16.社長からのメッセージ(12)

16.社長からのメッセージ(12)

今回も社長として社員に向けたメッセージの中から皆さんにも役に立ちそうなものをピックアップしてお送りします。

 

<テレワーク推進を続けます>

 コロナ禍により、私たちの働き方は大きく変わりました。何といっても特筆すべきはテレワークです。
 ここで改めて白山のテレワークに対する考え方を宣言しておきます。
 テレワークを行う第一の、そして当座の目的は、「何としてもコロナから工場を守る」ということです。私たちメーカにとって工場は、人と設備と材料を使って利益の源泉である製品を生み出す極めて重要な場所です。会社の宝です。この工場を何としてもコロナから守るための具体的な方法は、現場作業に従事する社員以外には極力工場への入場を制限することです。どうしてもテレワークができない、現場での作業を行わなくてはならない人が安心して仕事ができる環境をつくり、彼らを感染から守ることが、第一の、そして目下の目的です。
 テレワークを行う二番目の目的は、「新しい働き方の追求」です。これはコロナ後の時代も継続していく長期的な目的です。
 昭和の日本の働き方の起点は敗戦にあります。敗戦により荒廃した日本を立て直すために、当時の政府は製造業を中心に産業の復興を目指しました。人手不足解消のために地方から「集団就職」により都会の労働力として吸い上げた、右も左も分からない大量の若者は、古参社員の仕事を見よう見まねで覚えていきました。このような中で新人の給料が安く、経験とともに給料が上がっていく「年功序列」はごく当たり前であり、先輩からその会社でしか通用しないやり方を習った社員が、同じ会社に長期間勤める「終身雇用」も定着します。当時のアメリカの圧力で始まった労働組合も、日本流に「企業内組合」とすることで、労使一体感の醸成に役立ち、企業は内向きに団結していきます。「年功序列」、「終身雇用」、「企業内組合」は戦後の日本経済急成長の「三種の神器」といわれ、海外の企業を不思議がらせ、かつ恐れさせます。高度成長期には、これぞ「日本的経営」と胸を張っていましたが、過度の成長と共にそのモーレツさが極限まで行き、次第に企業が働き手と公益のために存在することを忘れ、長時間労働やサービス残業が当たり前となり、ついには大気や河川汚染などの公害をまき散らすようになっていったのです。これが「昭和的働き方」の歴史です。
 ポストコロナ時代にはこの「昭和的働き方」は姿を消すでしょう。人事制度も年齢や性別、勤務年数といった努力しても変えられない要素は排除され、設定した目標に対する成果を中心に置いた人事制度改革が広まり、満員電車に長時間押し込められながら都心の会社に集合することを目的化するような勤務形態は意味をなさなくなるでしょう。そして、ICTとクラウドを活用することでロケーションに依存しないテレワークが標準的な働き方になっていくはずです。
 テレワークの長期的なメリットとして、①BCP(事業継続性)、②環境負荷の低減、③生産性の向上、④ワークライフバランス、⑤優秀な社員の確保、⑥スペースコストの削減 などが挙げられています。
 課題となるコミュニケーションも、現在私が皆さんと実施中のオンラインでの1on1ミーティングのように、ロケーションフリーでいつでもどこでも対面相談が可能となります。
 既にTeamsによる取締役会、会議、グループミーティング、チャットなどがいつの間にか日常になってきました。社内SNSやIoT活用による工場の見える化などもスタートしました。まだまだ課題もありますが、未来は必ずこの方向に進むはずです。工場間接業務も知恵と工夫、若干の仕組みづくりでテレワーク化が可能な部分がまだまだあるはずです。
 今後もテレワーク先進企業をめざしていくことを経営方針に加えたいと思います。皆さんのアイデア、知恵と工夫で益々発展させていきたいと考えています。

 

物語をつくろう>

 ピレネー山脈で遭難した登山隊が、たまたま隊員の一人が持っていた地図の切れ端を頼りに「下山のストーリー」を練り上げ無事下山したあとその地図を調べると、それはピレネーではなくアルプスの地図だった、という話をこの欄で紹介したことがあります。「ストーリー(物語)はそれが正しい(地図)かどうかに関係なく、人に生きる望みを与え、人の思いを一つにして、目的をめざし、行動にかりたてる力すら持つ」という例え話です。

 先日ソフトバンクの孫正義会長が、「『桃太郎』の物語に、現代の経営者は学ぶべきだ」と話していました。桃太郎は村の平和を脅かす鬼を退治するために、異なる能力をもつ、イヌ(かむ)、サル(ひっかく)、キジ(つつく)を、きび団子を褒美に家来にし、鬼が島に行き、鬼を退治して財宝を持ち帰ります。孫さんは、日本の経営には「きび団子」がないことを怒っていました。日本ではこれまで「きび団子」という褒美でモチベーションをあげることなく、「滅私奉公(めっしぼうこう)」を要求してきた。清く貧しくメザシを食べる経営者が一番偉い。このような夢や志を奪ってきた日本の企業経営者が日本経済をここまで弱くしてきた、と主張していました。自分は多くの社員の個人の願望、いいクルマに乗りたいとかピアノを買いたいなどという夢をまとめて実現するために、「滅私奉公」主義の古い経営者からどれだけうさん臭いと言われようとも、M&Aやストックオプションなどもどんどん取り入れて美味しい「きび団子」を社員に与えることで社員のモチベーションを上げ、幾多の危機を乗り越えてきた。だから日本を再び強くするためには、今こそ経営者は桃太郎の物語を読み直すべきである。これが孫さんの主張です。

この議論の是非はともかく、「物語」を作り、語ることは企業戦略には欠かせません。

 みなさんがそれぞれ担当している事業に関する物語を作って欲しいと思っています。それもワクワクするような、誰もが聞きたくなるような夢のある物語を、です。さらにそれは楠木健さんの言う、「強く」「太く」「長い」物語でなくてはなりません。

 たとえば「環境エネルギー事業本部」には情通事業、UPS事業、特機事業などがありますが、各事業をどう展開し、発展させていくのか、という魅力ある物語を自分たちで作り上げて自分で語れるようにして欲しいのです。「強く」は「量産すればコストが下がる」といった原因と結果の蓋然性、「太く」は「標準化すれば、部品の内製化と製造の平準化と在庫管理と販売体制のシンプル化ができる」といった一石何鳥ものパスを表わし、「長い」物語は時間軸での拡張性や発展の持続性を表します。

 自分で物語を作ることは、一人称になるということです。「配属されて」、「やらされる」ではなく、「自分の物語をプロデュースするプロデューサーになる」ということです。

 ぜひ、他の誰も作れない、あなたならではの担当事業の物語を作っていただきたいのです。

 (参考:楠木健「ストーリーとしての競争戦略」東洋経済新報社)

 

<働き方の「トランスフォーメーション(変換)」>

 映画「トランスフォーマー」の中で、自動車が突如変身して、超大型のロボットになり戦うシーンがたくさん出てきます。英語でもトランスフォーム(transform)はこのように、元の姿とは似ても似つかない全く異なる姿に変わることがチェンジ(change)と違うところです。最近、デジタルトランスフォーメーション(略してDX。最近までデラックスの略でしたが。)という言葉が使われるようになってきました。デジタル技術を使って、新たな価値を生み出し、産業の効率化、自動化を可能としたり、新たなビジネスモデルを生み出したり、新しいサービスや商品を提供することを言います。さらに、従来の「日本型経営」から脱却し、全く新しい企業の組織、仕組みからなる「コーポレート・トランスフォーメーション(CX)」により日本の会社をつくり変える時が今だ、と主張する人もいます。
 私自身が昨日、驚かされた「トランスフォーメーション」は「働き方」です。「プロボノ」「副業・兼業」などを実行している人と、そういう新しい働き方の人に自社のプロジェクトを支援してもらっている企業と、その間を取り持つコーディネーター企業のオンラインの集いに参加して、「えっ、あの保守大国の石川県がここまで進んでいたの?」とびっくりさせられたのです。ちなみに「プロボノ」とは、「公共善のために」を意味するラテン語「Pro Bono Publico」 を語源とする言葉で、【社会的・公共的な目的のために、職業上のスキルや専門 知識を活かしたボランティア活動】を意味します。
 ある人は、医療機器販売のトップ営業マンでありながら、勤務時間外は、学生と企業インターンシップの仲介をする会社のボランティアをしています。石川県の創業150年以上の老舗が自社のWebマーケティングをプロボノを中心としたプロジェクトで実施しています。
 「なぜカネにもならないことに情熱を燃やして取り組めるのか?」典型的な古い世代の質問を発する私に、一人は「オカネではなく"やりがい"なんです」と答えます。私は(そりゃきみ、本業だってやりがい感じることできるんじゃないの?)と返したくなるのをグッと押さえていると、もう一人は「無料の塾ですよ。会社とは違う分野で多くの事を多くの人から得ることができるんです。」「もっと広く社会や世界の課題に取り組めるもう一人の自分がいるんだという喜びです。」決して本業を軽んじているのではないといいます。
この答えに私は深く納得しました。そういえば、あのドラッカーも50年以上前に「パラレルキャリア」や「NPO」が次の時代の立役者になる、と予測していました。
 今、企業自体が、これまでの本業をさらに深く極める「深化」と同時にもっと幅広く「探索」をして事業分野を展開する「両利きの経営」を求められています。会社自体がパラレルキャリアを歩む時代が来たのです。
 パネリストの一人、この「両利きの人生」を実践しているKさんが今月新しい仲間になりました!ぜひ「白山のトランスフォーマー」になってください。受け入れる皆さんも映画の観客ではなく、出演者になって「トランスフォーム」していきましょう。

 

<「覚悟」を決める>

 誰しも人生の中で一度や二度、「覚悟を決める」ときがあるものです。私の場合は、2014年1月末、会社の存続が危ぶまれる中で、白山製作所(当時)の社長となることを決意し、大勢の債権者の前で「この事態から逃げることなく、先頭に立って改革に取り組みます。」と宣言した時です。社長に就任したのはその翌週2月1日のことです。その後7年、皆さんの努力とお客様やパートナーのご支援、そして幸運に恵まれて、今こうして皆さんと一緒に仕事ができる喜びを感じています。
 しかし油断はできません。いつまた急激な市場環境が起こるかもしれません。私たちの内部に予期せぬ災難が降りかからないとも限りません。常に今日という日をスタート初日だという気持ちで緊張感を持って取り組んでいくことが重要です。いざとなったらまた、「覚悟を決める」ことが求められるかもしれません。
 7年前の崖っぷちの時、なぜ私が覚悟を決められたか、というと、その時の私には「どうしたいのか」が明確だったからです。もちろん恐怖はありました。30億円もの負債の個人保証をしなくてはならない、というのもその一つです。しかしその恐怖に打ち勝つくらい「会社を再生して存続させたい」「苦労をかけっぱなしだった社員を何とか幸せにしたい」という強い思いがありました。社長就任の週明け2月3日には社員全員に、私が会社存続のために「どうしたいのか」を言い切り、退路を断ち切りました。そして再生アクションをお話し、皆さんに協力を求めました。
心底どうしたいかを考え、それを言い切り、逃げない覚悟を決めると、今度は「そのために必要なものは、どのようなことでも受け入れる」という次の覚悟が決まります。この覚悟に応じて進めば新しい扉が開いていく―これがこの間私が経験した真実です。
 この時の私は、そのような覚悟の連鎖ができました。しかし、それ以前の私はそんな覚悟はできているとはいえませんでした。皆さんも多くの場合、同じではないでしょうか。
 覚悟ができていないから言い切る事ができない。「それはいいことは分かっているんだけど・・」というだけで足踏みしてしまう。せいぜい「できるところまでやってみよう」となる。一応の努力はするものの、自分にとって都合が悪くなった時点でやめてしまうことになり、その努力が実を結ぶことはないのです。それは覚悟を決めないままスタートしているからにほかなりません。
 覚悟を決めると不思議なことがいろいろ起こります。
 新たに社長になった私に当然30億円の個人保証が銀行団から要求されるものだと思っていましたが、一向にその連絡が来ませんでした。結果として、「米川さんには未来の全ての責任を負ってもらいますので、過去の負債の保証を負っていただく必要はありません」という、当時の金融業界の常識ではあり得ない、驚くべき結論になったのでした。
 「覚悟を決める」ということがもつ不思議なパワーを実感した瞬間でした。

 

<SDGs、ESGって何?>

 「私たち株式会社白山はSDGs企業をめざします。」
 一体なぜ白山はSDGs企業をめざすのか?SDGsと今日お話しする「ESG投資」の間にはどのような関係があるのか?今日は皆さんのそんな疑問に答えていきたいと思います。

 2019年8月、米国主要企業でつくる経営者団体ビジネス・ラウンドテーブルが、それまで400年続いた「株主第一主義」から脱却し、従業員、顧客、地域社会など幅広い「ステークホルダー主義」に変わる宣言をした、というお話をこの欄でもご紹介したことがあります。日本の「三方良し」の世界観に米国が共鳴した瞬間です。(その元祖日本はいまだ株主第一主義ですが)
 そのステークホルダーと並んで産業の推進役である投資家の評価の物差しが、従来の「財務的な業績評価」一辺倒から、「環境(E)、社会(S)、統制(G)に対する企業の取組み姿勢の評価」に変わってきたのです。これを「ESG投資」といいます。そしてその「ESG投資」推進により目指す究極のゴールこそ、ご存知国連で採択された17の持続可能な開発目標である「SDGs」なのです。「SDGsはゴール、そのゴールに行くための手段がESG投資」と思って良いでしょう。

 世界中の大手機関投資家にとって、ESGに配慮する企業の成長を後押しすることで、自社が預かる莫大な資産を将来にわたって安定的に運用できる世界(=SDGs達成の世界)を目指すことはごく自然なことです。
 例えば、わが国最大級の機関投資家である年金積立金管理運用行政法人(GPIF)は、ESGに関する5つの株価指数で投資先を選んでおり、「ESGセレクトリーダーズ指数」や「女性活躍指数」、「カーボン効果指数」などが公開されています。フランスの大手ファンド運用会社は、太陽光、風力、バイオ燃料、水素、燃料電池、スマートメーターなど環境問題解決の技術を持っている会社に投資を優先させています。
 あの製薬会社エーザイの財務最高責任者による分析結果は実にストレートです。
・人件費投入を1割増やすと5年後のPBR(株価純資産倍率)が13.8%向上する。
・研究開発費を1割増やすと10年超でPBRが8.2%拡大する。
・女性管理職比率が1割増加すると、7年後のPBRが2.4%上がる
・育児時短勤務制度利用者を1割増やすと9年後のPBRが3.3%向上する。

 これを聞くと、これからの企業の収支方程式は、
売上-経費=人材費(社員の幸せ)+研究開発費(将来の夢)+ESG戦略費+営業利益
と書き直すことができるのではないか、と私は勝手に思っています。
 この方程式からも、当社がSDGs企業をめざす理由がご理解いただけると思います。
それは、社員の幸せ(ウェル・ビーイング)と将来の社会の幸せの両方を追求していきたいからにほかなりません。

(参考)小平龍四郎著「ESGはやわかり」日経文庫(2021.2)

2021/3/8
文責 米川 達也