17.社長からのメッセージ(13)

17.社長からのメッセージ(13)

今回も社長として社員に向けたメッセージの中から皆さんにも役に立ちそうなものをピックアップしてお送りします。

 

<縁を大切に>

小才は縁に出逢って縁に気づかず、中才は縁に気づいて縁を生かさず、大才は袖すり合った縁をも生かす柳生家家訓に残された言葉です。

 確かに最近思うのは、人との縁ほどありがたいものはないなぁ、ということです。
「袖すり合うも他生の縁」といいます。この「他生(たしょう)」とは、前世や過去世という意味です。過去世で縁のあった人が、また同じ時代に生まれ合わせているという転生輪廻の思想です。
 今まで出会った人すべて、好きな人ばかりでなく、嫌な人、会いたくない人ともそこに縁があり、出会った意味があるという考え方です。もっと積極的にとらえれば、お互いに役割があって、生まれ合わせているという考え方です。
 最近、人事コンサルティングのプロモーションを目的として、写真投稿サイト「インスタグラム」に投稿を始めました。確実にオリジナルのネタを週2回ペースで載せ続けようと思うと自分自身のことを書くしかありません。この際、羞恥心を忘れて徹底的な自己開示をする覚悟を決めて書き始めました。方向性を決めもせず書き始めてみると、自然とこれまでの人との出会い、縁の話になっていきました。そもそも「インスタグラム」の「写真」1枚に2200文字までの文章を添える機能があるので"無料広告"に使えるなんてことだって、石垣さんと出会う縁がなければ知りようがなかったのです。そしてそのIさんとのご縁も、Nさんと私が出会う縁がなかったら存在しなかった。このように考えていくと、今の私を形づくっているのは、無数の縁であるということに気づきます。
 インスタグラムには、私が小学生だった時の様々な人との出会いのエピソードから、大人になり、白山製作所の社長になり、皆さんの努力で会社倒産の危機からようやく抜け出し、グローバルニッチトップ企業に採択されるまでの道のりを書いています。書きながら、すべてが人との出会い、縁であったということに気づかされます。

 実際、嫌な人だと思っていたが、何年か経つと、「あの時、あの人のおかげで成長できた」と思えることがあるものです。仲間は仲間として助けてくれ、敵は敵の姿をとって応援してくれているのかもしれません。そう思うと全ての人が「協力者」なのです。もし、自分たちを育てるために、あえて嫌な役、嫌われる役を引き受けていてくれたとするなら、そんな人こそ、もっとも感謝すべき仲間だということができます。

 そのようなありがたい縁に気づくかどうか、そして、その縁を生かしているかどうか、私たちは試されているのかもしれません。
 冒頭の柳生家の家訓の意味することは、それくらい深いことなのです。

 

<相手に軸足を置く>

 松下幸之助は【言い方】と題して、以下のように言っています。
 "人はさまざまです。短気な人もいれば気の長い人もいる、緻密な人もいればおおざっぱな人もいる。理論派もいれば人情派もいる、というように、それぞれの持ち味がみな異なります。しかも、それだけではありません。同じ人でもその心というものは刻々に動いていて、いわば千変万化の様相を呈しています。ですから、同じことを言っても、ある人は反発し、ある人は喜んで聞いてくれるといったことがあるでしょうし、同じ人でもそのときの心の状態いかんによって、受け取り方はさまざまに変わってくると思うのです。  ですから、自分の考えを伝えようとすれば相手の人がどのような人で、今どのような心の状態にあるのかをよく知った上で、あるときには簡潔明瞭に、あるときは言葉を費やして丁寧に、その人にいちばん受け入れてもらいやすいような言い方を工夫する必要があると思います。" (『人生談義』松下幸之助 )

 「コミュニケーションの成果」は、自分が「何を伝えたか」ではなく、相手が「どのように受け取ったか」であると言われます。前者の「何を伝えたか」は、「話し手の視点」であり、後者の「どのように受け取ったか」は、「受け手の視点」です。自分が「何を話したか」ではなく、相手に「どう伝わったか」です。また、「どれくらい熱心に話したか」でもなく、相手が「どう理解したか」です。そして、大事なのは、その結果、「相手はどう行動したのか?」ということです。
 一所懸命伝えようとしても、その「思い」はなかなか届きません。「何度言ってもむなしく終わる」というケースは、結局「自分に軸足がある」からです。そこには「内容の正しさ」に対する自信があったり、「わからせよう」という作為があったりするのかもしれません。「自己顕示」や「自己自慢」のすり替えがあるのかもしれません。相手にはそれが透けて見えるのです。「こんなに一所懸命伝えているのに」などと思うときは、ちょっと危ないようです。
 大切なことは、「相手に軸足を置く」ということです。話す内容以前の「相手との向き合い方」の問題です。

 さらにその基本となることは相手に対する「敬意」です。「敬意」を欠いたままでは、どんなにいい話をしたつもりでも、決して相手には伝わらないでしょう。

 これから新しい人も続々と入ってきます。新人に対してでも「敬意」を払い、「相手に軸足を置いたコミュニケーション」を図るよう努力してください。それが、私がいつも繰り返す「必死のコミュニケーション」なのです。

 

<今日の光事業の奇跡>

 今日は、今や世界第2位まで昇りつめた光事業の過去の歴史に触れたいと思います。

 私の四代前のH社長が、NTTのネットワークがいずれ光主体に切り替わると考え、当社規模で製造可能な光通信のコア部品として多心光コネクタ(MTコネクタ)に目をつけたのは、NTTがMTフェルールを開発した1988年頃にさかのぼります。

 1991年にプッシュプル型のMPOコネクタが発表された年に、白山製作所(白山の旧名称)はケーブルメーカー以外では初めてNTTのその技術の移転を受けました。

 しかし、それからが苦難の連続でした。

 移転を受けたNTTの技術情報には評価方法の記載しかなく、製造方法は自分たちで見出すしかありませんでした。調べていくうちに、その製造にはサブミクロンの精度が要求され、それを実現するには製造方法、製造設備、金型構造、成形材料、測定装置などに数多くのノウハウがあることが分かりました。そこで特許、学会誌、文献などを調査し、製造にチャレンジしたものの失敗の連続、まさに試行錯誤の日々が続きました。白山製MTコネクタが完成したのは、なんと技術移転から12年経った2003年でした。

 ところがここにまた大きな壁がありました。10年余の努力の末、遂に完成したMTフェルールを、当時のH社長がNTTの調達部門にもって行くと、けんもほろろの反応だったのです。「MTフェルールだけ持ってこられても我々は買えません。」そして、「ただ、MTコネクタ付きケーブルは既に大手ケーブル3社だけで十分ですので増やす気はありません。」
 10年にわたって努力してきた結果がお客様からの不採用という冷酷な宣告だったのです。

 それでも、現在も活躍しているKさんやIさんをはじめとした若手社員は、がんばり続けました。いつか報われる時が来ると信じて開発に打ち込み続けました。関係者は海外まで飛んで顧客の開拓に奔走します。技術陣も営業陣も「今にみていろ」という不屈の精神で活動しつづけました。

 そしてその努力が実を結ぶ時が来ます。
 2008年、米国の大手通信キャリアに、当社のMTフェルールが採用されます。しかも既存大手から勝ち取ったものでした。白山のMTフェルールが、その品質の良さから世界市場で認識されるきっかけとなる大きな転機でした。
 その後、新たな奇跡も起こります。本来光通信用に開発されたMTフェルールが、2010年頃からインターネット用の巨大なデータセンタ内の光配線に「転用」され始め、年々そのボリュームは増加の一途をたどってきたのです。ケーブル大手と戦える新市場の出現です。
 2000年当時、考えもつかなかった新たな市場の出現と、「成功の秘訣は成功するまでやり続けること」だと知る白山社員の努力に支えられた光コネクタ事業が、2014年当時破たん寸前であった白山を救う奇跡を起こしてくれたのでした。

 

新入社員の皆さんへ
<入社式での私のあいさつ要旨>

 皆さん、入社おめでとうございます。皆さんをお迎えして、私たち白山メンバー一同、今日の青空のように晴れやかな嬉しい気持ちで一杯です。

 (MTフェルールを見せながら)これが今、当社に大きな利益をもたらしてくれているMTフェルールというMT光コネクタの最重要部品です。
当社は、将来の光通信時代の到来を睨んで1991年にNTTからその技術移転を受けました。しかし、移転を受けた技術情報には評価技術の記載しかなく、製造プロセス、材料、金型、製造装置、測定装置ともに手さぐりで進めるしかありませんでした。当然失敗の連続です。やってもやってもサブミクロンの精度を備えた製品はできません。試行錯誤の末、やっと製品として完成したのは、実に12年後の2003年のことでした。ところが今度はその製品のお客様がいないという試練に見舞われました。それでもあきらめずに努力を重ねた結果、2008年に米国大手通信キャリア向けに当社のMTフェルールが認定され、翌年から納入が始まります。技術移転から何と20年後、長年の努力が奇跡を呼び込んだ瞬間です。

 もう一つの"20年ばなし"があります。
 約20年前、当社は大事な決算書の中で"ウソ"をつきました。本当は赤字にしなくてはいけないのに黒字に見せかけるウソをついたのです。銀行に融資を続けてもらうための"1回だけのウソ"のつもりだったはずです。しかし、実際には"ウソ"は次の"ウソ"を呼び、それに比例して業績は悪化の一途をたどります。完全に回復するのに、20年を要したのです。

 モノはウソをつきません。努力したからといってモノは妥協してくれないのです。サブミクロンの精度でお客様に信頼していただけるまでには20年かかりました。
 一方人間はウソをつくことがあります。ウソは一瞬でつけます。しかしそれを取り返すのに20年かかりました。

 この "2つの20年"の経験から、私たち株式会社白山は2つの教訓を得てきました。
新入社員の皆さんにもこの2つを知って頂き、守って頂きたいのです。

 ひとつは、仕事を誠実に、真面目にやり続けること。最初は与えられた仕事でしょうが、イチローの素振りのように数を繰り返していくと、ある時「数」が「質」に転化するのです。「与えられた仕事」が「自分の仕事」になる瞬間です。その苦しくてもあきらめない姿を見て、予期せぬ幸運もまた、いつか向こうからやってくるはずです。

 もうひとつは、決してウソをつかないこと。まずは自分に対してウソをつかないこと。そして人にウソをつかないこと。自分へのウソ(自己欺瞞)は深刻です。そのウソの正当化のために莫大な無効エネルギーを費やして周囲の人や環境を悪者にするからです。

 今日からの新しい日々を、喜びに満ちた日々にして頂きたいと心から願っています。

 

<虫の眼、鳥の眼、魚の眼>

 先日、19人がオンラインで参加する「アイデアフラッシュ会」を行いました。熱電の応用分野について各人が思いつくアイデアを発表、それをMindmeisterでツリー状に整理していく方法です。ルールは、①人のアイデアを批判しない、②質より量、③人のアイデアに便乗、組合せ大歓迎、④判断・結論を出さない、の4つです。出てきたアイデアを数えると何と200以上にもなりました。とくにR&D以外のメンバーのアイデアがとめどもなく出てきました。「自分の担当事業だとこんなにアイデアが出ないのに不思議だなぁ」という声が聞こえました。そうなんです。そこに気づいてもらうのが今回の隠れた目的だったのです。4つのルールのどれもが「言ったら最後、責任をとらなくてはいけない」という縛りがないことを約束しています。そう聞いた途端に皆さんの脳は解放され、自由な発想ができるようになったのです。

 どうして、その脳の開放、自由な発想が自分の担当事業になったらできなくなるのか。知識や経験があり過ぎるから?それもあるでしょう。しかしそれ以上に、言われてもいないのに、自分で勝手に多くの制約条件を設定していることが原因だと思うのです。
 ひとつクイズを出します。図に9つの黒丸が3×3で書かれています。直線の一筆書きで全ての点をつないでください。5画だと誰でも簡単にできますね。これを4画、さらに3画で完成してほしいのです。分かった人はぜひこの欄のコメントに入れてください。正解は来週のお楽しみです。

 よく3つの視点が大事だと言われます。「虫の眼、鳥の眼、魚の眼」の3つの視点です。「虫の眼」はミクロな目の前の問題に焦点を合わせる眼です。見える範囲が限られていて、その枠の外は見えません。私たちの得意な視点ですが、ともすると自分の都合を優先して人の都合は考えない、ということにつながりがちです。また「虫の眼」では「こうでなくてはいけない」と自分で設定した狭い枠(フレーム)にこだわりがちです。

 そこで「鳥の眼」が必要になります。高いところから俯瞰する眼です。自分の持ち場の隣も、その隣も、全体が見えるようになります。「虫の眼」を持ちながら「鳥の眼」を持つと、相手の都合もよく見えますし、自分が狭い枠(フレーム)の中でしか考えていなかったことが分かります。そして、自分を規制している枠(フレーム)を新たに組みなおす「リフレーミング」ができるようになります。先ほどのクイズのヒントはこの「リフレーミング」です。9つの黒点の外枠を取り外すことで、答えが明らかになるでしょう。

 さらに「魚の眼」という、流れを見る眼を持つことで、明日の仕事の流れを予測したり、市場のトレンドをつかむことができるようになります。「虫の眼」に加えて、「鳥の眼」と「魚の眼」をもつことは、目下、各事業本部で考えてもらっている「10年ビジョン」策定にも役に立つはずです。なにより日常の仕事をストレスなくスムーズに運ぶためにも役に立つはずです。業務プロセス、製造工程のすべてが、一本につながった役割分担によって構成されているからです。

 自分の前工程、後工程のことも気にして、ときどき自席を離れて、様子を聞いてみる。たったこれだけのことで、あなたも「虫の目、鳥の眼、魚の眼」を身につけることができるようになります。ぜひお試しを。

 

<エンゲージメントとは>

 エンゲージメント(engagement)とは、日本語訳では「契約、約束、婚約」という意味ですが、社員と会社との関係においては「会社と社員の結びつきや信頼関係。社員の会社に対する愛着心」を表現する言葉として使われています。
 エンゲージメントはまた、顧客と会社との関係においては「顧客がその会社の商品やサービスに対してどれだけ好意や愛着心を持っているか」という意味を表わす言葉です。

 「エンゲージメント」は「満足」を越えるものです。

 「満足」とは不満がないことです。サービスや商品で言えば欠陥がないことです。
 社員と会社の関係における「社員満足」は、給与待遇や福利厚生や職場環境といったものが十分であれば満たされますが、それが欠けていると不満になるものです。つまり満たされたとしても「不満がない」、いわば"ゼロ"の状態です。
 同様に「顧客満足」は、提供されるサービスや商品に欠陥がなければ充たされますが、そうでなければ不満になります。やはり満たされても「不満がない」、ゼロの状態です。

 一方「社員エンゲージメント」は、会社や働く仲間との感情的なつながりといったもので、それは自発的、自律的なものであり自己成長を促してくれるものです。上司や同僚からの承認や、目的の達成により生まれるものであり、「やりがい」を感じさせてくれるプラスの状態です。

 同様に「顧客エンゲージメント」は同じような欠陥がない複数のサービスや商品の選択肢があったとしても、それが「選ばれる理由がある」、すなわち「期待に応え、超える」プラスの状態だということです。その会社の提供するサービスや商品、あるいはその会社のブランドに対する圧倒的な愛着心です。完全なる顧客エンゲージメントは「もう白山なしには考えられない」と言ってくださるくらいの愛着心です。こうなれば低価格競争に巻き込まれることもありません。白山の行動指針の第3条にある「私たちはお客様を感動させる製品を提供することでお客様から愛される会社をめざします」がこれに該当します。

 そして大事なことは、「顧客エンゲージメント」を生み出す源(みなもと)が「社員エンゲージメント」だということです。

 満足を超えて「やりがい」を感じる社員が創り出すサービスや商品に、お客様が満足を超えた愛着をもってくださるようになることは自然の理です。したがって、会社の業績も伸びていきます。業績が伸びると、社員はますますやりがいを感じ、より良いサービスや商品を生み出し、提供していきます。さらにお客様のエンゲージメントが高まっていくのです。


2021/8/12
文責 米川 達也