるといわれていますが、「ユメを実現する創業」では、その元となる損益計画表を作ることを勧めています。

vbl-kigyo107.jpg図表7.損益計算書

出典 「夢を実現する創業」(中小企業庁)p12

 損益計算書の参考書を見ると、上記以外にもたくさんの項目が載っています。ここでは、大まかに計画表に必要と思われるものを載せてありますが、事業によってはここに載っていないものであっても、金額の大きいものが見つかった場合は、それも明記してください。計画表の目的は、主に何に費用がかかる のかを分かるようにしておくのことです。この表で重要なのは利益ではなく「返済可能額」が「借入金返済額」より大きくなっているかどうかです。いつ までも「返済可能額」が「借入金返済額」より少ないと、資本金はどんどん少なくなり、事業主の給与は払えないのはもとより、ついには事業主の個人資産で補填せざるを得なくなります。それも行きづまると、破産となるので注意が必要です。「夢野さくら」さんの記入例は小冊子の15ページを参照して下さい。  
 ここまで読みながら、自分の計画を考えてこられた方は、何とか自分の事業計画書のイメージが出来上がったと思います。中小企業基盤整備機構の業種別スタートアップガイドにはサービス業、専門サービス業、飲食業、小売業、IT関連業、環境、医療・福祉、その他に分けて約200業種について、創業のポイントが載っています。 今回自分の考えたものと、どこに共通点があるか、どこに違いがあるかを見てください。さらに自分がやろうとしている業種と関連しそうな業界についてもチェックしてみてください。自分の考え方とまったく同じ異業種があって、そこが将来の競合相手となったり、パートナーとなるかも知れません。ぜひ参考にしてください。その上で、更に詳しく具体的に起業を進めたい方は、「夢を実現する創業」の後半部分を読み進み、それでも不足の方は中小企業関係の公的支援機関等にご相談されるのがよさそうです。金沢大学の大学発ベンチャーの場合は、金沢大学ベンチャー・ビジネス・ラボラトリーにご一報いただければ、お手伝いさせていただきたいと思います。その節は、ここにかかれた項目をメモって置いていただけると、お話が早く進むのではと、思っておりますので、ご協力よろしくお願いいたします。
 メモを作るには、このホームページを表示しているときに「ファイル(F)」メニューを選び「Word」もしくは「Frontpage」等のホームページ編集メニューを選んでください(どれかがメニューに見えていると思います)。これによって、このホームペー ジを自分のパソコンに持ってくることが出来ますので、これを編集すれば、自分の事業計画を作る事が出来ます。お時間のとれる方は、一度試して見てくださ い。

2007/09/18 文責 瀬領浩一
修正 2021/05/19