金沢大学先端科学・社会共創推進機構

VBL

91.商品コンセプトの探索

多次元思考図を使ってみよう

はじめに

 これまでマンダラ図を使って ビジネスモデルと事業環境を分析し起業計画を作成してきました。

 先日商品開発セミナーの資料を作成していてマンダラ図だけではアントレプレナーの問題を適切に表現できないことを痛感しました。そこで、マンダラ図で使ってきた 4次元思考の考え方を多次元思考に拡張しました。今回はそのあたりの経緯と多次元思考図の例をいくつか報告させていただきます。

商品企画の考え方

 これまで、マンダラ図を使ったアントレプレナーの商品企画をつぎのように考えてきました。

商品企画の考え方
図1 商品企画の進め方
図1をクリックすると拡大図を見ることができます。

 

 まずは、やってみたい商品に関係しそうなアイデアを思いつくだけ書き出しアイデアプールにため込みます。そしてそれらアイデアのいくつかに共通する要素を 書き出します。そして共通要素の中で重要なものを選びだし、それを軸としてグループ分けを行います。

 このやり方で有名なものとしては、マインドマッピング、ブレーンストーミング、KJ法があります。複数の人でアイデアだしを行う時にはブレーンストーミングや KJ法が使われることが多いようです。これらの方法は、複数の人のアイデアの中から有効なものを生み出す力があるといわれていますが、そこに参加した人がどんな考え方を 持っているかを知ることが出来ることや知識の共有の効果の方が大きいと考えている人もいらっしゃるようです。

 それを8つにグルーピングして何を(狙い・What)やりたいかを明らかにするのために、マンダラ図を使って4軸に纏めるのが4次元思考法 です。

 ついでこうして決まった検討項目を分析する時になぜ・なぜ・なぜ(Why)と聞き、それを説明する言葉を作りながら分析します。 この時にはTOCやAHPが使えます。

 またそこで必要な、プロセスや資源を整理したものが ビジネスモデルです。 注1)起業のように過去のやり方にとらわれなくて、ある程度プロセスをパターン化しても問題がない場合にはビジネスモデルそのものを商品企画の発想時に使う方法も あります(ビジネスモデルキャンバスまたはそれの変形であるビジネスモデルマンダラ)。

 その後、ビジネスモデルの各要素を構築するタスク計画を作る必要がありますがこれらについては、例えば起承転結といった手順で計画することにすれば 何とかなりそうです。

 その結果を本シリーズの「ビジネスチャンスはどこに」 で述べたシーズとニーズのマトリックス分析を使って評価します。マトリックス分析では商品提供者ができることのコストをマトリックスの左側に、顧客や中間業者の 得る利益もしくは効能をマトリックスの右側に記述します。このマトリックスを完成させることにより、コストが安く最も効果があると思われるユーザーを対象とした事業を 見つけることが出来ます。

 既存企業では、新しい事業を始める時には、ある程度の成果が上がることが確認されるまで十分検討して、リスクを避けることが多いようです。アントレプレナーにとって は既存企業のこの行動原理を事業機会とすることも出来ます。そのためにはこのシリーズで紹介した リーンスタート方式等を使いできるだけ早く事業を実施 することです。注2)そうすれば、アントレプレナーは素早く効率改善を行うことができ、うまくいかなかった場合も早く回復できるため、リスクを最小限に抑えることが できます。

何を (What)の例

 商品企画では検討すべき商品を決め、それについて検討します。今回の報告でははその作業の何を(狙い・What・Where) 検討するかに焦点を当てています。それをどうしてやったかといった手法(How)は自分の得意技でやっていただくとして言及していません。 図2は何を(What)検討するかの例です。

何を(What)の例
図2 何を(What)の例
図2をクリックすると拡大図を見ることができます。

 

 まずは取り巻く環境と自分の立ち位置(空間)、現状はどうでどうしたいのか(時間)、自分の得意技は何で自分の人脈からどのような援助が得られるのか(仕組み)と何を 基礎原理とし何を重要にしているのか(仕掛)あたりを整理して今何をやりたいと思っているのかといった自分の立場を明確にします。

 また、商品化セミナーに参加する人々であれば、商品イメージもある程度できているはずです。まずはこのあたりからその商品を使うことが期待される顧客、 必要な資源や人、必要な理論や考え方その他の素材の糸口が見つけることができます。

 しかしながら顧客に合った供給体制を考えるには4次元マンダラでは不十分です。また図3のイノベーションの七つの機会顧客価値を考える前の 頭の体操用に作るものです。この図ではマンダラ図には納まるのですがが、すんなりと4次元に整理することができません。

図3 イノベーションの機会
図3 イノベーションの七つの機会
 出典:イノベーションの企業家精神 ドラッカー を参照して作成

 

 図3にあるように、ドラッカーはイノベーションの機会として「産業構造の変化、ギャップの存在、人口構造の変化、新しい知識の活用、予期せぬ成功と失敗、認識の変化、 ニーズの存在」の七つあげています。そこに「起業家戦略と起業家精神」を備えた人が、「イノベーションの実行」にあるようなことに注意して行動すれば イノベーションが起きる可能性があると言っています。商品企画の目的としてはイノベーションを起こせれば理想ですが、そこまでいかないにしてもマーケットの新しい機会を 見つけることは必要ですから、このアイデアは参考になります。したがって商品企画を行う人は、この図を参照して自分の商品アイデアはこれらのどのような要件を満足している のかを検証すれば良いわけです。出来ることなら自分の商品の特徴がイノベーションの機会のどの機会に当てはまるかを検討し、その機会の枠内に自分の言葉で記入すれば より身近な特徴を表すことが出来ます。この図を4次元で説明するのは難しいのでここではとりあえず8次元として整理しました。同様のことを図2の中の8枚の検討図について 行い、その次元と検討用の軸を整理したのが下表です。 

検討軸整理表

 いったん4次元をあきらめると、あとは気楽なものです。これも多様化時代の産物ということで、どうにでも出来るようになります。 今回のタイトル「多次元思考図(Multidimensional Thinking)」はこうして生まれました。

 こうして得られた多くの検討軸の中には時間のように重複しているものもありますが、商品化で考えなくてはいけないことが多数含まれていることは確かです。一通り これらの検討図を作成したのち、検討している商品企画に重要な検討軸を中心に、検討図を再整理すると、それが商品戦略の検討図(商品コンセプト)になります。

 言い換えればこの段階までくれば、商品化を考える人の知識や知恵に合った検討図作成することです。この時に検討軸が他のアントレプレナーと同じであれば競合が 激しくなり消耗戦になるでしょうし、既存の大企業と同じであればアントレプレナーにはまず成功の見込みはありません。グローバル化が進んだ今日では、海外の成功事例も そのまま真似して成功するはずもないし、異業種連合が進んできていた現在は他産業の成功事例もそのままでは競争力の源にはなりえません。言い換えればもはや ベンチマーク手法では、アントレプレナーの商品企画のアイデアづくり出来ないということです。

 ありがたいことに上表にあげた軸だけでもこれくらいの数があり、そこに入れるパラメータの数を考慮して可能な組み合わせを考えれば、事実上無限の組み合わせと なります。既存企業の存在でアントレプレナー成功の組み合わせが減ると心配する必要はありません。

 こうして、検討軸やパラメータを選び、実現の可能性の高いいくつかの商品を仮決めします。

 この段階までくれば上表の商品企画七つ道具で推薦されているコンジョイント分析等によるマーケット分析も使えます。こうして選ばれたいくつかのアイデアの中から マトリックス分析法を使って実行可能なコストで利益の上がりそうな商品を決め企画から実行へと進めていくことになります。しかし、これでもまだ宝探しをやるような ものです。

 アントレプレナーは新しい可能性を求めて、可能性の高そうな山を目指す探検家です。とすれば、当初目的は達成できなくても何とか生き延びられるように準備し必要と なる避難訓練もしておきましょう。

そのうえで、商品コンセプトの探索からを初めてみませんか?

注1) ビジネスモデル・ジェネレーション アレックス・オスターワルダー 翔泳社
注2) リーンスタートアップ エリック・リース 日経BP社
注3) イノベーションと企業家精神 P.F.ドラッカー ダイヤモンド社

2014/10/28
文責 瀬領浩一