今回も社長として社員に向けたメッセージの中から皆さんにも役に立ちそうなものをピックアップしてお送りします。
<2030年の日本の姿>
日本経済は長く「ゆでガエル」状態にあるといわれています。カエルは熱いお湯に入れると驚いて飛び出します。しかし、ゆっくりと温度が上がる状態だと、動かずにじっとしたままゆで上がってしまう、という良く知られたたとえ話です。
鈴木貴博著「日本経済 予言の書」(PHPビジネス新書)というとても刺激的な本を読みました。この本は、著者によると、「10年後の熱いお湯」を描いたレポートです。日本の暗い未来の「予言」を読者に突きつけることで、カエルがゆで上がる前にお湯から飛び出すように行動変化させようという新書本です。
『熱いお湯』を列挙すると、以下のような恐ろしい話の連続になります。
・日本は、世界の先進国の中で、最もコロナショック後の経済の立ち直りが遅くなる。
・自動車産業が衰退し、日本を代表する企業であるトヨタが衰退する。
・アマゾンのようなインターネット通販により多くの小売業が衰退する。
・コロナがきっかけの業務の効率化とAIの進展によりホワイトカラーの仕事が消滅する。
・少子高齢化が進み、地方だけでなく大都市圏も過疎化が進行する。労働力は外国人と非正規労働者に頼る社会となり、70代になった高齢者がまだ働かないといけない社会になる。
・地球温暖化で豪雨災害や熱波などの異常気象が繰り返し起こり生態系の変化で農作物が大きく影響を受ける。
・コロナのような未知の伝染病が世界中に蔓延する恐れがある。
・政府財源が縮小し、社会保障やセフティーネットが縮小する不安な社会になる。
・政治はポピュリズム(人気主義)が台頭し、政治に期待できなくなり、2030年の日本は享楽と退廃が社会を覆い尽くす。
このように厳しい未来が、私たちの目の前に待ち受けてるというのです。聞きたくもない予言だからこそ、よく聞いて、そのメカニズムを理解して、何らかのその兆しに敏感になり、自己防衛のための準備をしなくてはならないのです。「ゆでガエル」にならないための意志と行動をとらなくてはならないのです。
そしてこの未来は、悲惨なことばかりではありません。上に掲げたマイナスの変化の中に、将来の光明となるようなポジティブな変化も点在すると思うのです。
その代表が、今私たちが取り組んでいるテレワークです。突然始めざるを得なくなったWeb会議システムもそれはそれでアリだと気づきました。移動前後の時間が節約でき、満員の通勤電車に耐える必要もなくなり、移動に伴う温室効果ガスの削減になり、高齢者や要介護者のコミュニケーションや社会参加を容易にする効果も期待できます。
100年に一度の人類の転換点をしっかり意識して、未来に進んでいきたいものです。
<白山はSDGs企業をめざします>
2020年8月4日、私たち株式会社白山は、SDGs企業をめざすことを宣言しました。
既に研修でお話しがあったとおり、SDGsとは、2015年の国連総会で採択された文書の中に掲げられている「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)」のことです。そこには貧困や飢餓の撲滅、環境保護など17の目標とそれに付随する169のターゲットが盛り込まれています。
「大事なことは分かったけど、これをやったからって儲かるの?」という疑問や、「この忙しい時に何をやらせようっていうんだよ」という不満をお持ちの方に、ひとつの企業の実例をお伝えします。そこには誰もが息をのむような素晴らしいストーリーがあります。SDGsとは本業であること、環境とビジネスと人間の幸せを実現するものだということが分かっていただけると思います。
その会社はアメリカにある「インターフェイス」というカーペットタイルの世界トップメーカーです。ストーリーは1994年に創業者のレイ・アンダーソンがある本を読んでショックを受けるところから始まります。その本はレイにむかって「お前は地球を略奪している」と告発している内容だったのです。「お前のビジネスは『採る→作る→捨てる』という一方向。多くの人間の労力を使って、資源を枯渇させ、ゴミの堆積をしているだけだ。」と糾弾され、レイは頭を抱えて悩みます。そして、ついに、樹脂製カーペットの製造に、「新たな一滴の石油も使わない」という信じられない決断をするのです。
アジアや南太平洋の海洋に廃棄された膨大な漁網を、安全や海洋汚染防止のために、地元の貧しい村の大人や子供が回収していることを知ったレイは、廃漁網からナイロン糸を再生する技術をパートナー企業と開発します。そして村人が回収した廃漁網を、従来の材料仕入れ値なみの高額で買い上げることにします。その結果、不漁のときでも村には新たな現金収入が入り、子供の教育や学校建設の費用にまでお金が回るようになっていきます。
一滴の石油の採掘も必要とせずに、年間の温暖化ガス排出を82%も削減できたインターフェイスは、その再生技術で一躍その名を知られるようになり、営業利益も2倍になっていきます。業界トップメーカーになるのに時間はかかりませんでした。
様々な色の廃漁網を材料としたカーペットタイルは、モザイク状の複雑な色合いとなり、他社製品が真似できない魅力的な外観が人気を博していきます。
「100%再生材使用」や「海洋保護をするサステナブル企業」としての存在は、世界中の環境保護に敏感な民間企業や一流ホテル、多くの国の政府から受け入れられ、インターフェイスのカーペットを使うことが、その企業や国の政府の意識の高さを表わす象徴にまでなっていきました。
レイは2011年に亡くなりましたが、彼の遺志は今も引き継がれています。これこそまさに「持続可能(Sustainable)」なストーリーということができるでしょう。
<優れたビジネスモデル>
先週のテレビ番組「カンブリア宮殿」で、コスモスベリーズというすごい会社を紹介していました。
コスモスベリーズは、大型家電量販店の台頭により存亡の危機にあった"昔ながらの街の電器店"の店主であった創業者の三浦さんが、こともあろうに、自分たちを苦しめた当事者である家電量販店最大手のヤマダ電機とタッグを組んで、信じられないビジネスモデルで、多くの地域の小さな電器店の生き残りと復活をサポートする会社です。
コスモスベリーズの会員になった街の電器店は、在庫を持たずに、ヤマダ電機から2割引きの値段で家電製品を仕入れ、自分のお客様に販売することができます。ヤマダのチラシで気に入った家電製品を、ヤマダの店舗にお客様と一緒に見に行き、その場で会員会社が購入すれば、これが仕入になります。スペースのない小さな電器店がヤマダの店舗を自分の店のショールームとして使えるのです。仕入れ価格は、ヤマダ自身の仕入れ価格とほぼ同じ。販売価格はヤマダで買うよりも安価です。しかも「ついでにあれも修理して」といった、昔ながらの近所の電器屋さんの便利さはそのままですから、お年寄りの一人住まいのようなお客様には良いことずくめです。地域になくてはならない電器店が生き残れるのです。
一方、ヤマダにとって何のメリットがないように見える、こんなビジネスモデルがなぜ成立するのか。
そこには「任侠の世界」のような、コスモスベリー創業者三浦さんとヤマダ創業社長の山田さんの間の個人的な信頼関係がありました。そして創業者の「情熱」がありました。
30年以上前、実は三浦さんは松下電器の量販店担当でした。当時のヤマダ電機の過激な値引き攻勢に怒った松下電器はヤマダ電機を取引停止にすることを決定、三浦さんはその通告をする担当でした。長い時間の話し合いを通して山田社長の情熱に感動した三浦さんは、取引停止するどころか、それを回避する方法を一緒に考え、ヤマダ電機を松下電器の取引停止から救います。
その後長い時間を経て、立場変わって街の電器店主となった三浦さんが、日本最大手となったヤマダ電機の山田社長を訪れ、街の小さな電器店の存在の重要性を訴え、協力を要請すると、今度は山田社長が三浦さんの情熱に感動して、儲けを度外視したビジネスモデルに賛同し、コスモスベリーズの、一見ありえないようなビジネスモデルが完成したのです。
良いビジネスモデルというのは、今回のお話のように、必ず「長く感動的なストーリー」と「情熱」がセットになっているのです。
<真のニッチ企業とは>
6月末に、当社は「2020年版経済産業省グローバルニッチトップ企業100選」に採択されました。この賞は世界市場のニッチ分野で勝ち抜いている企業100社を経済産業省が選定し、贈られるものです。当社の光事業(MTフェルール)の急激な成長と世界第2位のシェアという実績が認められたのであり、この栄誉を、ここまで努力をし続けた社員の皆さんや、お客様、パートナー企業の皆さんと分かち合いたいと思います。
「ニッチ」とは単に「すき間」という意味ではありません。「真のニッチ」とは「他者と競争しない」、「自分だけの場所、生き方がある」ということを意味します。
生物学的にも、例えばアゲハチョウはミカン類かサンショウの葉しか、キアゲハはパセリか人参の葉しか、ジャコウアゲハはウマノスズクサという葉っぱしか食べず、他の葉物をあげてもそれを食べずに死を選択するそうです。つまり生物は頑ななまでに自らを限定し、無益な争いを避けることで生存し続けているのです。これを「ニッチ」といいます。
この定義にあった「真のニッチ企業」は他者と競争しませんから、値下げ合戦のために利幅を下げる必要はありません。したがって「ニッチ企業は利益率が高い」のです。
製造業の営業利益率は平均4%です。当社の最近の月単位の営業利益率は20%前後ですから、驚くほど高いのですが、これは高付加価値のSMフェルールにシフトする作戦が功を奏し、値下げ競争に巻き込まれることが少なくなってきたことの表れです。しかしこれを維持し続けることは簡単ではありません。我々と同じ部品製造分野の「ニッチ企業」の王者、村田製作所に学ぶことにしましょう。
「村田はニッチではない、大手でしょう。」という声が聞こえてきそうですが、部品企業として初めて2000億円の営業利益を上げた村田製作所は、典型的な技術ニッチ企業です。70年の歴史の中で、一切、土地投資、金融投資、多角化などせずに、ただひたすらセラミックを究めて行く中で、誘電率が従来品の1000倍のチタン酸バリウムと出会ったことをきっかけに、それを活用した「誘電セラミックス」や「圧電セラミックス」を幹として、その派生から出す製品のほとんどが世界1位となっていくのです。技術の差別化によって「他者と競争しない」、「自分だけの場所、生き方」を見出したことで、村田製作所は、部品メーカ初の2000億円の営業利益と20%の営業利益率を実現し、世界に誇る「ニッチ企業」となっていくのです。
「ニッチ」は技術の差別化ばかりではありません。顧客ニーズを逃さないユニークな「営業ニッチ」で営業利益50%のキーエンスや、技術での差別化を諦め「標準品のカタログ販売」による「デリバリー・ニッチ」で営業利益20%の北陸の電源メーカー、コーセルなどもりっぱな「ニッチ企業」です。
白山をどのような「ニッチ企業」に仕立てていくか。皆さんの知恵と行動次第です!
<人に教える喜び>
人に物事を教えるというのは楽しいことです。教えるためには改めて勉強しなくてはなりませんから、自分自身も成長することができます。当たり前のようにできる人こそ、教えることはいい勉強になります。なぜならそのような人にとっては、できないことが理解できないので、自分がなぜできるのかを改めて整理し、組み立て直してそれを相手に伝えなくてはならないからです。そのプロセスで新たな発見がたくさんあるのも楽しいものです。
先日私は、いつの間にかできるようになった「パワーポイント」を教えるオンラインセミナーの講師を担当してみて、このことを実感しました。「初めてパワポで資料が作れた」という受講者の皆さんからのメッセージをたくさん頂き、「やはり教えるのは楽しいな。」と思いました。
「冗談じゃない!」という反論が、多くの皆さんから聞こえてきそうです。
「自分の仕事のペース」ができてるプロの人にとっては、転入してきた新人にゼロから教えることは大きな負担であり、なかなか上達しない新人にイライラするだけでなく、自分の仕事のペースが乱されて仕事が遅れるし、たまったものでない-。多忙を極める今、これが本音の人も多いかもしれません。
でも、考えてみてください。ここで新人に1日でも早く自分の分身になるくらいスキルを身につけてもらえれば、あなた自身が新人と仕事をシェアすることでトータルの生産性は上がり、ぐっと楽になり余裕をもって他の仕事も進められるようになるはずです。
とはいえ、教育というのは、習う側の「考え方」、「熱意」、「能力」に依存するのも事実です。能力はさておき、やはりいかに「熱意」に火をつけるか、が教える側にとってとても大切な要素です。今も昔も、多くの指導者が悩んできたのはこの点です。
連合艦隊司令長官だった山本五十六は、この解として、「やってみせ 言って聞かせて させてみて 誉めてやらねば 人は動かじ」という、具体的な教育の手順を言い残しています。「誉めてやる」が「熱意に火をつける」ポイントです。
私が長年個人的に支援している「コンピューターおばあちゃんの会」では、初めてパソコンを触るおばあちゃんのために、事前にインタビューした「今一番見たい景色」を簡単に見られるようにスタッフが入念に準備して、パソコンのすばらしさを先ず体験させることで「熱意に火をつけ」ています。会長の大川加世子さん(90)が「コロッケの方法」と名づけたパソコン教育法です。美味しいコロッケを先ず食べさせてしまい、作り方に興味を持たせるところからつけた呼び名です。
今のあなたがあるのも、かつて、何もできないあなたに対して、忙しい先輩たちが時間を割いて、「何とか熱意に火をつけたい」と必死で教えてくれたおかげです。今こそその恩返しをするときです。
2020/12/15
文責 米川 達也