金沢大学先端科学・社会共創推進機構

VBL

114.自業計画書案の書き方

-「@自業塾」の例-

はじめに

 2015年末に本シリーズの100回「自業の夢を描く 」で「あ・そうかいで70にして立つ」というシニア活動の考え方について報告しました。「自業」とは何のこととお感じの方はそちらを参考にしてください。その後それを実現する方法を学びたいと2016年から2017にかけて「起業家セミナー」と「起業家スクール」に参加いたしました。この時、「創業」と「自業を始めること」との違い、すなわち「事業」と「自業」との違いをひしひしと感じました。この経過や感じたことは本シリーズ111回自業から事業へ」で紹介させていただきました。

 「自業」でなくはじめから「事業」を狙う方も多いかと思いますが、今回は、とりあえず「副業」や「趣味の会」のように何か新しいこと を、「自業」として初めてみようと考えていらっしゃる方を対象に、私がやろうとしている「@自業塾」を例に取り上げ、自業計画書案の書き方をまとめました。

1. 「事業」と「自業」の違い

 「事業」と「自業」の違いをひしひしと感じさせてくれたのは、「図表1活動分野を設定する3つの円」の左図です。「起業家セミナー」で提示されたのは起業分野を設定するために、左図の上部にまずやりたいことを書き込みます。たとえば
自分の好きなことや人から歓迎されること、
これまで抱いていた夢、
得意だったことや褒められたこと、
やってみたいこと、
ボランティア活動としてやってきたことやりたいこと、
趣味、スポーツなど、楽しみを感ずるもの、
をリストアップして、実現したい時期を書き込むように勧めています。


 左図の左の円には出来ることとそれを実行出来る能力を記入します。能力の評価は次のように設定しています。
特A 外売ができること
A   努力すれば売れる
B   需要が少ない
C   古くなったため需要が少ない
ビジネスのはなしですから当然の事として、売れるかどうかが評価の基準となっています。

 さらにSWOT分析等を行い、市場規模を考慮して、テストマーケティングをやって市場性があるかそしてお金が儲かるかどうか決めてくださいというものでした。そしてこのようにして、分析した3つの円の重なる分野での起業することを考えてくださいというものでした。なるほどこのようにして、事業分野を設定すれば、成功確率は上がりそうだと感心しました。

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図表1活動分野を設定する3つの円
出典  片桐(2017) 『実践!ゆる起業』p43. を参考に作成
 

 ところが私が図表1の左図を参照して参考にして作成した右図の自業分野を設定するための3つの円はこれと少し違ったものとなりました。

 自業においても上にある「やりたいこと」は同じです。

 ついで、「お金になること」の代わりに「感謝されること」を選んだのは感謝されれば幸せになるだろうと単純に思ったからです。
そのためには自分の活動が相手の役に立ち、相手の
楽しみが増える
知識・技術が身に付く
人脈が増える
余裕時間が増える
といった直接的利益が増える(利他主義)に加え、自分自身が相手に感謝することも加えました。これは松下(1993)の『人生心得帳』のp29.の「感謝する心」というところに、次のような言葉があったからです。
 「感謝の心を忘れてはならない。感謝の心があってはじめて、ものを大切にする気持ちにも、人に対する謙虚さも、生きる喜びも生まれてくる。」
 すなわち、「当然のことであっても感謝する気持ちをもって人に接すれば、感謝される可能性が増える」という言葉ではないかと考えて追加しました。

 できることとしてはお金になるかどうかでなく、これまで自己紹介のときに使ってきた、経験を通して獲得した自分の次の3つのスキルを記入することとしました。
結果責任が問われるリーダーとしての「運営」スキル  ビジョン作り、目標作り、動機付けル等
知識の有効活用を目的目標とするプロフェッショナルの「専門」スキル
 プロジェクトマネジメント、コンサルティング、トレーニング等
何かを実際に仕事を行うときに必要な「技能」スキル
 機械工学、化学工学、電気工学、診断技術等
すなわち過去の経験を通して学んだスキルを最大限に活用したいという、個人的理由を上げました。

 このように狙いが違うのですから。自業として考える時と起業(自業)を前提として考える時とは、選ばれる分野は異なってきます。変わるのは仕方がありませんし、むしろ好ま しいことと考えています。この意味で自業はワークライフバランスの考え方の例に近いかもしれません。

2 自業計画書案の作成

 こうしてやる分野が決まったら、早速活動開始です。このためには、志を同じくする人たちを集めなんとかチームを立ち上げる必要があります。このために作成するのが自業計画書です。似たような計画書は、中小企業庁 「平成28年度夢を実現する創業」や日本政策金融公庫 「創業の手引き」の創業計画書やそれにまつわるホームページでも見ることが出来ます。これらには、中小企業の設立に絡んだ計画書で、会社設立についての重要なヒントが述べられており、当然のこととしてお金についての考え方の部分が重要な項目として扱われています。

図表1にあるように自業はとりあえずお金から1歩身を引いてやりたいことをやるとしているので、これらの書類を参考にしながらお金の部 分を削除して作成したのが図表2自業計画書記入例です。

jgksnk02.jpg 

図表2  自業計画書案概要の記入例
 

 この図は、ちょっと字が細かすぎるかもしれませんが、一覧性を重要視して1枚の図にまとめました。1ページにするためのエクゼクティブサマリーといった感じでお許しください。このあと、記入例の最初の部分をもう少し大きい文字で紹介させていただきます。

2.1 自業名と自業者略歴

(1) 自業名

 記入の最初に決定するべきことは、自業名です。とりあえず自業名、代表者名、連絡先を記述しておきましょう。


自業名 @自業塾  代表者名 瀬領 浩一  電話番号 012-345-6789  E-mail k12345678@yahoo.co.jp


 上記では電話番号とE-mailはダミーを記しています。これでは連絡は取れません悪しからず。

(2) 代表者略歴

 ついで自業の代表者がどんな人であるかを分かっていただくために、代表者の略歴を書きます。


1964年 大学院入学:電解超仕上げの研究
1968年 A社入社 SEとしての製造業の設計・生産・販売システムの開発ならびに、
 コンサルタントとして製造業のサプライチェーンの問題解決支援。  

1993年 B社入社ソリューションビジネスの立ち上げを担当  
2003年 C大学入社 共同研究室で産学連携や企業支援  
2008年 D個人事業設立コンサルタント活動並びにベンチャー企業設立支援   
2015年 川崎市のアクティブシニアの会に参加しシニア活動を体験
 この間に自治会会長や役員に就任し地域支援の重要さを体験


 この時注意すべきことは、一般の履歴書のように、何年にどのような学校に行っていたとかどの会社に勤務したかとか、どんな役職だったの か言うような表面的な事実を単に時系列に書くだけでは十分ではありません。大切なことは、そこにいた時に何をしたかそしてどんな成果を上げたか、感謝され た事等を描くことです(絵や写真が入ってもいい)。

(3) 自業の動機


2007年にC大学を定年退職となり、年金生活となった。 特任教授としての収入はあったが、
 兼業規制も無くなったのでもう少し人生を楽しもうと、これまでの経験を活かし
2008年より個人事業として産学連携を中心に個人事業を始めたが、
2015年にアクティブシニアの会に参加して、意欲ある多くの人に出会い。お話をさせていただきました。   
 この経験も活かし自業タイプの活動を思いつきました。


 ここではなぜ「@自業塾」のような厄介なものを始めるに至ったのか、その動機を書いてあります。

2.2 やりたいこと

 大切なのはこの後のビジョンです。大げさな会社組織を作るわけではありませんので、気楽な気持ちで中長期的に何を目指しているのかを記入しておきます。 図表1で選んだ分野で何をどのようにして達成するかの基本となるものです。この項目は短くても、チームに参加してもらう人たちに賛同してもらう必要がある重要項目です。この項目に賛同を頂けないと、お金の対価を期待できない自業では人を集められません。活動方針は、そのビジョンを達成するための短中期の具体的な方針です、どのような方法で行うのか分かるようにしておきます。

(1)ビジョンと活動方針


ビジョン

 元気なシニアの人達が集まったグループと共に、来るべき高齢化社会を元気に生き抜く方法を探す。

 自業の考え方を試行し、その実現可能性を検討する。まずはシニアの人達を対象に、実質収入が減少する中で、希望と満足感を感じる自業について考えていただき、その人たちが生き生きとした人生をおくる方法を模索する。その後、若者の就活、企業従業員の副業、新事業の起業準備に使えることを検討したい。


活動方針

 実質収入が減少する中で、希望と満足感を感じる自業について考えていただき、その人たちが生き生きとした人生を送るための 「自業の道」(下図参照)を模索する。

 将来について考えるにあたり、まずはライフプランの収支表を作ってみる

 問題を抱える人達同士の会話もしくは討論を通じてアイデアを磨き上げる。

 メンバー同士で役に立ちそうな情報や方法を提案し、会話と討論を進めやすくする。

 議論したアイデアはどんどん実施し、社会に貢献できるかどうかを確認する。


 こうして作られたビジョンをどのようにして達成するのか、その活動の考え方について記述します。
 活動の仕組みについてはできるだけ具体的に記述しておくのが良いかと思います。まだ決まった方法が確立していないチームの活動ですから、下図の「自業の 道」で は、起業家が通常行うPDCA(もしくはリーンスタートアップ)の考得方を採用しています。

(2)活動概要


a. 活動の仕組み

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 左図にあるように、「グローバル環境」と「自分への備え」を元に、自分のやりたいことを見つけて自業準備ができ たら早速自業を開始し、KPI(業績をはかる尺度)を見ながら議論し助け合う。 使えるツールは代表者がいくつか用意するが、チーム参加者の独自のツールも事業を継続する(起承転結)ことを検討する。

 そしてチャンスが見つかれば、事業に挑戦まで(結)を各自のケースについて発表しあい、皆でやり方を改善しなが ら活動を進める。

 使えるツールは当初代表者がいくつか用意するが、チーム参加者の独自のツールの追加は大歓迎で、皆でやり方を改善しながら活動を進め る。


b. @自業塾の成功要因

 自分自身の問題でもあり、参加者の悩みを理解しやすい。

 これまで、大学で行ってきた人材活用術で整理してきた情報が、利用可能である。

 川崎市の「アクティブシニアの会」に参加されている人たちの経験、高いスキルと人脈がある。

 プロジェクト推進のための強力なツールとして、IT技術の有効利用、現状を直感的に把握するための「1枚ベスト」、思考法 を整理した「自業家思考図」、目標設定検証のための「SWOT分析」、成果の評価のための「BSC」等、いろいろなツールや方法論が揃っている。


 といった具合です。代表者の履歴から考えても、無理ではないと感じさせるような成功要因を上げてください。読んでいらっしゃる方が疑問に感ずるかもしれないと思ったときには「2.1 (2)の事業者略歴」を見直し追加・変更してください。言葉だけでなく時には図表も入れて詳細な説明を省略する方法も有効かと思います。

2.3 参加者にとっての価値

(1)参加者は、どんなニーズを持っているのか


参加者:将来に不安を感じている元気な高齢者

 定年後の元気な高齢者で、将来性に不安を感じている人
 自分の能力を発揮できていないのではと感じているサラリーマン
 (就職前の若者は@自業塾の対象外)

ニーズ:生活上の不満や不安を解消したい人(個人として)が

 不安解決のための検討をしたい。
 自分にあった将来計画をつくりたい。
 それが可能であるかどうか検証したい。
 自信をもって自業に励みたい。


 自業は、自分がやりたいチーム活動を前提とし ているのですので、どのような人が参加するかを想定して、その人達がどのようなニーズを感じているかを明確にしておく必要があります。ここでは「@自業 塾」で期待している参加者とその人たちのニーズをあげています。

(2)何を提供したら喜んでもらえるか


a.提供する商品・サービスの内容
 自業家セミナーの実施 ビジネス環境や働き方動向の変化の説明。
 実施に対するコンサルティングや経験者のアドバイス。
 必要に応じて、個別の支援活動。


b.提供する商品・サービスの仕入れ・生産方法
 コンサルティングについては、必要に応じて「あ・そうかい」のメンバーやその人脈の支援を考える。


c.提供する商品・サービスの価格

1. パイロットプロジェクト段階(自業モデルの確立)   
 学習段階であり、基本的に無料   
 成果物は自分で作った自業計画書とその関連資料

2. 先行プロジェクト(自業の実施)   
 自業計画書を修正しながらやってみて、その結果を話し合う。活動に必要な経費(消耗品、交通費等)に見合った費用が必要となるが人件費は請求しない。

3. 起業支援段階(起業活動を行い事業としての継続)以降   
 儲かりそうなプランが期待でき、事業継続の可能性がでてきたら、事業としてそれなりの経費を起業支援業者に払う。@事業塾では基本的にやらない。


 「@自業塾」に参加される方々にどのように喜んでもらえるか(ひいてはそれにより感謝されるか)を、商品サービスの内容、その仕入れまたは生産方法、その価格負担の考え方について整理しています。行われる自業によって必要金額は異なるし、その支払い目的や社会の慣習によって払い方も違うため、その 自業ごとに、原則を決めておくのがよいかと思います。 さらに事業の進展状況によっても事情は変わるかと思いますので、それらも想定して作成し修正をおこなっていきます。

2.4 関係者は誰か(参加者とその取引先)

(1)取引経路とその独自性 


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 あ・そうかいの@自業塾で試行プロジェクトを実施し、その結果を整理し情報を公開する。

 事例報告をして自業の効果を知っていただき、随時新メンバーの獲得を図る。

 自分は無料をやるとしても、周りの人の中にはそうはいかない人もいるので右図のような取引図を作り、活動関係の可視化を図る。

 無料の時はそれに変わる心の満足感を記入し、その満足感が十分な価値を持つことを検証する。


 大袈裟に取引と書いていますが、自業に関連する人たちの間で、どのようなモノや情報、サービスがやり取りされるのかを整理したものです。初めて参加する人たちは、どのような人との付き合いのあるチームかを知ることが出来るし、すでにチームに参加されている人から、やり取りの改善提案や、新しいパートナーの提案が有れば順次修正し、共有していきます。

(2)プロモーション


a.PR方法

 例会やSNS等で自業の成果の報告
 業界セミナー、ITセミナー、学会で成果の発表を行う
 論文もしくは寄稿文の作成をおこなう。
 参加者が、業界や地方自治体のコンテストに応募する。
 起業を目指す人はホームページの作成にとりかかる。


b.満足度向上方法

 セミナー後の、セミナーの成果について定期的にお話を聴く
 自業セミナー完了後、役に立ちそうな情報をフィードバックする。
 顧客満足度に関する重要なKPI図を作成し、測定可能にする。
 バランススコアカードでKPI間の相互関連に矛盾や無理が無いか検証しておくこと


 こうして、チーム活動を行う人達とその人たちのニーズが想定できれば、その人たちに対するPRや参加されている方の満足感が継続するよ うな活動を行うことも纏めておきます。

 このあとも同様に記述していきますが冗長になるのでここでは省略します。概要は図表2の自業計画書記入例のとおりです。大切なことはこの自業計画書は、とりあえず事業の検討を始めるためのものであり、詳細なことまできちんと決めて、全体の統合性を保証するものではないということです。とりあえず思いついたことをまとめ、やってみておかしいとわかった時には、それを知らせてくれた人に感謝しながら、すぐにでも修正し、チームのみなさんの了解を得ながら進めるためのコミュニケーションツールです。自業計画書は時間とともに変化している様子を共有するためには、変わったことを常にチームメンバーに伝えることができる例 会や集まりが重要となります。さらにSNS系のネットワークなどを使えば、迅速に情報伝達ができるので、これもまた必須条件となりそうです。

おわりに

 本報告は、「自業」を進めるにあたって必要な、「自業計画書案の書き方」をまとめたものです。計画案の例として、これまで「@自業塾」で行ってきた ことを取り上げて説明を加えてきました。高齢化社会の到来とともに、グラットンがライ フシフトで言っているように、ここで上げたような柔軟に考えざるを得ない人が増えてきているようですし、またライフシフトに興味を持つ人は、今回事例に取 り上げた定年後不安定系だけではなく、未来志向の若者系、子育ママ系、スローライフ系、社外やりがい追求系、経営危機直面系の人も多いそうです(人生100年を生きる、週刊東洋経済 2017.07.22)。 さらに朝日新聞の2017年12月17日盤には『学びなおし実現へ「産学官の連携を」』の記事に あるように人生100年時代をどう生きるかは大学教育の在り方の一つとして議論されている時代です。この一つとして自業の考え方を取り入れていただければ幸です。

 大切なのは、自業を始めるにあたって、まずは自業計画書案を作成し「やりたいことの見える化」をし、その情報をチーム員で共有しながら なが進めたらどうでしょうというのが私の意図です。その例として「@自業塾」は取り上げたましたが、その内容は重要なわけではありません。

 自業計画案を改定しながら進めた結果、自業が上手くいって自業からお金の儲かる起業へ転進する方法が見つかれば、改めて起業に挑戦ということになります(これこそ理想的な自業のEXITです)。

 という事で、今は特に問題のない方も、自分のやりたいことを「自業」として「見える化」してみたらいかがでしょう。

参考文献

片桐美央 『実践! ゆる起業』講談社2014
瀬領浩一 「自業の夢を描く」 ,https://o-fsi.w3.kanazawa-u.ac.jp/about/vbl/vbl6/post/100.html, (2017.8.16 アクセス).
中小企業庁 「平成28年度夢を実現する創業」, http://www.chusho.meti.go.jp/keiei/sogyo/pamphlet/2016/
日本政策金融公庫 「創業の手引き」https: //www.jfc.go.jp/n/finance/sougyou/pdf/sougyou_tebiki_160916.pdf
松下幸之助 『人生心得帖』1993 pp.29.

2017/12/21
文責 瀬領 浩一