金沢大学先端科学・社会共創推進機構

VBL

38.会社発展の道筋

-大学キャラバン隊に参加して-

2009年12月8日(財]川崎市産業振興財団主催の大学キャラバン隊に参加しました。今回はそのご報告です。

 主催者によると大学キャラバン隊の趣旨は産学連携・試作開発促進プロジェクトー環として、"企業と大学に顔の見える相互信頼関係づくり"に向けて、近隣大学関係係者等による企業見学を定期的に実施しています。市内中小製造業の生産現場を実際に訪ね、企業が保有する技術力や製品開発力などを大学関係者に詳しく知ってもらうことで大学の試作ニースとのマッチングにつなげるとともに、各大学等から活用できそうなシーズ情報を提供していただきながら、企業への技術移転や産学共同研究の可能性を探ることです。」となっています。グローバルな競争環境の影響をもろに受けている現在の中小企業の置かれた状況を知るにはまことに時期を得た企画でした。

参加者は以下の通りでした。

所属及び役職
学校法人東京電機大学産官学交流センタ一産学連携アドバイザー
よこはまティーエルオー株式会社執行役員知財統括部長
日本大学産学官連携知財センター コーディネーター
㈱キャンパスクリエイト(電気通信大学産学官連携センタ一)
金沢大学イノベーンョン創成センター 客員教授
(財)神奈川科学技術アカデミーイノベーションセンター 
産学協働グループ主査 神奈川特許流通コーディネーター
筑波大学大学院システム情報工学研究科
(財]川崎市産業振興財団 クラスターコーディネーター
川崎市経済労勘局産業振興部工業振興課高度化支援担当 主査
川崎市産業振興財団新産業振興課 課長
川崎市産業振興財面新産業振興課 主幹

工場は街中にあった

街中の工場

 神奈川県川崎市高津区にあるJR溝口駅を降りて地図を頼りに、商店街を歩いていきました。商店街を抜けると住宅街です。こんな街中のどこに工場はあるのかと不安になりながら歩いていると前の方に「昭特製作所」の看板が見えてきました。

周りは全くの住宅街です。ここに「日本のものづくり300社」に選ばれるような製造会社があるかと驚きながら、写真の看板に沿って左にまがりました。 事前のホームページによる情報によると同社の受賞理由は「放送機材等の製造業として、世界に翔き、その関係機材をブライダル業界に活用できないかと、自社で結婚式場をショールーム的に運営、成果をあげている」とのこと。並みの製造業でないところはこのような立地条件にも影響されているのかなと勝手に納得した次第です。

会社の概要

会社の概要ご説明

 見学に先だって、会社の資本金 は9千9百万円で平成20年度の売上高は74億3千9百万円とのことでした。売上比率はスタジオ機器が15%、産業用機器 が39%、鋼材試験片が22%、ブライダル関係が 24%とのことでした。
創業は初代社長の花田宰平(さいへい)氏が行われたそうです。現在の花田薫社長は2代目とのことでした。
1941年、工作機械や製鋼機械等各種機械類を設計する設計事務所としてスタート。1944年、(株)昭和特殊機械製作所を設立し、資本金は16万円で 丸捧矯正機、箱密鍛圧機等の設計及び製作を行ったそうです。
1952年、商号を現在の(株)昭特製作所と改称。売上は、その後産業用機械、特殊工具、スタジオ機器を中心に順調に推移していったとのこと。
1961年に現溝の口工場(本社)を新設、再新鋭の機械設備を導入した。1969年に増設を行い、ほぼ現状の建物になったそうです。1960 年代中旬、従来大手企業の協力会社として設計及び生産してきたスタジオ機器について昭特の独自ブランドを立ち上げました。
1966 年、国内のエレクトロニクスの飛躍的な発展を見て、会社は電気事業部を新たに設立したが、このことが現在のスタジオ磯器や産業用機械の発展の礎となったと のこと。これにより、それまではメカ(機械システム)だけの製造会社であったところに新たにエレクトロニクスが加わり、両者を離合した「メカトロニクス」の企業に徐々に変貌を遂げていく基礎が出来上がったようです。
さらに2004年、横浜市都築区に横浜工場を開設、大型機器組立業務を開始し製造機能を強化しました。(さすがに住宅が隣接するところでの工場の増設は できなかったようです。)

メカトロニクス機器の生産

スタジオ機器

メカトロニクス商品の代表として、スタジオ機器の実演をして頂きました。さらにはその操作も体験させていただきました。ほんの小さな力で大きな装置がスムー ズに動きました。なにか不思議な感じです。 重力のない宇宙に置かれた撮影機器を操作すると、こんな感じを受けるのではないかと想像を掻き立てるくらい重力を感じさせませんでした。これな らカメラマンは機器の重さを気にすることなく、撮影場面に注意力を集中し、自由にそして容易にカメラを動かしたり撮影のアングルを変えられそうです。長 さが数メートルもある大きなものなのに、ばらばらに解体して車で運べるように、そばには運搬用のジュラルミンケースまで置いてありました。かなりコンパクトでがっしりしていました。これなら小型 トラックで簡単に運べます。悪乗りして、消防自動車の梯子車のようにもっと自由に伸び縮みできるものはないのですかと質問したら、その後の工場内で現物 を見せていただき、ご説明をいただきました。その時、「伸び縮みさせた時に、重心移動が発生するのですが、それを相殺する装置が工夫のポイントです」と こちらの質問を先取りするような説明をいただきました。その時、総務担当取締役ですが技術部門も見ていますとの、最初の挨拶を思い出しました。現 在、大学で行っているMOT(技術経営)の目的は、 このような人材を育成することではないかと、関係ないことまで思い出してしまいました。
他にもメカトロニクス 技術を使った製品としては、各種制御装置、大型精密パネル搬送装置、レーダーアンテナ駆動部、レンズ外観検査装置、テレビカメラ用のリモコン駆動装置、 バーチヤルリアリテイ対応のスタジオ機器、・ロボットベデスタル(自動化されたスタジオ機器)を見せていただいたり説明をいただきました。


試験片加工業務

 1967年より日本鋼管(株)一現JFEスチール一福山製鉄所向けの鋼材の試験片の加工業務を開始し、鉄鋼会社の急速な生産規模拡大に伴って堅実に業績を伸ばして いった。福山における長年の経験、実績と優れた技術が認められ京浜製鉄所や吾嚢製鋼、仙台工場一環 JFE 条鋼、仙台製造所一においても全面的に試験片の加工業務を請け負っている。
 1967年:福山工場を建設
 1970年:京浜工場を建設
 1984年:仙台工場を建設

スタジオ機器レンタル

2001年設立の(株)レントアクト昭特はスタジオ機器のレンタル事業を展開している。

ブライダルビジネス

 これまで会社を支えてきたタジオ機器、産業用機器及びその技術を生かした新しいビジネスとして2005年よりブライダル事業を開始した。そこでは、移動 カメラを使ったバージンロードを 歩く姿や、誓いの言葉を交わしているところの映像が撮影することができるので、人気を博しているようです。2005年には元町セントポールチャペル、 2007年には新横浜アイルマリー横浜、 2008年には幕張東京べイ幕張の三箇所で結婚式場を運営しており、新横浜と幕張ではしストラン、宴会壕も同時に手がけている。その結果2008年のブ ライダルビジネスは、全社売り上げの1/4位を占めるまでになっているとのことです。

グローバル展開

 海外については、スタジオ機器の販売を目的として、2000年に米国にSHOTOKU INCを設立、2005年に英国にSHOTOKU LTDの立ち上げをおこなった。理由は、自社が現地の会社と提携を図ろうとすると、その会社が次々と競争相手によってM&Aされたため である と。厳しいグローバルマーケットの現状を見せつけさせられたようです。

ロボット・プラットフォーム

ロボットプラットフォーム

技術的な面から、私がもっとも感心したのは、ロボットのプラットフォーム作りです。写真のロボットでは上にあるカメラアーム支持台の上下運動や回転運動は非常にスムーズに行えました。その 上、白いところをまっすぐに進み、さらには右へと動くことにより白い部分の角をに認識することができます。そうすることで、ロボットは自動的に自らの位 置を知ることができるようになります。こうして、ロボットは自動的に撮影機器を目的の場所に行くことができようになります。さらに上下左右の動きもコント ロールすることができるように作られています。先日国際ロボット展でもサービスロボットのプラットフォームが紹介されており、基本ソフトのオープン利用等、世界の標 準を狙った動きが激しさを増しています。この世界でも、世界標準を目指した戦いが始まっているようです。このような世界のマーケットを制覇するために は、高い技術力だけでは達成できないかもしれません。最低限、技術標準に向けての全世界にまたがるロビー活動、オープン性を認識してもらうまでの活動資金の確保が必要となります。 このようなところこそ、産学官が共同して知恵を出すところではないかと感じた次第です。

会社発展の道筋

会社発展の道筋

 伊藤取締役の最初の会社紹介並びに見学会でのご説明により、日本 の中小製造業の典型的な、成長の軌跡を想像させて頂きました。1941年の会社の起業時は工作機械や製鋼機械等各種機械類を設計する設計事務所トスター トしたこと、その後日銭を稼げる部品 生産、そしてそれを自前の製品へくみ上げる高度成長期。そして、新興国の追い上げと経済のグローバル化の中で、製品マーケットからプラットフォームマー ケット と重心が動いていく様子。さらには設計・生産力を強みとして生きていくものづくりビジネスから、サービス業務やレンタル、イベントといった製品を活用す るコトづくりビジネスとビジネスへと業務範囲を拡大してきたことをご説明いただきかつ見せていただきました。そして、経済成長の陰りが出ている今、生産の落ち込みを支えて いるのは"このようなサービスを軸にしたビジネス"ですとの御話によりは、まさにベンチャー企業やの中小企業の経営者が目指す成 長パターンを地で行っている事を認識させていただきました。

今回の教訓を3つ


1.保有している技術・製品・サービスと言った強 みを最大限に生かし新しいビジネスに進出する。
2.サービス化・プラットフォームと言った動向を 見据えて、手の届くところから新しいマーケットに進出する。


3.また、最後のQ&Aの時間に出た御話ですが、顧客の要求に最大限に答えて技術を磨きあげてきたように見受けられるのですが、なに か秘訣はあるのですかとの質問に対して、「大手企業さんは、大きなマーケットを狙うために、個別の御客様の要求を聴きづずらい面はあるかと思います。一方 当社は、大手企業さんが狙いずらい個別の御客様の固有の要件に沿うような仕事のやり方を行ってきたのは確かです。」としかし続けて「自社商品については、 自社の考えで必要と思う機能を追加し、新しい顧客を確保できるよう努力している」とのことでした。シーズ指向とニーズ指向のバランス見事なものだと感心いたし ました。

北陸の大学の関係者が、川崎の会社のこのような素晴らしいイベントの参加させていただき、面白い体験をさせていただきました。このよ うなチャンスを与えていただいた川崎市産業振興財団新産業振興課の皆さんに感謝すると同時に、なにかお役に立てる方法はないかと、大学のいろいろな先生の 御顔を思い浮かべながら帰途についた大学キャラバン隊という見学会でした。

2009/12/10
文責 瀬領浩一