金沢大学先端科学・社会共創推進機構

VBL

52.産学連携のネタ探し

-横浜市の大学キャラバン隊に参加して-

企業経営支援財団主催の「大学キャラバン隊」が横浜市鶴見区の横浜市産学共同研究センターにて開催されました。 主催者の狙いはこの企画をとおして、企業の方々と大学の"顔の見える相 互信頼関係づくり"を行い、産学連携、共同研究、試作開発受託など "産"と"学"の協力関係を促進していくことです。今回は、高い技術力を保持する鶴見末広センター入居企業のお話しを聞き、見学、意見交換を通じて、各企業の技術 や製品開発力についての理解を深めることが出来ました。

横浜市産学共同研究センター

リーディングプラザ

訪問した横浜市産学共同研究センターは、横浜新技術創造館(リーディングベンチャープラザ)(http://www.idec.or.jp/shisetsu/s8-lvp.php4)と同じ敷地内にあり、企業のファクトリーパークと共に『産学交流ゾーン』を構成しています。鶴見区末広地区には他にも横浜市立大学大学院(連携大学院)と理化学研究所(横浜研究所)のある『総合研究ゾーン』が整備され、国際的な研究開発拠点(愛称:横浜サイエンスフロンティア)として産・学の集積が進んでいるところです。

今回は、この地にある60社にものぼる企業の中から、高い技術力を保持しており、大学との連携の可能性の高い、機械・電気関係の次の4社を訪問させていただきました。
1.(株)吉岡精工(鶴見区末広町1-1-49)(http://www.yoshioka.co.jp/)
2.(株)エス・エフ・シー(鶴見区小野町75-1リーディングベンチャープラザ2号館106号室)(http://www.imagination.co.jp/)
3.(株)シンテック(鶴見区小野町75-1リーディングベンチャープラザ2号館403号室)(http://www.syntek.co.jp/)
4.マイクロモジュールテクノロジー(株)(鶴見区小野町75-1リーディングベンチャープラザ1号館507号室)(http://www.micro-module.co.jp/sub1.html)

どの会社も、先端技術やユニークな考え方をお持ちの会社ばかりで、参加者は企業様からの説明を食い入るよう聞き入り、疑問とするところを質問しながら熱心に見学していました。

訪問させていただいた各社様からは、様々なお話をいただきました。(株)吉岡精工の加藤誠司常務取締役様から、「技術的課題と必要とする技術」と題して企業概要・製品概要・大学等に期待する 技術的課題について御話をいただきましたので、その折学んだことを中心にして産学連携のネタ探しとしました。
なお「大学キャラバン隊」に参加されたのは、以下の大学及び支援機関のコーディネータ関係者21名でした。
1.神奈川工科大学
2.金沢大学
3.関東学院大学
4.慶應義塾先端科学技術研究センター
5.東海大学
6.日本大学
7.横浜国立大学
8.神奈川科学技術アカデミー
9.川崎市産業振興財団
10.横浜企業経営支援財団

技術的課題と必要とする技術

(株)吉田精工様からは、会社の概要、見学施設のご説明に加え、同社の技術的課題と必要とする技術について御話を伺いました。

商品展開戦略

(株)吉田精工は切削、研磨を柱とした高い技術力で自動車部品製造装置、半導体製造装置を生産されている企業です。1961年吉岡製作所として創業し、ギヤブランク及びシャフトの製作等のエンジンバルブ事業で始まりました。現在も続く主な製品は自動車用エンジンバルブ生産のための金型です。その後半導体分野の精密部品事業に進出し、チタン製フランジの生産を手始めに、2000年ころから半導体生産に使われるポーラスチャック(吸着テーブル)の事業を始めたとのことでした。ポーラスチャックとはテーブル表面のポーラス(多孔質)構造と負圧を利用することによって薄いシリコンウェハー等を平面保持することが出来る製品のことです。ポーラスチャックは半導体製造装置だけでなく、薄いものを平面に吸着させるという特徴を活かして各種測定装置、検査装置にも使われているそうです。

ポーラスチャック

写真は、そのポーラス部分です。これを渡された参加者はその平面度目で見ながらその平らさを手触りで感じていました。私にとっては、子供のころ経験した陶器に焼く前の「素焼き」を撫でている感覚でした。数ミクロンレベル(3~5ミクロンとか)の平面度と、材料粒子の均質性がその生命線のようです。素焼きのような材料でこれだけの精度を出すことは並大抵ではなさそうです。このレベルになると、ちょっとした湿度や温度の変化で簡単に仕上がり精度は変ってしまいます。
見学の前に、ご説明をいただいた技術的課題は以下の通りでした。
1 「製品別」の課題で、自動車用エンジンバルブについては「安価で長寿命な熱間鍛造金型材料と表面処理」、ウェハーダイシングについては「次世代半導体製造プロセスに対応した知識の習得と新しいウェハー固定方法の開発」、マイクロマシンについては「当社の加工技術を活用できる大学研究課題とのマッチング」あたりが候補ですとご説明いただきました。研究に必要な成熟技術については「低コスト化」、ウェハーダイシングのように技術の確立したものについては「知識習得と改善 技術」、マイクロマシンのようにこれからの製品については「大学研究課題とのマッチング」と製品の成熟度に応じて、大学や公的施設に期待するものが変っているようでした。
2 「技術面」の課題:ポーラスチャックの構造と特徴に対する「セラミックに代替できる高い付加価値をもつな新しいポーラス材質の開発」、PET吸着に対して 「シート状ワークを変形することなく固定する新方式の開発」、鏡面テーパ加工条件抽出と装置開発チタン加工技術として「6-4チタン合金の鏡面加工技術の確立」と明確にご説明いただきました。
3 外部への発信 アイデア提案・展示出展・製品開発助成、大学・公的機関との技術開発に関する情報交流も期待することだそうです。

他にも、(株)エス・エフ・シーテクノセンター事業部さまから、お客様の要望を具現化する一貫したトータルソリューションの提供、各研究機関・大学・企業などとの共同研究の推進、新たな技術や製品の開発のご説明と、フレッシュジュース製造装置 VegitusR(ヴェジタスR)(特許登録番号:3931182)のご説明をいただきまし た。 工場見学では、おいしいミカンジュースを作る実演を見せていただき、出来たジュースを参加者全員で試飲させていただきました。いとも簡単に新鮮でおいしいジュースが出来るところを体験しました。ただ参加者の疑問であった、「同社が持っている他の高度技術を使った商品や出願特許リストから想像される商品とかけ離れたフレッシュジュース製造装置をなぜ商品化したのだろうか」は解けませんでした。私なりには、「B to B向けの付加価値ビジネス指向」かなと想像しましたが、確認したわけではありません。産学連携と言えば技術的連携と考えている人には解けない連携のタイプがあることを示唆しているようです。
顕微鏡

(株)シンテック様では工業用ダイヤモンドを使ったダイヤモンドスタイラス、ダイヤモンドアンビルセル、単結晶ダイヤモンドアンビル、焼結体ダイヤモンドスクライバー、単結晶ダイヤモンドエンドミル、レーザー加工、DLCコーティングを施した工具、治具などを見せていただきました。数多くの顕微鏡をお持ちになっていることに象徴されるように、微細(ナノ)加工技術の融合により「お客様か抱えている個別の問題を解決出来る」ことが強みのようでした。

マイクロモジュールテクノロジー(株)様はマイクロ接合技術をコアとした各種実装技術、電子機器の「小型薄型化」「低コスト化」「高性能化」のご説明をいただき、その製造の様子を見学させていただきました。「小型薄型化技術で世界をリードするエレクトロニクス製品の創造と具現化があれば大学とも連携が組めそうです。」とのお話をいただきました。

この記事をお読みになっていらっしゃる大学等の研究者で、ここに挙げられた、企業様のご希望に添えるような、研究をされていらっしゃる方は、大学(金沢大学イノベーション創成センター)なり、私(瀬領 浩一)の方までご連絡いただければ、企業様へとお繋ぎいたします。ご遠慮なおく知らせください。(これこそ、「キャラバン隊参加」の目的です)

まとめ

今回のキャラバン隊でお聞きした4社のお話を一般化し、産学連携のネタ探しのポイントを次のように整理させていただきました。

  1. 主力製品情報から 成熟製品については「低コスト化」、技術の確立した新製品については「知識習得」、「改善技術」。
  2. 重点市場情報から 市場がどこに向かっているのか、何を求めているかといった「市場・業界動向」、誰が「意思決定者」か。
  3. 中核技術情報から 既に持っている技術に対する「代替え技術」、「新加工方式」 と言ったプロセス改革。
  4. 研究開発情報から 企業が開発中の「新技術」 に関する共同開発やガイド。
  5. 外部への発信情報から アイデア提案・展示出展・製品開発助成、大学・公的機関との技術開発に関する「情報交流」も期待。
  6. 人材・企業施設情報から 企業の保有する「特殊な人材ネットワークや機械」を使って研究に必要な先端部品の開発を行う。
  7. 事業展開の方法から 企業の発展や新規事業の開拓についての「考え方や実現手法」。

大学や公的研究機関の人々は、企業訪問の折や、企業パンフレット、企業のホームページを見ながら、事実を元に自分の強みを生かすようなことがないかと、上記に記した情報をもとに検討していけば何か「産学連携のネタ」が見つけることができるかもしれないと感じた次第です。更に、これらの情報が明確に分からない時は、これらを議論するだけでも、新しいネタが見つかりそうです。 

さらに、これらはこのシリーズの「ビジネスチャンスはどこに」でご紹介したマトリックス分析の企業側ニーズとも考えることとも出来ます。したがって、大学発ベンチャー向けの技術移転を考える時の大きなヒントとなるかと思いますがいかがでしょう。

余談ながら企業訪問の途中で、このシリーズの「地に足がついた起業家オーディション」でご紹介したSIM-DRIVE社 (http: //sim-drive.com/)を見つけました。本社は川崎市幸区新川崎の「かわさき新産業創造センター」(KBIC)と紹介されていましたが、実際の工場はここにあったのかと知った次第です。ついでながら、先行開発車事業第1号車の完成車は2011年3月29日に、東京・秋葉原でお披露目を行うとのこと。どんな車が発表されるのか楽しみです。そして現在は先行開発車事業第2号車の2014年大量生産を目指して、2011年度末(2012年2 月)を目途に試作車を組立て、ナンバーを申請する予定で開発を行っているとの発表されております(http://www.sim- drive.com/news/2011/0126_press-release.pdf)。ご興味ある方はそちらをご参照ください。


文責 瀬領浩一