今回も社長として社員に向けたメッセージの中から皆さんにも役に立ちそうなものをピックアップしてお送りします。
<渋沢栄一像の前で>
新しい1万円札の顔が渋沢栄一に決まったというニュースを聞き、久しぶりに東京・大手町の常盤橋公園にある渋沢栄一の像を見てきました。
日本で最も多くの新規事業を起こした人といえば渋沢栄一をおいて他にはいないでしょう。
日本初の銀行や証券取引所などの近代経済システムの基礎づくりから、鉄道(秩父鉄道など)、ガス(東京ガス)、製紙(王子製紙)、紡績(東洋紡)、造船(石川島)、セメント(浅野)、火災保険(東京海上)、ホテル(帝国ホテル)、化学(日産化工)からビール製造(サッポロなど)と多岐にわたる分野で初の企業を起こし、さらには商業教育(一橋大)や女子教育(日本女子大)などの人材育成機関を起こし、その数は500以上といわれます。
新規事業を起こすというのはいつの時代も苦しいものです。それはスーパー起業家、渋沢栄一にとっても同じでした。しかもどれ一つとってもそれ以前の日本には存在しないものばかりですから、立上げから失敗の連続で、軌道に乗せるまでの苦労は筆舌を尽くすものだったといいます。
製紙会社立上げでは、英国から輸入した高価な製紙機械からまともな紙が出てくるまでに3年を要し、やっと機械が稼動しても一向に需要がない年月が続き、ガス事業では事業開始から5年でわずか56戸、10年経っても345戸の利用者しかいなかったといいます。化学肥料会社に至っては3年余でようやく事業の芽が出てきたところで工場が全焼し、多くの株主から解散動議が上がり存亡の危機に瀕します。
その時、渋沢は「国家のために必要であり、将来必ず有望な事業となる。私一人で諸君の株式全部を引き受け、借金をしてでもこの事業を必ずや成し遂げる決心である。」と一同を奮い立たせました。
なぜ渋沢栄一はこれほど強い意志を持ち続けることができたのでしょうか。
私のその答えは、"状況を転ずる原動力は他人や周囲にあるのではなく、常に自分の中にある"という "転原自在(てんげんじざい)"の精神にあると思います。
目の前の渋沢栄一の像が私たちのチャレンジを微笑みながら見てくれているようです。
<手段と目的を取り違えていないか>
「会社が生まれ変わる『全体最適』マネジメント」(石原正博著、日本経済新聞)という本を薦められて読んでいます。
中期経営計画を立て、業務改善活動を進めているつもりでも一向に成果が出ない会社のケースが列挙されているのですが、身に覚えのあることも多く、反省することしきりです。
解決のポイントは「一体誰のために、何のためにやるのか」という『全体としての目的の浸透』と著者は教えています。そして組織が陥りがちな「手段の目的化」を戒めています。
昨日この本を電車で読みながら、異業種勉強会の会場であるA市の公共施設に行きました。
玄関ホールから伸びるメイン階段を写した写真がこれです。
何ともおかしな造りだと思いませんか?
厚い仕切り壁を挟んで、2つの立派な階段が並んでいるのです。1つは2階まで、もう1つは中2階まで伸びています。
写真では見えませんが、この両脇には2式のエレベーターがあります。3階建てのビルに2式のエレベータも贅沢ですが、そのうち1式は3階には止まらないのです。
さらに2台設置された自動販売機のジュースの値段は違っていました。
同じビルの中に、まるでいがみ合うように2つの階段、2つのエレベーター、2つの自販機が微妙な違いを主張(?)していました。
このように誰が考えてもバカバカしいことが起こっている理由は、この建物が、「A市男女共同参画センター」と「A市芸術文化振興財団」という2つの組織の『複合施設』であるところにあるようです。
A市民のために、同じA市民が払った税金を有効活用する、という「本当の目的」を忘れ、狭い自担当の予算消化と団体対応(男女共同参画と芸術文化振興)という「手段の目的化」の結果、このようなおかしな建物を生み出してしまったのです。その結果、私のように初めて訪れた利用者に呆れられるだけでなく、共通設備にするだけで圧縮できたはずの膨大なコスト(市民の税金)を無駄使いすることになっているのです。
私たちも笑ってばかりいられません。同じ過ちを犯している可能性があるからです。
そうならないために、私自身が「手段」の先にある「本当の目的」を皆さん一人ひとりに伝え浸透させていくことが大切だと改めて思っています。
<もう一歩強く生きるための心の在り方>
問題を解決する方法は2つあります。
一つは問題を解決する方法を探す、というそのまんまの方法です。
もう一つは、自分の器の方を大きくして問題を問題でなくしてしまう、という方法です。
自分の心の有り方が強ければ、多くの問題が問題ではなくなるのです。
以下に自分の心の有り方をどう変えたらもっと強い人間になれるかのヒントを挙げてみます。長年多くの師から学んだ生き方のコツを私なりにまとめたものです。
(1) 考え方を前向きにする。
人生で起こることにはすべて「意味」がある、と考えることです。
良いことも悪いことも、成功も挫折も、うれしいことも悲しいことも、すべてそれらが起こる「意味」があって、自分を成長させるために最高のタイミングで与えられたもの、と考えることであなたは一歩強くなることができます。
それが「試練」であった場合でも、「その人が乗り越えられない『試練』は与えられない」と考えることです。試練は、いつも「必要な大きさで必要な時期に起きるものだ」と考えると、普通に真面目に対応すれば必ず乗り越えることができるのです。
したがって試練から逃げようと思ったり、慌てふためく必要などありません。試練に正面から向き合って、泰然と構えて手順に従って淡々と対応すればよいのです。なにしろ程よい大きさでしか現れないのですから。気がついたら消えてなくなっているかもしれません。その時にはあなたの強さ(器)が知らず知らず大きくなって、試練が試練でなくなったのです。
(2) 機嫌を良くする。
とにかく人と会うときに機嫌を良くすることです。朝の挨拶は満面の笑顔ではっきり言います。久しぶりの人と会った時には、満面の笑顔で手を広げて迎えます。部下が自分のデスクに近づいてきた時も、手元の仕事の手を止めて、「あなたが来るのをずっと待っていたよ」とばかりに最高の笑顔で「どうしたの?」と出迎えます。人間ですから好き嫌いもあるでしょうが、相手に関わらず、無理やりでも同じ笑顔で出迎えることが大事です。
これだけであなたはグッと強い人間になれるのです。
(3) 心を成熟させる
自分のことばかり考えている人は強くなれません。自分の立場やプライドや損得勘定といった「自分の枠」に縛られると自由になることができません。逆に相手のことを考えると、結果として自分が自由になり幸せになることができます。「自分の枠」を打ち破るには、他人の多様な意見を受け入れることで、新たな価値観を認めることが大切です。
社内のMVP表彰の時にお話ししましたが、「感謝の気持ち」と「祝福の心」を持つように努力することも大事です。
他の人が褒められると、「自分はダメ」だと評価された、ととる人がいます。いるどころか、ほとんどの人にとって人の幸せを心から祝福するのはなかなかできないことです。そこには努力が必要になります。人を祝福できる間は、自分は成長できるのです。
最後に、上に掲げた心を持つ強い人になるための基本は、「肉体的に『元気』であること」だということを付け加えておきます。
「元気」でさえいれば何とかなる、ということです。
<長期目標が必要なワケ>
世の中の変化のスピードは年々増しています。
米中貿易戦争やEU離脱問題に見える自国主義の台頭などの国際問題、大いなる期待と雇用を奪う懸念が交錯するAI技術の進展などなど。
こんな一寸先も読めないような時代に、どうせ外れるに決まっている5年、10年先の計画を立てる意味などあるのだろうか、という疑問をもつかもしれません。
しかし、こういう時代だからこそ長期の目標設定をすることにはとても大きな意味がある、と私は思います。
その第一の理由は、長期計画は、「今何をすべきか」を決定するために必要だからです。
5年後に高級外車を買おうと思ったら、今日から毎晩飲みに行くのをやめてせっせと貯金を始めなくてはなりません。3年後に資格を取ろうと思ったら、今日本屋で問題集を買いに行き、受験専門学校のパンフレットをもらわなくてはなりません。5年後に外国への移住を計画したら、今日から語学を勉強しなくてはなりません。
同じように会社も「5年で売り上げを2倍にする」という長期目標を立てた途端に「今の延長線では、5年で2倍など行くわけがない。」ということに気づきます。そして昨日までの頭を切り替えて、「どのようなやり方に変えるか」、「どのような新事業を始めるか」と今日から考え始めて、先ずは今日プロジェクトメンバー候補をノートに書き始めます。
確かに、長期計画が「今やるべきこと」を決定しています。
第二の理由は、長期目標はその通りいかないから役に立たないのではなく、その通りいかないからこそ役に立つからです。これは経営コンサルの権威、今は亡き一倉定先生の言葉です。
目標と実績の差は、市場などの客観情勢のわが社に及ぼす影響を量的に知らせてくれます。言い方を換えると、自分たちが客観情勢をどれだけ見そこなっていたか、の度合いを教えてくれているのです。その見込み違いに気がついて初めて、それを修正する次の舵取りができるのです。
長期目標はその通りいかないから役に立たないのではなく、その通りいかないからこそ役に立つ、とはそのような意味なのです。
客観情勢が刻々と変化していることを考えると、長期計画は毎年修正するのが正しいあり方です。
5年後に2倍の安定した商売ができるようになるために、今日から私たちは変わらなくてはなりません。
<トヨタの5W1Hとは>
5W1Hとは「いつ(when)・どこで(where)・だれが(who)・なにを(what)・なぜ(why)・どうやって(how)」という意味ですが、トヨタの5W1Hは「なぜ(why)・なぜ(why)・なぜ(why)・なぜ(why)・なぜ(why)・どうやって(how)」を意味します。
つまりトヨタでは「なぜ(why)」を5回繰り返すことによって、表面的な原因ではなく、真の原因(真因)に迫ることができると考えているのです。
トヨタ生産方式を生み出した故・大野耐一氏は、第二次世界大戦直後に、トヨタの創業者・豊田喜一郎に「3年でアメリカに追いつけ」という妄言としか思えない指示を受けます。当時既に自動車大国だったアメリカに比べ、日本の生産性は1/9といったレベルでした。「体力が違う」「食べ物が違う」「機械化の度合いが違う」といったできない理由を誰も挙げる中、大野氏は「体力が違うといってもアメリカ人が日本人の何倍も働くわけがない。それより日本人がアメリカ人の何倍もムダなことをやっているのではないか」と考えたのです。
そしてできない理由を「なぜ」「なぜ」と一つずつ問いかけて、誰もが不可能だと考える目標を可能にしていったのです。
「そんなの無理に決まっている」からこそ挑戦し、たとえ時間がかかっても可能にする仕組みづくりがトヨタ式5W1Hなのです。
例えば、トヨタの工場ではかつて1000トンの金型の段取り換えに3時間近くを要していました。その間は一切の生産ができません。「注文に合わせて生産する多品種混合生産」というトヨタの方針から段取換え回数を減らし、同一車種を大量に作り溜めすることは許されません。
大野氏は「なぜ段取り換えに何時間も必要なのか」を問いました。そこで段取り換えの動作を分析したところ、機械を止めなくてはできない「内段取り」と機械の稼働中にあらかじめできる「外段取り」の2種類があることを見出します。次に大野氏は「なぜこの作業は内段取りでなくてはいけないのか」を問い詰めます。するとかなりの作業が「内段取り」から「外段取り」に追い出せることが分かり、それにより段取り換え時間を大幅に短縮できることが分かりました。
こうして段取替え時間を1時間に短縮できたとき、大野氏は、今度は「3分間に短縮してくれ」という要求を出すのです。そのときトヨタマンはもう「そんなの無理に決まっている」とは考えなくなっていました。「きっとできる」と考えられるように変わっていたのです。そこでまた「なぜ」「なぜ」を繰り返した結果、一切ボルト締めをなくす「ボルトレス」や秒単位で取り換えが可能な「ワンタッチ段取り」といった革新的な方法を生み出し、3分間の段取り替えを実現し、さらに短縮する改善が今も続けられているのです。
こうして3時間が3分以内に縮まったのです。不可能が可能になったのです。
「人は困らなければ知恵は出ない」といいます。
今回皆さんには痛みを伴う組織のスリム化の協力をお願いすることになりました。社長として大変に申し訳ないと思っています。しかし会社の存続と皆さんにご説明した10年後のビジョンの実現のためには、何としても少ない人数で目的を達成できる筋肉質の会社に変わっていかなくてはなりません。
少ない人数で今まで以上の成果を上げていくためには、同じやり方ではできません。今の仕事のやり方に「なぜそうやっているのか」「なぜその手順を省略できないのか」といった「なぜ」「なぜ」で今のやり方を問い詰めていくことで、従来よりも楽に、お客様への仕事の品質は落とさずに、少ない人数のメンバーが「一人3役」によって協力し合える新たな仕事のやり方を創り出していく機会にして頂きたいと思っています。
<究極の営業力とは>
前職(NTT)で通信機器事業に関わっていたころ、年に2度、全国の粗利3000万円以上あげた50人ほどの販売担当者を東京のホテルに呼んで表彰するイベントがありました。その顔ぶれを見ると常連が中心で新顔がパラパラでした。
その中でも毎回ベスト3に入っていたのが石川・七尾営業所の50台の女性販売員のAさんです。どう考えても全国一の需要があると思えない七尾エリアで、しかもAさんだけが圧倒的な販売実績を上げ続けたのはなぜか。一度、ご本人に質問したことがあります。
彼女は、「なーん、分らんがや。なんでやろね。」とニコニコするばかり。
謙遜というより本当に分からないという風でした。
ただAさんは、用事があろうがなかろうが、毎日お得意さん企業に出かけて、挨拶しながら会社の中をぐるっと一回りしているとのことでした。すると何人かから「ちょうどいい所にきた。」「Aさん、コレ、頼んわ」と、まるでクリーニング屋さんに洗濯物を出すような調子でドンドン仕事が追いかけてくるらしいのです。
この夢のような理想的「御用聞き営業」を可能にしたのは、直接的には彼女の日々の行動ですが、誰でも毎日御用聞きに行きさえすれば同じ成果を上げるというわけではないのです。
Aさんの成功の真の秘訣は、当社の行動指針第1条にあると思います。
「私たちは、人と人とのふれあいと絆を大切にして、自己の人間力を高めます。」
人と人とのふれあいと絆を大切にすることで高まったAさんの「人間力」がお客様に安心感と信頼感を与え、地理的な不利などモノともせず、本人も自覚のないまま、全国のトップ営業ウーマンであり続けた秘密だと思います。
「ちょうど良い所に来た」あるいは「困ったときにはまずAさんの顔を思い浮かべる」。
営業マン/ウーマンにとって、これ以上の賛辞はありません。
これは営業分野には限りません。あらゆる部門の人にとって、出くわした相手から「ちょうど良い所に来た」と言われ、誰かに「困ったときにはまずAさんの顔を思い浮かべる」と言われる存在に、お互いなりたいものです。
<ラグビーの精神>
昨日、ラグビーW杯1次リーグで日本がサモアに勝ち、3戦3勝になりました。いつの間に日本がそんなに強くなったのか驚くとともに、日本中を突然覆い尽くしたラグビー熱の盛り上がりにも驚かされます。にわかラグビーファンが急増中の様相です。
ルールや専門用語が皆目分からない私も、試合終了後に勝者、敗者を越えて両チームの選手が握手し、ハグし合う光景に、他のスポーツにはない新鮮さと感激を覚えました。
試合終了とともにどちらのチームにもボールの所有権はない、という意味の「ノーサイド」という言葉(世界では使わなくなったそうですが)は、ラグビー発祥の地英国の「紳士たれ」という言葉と同化して、試合後の勝敗を忘れて双方をたたえ合う行動になっていると聞きます。
「ワンフォーオール、オールフォーワン」(一人はみんなのために、みんなは一人のために)というのもラグビーでよく使われる、とても意味深い名フレーズですね。
これはスポーツだけでなく、組織と組織を構成する一人ひとりの社員の間の関係性としても、ありたい姿です。一人一人の社員は、他のメンバーやチーム、ひいては会社全体のために貢献し、会社全体やチームの皆は、一人の社員の悩みに耳を傾け、解決するように全員でカバーし合う、そんな個人と組織の関係をめざしていきたいところです。
テレビの初心者向け解説で知ったのですが、ラグビーでは15人のポジションとその役割が明確に決まっています。フォワード8人はスクラムを組み、猛烈な突進をするための屈強な選手を配置し、バックス7人は広い範囲を走り回ることができる細身で俊足の選手を配置します。勝利というゴールのために最適な役割分担をする組織設計がなされているのです。
これもまた、会社で、個々人の適性やスキルに応じた役割分担を決める配置と同じですね。
それだけ役割分担が詳細に決められていたら、フォワードが攻める人、バックスが守る人だと決まっていると思っていたのですが、どうやらそれは大きな間違いのようです。
セットプレイ(スクラムやラインアウト)のときは各自の役割がありますが、一度プレーが始まれば全員がフィールドプレイヤーであり、全員がアタックもディフェンスもするのです。そこがアメフトと違うところだそうですが、これまた我々のありたい組織の姿と同じです。
ラグビーの精神は私たちに多くのことを教えてくれそうです。
2020/02/02
文責 米川 達也