金沢大学先端科学・社会共創推進機構

VBL

88.失敗を恐れない事業化支援

イノベーション・ジャパン2014より

はじめに

 2014年9月11日から12日にかけて、「イノベーション・ジャパン2014‐大学見本市&ビジネスマッチング」が東京ビック サイト(東京都江東区)で開催されました。

イノベーション・ジャパン2014

 今年のテーマは「知の融合~広がる未来」でした。参加大学は500以上、2日間の参加者は23,964人(主催者発表)で国内最大の大学マッチングフェアーです。 今年は11回目で、科学技術振興機構(JST)と産業技術総合開発機構(NEDO)の共催で行われました。同時に日中大学フェアもあり中国の大学や研究機関も研究成果を 発表されていました。

もはや新しく会社を作るしかない!

 JSTセミナーの基調講演は、超小型人口衛星の設計開発を中心事業としているベンチャー企業:株式会社アクセルスペース  代表取締役CEO 中村 友哉 氏からのお話でした。

 お話は「宇宙衛星業界は時間のかかる業界でした。それまでは宇宙衛星といえば約4000kgの時代でした。そこに我々は超小型衛星(約10kg)を持って参入 しました。」ということばからはいりました。大型から始まったコンピュータ業界にパソコンを持ち込んだお話と同じように感じました。

 その小型宇宙衛星の開発は、1998年11月日米の宇宙工学を学ぶ大学生がハワイに集まって開催された会議で、米国スタンフォード大学Bob Twiggs教授が発した 「ジュース缶サイズの衛星を作って、宇宙に打ち上げるんだ!大丈夫、君たちになら、きっとできるよ。(Try it. You can do it.)」との一言から始まったようです。

 同時に参加していた東工大とライバル意識を持ちながらも、時には助け合って始まった東大組のプロジェクトCanCat(350ccの空き缶詰に納まる人工衛星開発の 開発プロジェクト)の状況は川島レイ著「上がれ! 空き缶衛星」(新潮社)に書かれています。この本は、 CanCatプロジェクトに至る経緯から1年後の打ち上げに至るまでの活動を、取り組んだ学生の視点で書いています。一つの目標(ここではCanCat)に向かってコウコウと 夜中まで研究室の電気をつけて頑張っていた学生時代を思い出させる本です。

 その後CanCatで培われた協調体制を基に東大・東工大チームは2003年3月にロシアでCubeSat(1辺が10㎝ 立体に納まる人口衛星)の打ち上げに成功しました。

 これに火をつけられ小型人工衛星の研究は東工大のCute-1.7+APD IIや東大のI PRISM等と発展しそれぞれ成果を上げてきました。一方国内の人口衛星関係の企業は 官需が中心であり、10年単位で1機数百億円規模の大型人口衛星の開発を中心に進めており、2年くらいで開発する数億円規模の人工衛星には興味を示していただけ なかったようです。企業からは小型人工衛星は学生衛星と考えられビジネスにならないと認識されていたようです。このため大手メーカーに就職しても、超小型衛星を 開発させてくれるわけではありません。このためせっかく研究室で超小型衛星開発の経験をしても学生は大学以外の社会で直接生かす場はありませんでした。

 このような状況を打開する方法を模索している中で、2008年ころ株式会社ウェザーニューズ社が自社で人工衛星を持つ決断をされたので、東大チームは Axcelspace(アクセルスペース)という会社を立ち上げ共同開発を進めることになりました。プロジェクトの正式スタート後、ウェザーニューズの石橋博良会長 (当時・故人)はAxcelspaceチームに次のようにおっしゃったそうです。

 「我々は発注者・受注者の関係ではなく、共に新しい価値を創り出す同志だ。ウェザーニューズは気象革命を起こす。だから君たちは宇宙革命を起こせ」。

 このあたりの詳細や社名の由来は同社のHP創業ヒストリーに詳しく書かれていますので、ご興味の あるかたはそちらをお読みください。

 そして2013年11月21日に世界初の民間商用超小型衛星WINSTAT-1の打ち上げに成功しました。
 今はさらに、2016年打ち上げをめざし次図のような超小型地球観測衛星(GRUS)の打ち上げを計画して いるそうです。

超小型地球観測衛星(GRUS)

 将来の夢は地球を取りまく小型で低コスト(それでも1台1億円くらいかかるそうです)の衛星を100個以上打ち上げ、それらを使った各種のサービスをすること ですとお話されていました。

失敗を恐れない事業化支援

 JSTセミナーの第2セッションは文部科学省 科学技術・学術政策局 産業連携・地域支援課 課長補佐 中澤 恵太より 大学発新産業創出拠点プロジェクト (以後STARTと略記)事業のご説明いただきました。

 科学技術政策研究所の「大学等発ベンチャー調査2010」によれば日本の大学等 のベンチャーの起業動機の1番は研究者「自身のアイデアを実用化するために」となっています。

超小型地球観測衛星(GRUS)

 一方平成24年度大学等に おける産学連携等実施状況 文部科学省の大学等発ベンチャーの累積件数(上図)によれば、平成14年(2004年)から平成16年にかけて大学等発ベンチャー1000社 計画のころにはドンドン増えていたが国立大学の法人化の行われた平成16年とその翌年の平成17年(2005年)をピークに最近は減少してきていることがわかります。

 これでは、大学等の研究成果の実用化にも影響を及ぼしかねないと、「民間の事業化ノウハウを活用して、大学の自制大技術の研究開発による新産業・新規市場 の開拓を行い日本経済の復興と再生」を目指して平成24年(2012年)から開始されたのがSTART事業です。

大学発新産業創出拠点プロジェクト

上図が配布資料に記載されていたSTRT事業の概要です。

 実際の事業は次のようなステップを踏んで行われます。(詳細は「大学発新産業創出拠点 プロジェクト」のパンフレットを参照)

1.研究者が技術シーズの申請
 大学・独立法人等の研究者により、希望する事業プロモーターを記載した第1次申請書を提出する。
2.事業プロモーターが有望シースを選定
 第1次審査を受け、プロモーターは自らの事業化方針に、有望なシーズを絞り込む。
 有望なシーズの場合、事業プロモーターにより更なる検討を行う。
3.事業プロモーターと研究者がビジネスモデルを構築し、申請する
 事業化の可能性があると判断した場合、第2次申請書類作成のため、研究者の方々と事業育成方針、研究開発体制等にについて更なる検討を行う。
 大学・独立法人等の研究者の方々は、事業プロモーターとともに作成した第2次申請書を提出する。
4.プロジェクト審査
 第2次申請書類を基に、プロジェクト審査を行い、支援の可否を決定。
5.ベンチャーの創出をめざす事業の開始
 提案の採択後、研究開発費及び事業化支援経費が大学独立法人等に措置され、事業プロモーターのプロジェクトマネジメントのもとでプロジェクトを開始する。

 こうした活動を通じて、次図にあるように大学の研究者の周りに、インキュベータ・シードアクセレレーター、金融機関、研究機関、商社、製造業、ベンチャー キャピタル、海外の大学、海外市場が集まり、イノベーションのエコシステムが構築されます。

 専門知識やシーズをもつ大学院生や大学の若手研究者に対して
起業家マインド
課題発見・課題解決能力
アイデア思考

といった人材育成(ナレッジテクノロジストに必要な実践的な能力の育成)を行うことがEDGE事業の目指すものであるとのお話でした。

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 このあと、START発ベンチャーの事例として「リバーフィールド株式会社 代表取締役専務 原口 大輔/事業化支援者 伊藤 毅氏から「空気圧駆動手術支援 ロボット機器の実用化に向けて」ということでのお話と、STARTプロジェクト事例紹介としては①九州工業大学 産学連携推進センター助教 荻原 康幸氏より「九州 工業大学のSTARTプロジェクトにおけるコーディネーターの役割」と②野村證券株式会社 金融公共公益法人部 公共公益法人課 課長 小南 欽一郎 から「大学の シーズに触れて感じたこと」と、最後に新規事業プロモーターとして、株式会社ケイエスピー 代表取締役社長 内田 裕久士からの「START プロジェクト事業への 取り組み」というお話をお聞きしました。

 これらのお話をお聞きした感じたことは、新規事業の発掘段階から実際の事業に至るまで、プロモーターが当事者意識(時にはリスクのシェアも行うという 考え方です)を持って参加していることです。
これなら起業家の失敗の恐れも軽減されます。このやり方は、以前TLOのサポートについて米国のTLOの責任者からお話をお聞きした時に、成功の秘密は「知財 シーズの発掘から知財で利益を上げるまで一人の人が継続して支援すること」とお伺いしたことに通じるものがあります。そのような重要な役割を担うゆえに、START 事業では最初にプロモーターを採択するところから初めている意味を理解できます。

金沢大学の出展

 金沢大学は以下の5つのブースで展示を行いました。

金大出展一覧


エレクトロスプレーを合成した発光性ナノカーボン 回転フィルターによるサブミクロン粒子補修装置
電波可視化スクリーン~その場の電波を映し出す~ 治療薬の薬効/副作用を簡便に評価・予測できる尿検査方法
病原菌由来の有害代謝産物を分解~ムギ類赤かび病を例に~

 

 これらの写真は金沢大学から出展された展示の様子です。
 各々の展示ブースには、パネルによる研究成果の紹介、簡単な展示物が置かれており、来訪者とのお話が進められている様子がうかがえます。発表用のパネルも 学会用の理論解析の素晴らしさを示すものではなく、新規性や使い道のヒントとなるような機能や性能を中心としたもので、発表者の工夫がなされていました。

 その他の発表者とそのテーマ名をお知りになりたい方は、イノベーション・ジャパンのホームページの 「チラシのダウンロード」から見ることができます。

2014/9/15
文責 瀬領浩一