金沢大学先端科学・社会共創推進機構

VBL

120.アクティブ・シニアの貢献

- 幼児期記憶を活用しよう -

はじめに

 私が参加している「あ・そうかい」は定年前後の人が参加する定員60名のチームです。会の目的は『自分たちが暮らす地域社会で、住民皆が心豊かな生活が送れるように、「地域社会での仲間づくり活動」をし、「活動の場所探し」も行い、同時に「地域活動の実践」などに取り組むこと』です。この人たちからホームページ接続に関する課題が出され、それを検討しているうちに、接続方法もさることながらその使い方が重要であるということになりましたので、今回はその経緯を纏めました。

ホームページの課題

 提案されたホームページの課題は以下の2つでした。

課題A. 定例会で、前回欠席者に対する前回資料の配布を中止したい。 毎月開かれる定例会では、印刷資料を配布しているが、参加者には今回分だけでなく、前回出席出来なかった人には前回分の配布資料も配るようにして、情報の共有をしてきた。そのために前回の出席者と今回に出席予定者を調べ、必要枚数を決定しているが、手間がかかる。HPには前回の議事録は投稿されているのだから、欠席された場合にはそちらを見ていただくようにルールを変えたい。

課題B.「会員のページ」が写真と会員リストだけではもったいない。一般会員が投稿できるシステムにして欲しい。 たとえば会員あてに、「XXが必要でなくなったので、譲ります。ご希望の方はお知らせください。」といったような情報を発信し、それを欲しいと思った人からメールを頂くような仕組みが欲しい。

「あ・そうかい」ホームページの概要

 ということで、関連するメンバーが集まり、調査を開始しました。 その結果、当時の「あ・そうかい」のホームページは図表1のようになっていることが分かりました。

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図表1 「あ・そうかい」ホームページ
2018年6月13日アクセスデータより作成
図をクリックすると拡大された図が見られます
 

 HPの目的を会員への連絡、分科会の連絡、会報、総会議事録の記録と考えると十分なメニューです。しかしながら、会員にとって意味のある情報であり、会員以外の人達が関心を持つ情報が少ないため、外部の人によるアクセスはほとんどありません。このためか、これまでに会員募集のページを利用して申し込まれた会員はいません。ただ、現状は、定員60人で会員集めに困っているわけでもなく、わずかな新規会員はすべてメンバーの推薦で行われ、特に問題は発生しておりません。

 また、例会に出席できなかった人は、左側にあるメニューの「活動実績」から定例総会の議事録、さらにはメニューの「あ・そうかい通信」 をクリックすれば、前回以前の配布資料を見ることができます。こうして、前回欠席者に対する前回資料の配布を中止しても、前回欠席者はホームページを見れば同様な内容を見ることができます。

 したがって課題Aは現在のHPシステムで対応できている。総会で前回の資料配布は無くてもよいということを説明させていただきました。

 このようにHPは、会から皆さんへの情報提供の仕組みであり、情報は会員の皆さんがHPの管理者に依頼して投稿する仕組みになっています。このため会員の皆さんが課題Bのような情報を自由に投稿できません。その代り、すでにSNSに「あ・そうかい」というグループが登録されているのでそれを使えば問題は解決しますと図表1の右下の「グループ員の情報交換 SNS」でその機能と使いかたを説明させていただきました。ただし、現在の「あ・そうかい」SNSへの登録者は会員の4分の1くらいでまだ十分に普及していません。

ソーシャルメディアの利用方法

 セキュリティの関係で図表1の中上のHPへの投稿は特定の人に制限されていますが、BLOGとSNSはユーザーに開放されているソー シャル・メディアです。平成30年版情報通信白書によれば、各国のソーシャル・メディアを使ってよかったことは、図表2のようになっています。注 1)

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図表2 各国のソーシャル・メディアを使ってよかったこ と

出典 平成30年版情報通信白書 P162より注1)

 

 この図で日本は、③情報の収集が最も多く、続いて④暇つぶし、②既存の繋がりの強化で最後が①新しいつながりの創出です。これに対して海外では②家族や友人との連絡のように既存の繋がりの強化や①新しいつながりを創出するためにも相当使われています。すなわち日本のソーシャル・メディアは情報収集のために、海外では人付き合いを広げるために使われていることが分かります。課題Bは、既存の繋がりを強化する活動です。 これから強化していく分野です。日本は今や製造業中心からサービス業中心の社会、すなわちお付き合いの範囲を広げる社会となるわけですから、新しいつながりを獲得するソーシャル・メディアの機能を提供する活動が重要となってきています。すなわちいろんな人との繋がりの創出に役立つ仕組みも使えたほうが、楽しい人生を送れます。

 というお話をしたあと、皆さんに現在のホームページの使い方について、アンケートを書いていただきました。図表3はその結果をまとめたものです。

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図表3 ホームページの使い方

 

 回収できたアンケート用紙は、27枚でした。図表3では、各項目にチェックを付けていただいた人数と、回答者のなかでのパーセントを 表示してあります。この結果、回答者全員が何らかの方法でインターネットには接続できていることは解りました。このうちパソコンをお持ちの方が24人で 89%になります。

 また回答者の7割近く(67%)の人達がホームページのどこかを見ています。主に見ているのは見出しに当たる『ようこそ「あ・そうか い」』を除けば月1回の例会開催情報と分科会活動情報です。終わりのほうに団体概要、会員募集、お問い合わせ、リンク集等が続いています。すなわち「あ・そう かい」のメンバーに対する情報公開機能を発揮していることが分かりました。また出席できなかったときは、必要とあれば今回の出席者は全員前回の例会報告書を見ていることも解りました。

 ただ、SNSについては、「利用したい」が37%、「利用したくない」が41%と利用したくない方が上回っていました。
 理由は次のとおりです。   
使ったことがない   
必要性を感じていない   
仕組みが分からない   
他のSNSを使っている、2つはやりたくない   
特に理由はない

 したがって、課題Bは、利用したい(約37%)人達だけの範囲で利用可能になります。全員のメーリングリストを作れば、全員にお知らせすることは可能でしょうが、メーリングリストが漏れたら大変ですしそのため私は外して下さいと言う人も出てきます。結局SNSへの参加を登録するのと同じようなメンバーとなり、その管理業務をやる人は大変で、実現できそうにもありません。

 すでに連絡の仕組みについて、朝日新聞の2018年8月26日の朝日新聞の記事「君の悩みSNSで聞かせて」では10代の86%がSNSを利用しており、電話では吸い上げることが出来なくなった年齢層との相談に対応が必要な時代が始まっており、都道府県や指定都市の5割がSNSでの相談を受ける体制を取り始めていると報告されています。これらは、今後電話に加えてSNSによるコミュニケーションの時代が来るということを示しています。

 とりあえず結論は今採用しているSNSでやってみませんかとしました。SNSをやりたい人は、まず始めてみることです、その評判が良ければ、それを聞いて新たに参加する人も出てくることを期待して。

 というお話をした翌日、朝日新聞の夕刊(2018年9月29日)に「SNSで、5000万人分流出の怖れ ソフト欠陥1年以上」なる記事がありました。現在は修復されているとのことですが、ソフトにエラーがあるのは仕方がないとしてもそれが1年も続いたのが問題です。また2018年9月30日の朝日新聞によれば SNSのCEOは「利用者データに責任を持てないならサービスを行う資格は無い」』と言っていたそうです。その後朝日新聞夕刊等によれば流出対象者は 5000万人から2900万人に修正されました。注2)

インターネットへの接続方法

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  図表4 年代別インターネット接続端末
出典 平成30年版情報通信白書 p157に追加 注3)
 

 図表4は「平成30年版情報通信白書の年代別インターネット接続端末図」にアンケ―ト結果(図中大きなマークの3つ)を重ねたものです。携帯端末は70歳代と並ぶくらい多い世代に入り、スマーフォンの所持割合はシニアグループのなかでは多いのですが、全体と比べると60歳台と少なめです。この図の「あ・そうかい」印の年齢は私の推定です。アクティブ・シニアの講習を受けた定年前後の人たちが2015年に集まって作ったグループで、普段は互いに年の事は話題にしないで過ごしているため年齢は正確にはわかりません。

 この世代図を見ると現役時代の人々さらにそれより若い人と付き合うためにはスマートフォンの方がよさそうですし、これからはメンバーにもスマートフォンのユーザーが増えパソコンのユーザーが減ることは確実です。

 しかし、アンケートのコメントの中に、利用端末をスマートフォンに限るのは反対。新たな費用が発生する可能性ありとの意見がありました。その通りです、安いガラケーを使っている場合は、スマートフォンに変えると2倍以上の費用がかかることもあります。それくらいのメリットがなければ、無理に移行する必要はありません。またアンケートのパソコンの利用率は89%に対してスマートフォンの利用率は56%、HPのどこかを見ているが67%で す。従って、今HPをスマートフォン向けにしてしまうと読めない人が発生します。このためパソコンユーザーを中心としながらも、スマートフォンでも見やすいような画面を使い始めるといった準備から始めるのがよさそうです。ただ10代から40代の人は、明らかにスマートフォンが主流ですから、ホームページは別にしても若者との協働活動を行う時は、必要に応じてスマートフォンの利用も検討するのがよさそうです。そうすれば、シニア世代と同時に次の世代を担う若者との柔軟な情報交換も出来るようになります。

アクティブ・シニアの役割

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図表5 アクティブ・シニアの役割

 

 一方、これからの日本の将来を考えると、「自助の精神でイノベーションを」の図表1で述べたように、「ニューエリート」の時代を生きて行くためには、明治時代の各種の「啓蒙書」に書かれているような「自助の精神」の考え方が参考になります。幸せにも「あ・そうかい」のメンバーの世代の人達の両親や、祖父や祖母はそのような時代を生きていました。そのころは多くのお店や作業は家業と呼ばれる今でいう個人事業でした。家業を行っている人達は、仕入れから加工販売修理まですべて自分で計画し実行していたわけです。「あ・そうかい」のメンバーは、学校に入る前の年齢の頃(ソニー創業者の一人 井深大は3歳くらいまでとも言っています)に、このような両親や祖父祖母親戚の影響を受けています。注4) 
 ということは、「あ・そうかい」のメンバーは幼児期に実体験を通して「自助 の精神」を学んだ世代です。ところがその後の教育で資本主義教育を受け、「自助の精神」は殆ど忘れています。しかし幼児期記憶域には残っているはずですから、それを掘り返し、その経験を生かして現役世代に「自助の精神」を伝えることができれば、日本再生に貢献できます。

 ただ、過去の出来事を詳細かつ正確に思い出そうとしても、人の記憶が当てにならないケースは無数に存在します。実際、自らが関わった経験の中核部分でさえ、人は誤って記憶するとも言われています。
 心理学者マーク・L・ハウ氏によると記幼児憶の意義は、細部を正確に思い出すためではなく、体験から有用な意味を引き出す点にあるといっています。注5)

 アクティブ・シニアより若い世代は両親から資本主義的教育を受けた人が多くこのような幼児期体験はあまり期待できませんし、「あ・そうかい」には体力には自信がある方が集まっています。「あ・そうかい」のメンバーのような、アクティブ・シニアの皆さんが日常生活を送るときに自助の精神を取り込んでいけばいいわけです。そしてその日常生活が自助の精神を育てる学校であるといっているわけですから、そのような学びの場を見つけるのは難しくありません。

 たとえば選挙の時に、有力候補に反対だから投票に行かないなどは、結果として有力候補に投票したのと同じことになります。従ってその有力候補が自分のやって欲しいことをやってくれないなどとは言える立場にないのです。なぜなら棄権という賛成投票をしたのですから、基本的な責任は棄権した人にあるわけです。批判する代わりに次の選挙では反対投票に行かなくてはいけないのです。時間はかかりますが、「天は自ら助ける人を助ける」はこんな時間のかかる活動です。

 また先ほどのSNSの例も同じです。大切なことは、こんな不良品を使わせるとはといったクレームを発することではありません。グループのページは簡単に変えることはできないかもしれませんが、個人のページでは悪い製品を使うのを止めればいのです。 皆が悪いと思う製品を使わなくなれば、自然と品質の高い製品に変わります。

 昔の家業時代の日本ではおかしな商売をすれば、お客は近所の別の店に行ってしまうのはあたりまえでした。簡単な例を上げましたがこうした世の中がよくなる行動を率先して取るようにすることが「自助の精神を取り戻す」ことです。「政府がいけない」「企業が悪い」と他人のせいにすることではありません。そんな気持ちで生活をしていると、政府も企業もそれを許したユーザー(すなわち自分)のレベルに落ちてしまいます。これを言っているのが西国立志編の「政治の責任は国民にある」です。

 またアンケートのコメントの中に、『「あ・そうかい」HPの編集、入力、アクセス権等を明文化し、それを全員で共有する必要がある。現在は個人に特化しすぎている。』というものもありました。これはありがたいコメントです。このような話をSNSに投稿し、「私がまとめるから現状を教えて、誰か一緒にやる人いない」と行動を起こすのが西国立志編の「自ら助くるひととなる」の自助の精神です。

 すなわちおかしな状況を許してきた自分がいけないのです。アクティブ・シニアの皆さんが幼児期記憶を取り戻し、明治時代の「自助の精神」を発揮し、自分の実行可能なことを行うことにより他の世代の人にはまねのできない成果を上げることも夢ではありませんという例です。どうでしょうか。

 このように自助の精神」は、お話が分かればよいというものではありません。基本的なことをマスターしたら現場でそれを実現しなくてはなりません。そのためには、自助を普及させるリーダーとして、現場活動に参加しながら伝えていくことが必要です。注6)

 とはいえ現在の日本の社会状況は、トップダウンの忖度文化です。既存の「オールドエリート」から迫害を受けた場合は、自分で稼ぐ方法を考えないと生きて行くことができなくなるかもしれません。普段の生活も倹約して、いざというときに備えておかなくてはいけません。まさに自助の精神はほとんどアントレプレナーの基本要件の一つと考えることができます。

あとがき

 以上、当初のHPの機能検討から、使い方を検討しているうちにニューエリート対策まで話が広がってしましました。
 今回のプロジェクトで学んだことは、
「あ・そうかい」のホームページは、基本機能を満足している。問題は使い方。
若い人との協働を考えている人は、スマートフォンとSNSの利用を考える必要が出てくる
アクティブ・シニアの幼児期記憶は自助の精神を学ぶために役立つ
の三つでした 。
 ①と②は当初の当初からの検討課題で、報告内容でしたが、時間に余裕があったので、③をお話しました。
 前の方に座っていらっしゃった方から、①②は解った、③は面白かったとのコメントを頂きました。

 余談ながら、就職前で資本主義とか市場経済の教育を受けていない若者は、今のうちからゆっくりと「西国立志編」もしくは「自助論」をお読みになってみるのはいかがでしょうか。「幼児期記憶」に逆らうことになるかもしれませんが、まだ若いのですっきりとその考え方に同意できると思います。注7) 
 さらには幼児を子に持つ現役世代の親は、自分の幼児におかしな「幼児期記憶」を残さないように「幼稚園では遅すぎる」などもお読みになるのもよさそうです。注4)

参考文献
注1) 平成30年版情報通信白書 P162
注2)朝日新聞2018年10月13日夕刊によれば、「情報2900万人分盗難_氏名、携帯番号、婚姻有無も」に変更された。また日経 Internationalでも米SNS社は2018年10月12日、サイバー攻撃により個人情報が流出した恐れがある問題で、対象 ユーザーを最大5000万人から3000万人に修正した。http://mx4.nikkei.com/?4_--_111976_-- _1632470_--_3(2018年10月13日 アクセス)となっている
注3) 平成30年版情報通信白書 p157
注4) 井深 大、「幼稚園では遅すぎる 新装版」、サンマーク出版2003 この本では、子供を持つ母親に子供に対する教育方法を述べています。その中に子供は意識もない頃から親の行動から何かを学んでいると言っています。(幼児期記憶)
注5) 「子供の頃の記憶はあてにならない」https: //natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/8504/8 (20181004 アクセス) 過去の出来事を詳細かつ正確に思い出そうとしても、人の記憶が当てにならないケースは無数に存在する。実際、自らが関わった経験の中核部分で さえ、人は誤って記憶する。ハウ氏によると記憶の意義は、細部を正確に思い出すためではなく、体験から有用な意味を引き出す点にあるという。そのように活用できる人こそ、自ら築い た世界観を通じて現況を見極め、未来を思い描くことができるのだ。
注6)の目標に向けて 組織を管理し目標を達成する人です。ここで「リーダー」は自助のビジョンを定め、関係者を動機づけ、自助に向かわせる人という意味で使っています。
注7)下記のような翻訳本 S.スマイルズ著・竹内宏訳、「自助論」,知的生き方文庫、三笠書房、2002 S.スマイルズ・中村正直訳,「現代語訳 西国立志編」,PHP新書、2013 S.スマイルズ・久保美代子訳,「新・完訳 自助論」,アチーブメント株式会社、2016

2018/10/17
文責 瀬領 浩一