金沢大学先端科学・社会共創推進機構

VBL

39.起業家は世界も視野に挑戦を

-ベンチャーフェアJapan2010より-

ベンチャーフェアJapan2010看板

 ベンチャーフェアJapan2010は2010年2月2日から4日にかけて、東京の国際フォーラムで開かれました。

 主催は独立行政法人中小企業基機整備機構であり、それを済産業省中小企業庁、独立行政法人科学技術振興機構、株式会社日本政策金軸公庫、全国商工会連合会、社団法人経済同友会、財団法人ベンチャーエンタープライズセンター、社団法人 日本ニュービジネス協議会連合会、社団法人関東ニュービジネス協議会、日本ベンチャー学会、社団法人日本ベンチャーキャピタル協会、全国地方新聞社連合会、東京中小企業投資育成株式 会社、大阪中小企業投資育成株式会社、名古屋中小企業投資青成株式会社、日本商工会認所、東京商工会議所と広い範囲の組織が後援して行われました。

 ベンチャーフェアJapan2010の目的は「革新的な新事業・新規創業等に果敢に取り組む中小・ベンチャー企業の優れた製品、技術、サービスを一同に会し、展示することにより、中小ベンチャー企業等の販路機会を支援する」ことです。 

約200の機関が展示

展示会場

 展示会場には、日本全国からベンチャー企業及びそれを支援する機関が参加され、広い会場には人があふれていました。のんびり歩いていると、写真のような模型が展示されていました。何の気なしにのぞいてみると、S字型階段の展示と言う。前から見ていてもさっぱりわからない。ごく普通の階段だ。つい何が違うのですかと、お聞きしたたっぷりとご説明をいただくことになりました。
 前面から見るとよくわからないのですが、階段を登り始めた時と登り終わるところの上昇ピッチを少し緩くしたと言うのがポイントのようです。こうすると、 階段の登り始めは緩く、中ほどは少し急になり、登り疲れる頂上に近いところはまた緩くなっているという構造です。前から見ると直線的になっていても裏側 を横から見るとS字型になるというのがセールスポイントのようです。特許も申請中とパンフレットに載っていました。
 特許と言うとハイテクを思い浮かべていた私には、目からうろこです。エレベータでは常識の事を、家の階段に応用しているだけのように聞こえました。  いくらでも逃げ道を考えられそうですが、少なくとも高齢者社会を迎えた日本ではセールスポイントすることには成功していると考えられます。
 ビジネスとして成り立つなら、何も最先端技術でなくてもいい。ベンチャーとしてはこれはこれで十分と感じた次第です。

 石川県からは新エネルギー・省エネルギー関連のブースに次の2社が展示されていました。
エーワンメディテック(株)社から、現在の蛍光灯を取りはずし、同社のLED蛍光灯に取り換えるだけで、消費電力の削減が図れると言ういろいろな蛍光灯が展示されていました。また(株)ラピュータインターナショナル社さまからも同様なLED蛍光灯とマイクロバブル発生装置が展示されていました。

Japan Venture Award表彰式

JapanVentureAward

 会場の一番奥では、本年のJVA(Japan Ventur Award)の表彰を行っていました。JVA2010審査委員会 委員長の 柳 孝一氏 早稲田大学ビジネススクール教授によると、今年からはこれまでの他薦方式に加え、自薦も可能と制度を変えたそうです。本年は90件を超える応募あったとのことでした。書類審査の後2日にわたり面接を行い、選考を行ったとのこと。こうして経済産業大臣賞1社、中小企業長官賞2社、創業ベンチャーフォーラムフォーラム推進委員長賞2社、JVA審査委員会特別賞9社の計14社 が選ばれました。環境への貢献、サリーマンからのしっかりした意思を持った創業、親会社の事業縮小を引き継いだ創業等と社会的意義のある会社が選ばれましたとのことでした。また女性社長が、お2人であったことについては、とくに女性を冷遇したとか、厚遇した結果ではないと説明をされていました。まだまだ日本の社会では、女性がリーダーになることに抵抗がある事を反映しているのかなと、感じさせられた言葉でした。

会場で表彰された人と企業は以下の通りでした。

表彰者企業名 所属 住所 受賞
石出 和博 ハウジング オペレーション(株) 代表取締役 北海道札幌市 JVA委員会長賞 環境特別賞
大石 佳能子 (株)メディヴァ 代表取締役 東京都世田谷区 中小企業長官賞
大野 典也 (株)ステムセル研究所 代表取締役会長 東京都港区 JVA委員会長賞 社会貢献特別賞
岡田治 (株)ルネッサンス・エナジ一・リサーチ 代表取締役社長 大阪府大阪市 JVA委員会長賞 環境特別賞
小松 真実 ミュージツク セキュリティーズ(株) 代表取締役 東京都千代田区 JVA委員会長賞 社会貢献特別賞
白形 知津江 (株)メールdeギフト 代表取締役 静岡県静岡市 中小企業長官賞
傍島 祥夫 (株)ネクステージ 代表取締役社長 埼玉県さいたま市 JVA委員会長賞 IT特別賞
高柳 真 (株)TRINC 代表取締役 静岡県浜松市 JVA委員会長賞 モノづくり特別賞
竹本 直文 スターウェイ(株) 代表取締役社長 東京都港区 経済産業大臣賞
寺田 親弘 三三(株) 代表取締役社長 東京都千代田区 JVA委員会長賞 IT特別賞
成田光秀 (株)かめあし 代表取締役 青森県弘前市 JVA委員会長賞 地域貢献特別賞
福野 泰 (jig.jp) 代表取締役社長 東京都新宿区 創業ベンチャーフォーラム推進委員会賞
二瀬 克規 (株)悠心 代表取締役社長 新潟県三条市 創業ベンチャーフォーラム推進委員会賞
堀井 淳 (株)ニシエフ 代表取締役社長 山口県下関市 JVA委員会長賞 第二創業特別賞



受賞者の中には福井県出身者も

経済大臣賞 竹本氏

 経済産業大臣賞を受賞されたのはスターウエイ株式会社の竹本直文氏でした。
 スターウエイ株式会社の事業内容は、環境配慮型梱包箱の開発です。開発の動機は、以前に勤めていた半導体メーカーの部品納品の際に廃棄される大量のICトレーがあることに驚き、その再利用をビジネスにすることを思いついたとのこと。効果はコスト削減と環境対応です。
 竹本氏のインタビュー時のコメントは次のとおりでした。「仕事を通じて、地球環境、あたたかい人たちの言葉を聞きました。これまでも起業して最初の3年は大変だった、メンバーも3人に減ってしまったし、自分も 1年半位は無収入だった。 これから10年かけて大きな会社にしたい」との抱負をかたっていらっしゃいました。


福野氏

 その他の受賞されたみなさんもうれしそうで、誇らしげでした。福井県、石川県、富山県の企業での受賞者はいらっしゃいませんでした。 ただ jig.jp社の本社は東京都新宿区となっていますが、福野 泰介氏は、福井工業高等専門学校、情報工学科卒とのこと。

 事業内容は携帯電話のブラウザー 開発であり既に400万人を超えるユーザーがあるとのこと、さらにJigムービーと言われる携帯電話向け動画配信プラットフォームは業界No1とのこと。 高校時代のソフト開発のアルバイトで抱いた夢を実現されたのだそうです。 インター ビューでのコメントは「私の仕事はソフトのモノづくりです。夢を大切にしたい」でした。

やっぱり変だよ日本の経済政策

宗文洲氏

 基調講演はソフトブレーン(株)創業者 宋文洲氏のお話で、タイトルは「ニッポンを元気にするベンチャースピリット」でした。

 司会者の言葉によれば、宗さんの略歴は次の通りです。

 中国山東省出身。1985年北海道大学大学院に国費学生として来日。その後、天安門事件で帰国を断念し、1992年ソフトプレーン創業。 非製造部門の効率改善のためのソフト開発・コンサルティング事業で大きく成長させ、2005年に東証1部上場を果たす。06年同社会長退任。この間、経済界大賞・青年経営者省、企業情報化協会特別表彰などを受けている。

 私は、以前勤務していた会社で、営業支援ソフトの販売企画を行っていた時、ソフトブレーン社のeセールスマネージャーも勉強させていた関係で、宗さんのお名前だけはお聞きしていました。当時からベンチャーの成功事例であることお聞きしていましたので、 現在はどのような活躍をなさっているのかと、興味を持って御話をお聞きしました。

 また、著書の「やっぱり変だよ日本の営業」(2002年日経BP企画)を読んだこともありました。改めて読み返してみると、そこにはモノ不足時代の製造業の営業マインドから抜け出せない、日本の営業体質(モノ至上主義の会社体質、変われない営業マネージャー、第一線の営業マンの行動習慣、古いやり方しか支援できない営業支援の仕組み)について厳しい分析が書いてありました。営業の実態に対する分析は、日本の現状をよく見ており、自分の行っている営業活動と比較しながら、いちいちうなずいて読んでいたのを思い出していました。そして当時アメリカから入ってきた営業支援パッケージの問題点や販売方法の矛盾を見事についていました。ただ、それを改善して作った営業支援の仕組みがソフトブレーンの「eセールスマネージャー」であるといわんばかりの論調に反感も感じながら読んだ書籍だったのを思いだしました。

 講演は冒頭から、ビックリするような話でした。あるテレビ会社の社員によるとその会社は、40歳以上の社員が7割位いてほとんど仕事をしていないとか、ソニーをはじめとする日本の全家電メーカ(社員は60万人)の利益を合わせても、韓国のサムソン1社の利益の半分にも満たないとか。どうしてそうなったのか、という調子で話が進んで行きました。 聞いているうちにだんだん日本の社会がおかしくなっているのではないかと心配になってくる厳しい調子でした。

 1995年から2005年までは、日本の社会は活気があった。しかしその後は面白くない。この会場に来ている人は既にそれを知っていると思う。大切なのは、この会場にいない人にそれを知ってもらうことだ。したがってこの講演は本当に聞いていただきたい人が参加していないので効果は限定的ではないかと思っている。それなのに私がここでお話しをしているのは、お金をもらえるからだ。と、強烈な皮肉を言っていました。ベンチャーの立場に言えは、「①法律はおかさない。」「②他人に迷惑はかけない」のこの2つを守りさえすれば、他は全部自由にやらせてくれと言うのが本音です。どうも今の日本は制約が多すぎる。また、ベンチャーを立ち上げるなら、自分の金でやることを考えろ。ベンチャーキャピタルは、そのような自分に投資しているような人には、投資したいとお願いに上がるはずである。それを、自分はリスクを取らず、ヒトの金をあてにして起業を考えるような人には投資たくないのは当然である。 ベンチャーキャピタルだってビジネスをやっているのです。金儲けをしなくてはならないのです、と実に明快な理論です。

 中国に帰って思うことは、日本人は恵まれている。(町にゴミはすくないし、空気はきれいだし、人は優しいし、政府のサービスはいき届いている)。中国の税金は日本の倍位である(GDPはほぼ日本と同じなのに)。今の日本の問題は「①やらない人には優しい」、「②失敗した人には厳しい」、「③傷をなめあっている」ことにあるのではないか。一度こんな甘やかしサービスを継続できない位厳しい経済状況にならないかぎり、どうにも治らない気がすると、日本人の甘えを皮肉っていました(もう一度、終戦直後のような地獄に落ちるまでなおらないと言っているようにも聞こえました)。竹中元大臣は好きではないが、今の日本は小泉改革を悪く言い過ぎていると思う。また格差について言えば、今の日本は上への差がなさすぎる。これでは、頑張る意欲がわかない。差が悪いのではなく、差が固定することがいけないのだと考えた方がよいと(このあたりはホリエモン事件の当時の日本の経済界、マスコミの動きを暗に批判しているように聞こえました)。日本の成長期と中国の成長期を渡り歩いている、したたかな論理です。華僑の考え方・力の伝統を見せつけられたような気がしました。
 今の現在の日本の状況は、決して、ベンチャービジネスが日本の風土に適しているとか適していないとかの問題でもないし、日本人のDNAの問題でもないと思う。ベンチャーをやりたい人もいると思う。そんな人は今は、「①コートを着てじっとしているか」、「②春が来るまで冬眠」しているのではないのでしょうか。春になればきっとまたベンチャーをやる人が出てくると思う、とちょっと希望を持てる締めでした。

定めし、「やっぱり変だよ日本の経済政策」と言った調子の講演でした。

もっと自由を

パネルディスカッションの様子

 パネルディスカッションのテーマは「高い志と自立する力を-今こそ強い起案家が育つ時代」でした。

 コーディネーターは日本ベンチャーキャピタル協会会長の呉雅俊氏、
 パネリストは基調講演をやられたソフトブレーン(株)の創業者 宋文洲氏、東証アカデミーフェローの藤野英人氏、(株)メガオプトの代表取締役社長で【JVA2005 フォーラム会長賞 受賞】でもある和田智之氏の3氏でした。

 パネルディスカッションは2005年にベンチャーの世界に何が起きたのかから始まりました。 話はどんどん移り変わっていったので、ここいくつかの話題をリストしておきます。

  • 2005年の堀江事件以来日本が怖くなった。成功者を現れるのをパッシングする風調が盛り上がり、マスコミも、ベンチャー経営者のあらさがしを始めた。
  • 起業家サイドは危険を感じ、冬眠状況はいった。ベンチャーを許さない状況だ。
  • 世界の中で日本は新技術に淡白になってしまった。 
  • 国の先端研究資金は、かなりの部分が装置を作る海外のベンチャー企業に流れている。 資金が日本の企業にも流れるような、ベンチャー支援策が必要かも知れない。
  • その考え方には反対だ、政治家が税金を配分するのは、選挙票を得るためであり、政治家の権益を増やすためなのかも知れない。ベンチャーを始める者としては、そのような外部要因をベンチャーを始められない言い訳としてはいけない。研究装置を受注する意欲が必要だ。(「与えられるのを待つようではベンチャーは成り立たない」の意味か?)
  • 北京は、日本食ブームだけど、お店をやっているのはほとんど韓国人。どうして日本人は、海外に出ていかないのだろう。今もって、終戦直後のように日本の中でしか生きていけないと、思っている人がいるのではないか。今や国際的環境が変わっていることを認識して欲しい。「現在の日本の社会や政策ががだめと思うならなら、外国で活躍したら
  • アブダビの政府資金の投資責任者にあったら、日本の草食系男子(この言葉がアブダビまで伝わっているとは)に投資するのは難しいと言われたとか。
  • 「挑戦する気持ちと成長する意欲がない」ことが問題だ。
  • 生活するなら北京より日本、仕事をするなら、日本より北京。
  • 「エンジニアはもっと市場を知らないとだめ」、例えば「同じ価格でちょっといい性能」なら売れるかもしれないが、性能はいいから高いのは当たり前では、受け入れてもらえない。
  • お金のために仕事をするのではないといった考え方は成功の秘訣と思うかとの質問に対して。建前の議論でなく、本音の議論をしなくてはだめ「清貧より清豊」がいいとなぜ言えないのか。
  • 戦後HONDAや松下が出てきたのに最近の日本はベンチャーが出ないと思うかとの問いに対して当時ベンチャーが出たのは、GHQのような力が既存企業を壊す力が働いたためとの回答。
  • 日本は生産技術、人、金があるので経済活動の自由化を行われ社会の雰囲気・考え方ればうまくいくはず。

話は、どんどん展開していくが、パネルディスカッションの参加されて人の基本的な主張は、
① 起業する人には「挑 戦する気持ちと成長する意欲」を、
② 周りの人には「経済活動に もっと自由を」
③ 「日本にも創業やベンチャーを志す人はいるはずだ」の3つのような気がしました。

行き過ぎた、金融の自由化が、今回のバブルの原因の一つだといわれている中で、実体経済に関わっていらっしゃる方々から、もっと規制緩和を言われ、どこかにひずみがあるのだと強く感じた次第です。今のままではチャンスが逃げてしまうため、周りの変るのを待っておれない、そのようなベンチャーを目指す肉食系男子は「世界も視野に挑戦を」と言われているように聞こえた次第です。

締めの一言

締めの言葉 呉氏

活発な討論で、いろいろなお話が聞けました。

みなさん、歯に衣を着せない、活発で本音の議論が続きました。というより言いたい放題という感じでした。司会者の呉氏より、最後にみなさんにこれから起業したいと思っている皆さんに伝えたいことをと言われて、書かれたのが以下の言葉でした。



御名前 締めの言葉
呉雅俊 継続は力
宋文洲 本音本人
藤野英人 向き合う
和田智之 がんばりましましょう

2010/02/02
文責 瀬領浩一