今回も社長として社員に向けたメッセージの中から皆さんにも役に立ちそうなものをピックアップしてお送りします。
<テレワーク 他社先進事例に学ぶ>
2月22日に、当社は日本テレワーク協会主催の「テレワーク推進賞」の「奨励賞-実践部門」を正式に受賞しました。
テレワークが進まない製造業において、2年前のコロナ禍の初期からテレワークを積極的に実践しているメーカの代表として表彰されました。成形機の稼働状況のリモートモニタリングなどの"見える化"や社内SNSを活用した会議やコミュニケーションなどへの取り組みが、これから取り組もうとしている全国の製造業の参考になる、と東工大名誉教授の比嘉審査委員長が講評で受賞の理由を述べておられました。
実際には、私たちの取り組みもまだまだ道半ばです。今後、ワークライフバランスのためのテレワークの更なる充実をはじめ、兼業副業の解禁にはじまるパラレルワーク、フレックス制の導入など、時代と皆さんの生活からの要請に基づく新しい働き方を考えると、取り組むべきテーマはたくさんあります。
「働き方改革」から「働きがい改革」に。これは受賞企業の一つ、横河電機の方の言われたことですが、私たちの進むべき道は、まさにその通りです。
今回全国の募集からよりすぐられた先進事例の中には、我々も考えなくてはいけない事例がたくさんありました。
受賞企業に社長が私と親しい会社もありました。金沢の人材紹介会社「北陸人材ネット」です。この会社では、海外に移住する社員が移住先からのリモート勤務を開始した2016年以降、次々と施策を繰り出しています。2020年4月より全社員コアタイムのない完全フレックス制かつ出勤不要のフルリモート勤務に移行しました。その後、通勤手当廃止、リモート手当、ワーケーション手当、副業許可などを進め、より働きがいを感じ、人生が充実できるような場としての会社の価値を高める工夫をしています。社長の山本さんは、「最高の会社は、社員が自分らしい人生を送ることができるプラットフォームであるべき」という理念の下、私生活と仕事の統合により、主体性をもった働き方の創造と事業の継続の両立を目指している、とおっしゃっています。率先垂範とばかりに、社長自らスキー場でワーケーションをしたり、午前中近所のスキー場で滑った後、14時から19時まで会社や自宅で仕事をするなど人生を謳歌しながら、会社運営もしっかりやっています。
驚くべきことは、マネジメントスタイルの変化です。多くの会社がテレワークでの社員の働き方について、時間管理を中心とした「チェック&コントロール」を強化しようとしている中、北陸人材ネットは社員の自主性、主体性に任せる「セルフマネジメント」中心に切り替えたとのことです。それにより社員の責任感が高まり、業績アップにつながったということです。様々な事例を研究して、私たちも「働きがい改革」を進めていきたいと思います。
<転原の自在化>
「政策起業家」(駒崎弘樹著、ちくま新書)を読みました。
とにかく面白い本です。例によって自宅の湯船につかったまま読了しました。(ちょっとのぼせました‥。健康のためマネしないでください。)
著者の駒崎さんは、今年の私たちのモットー「転原自在」を地でいくような人です。政治家でも官僚でもない「普通の人」でも、その気になれば、身の回りにある変なルールや社会的な問題点を明らかにして、最後は法律を改正させたり、新しい制度を生み出したりできるんだ、ということをみせてくれています。少人数対象でも可能な「おうち保育園」、人口呼吸器などが必要な医療ケア児を安心して預けられる障がい児保育園「ヘレン」、「こども宅食」などのモデル事業を次々と立ち上げ、それまでこれらを阻んでいた法規制の壁を次々と打ち砕いていく様は、痛快なストーリーそのものです。今年の4月から企業に義務化される「男性育休」制度や10月から実施される「産後パパ育休」も、普通の人、駒崎さんが座長をつとめた「イクメンプロジェクト」から生まれた制度です。
図をご覧ください。最初に「これを変えたい」という熱い思いがある。この自分自身の中にある熱い思いが、一番最初の「転原」です。自分の中にあるので、これを「転原自在」状態といいます。この図は、その小さな「初期転原」が、仲間の広がりとともに、次々と大きなドミノを倒し、最後には巨大プロジェクトとして、それまで立ちはだかっていた規制や社会課題を倒すまでになる、ということを表わしています。
駒崎さんがここまでの連続的な政策企業家(シリアル・アントレプレナー)として成功しているのは、「転原自在」の熱い思い(パッション)が圧倒的に大きいのですが、若干テクニカルなことを言えば、人を本気にさせる巻き込みが実に見事な点を忘れてはなりません。最初は"けんもほろろ"どころか、敵視していた自治体の役人たちを同志として引き込み、本気にさせ、最後に成功に共に涙する関係にまでもって行く人心掌握力は見事としかいいようがありません。こっそり使っているもう一つの手は、私が命名した「グーチョキパーの原則」です。どうしても勝てないターゲットに勝つために、自分が勝て(引き込め)て、かつターゲットに勝てる人を間に立てる技です。あなたが「グー」、ターゲットが「パー」だったら勝ち目がないのですが、間に「チョキ」の人を介在させると、あなた(グー)が介在者(チョキ)に勝てて、介在者(チョキ)がターゲット(パー)に勝てれば、結果的にあなたがターゲットに勝てるのです。
さあ、「転原自在」のすごさを分かっていただけたら、さっそく熱い思いで小さな行動を起こしてみましょう。図の一通の「手紙」は、今ならSNSへの書き込みかも知れません。
<今やるべきことに集中する>
人生の二大失敗要因は、「焦り」と「慢心」だと言われます。
「焦り」とは、うまくいかないときの失敗要因であり、「慢心」とはうまくいったときの失敗要因です。つまり、人はうまくいかないときには焦って余計に失敗し、うまくいったときは慢心してしまい、すぐに転落してしまう、ということなのです。私自身、焦っては失敗し、慢心しては失敗することの連続です。そのたびに反省はするものの、また同じように「焦り」と「慢心」の失敗を繰り返してしまいます。今日はこの二つの失敗要因を見てみましょう。
「焦り」とは、待てないことです。種をまいて、育てて、やがて花が咲くという、当たり前のプロセスをショートカットしたり、その途中で払われる努力を省いて、早く結果にたどり着きたいという気持ちが「焦り」の正体です。弱いギャンブラーほど、一発逆転を狙って、さらに被害を大きくするのに似ています。
「焦り」による失敗を減らすために必要な考え方は、「必要な時間はしっかりかける」という発想です。今日種をまいて、明日花を咲かせようと思ってはいけない、ということです。(今、私は自分に言い聞かせています。)
多くの失敗を経験していく中で「焦り」は減少していきます。歳とともにだんだん焦らなくなってもきます。やっかいなのは、もう一つの失敗要因である「慢心」の方です。この「慢心」だけはどこまで上り詰めてもなくなることはありません。それどころか、年季が入るほど、あるいは偉くなればなるほど危ないのです。
「慢心」は感謝を忘れ、人の忠告を聞けなくなってくると頭をもたげてきます。これまでの成功は多くの人の協力で成し遂げたのに、自分だけの手柄のような気持ちになり、「反省」と「感謝」を忘れたときに、この「慢心」による失敗を起こします。しかも、「焦り」による失敗は、数こそ多いものの、比較的小さな失敗であることが多いのに比べ、「慢心」による失敗は、取り返しがつかないくらい大きな失敗であることが多いのです。
「焦り」と「慢心」を生み出す背景には、「結果さえよければいい」「結果さえよければ報われる」といった、「結果主義」が存在します。
もちろん結果は大切です。いくら頑張ったと主張しても赤字会社では誰も幸せになれません。
しかし、結果だけを追い求めたときになおざりにされがちである「地道なプロセスに払われる努力」や「他の人への感謝」も、結果と同じくらい大切であり、人生の価値そのものであるということも忘れてはならないと思うのです。
<1割売り上げが減ると利益がどれだけ減りますか?>
MQ会計を使ったクイズです。
単価100円の缶コーヒー(材料費60円、利益40円)が10個売れていました。売上高(PQ)は1000円です。人件費や経費といった固定費合計(F)は300円かかるとします。材料費総額(VQ)は600円、粗利総額(MQ)は400円。粗利総額(MQ)の400円から固定費(F)300円を引いた100円が利益(G)になりますね。
さて、今、売上高(PQ)が10%減って900円になってしまいました。利益(G)はいくらになるでしょう?答えは①90円、②0円、③60円、④わからない の4択のうちどれかです。
①と答えた人は「売上が10%減ったのだから、利益も10%減って90円」というでしょう。
②と答えた人は「売上が100円減ったのだから、利益も100円減ってゼロになる」というでしょう。
③と答えた人は「売上が10%減ったのだから、材料費も10%減って540円。売上高900円から材料費540円を引いた360円が粗利になる。利益は、そこから固定費300円を引いた60円」というでしょう。
④と答えた人は「これだけじゃ、わからない」というでしょう。
正解は、驚きの、④の「わからない」です!
10%売り上げが減った理由が何なのか。もし、10個売れるところが9個しか売れなかったのなら③の60円が正解です。しかし、もし一個当たりの値段100円を90円に値引きしたのだったら②の0円が正解となります。
この問いでは10%売り上げが減った理由が、9個しか売れなかったのか、単価を90円に値引きしたのかが分かりませんから、④の「わからない」が正解ということになります。
このMQ会計のクイズから導き出される教訓は、「数が売れないよりも、値引きをすることの方が損をする」ということです。
<メタバースの歴史>
今、知っておくべき現代用語の筆頭は「メタバース」ではないでしょうか。あのフェイスブックが社名を「Meta」に変えたのは皆さんご存知の通りです。
メタバースとは、一言でいうと「仮想空間」です。インターネット上に構成される3次元の世界で、アバターと呼ばれる自分の分身を介し活動する世界です。現実世界と同じく常に時間が流れ続けている世界で、アバターを動かして遊んだり集まってミーティングをしたりして、Web上の空間で社会生活をおくれる世界です。
実はメタバースの概念はかなり昔からありました。
今から34年前、1988年にアップル社のCEOジョン・スカリーが発表した「ナレッジナビゲータ」という近未来のコンセプトビデオに、私は驚かされました。大学教授らしき人物が部屋に戻ると、すぐに本のようなノートタイプマシンを開き、タッチパネルと音声で、マシンに顔を出した電子秘書と会話しながら、留守中の報告やスケジュール確認や情報の検索などをゆったりとしたオフィスで行うシーンが描かれています。今見ても全く古さを感じさせません。こちらにそのビデオ(日本語版)があります。https://www.youtube.com/watch?v=yc8omdv-tBU
当時これらはエージェント・ソフトウェアと呼ばれ、1990年にはアップルからスピンアウトした数名の技術者によって「ジェネラルマジック」という会社が設立されました。これぞ未来を創る会社だと、AT&T、松下電器産業、モトローラ、NTT、フィリップス、ソニーなどそうそうたる大企業が出資しました。当時NTTのアメリカ駐在員だった私の仕事は、このジェネラルマジックとNTTの連絡係でした。オープンオフィスの真ん中にプールバー(玉突き台)が置かれ、パーテーションで区切られた個人スペースは家族の写真や色とりどりの風船で飾りつけられていました。最先端ソフトウェア技術者であった彼らは「マジシャン」と呼ばれ世界中の注目を浴びました。残念ながら、彼らの素晴らしいコンセプトは、当時の1200bpsのモデム伝送には重たすぎて成功しませんでした。ナレッジナビゲータを構成する個別の機能は、その後、ノートPC、スマホ、検索エンジン、音声認識と光通信による高速インターネットなどの進歩によって実現していきましたが、それでもメタバースの「仮想空間」の実現は、人を魅了する夢であり続けました。
2003年に登場した「セカンドライフ」や、2010年の映画「アバター」の人気もそれを示していました。その後のオンラインゲームの発展や、NFTと呼ばれるメタバース上の取引を支える電子証明書などの登場が、いよいよメタバースを本物にしていくものと期待されています。
当社が取り組んでいるIOWNも、実はメタバースの実現を根っこで支える技術なのです。
<未来に目を向ければ、いまの自分がいちばん若い>
森村誠一さんと言えば、ホテルを舞台にしたミステリー「高層の死角」や「新幹線殺人事件」、映画でも大ヒットした「人間の証明」など、時代の先端を行くしゃれた精緻なカラクリで私たち世代の読者を虜(とりこ)にした人気小説家です。
このところ新作にお目にかかっていないなと思っていましたが、私が久しくミステリーを読んでいないせいだとばかり思っていました。しかし久しぶりに手に取った著書「老いる意味」という新書を読んで、あの森村誠一さんが老人性うつ病と認知症との長い闘病で苦しんでいたことを初めて知りました。
80歳になるまで病気と無縁だった彼は、自分に「うつ」とか「認知症」などという病名を告げられること自体が大変なショックで当初は受け入れることもできませんでした。しかし症状はしだいに深刻になり、うつが進んで何も食べられなくなり、体重が30キロ台まで落ちていき、記憶と言葉が曖昧になっていきました。言葉を失った作家は「化石」であり「死」を意味する。もだえ苦しみ、脳からこぼれた言葉を拾っていく努力をするが、その気力も次第になくなっていく・・。見事なテンポと鋭い言葉でストーリーを紡いでいたあの森村誠一さんが言葉を失うなど、かつての愛読者の私には想像もできないことです。医師に「私は元の人間に戻れるのでしょうか?」とすがる森村誠一さんの赤裸々な手紙の文面に読む私も胸が苦しくなりました。
詳細は書いてありませんが(この頃の記憶はぼんやりしている、と告白しています)、それでも長いトンネルには出口がありました。手を差し伸べてくれた医師や家族や知人に励まされ、流動食で栄養を摂り、体力、気力を取り戻していった結果、いつもの朝が戻ってきた、と記されています。再び闘う意思が芽生え、言葉との格闘や触れ合いが始まったのです。ついに3年がかりで書きかけの作品を完成させることができたのです。
「過去に目を向ければ、いまの自分がいちばん年老いているが、未来に目を向ければ、今の自分がいちばん若いのである」
「常に人生途上の旅人である覚悟を持ちたい。無限の可能性に満ちた人生にしたいのである」
89歳になった森村誠一さんが描く、スリル満点の若々しいミステリーの新作が楽しみです。
2023/1/5
文責 米川 達也