金沢大学先端科学・社会共創推進機構

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118.ニューエリートを目指す

- AI時代のエリート -

ニューエリートとは

 ピョートル・フェリクス・グジバチ氏の『2025年の「ニューエリート」像』では資本主義時代の成功者を「オールドエリート」とし、急激な変化に対応し、新しい価値をつくる人を「ニューエリート」とし、その主な違いを以下のように分類しています。

 「オールドエリート」は規則を作り、それを部下に指示し、管理しながら仕事を進める人です。軍隊やこれまでの大企業の管理者のように部下を統制しながら仕事を進める人です(グジバチ,p24参照)。
・性質は強欲、  
・求めるものはステータス、  
・行動は計画主義、  
・考え方はルールを守る、  
・消費行動は目立つため   
としています。

 なかでも行動は計画的に、ルールを守って計画するなどは、目指すべき目標を達成する必要条件であり、当然のことのように日々勤しんでいる方は多いとおもいます。

 一方「ニューエリート」は、部下のことを考えて、社会にどのように役立つかを考えながら仕事を進める人です。  
・性質は利他主義、
・求めるものはインパクト・社会貢献、
・行動はオープン、
・考え方は新しい原理や原則、
・消費行動はミニマリズム
としています。

 この中には「性質は利他主義」「行動はオープン」など、今の会社員がこのようなことを言っていたら、敵に情報を漏らし、自社の利益を減らすことになると上司に怒られそうな項目も入っています。

オールドエリートの例

 と いうことでまずは「オールドエリート」に関する例を、新聞から見ていきます。今回は、たまたま最近新聞に掲載された情報を説明の例に使っていますが、掲載 された大企業や公務員を非難しているわけではありません。単に事例として、参照させていただいているだけです。同様なことは、大企業と政府の機関だけで 行われているわけではなく、中小企業でも、サークルでも、時には個人でも発生していると考えています。

大企業の事例

 2018年8月26日の朝日新聞ではS銀行で、シェアハウス投資向け融資に当たって、想定家賃を高く設定したうえで、利率も8%前後の 高利回りとして、融資を行っていました。とりあえずの収益を高く見せるために幹部が仕組んだものと書かれています。そのため融資を得た業者は相次いで業務を停止し、借金を返すことも出来ず貸倒引当金が400億円となり、2018年3月の利益は4分1にまで下落したとなっています。

 このような対策のためには、そこで働く人自らが、各人が自分で考え自分の責任で行動するルールを作るしかありません。本当の問題は国民の意識であり、働く人や、顧客となる人がこのようなことを、実行していることです。現在は、間違った信用調査結果でもいいから、お金を融資していただければよいと考える顧客がいる。間違ったデータであろうと、上から言われた通りに調査報告書を作成する人がいる。という状況が大規模に発生しているのです。2018年8月28日の朝日新聞ではS銀行の会長兼CEOが辞任する見通しと書かれています。

中央省庁のケース

 2018年8月29日の朝日新聞の第一面に記事「障害者雇用 実際は半数」があった。内容は中央省庁で障害者の雇用数が水増しされ、国の33行政機関の内約8割の27機関で不適切障害者数の参入があり、修正すると平均雇用率は2.49%から1.19%に半減したということです。すなわち法廷雇用率2.3%に達していなかったということでした。この問題は国会の機関にも広がりを見せていることです。要は実態を改善せずに国の目標を達成したとの不適切な報告をして いたということです。このような内部情報はフェークニュースの可能性もがありますが、アメリカのクリントン大統領の発言に対する新聞記事にあるように、それを確かめる方法はありません。

 望ましくない行為がおこなわれた場合はその結果、トップが辞任するだけでも不十分です。むしろ、もう一度同じことが行われないように、具体的対策を決め、自分で改善を行うか、次の人に引き継ぐことが必要です。すなわち、過去から何を学び、将来にどうするかを決めることです。自分が指示した結果であれば、指示 した人が一番よく解るはずですから。

 それなのに、政府の対応の例として、2018年8月31日の朝日に、2018年3月27の省内各局の筆頭課長の定例会議で配った級経済産業省が政府の文書管理のガイドラインを説明した内部文書の中で、省内外での打ち合わせなどの記録について「省内の簡単な打ち合わせまで議事録を作ったら大変な作業になる。必ずしも議事録のように発言の細部まで記録する必要ない」と答えたようである。大変な作業になるのであれば、ボイスレコーダーで記録して、それを配布若しくは関係者が聞ける仕組みで代行し、その後問題が発生した時には、音声認識ソフトでテキストファイルに変換し検証すればよいわけです。今や「IT」を使えば容易に出来る時代です。

 取り組む人には、お客様視点、すなわち国民により正確で正しい情報を伝える議事録を作るにはどうすべきかといった根本的な部分が抜けており、公務員がクレームを付けられないためにはどうすればよいかといった「組織の目的達成報告書作成」視点で仕事を行っていることが感じられます。こんな結果が出るようでは、いくら対策を検討しても、国民のためのサービスは向上しません。対策検討者の存在理由すら疑われます。

ニューエリートの例

4COLORSの事例

 このように考えていた時に、2018年8月25日ODSGの例会で株式会社4COLORS加山緑郎社長から「創業からのアバター動画事業とイノベーションの普及戦略」副題:ディスラプターによる『情報が増えた時代の"伝達プラットフォーム市場の開拓"』をお聞きしました。

 4COLORS社はアバター事業とPIP-Makersの開発提供を行っている、横浜にある資本金2000万円の会社です。2006年にホテルマンであった加山氏が設立された会社です。

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図表1 アバターサービス事業の展開
出典 「創業からアバター自業とイノベーションの普及」, ODSG例会資料、2018/8/25
  

 起業前、加山社長は、ホテルマンとして働いていて、人がHPで接客することに興味を持っていました。当初解決案と思って、米国まで言って交渉して契約した技術は、自分の考えていたエリアでは、成功しませんでした。このため5人でやっていた事業は一度リセットし、再出発したとのことでした。この時に5人いた社員で、新事業に参加されたのは加山社長とプログラム開発担当1人だったそうです。

 アバター動画は、作者の写真をアバターに変換し画面に映し出し、そのアバターが説明をする動画です。見ている人はプレゼンしている作者がHPから自分に話しかけているように感じます。これを売りにしています。

 図表1にあるように、マスコミへの露出や、顧客への訪問を繰り返し、システムを修正しながら進めましたが、なかなか思ったほどは、売れませんでした。

 現在は、アバター動画としては、次のようなことを提案していると説明を頂きました。
 生産性向上:複数部門で同時に大量に作れる
 コスト削減:パワポ動画で時間短縮
 編集不要:リンク付き動画
 スキルアップ
 マルチデバイス対応:通信量はMPEGフォームの場合の1/10になる

 すなわち、新しい技術を自社開発し、高品質で、費用対効果が高いことをアッピールしていました。2013年に現在のシステム「PIP- Makers」が完成し、売れるようになったとのことです。

 私は2016年10月に地元のサークルで動画作成工房のセミナーに出席し、宿題としてPower pointを使って自分のやりたいセミナーを説明する動画を作ったことがあります。新しいことで面白かったのですが、新しいセミナーの概要を決めそれに必要な資料や関連情報を集めるのにかなり時間がかかったことを思い出しました。一番時間がかかったのは、①新しいセミナーの構想作りで、②次いでそれを動画として説明するための補助情報集めですが、③それを動画にするためだけでもたっぷり1日以上かかりました。

 作成した後で、講師に見ていただいたら一言、「技術的には問題はないがプレゼンに時間がかかり過ぎる」でした(約8分)。「だらだらとした説明動画は見ていただけないよ」とのコメントを頂きました。そのうえPower pointファイルは1Mバイト以下でしたが、動画ファイルに変換するとは数百Mバイトとなり、とても配布できるサイズではありませんでした。

 ということでその後、この方法で作った動画スライドを使っていませんが、今回のお話で、改めて感じたことは、資料作りには「相手が知りたいことに対して、きるだけ短い時間興味を持っていただけるように工夫する」必要と、インターネットでは配信するには「ファイルサイズを少なくする必要性」を感じました。アバター動画はその技術の一つです。特に営業用には、担当営業に親しみを感じていただく素晴らしいツールです。「すなわち動画を使ったアバターセールスマンが一人増えるという」経済的効果です。

 現在は250社のクラウドサービスを行い販売パートナーも30社となっています。2018年の売り上げ目標は1.3億円ですが、 2019年20億円、利益は約7.5億円を目指しているそうです。産業分類に「伝達産業」なる提案をされていました。

 今回のお話は、事業開始から現在に至るまでの企業の苦労やあたらしいイノベーションへの挑戦についての加山社長自らの活動報告でした。すなわち加山社長の現場に基づいた事例中心のお話で、質疑応答では参加者の笑い声が絶えない面白い経験でした。現場志向や過去の事例参照が豊富に含まれ起業家の苦労がひしひしと伝わる話でした。トップ自身がイノベーターとして販売・営業活動を行い、技術者の作った商品を売る現場にいるわけですから、大企業のような忖度などは発生しません。イノベーションとは、イノベーターによる世直しの結果と感じた次第です。

オールドエリート時代からの脱皮

 ここで取り上げたオールドエリートの例は、欧米がニューエリート時代に脱皮しようと、ICT企業を中心としてニューエリートの考え方を推進し成功している中で、日本の大企業や公共機関がオールドエリート体制を強化しようと努力しているために発生した事象です。当然のこととしてこれらの機関は日本をリードする機関ですから、そこで働く人だけではなく、その影響下にある中堅・中小企業で働く人たちも、影響を受けています。

 4COLORSの事例は、これに対抗してニューエリート政策を導入して、立ち上がってきたベンチャー企業の例と見ることができます。Appel、Google,楽天などを見ても、最近の成長企業はほとんどベンチャー企業から始まっています。政府や大企業がニューエリートを生み出すのが難しいことを前提としなくてはいけないようです。このため政府の政策が悪いといったような「お上」批判をしていても、問題は解決しません。

 そんなことを考えているうちに、2018年9月4日の朝日新聞に、経団連会長から2021年の春から「就活指針の廃止表明」があったとの記事が載っていました。素晴らしいことです、終身雇用制や正規社員の問題を解決するためには、採用のところから手を付けるのは、一つのアイデアかです。もっと自由に必要な時に必要な人員を採用が出来るようになれば、社員の退職問題や、中途採用といった差別的な社員の扱いにも手を付けられるようになります。これならの政策を、守りながら、自分のやりたいことをやりたいときに行えるようになります。

 しかし当然のことながら、これは現在権力を握っている「オールドエリート」の方から厳しい反発を受けることは確実です。「オールドエリート」がコントロールしていることの多い大学等教育機関はこの考え方に反発するのは当然です。しかし同日の朝日新聞には「経団連」から脱退した楽天ではエンジニアは通年で、その他の職種も4月10月入社を実施している」と報道されています。ニーズやそのための仕組みはそれを必要とする要件に合わせて提供するということは、4COLORS でも行われています。すでにベンチャー企業にはその前例があるのです。

 従って今後は、この考え方はベンチャー企業のみならず公的機関・大企業・中小企業・NPO法人に働くニューエリートを目指す気 概を持った「個人から始める」必要があります。

 また、グジバチ氏はニューエリ-トになるための次のような7つのキーワードを提唱しています。
  「自分を知る」努力を続ける
  「疑うスキル」を磨く
  失敗を恐れず「DCAサイクル」を回す
  「アウトプット」にこだわりを!
  「Learn &Unlearn」
  「強欲主義」から「利他主義」脱皮"する
 毎年データを決めて"脱皮"する

 さらに新しい価値を創造している人には次の4つの共通点があると言っていますす。
  自己認識
  Give& Take
  すさまじい実行力
④  DCAをたくさん回すこと

 グジバチ氏の4つの共通点や7つのキーワードを、マンダラ図に纏めると、ニューリーダーの考慮すべきことは図表3のようになります。

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図表2 4つの共通点と7つのキーワード
出典 『2025年の「ニューエリート」像』, グジバ チ,「2025大予測」_Associe最終号,P26 を参考に作成
 

 図表2 4つの共通点と7つのキーワードは、ベンチャー企業のフレームワークを一部修正し作成しました。青色の楕円が4つの軸を表現し、赤字で描いたところが7つのキーワードです。

 この図の前提は、図表2の上部・真中の「自業の視点」にあります。ここには、働き方を①Work1.0、②Work2.0、③Worc3.0 に分類しています。①Work1.0の時代は、仕事と言えば肉体労動の時代で、言われた物を作ることが中心の時代でした。このためより多くのものを作る 勤勉と服従が重要な課題でした。ところが石炭や重油といったエネルギーを使えるようになると、モノづくりを行う機械が大発達しまた。このため新しい機械の生産や・その使い方を知っていることが必要になり、②のWork2.0になると、使い方を知っていることや、その改善方法に関する知識が重要となり、担当する機械やシステムについての専門性や知識がより重要となり、言われたことをきちんと行うために、服従と知能が重要となる時代がきました。しかしインターネットが普及し、現在のようにAIが出てくると既存の知識を知っているということはだけではICT技術で代替えが始まり、それほど重要で無くなり、③のWork3.0と言われる時代になって、現在は率先して実施し、情熱をもって独創性を発揮する能力が重要となり始めています。

 グジバチ氏は「ニューエリート」はこのようなWork4.0を実践する人と、述べているようにみえます。また私が提案している自業はこのような考え方を実行する方法としても使えそうです。

参考文献 

グジバチ 『2025年の「ニューエリート」像』,「2025大予測」_Associe最終(2018年9月)号
「サイバーステーション,入力すると話す電子看板」,(金沢市、福永泰男社長), https://www.nikkei.com/article/DGXNASJB08042_Y1A300C1LB0000/  (20180831アクセス)
自業戦略と計測尺度 https://o-fsi.w3.kanazawa- u.ac.jp/about/vbl/vbl6/post/113.html (20180917 アクセス)

2018/09/18

  文責 瀬領 浩一