今回も社長として社員に向けたメッセージの中から皆さんにも役に立ちそうなものをピックアップしてお送りします。
<鏡と窓>
私の愛読書の一つである「ビジョナリーカンパニー2 飛躍の法則」(ジム・コリンズ著)の中に、飛躍的に企業を成長させたリーダーの特徴として、「鏡と窓」と名付けた思考様式が紹介されています。
それは、「成功を収めたときは窓の外を見て、成功をもたらした要因を見つけ出す。結果が悪かったときは鏡を見て、自分に責任があると考える」という思考です。
それに対して衰退していく企業のリーダーはちょうど逆の思考様式をもっているとも書いています。「結果が悪かった場合は窓の外を見て、だれかに、何かに責任を押しつけるが、成功を収めたときは鏡の前に立って、自分の功績だと胸を張る。」というのです。
成功を収めたリーダーが見る窓の外には、他の人や、外部要因、そして必ずと言っていいくらい「幸運」がいます。優れた企業のトップの多くが成功の秘訣をインタビューで問われると、「幸運だったから。」と答えているのは、ケムに巻くためでなく、本当にそう思っているからなのです。優れた従業員に恵まれた幸運、良い商品・良い顧客と出会えた幸運、たまたま好景気が巡ってきた幸運。それらの幸運に対して感謝する気持ちを持つことが優れたリーダーの共通点だといいます。
ダメなリーダーが見る窓の外にも、他の人や外部要因がいますが、目に入るのは自分の成功を阻害した部下や顧客、あるいは不景気といった邪悪な存在が居並ぶ景色であり、そういう状況におかれた自分は「不運」だったと考えます。そして、窓の外を見る目は怨みの気持ちが溢れています。そんなリーダーには誰もついて行きません。
コロナ禍の今、そのリーダーの資質が問われています。企業の不調を全てコロナのせいにして、「不運」を嘆くリーダーを責めることは酷かもしれません。しかし、この環境の中でも、このピンチを何とかチャンスに変えることができないかと必死に考えて、努力している経営者やリーダーもいます。
顧客動員数が対前年9割減の観光業界でも、近場の観光(マイクロツーリズム)の軸足を変え、グループ施設のある各地で小ぶりのねぶた祭りを再現して職人の確保にまで貢献することに決めた星野リゾートの星野社長や、オンライン海外旅行や温泉や地熱を利用した農業ビジネス、ロボット、AIなどの新規事業で未来のビジネス群を今すぐ立ち上げることにしたエイチ・アイ・エスの澤田会長などがテレビで紹介されています。
当社は「幸運なことに」、コロナ禍の巣ごもり生活やテレワーク、リモート授業によって、需要が急増し、売上・利益が上がっています。今の私たちが注意すべきことは、この好調を自分だけの力だと勘違いして、鏡の前で胸を張っていてはダメだということです。窓の外を見て成功の要因を見つけ、謙虚にそれを維持向上するにはどうしたら良いか考えなくてなりません。そして今の幸運を呼んだ人や外部要因に感謝する気持ちを忘れてはなりません。
<ストックデールの逆説>
先週に続き、「ビジョナリー・カンパニー2 飛躍の法則」(ジム・コリンズ著)に書かれているお話しをご紹介します。
ジム・コリンズは、偉大な企業に共通する成功の因子に、「どんな困難にぶつかっても、最後には必ず勝つという確信をもつこと」を挙げています。世界的なコンサルタントの言葉にしては、情緒的で、誰でも言いそうな、ありふれた言葉に聞こえます。しかし、この言葉は、「自分が置かれている現実の中で最も厳しい事実を直視する姿勢」が前提になっています。単なる楽観主義の勧めではないのです。
彼がこの成功因子に確信をもったのは、ある人物との会話がきっかけでした。
ストックデール将軍は、ベトナム戦争で8年間捕虜であった、当時最高位のアメリカ軍人です。収容所に放り込まれ、20回以上の拷問を受け、暗黒の闇のように先が全く見えない中、ストックデール将軍はどのように苦境に対処したのか。ジム・コリンズは生きた伝説のようなストックデール本人にこの質問をぶつけます。のちに米国海軍史上初めて名誉勲章を受けた英雄になるストックデールはこう答えます。
「私は結末について確信を失うことはなかった。ここから出られるだけでなく、最後には必ず勝利を収めて、この経験を人生の決定的な出来事にし、あれほど貴重な体験はなかったと言えるようにすると。」
続いてジム・コリンズは「では、耐えられなかったのは何ですか」と質問します。
ストックデールは、「それは楽観主義者だ」と答えます。
ジム・コリンズの頭は混乱します。(何を言っているのだ。あなた自身が一番の楽観主義者じゃないか)
「そう、楽観主義者だ。クリスマスまでには出られると考える人たちだ。クリスマスが近づき、終わる。そうすると復活祭までには出られると考える。そして復活祭が近づき、終わる。次は感謝祭、そしてつぎはまたクリスマス。失望が重なって死んでいく。」
それを聞いて、ジム・コリンズは、この「ストックデールの逆説」の真意を理解します。
「最後には必ず勝つという確信、これを失ってはいけない。」
「しかし同時に、それがどんなものであれ、自分がおかれている現実の中で最も厳しい事実を直視しなければならない。クリスマスまでに出られるなんてことはないのだ。」
ひるがえって私たちが楽観的になるときは、乗り越えるべき困難な現実に目を背けて、真正面からその困難に向き合うことを避けていることが多いように思えます。
もう一度ストックデールの逆説を繰り返しておきます。
「最後には必ず勝つ。そして同時に最も厳しい現実を直視する。」
覚えておきたい姿勢です。
<逆境を力に>
先日お送りした「言志四録」の言葉です。
『順境は春のごとし。逆境は冬のごとし。春はもと(より)楽しむべし。冬もまた悪しからず。』(言志後録 第86条)
先週、皆さんに「白山の過去、現在、未来」のお話をする時間を頂きました。話しながら、破綻の淵に立たされた6年前のことを昨日のことのように鮮明に思い出しました。
長年大企業でノホホンとしていた私が、白山製作所に入社して、会社からお金が無くなるという事態を初めて体験したのもこの頃です。通常、会社のお金の出入りは月単位の「資金繰り表」というものをつくり、予実管理をしていきますが、この頃はYさんに「日繰り表」という1日単位でお金の出と入りを記録する表を毎日作ってもらい、このペースでお金が減っていくと、いつ底をつくのかをシミュレーションする毎日でした。家庭の家計簿そのものです。出ていくお金は予定通り確実に出ていきますが、実際に入金されるのは月末が大半でしたので、今月を乗り切ることができるかどうか、一歩間違えるとその途端に破綻する・・。そんな不安で夜も寝られない日々を過ごしたことを思い出しました。
真冬の風雪が吹きすさぶような逆境の中にあって、この時の社員の皆さんの底力にはすさまじいものがありました。大量退職が起こってもおかしくない状況の中で、光事業にかかわる全社員が新たな製造拠点である石川県に異動することに同意し、「会社の事情でお客様に 迷惑はかけられない」と、わずか3カ月という短い準備期間しかない中で、スムーズな製造移行を実現してくれました。あの時、光事業の継続ができていなければ、白山製作所は消滅していたかもしれません。
でも皆さんはやりきってくださいました。皆さんにはそれだけの底力があるということが証明されました。「人間は目標を追い求める動物である」とは古代哲学者アリストテレスの言葉ですが、崖っぷちに立っていた会社を救ったのは社員の皆さん一人ひとりの「目標を追い求める」力だったのです。そしてその原動力は「この会社を残したい」という強い思いだったと思うのです。その気持ちへの感謝を私は片時も忘れたことがありません。同時に、逆境を乗り切った皆さんの経験は現在の皆さん自身をなお一層強くしているのです。
「冬(逆境)もまた悪しからず。」という佐藤一斎の言葉の意味するところをかみしめる毎日です。
<一期一会>
先日、私に経営者としての心得を指南してくださった、ある金型部品メーカ創業社長Mさんのお墓参りに行くことができました。事情があって亡くなってから3年経って初めてお参りをすることができました。
社長になって間もなくから定期的に、Mさんのもとを訪れては教えを乞うてきました。社長としての心構え、組織のあり方、同業トップとのつきあい方、危機に陥ったときの姿勢といったことから、組織のあり方、おカネの使い方、借り方に至るまで、社長として生きる上でのノウハウを余すところなく教えてくださいました。
「一期一会」という言葉があります。千利休の茶道の言葉と言われていますが、一生涯にただ一度しかない出会いだと思って、目の前の人に全身全霊を込めて尽くす、といった意味です。決して見返りを求めずに、「give and take」どころか「give and give」、自分のもてるものを与え続けるのが本当の「一期一会」です。
どうしてMさんは、私を含めた多くの人に、与え続けることができたのでしょうか。
まずMさんには人に与えられるもの、すなわち人間的な魅力、徳、傾聴力、知識、経験などが豊富にあったことがあります。
そして何より、Mさんにとって人に喜びを与えること自体が何よりの喜びだったのではないかと思います。自分のために利する「利己」とは逆の、他人に利する「利他」の心を備えておられたのだと思います。徳川八代将軍吉宗は、飛鳥山などの自分が作らせた花見の名所で自分が桜を楽しむのではなく、桜を楽しむ江戸の庶民の姿を見るのが楽しみだったと言います。人の喜びを最大の喜びとする、という姿は今も昔も優れたリーダーに共通のようです。
もう一人、私が尊敬する、徹底した「利他」の人に、加賀電子の創業会長塚本勲さんがいます。お邪魔するたびに、必ず数人のお知り合いを紹介してくださいます。それも目の前で電話して直接紹介してくださる、という徹底ぶりです。人の困りごとに役に立つことなら何でもやる、という塚本さんの働きぶりが人から人へと伝わり、一代で日本最大級のエレクトロニクス商社を築いた塚本会長は、他人である私にも、人とつながることの大事さや楽しさを教えてくださっているかのようです。塚本会長にご紹介いただけることで、相手の方が警戒することなく最初からお話をすることができ、信頼のネットワークを広げることができます。「おかげさまで助かりました。」というお礼の電話をしたときの「そうですか。それは良かった。」という塚本会長の声はいつも嬉しそうに弾んでいます。
「人の喜びを自分の喜びとする」というのは、仕事のやりがいの本質でもあります。自分の仕事が、誰かの役に立ち、傍(はた)の人を楽にし("はたらく"の語源ともいわれます)、誰かの喜びになる。これが仕事の喜びだということを恩人たちが教えてくれています。
<レジリエンスを高める>
新型コロナの感染が止まりません。
飲食や観光、イベント、あるいは人の移動に関わる交通機関など直接打撃を受ける業界だけでなく、販売が低迷している自動車やオフィス機器などの部品製造メーカなどもまた大きな打撃を受けています。
しかし、このような大打撃を受けている業界の中にも、コロナという突如襲ってきた環境の変化に対して、知恵を絞り、素早くその知恵を行動に移し、見事に起死回生のV字回復をしている企業も数多くあります。
宮崎にあるイベント関連会社、㈱ワンストップは、子供向けエア遊具を貸し出すイベントがすべて取り止めになって間もなく、持ち前のエアコントロール技術を使って、陰圧設定が可能な簡易PCR試験場を作り、各所に貸し出すビジネスを始めました。
㈱ワンストップのように、従来のメインビジネスがすべてストップするという新たな環境変化の中で、自社のもっているリソース、技術、販売チャネルなどを棚卸しして、それらを駆使することで、環境変化と同時に発生した新たなニーズに対して、何ができるか、何をすべきかを考え、素早く「自らを変化させた」企業は生き残っていけるのです。
地球上の生物140万種のうちの7割、100万種が昆虫であるといいます。4億年もの間の地球環境の様々な変化に適合するように、体の形態(ハードウェア)を様々に変えて、種としての生存維持(サステナビリティー)をしてきた結果、100万種にも増えたのです。
ある時期、ある地域では水が枯渇し、灼熱の太陽が当たり続けると、そこでも生存できるように、時間を経るとともに内臓や表皮の構造を変えることで、新しい種が生まれていく。このようにして、4億年の時間をかけて100万種以上の、環境に適合できる昆虫が誕生し、今も存続し続けているのです。
一方、誕生からたかだか200万年しか経っていない人類にとっては、体の形態(ハードウェア)を変化させ、種類を増やすには時間が足りません。そこで、人類は脳を発達させて、知恵(ソフトウェア)によって、道具を生み出し、武器を生み出し、言葉を生み出し、仮想的に自分たちを強くして、環境の急変に対しても集団で自分たちの生存維持(サステナビリティー)を行ってきたのです。
厳しい環境の変化や新たに出現した制約条件に対して、倒れることなく、バネのようにしなやかに元の状態に戻れる強靭性のことを「レジリエンス」といいます。
コロナ禍は、私たち一人ひとり、そしてその集まりである株式会社白山の「レジリエンス」を試す試験場となりました。合格のコツは、とにかく「考えて、行動すること」です。
2020/12/16
文責 米川 達也