24.社長から社員へのメッセージ(20)
今回も社長として社員に向けたメッセージの中から皆さんにも役に立ちそうなものをピックアップしてお送りします。
<二種類のビジネス>
バングラデシュの社会活動家であり、暫定政権のリーダーでもあるムハマド・ユヌス氏は、「ビジネスにはお金を儲けるためのものと、社会の役にたつものの2種類がある」と言っています。後者を「ソーシャルビジネス」と名づけ、それはお金のためにする仕事よりもはるかにやりがいがあり、後々蓄積され残るものだと言っています。実際、彼が設立したグラミン銀行は"マイクロクレジット"と呼ばれる無担保小額融資によって、農村部の貧困層の自立を支援してきました。貧困層の多くの人々は、地域内の小集団で返済するビジネスの仕組みを取り入れた、このグラミン銀行によって生活水準が上がったと同時に地域の「互恵意識」が高まったといわれています。
先日、徳島の神山町にある"神山まるごと高専"を視察して、「なるほど、これも典型的なソーシャルビジネスだな」と感じました。教育は人の成長を促し、社会が成長するために必須です。そしてそれには莫大なコストが必要です。しかし教育実施機関自身は、ビッグIT企業のように大きく成長するものではありません。神山まるごと高専のユニークなところは、そんなことは承知の上で、取り組んでいる人々が、今をときめくベンチャー会社の創業者たちだという点です。
自分の創業したスタートアップ企業を成功させ、ユニコーン企業(10億円ドル以上の規模)にまで成長させた、いわば「おカネ儲けのプロ」達が、「おカネ儲けを目的にしてはいけない」ソーシャルビジネスに惹かれ、そこに飛び込んでいったのはどうしてか。
先日、神山まるごと高専設立の"言い出しっぺ"で、現理事長であるSansan創立社長の寺田親弘さんに直接伺いました。答えは、「よく説明できないけど、とにかく教育をやりたかった」というシンプルなものでした。「始めてみて初めて分かったのは、私の得意な"成長"とは別の世界だということでした」と正直に話してくださいました。賛同して大きな寄付をして集まった人々も、成長とおカネ儲けを得意としているであろう有名な起業家ばかりです。
私が想像するに、今をときめくベンチャーの旗手たちの心に、金儲け一辺倒ではない、「社会の未来のためにいかに貢献するか」というマインドセットが元々あるのだろうと思います。「三方良し」でいわれる「買い手よし、売り手よし、世間よし」の精神が備わっているベンチャーだからここまで成長できたのだろうということです。
もう一つ想像するのは、自分たちが得意なビジネスの仕組みを採り入れることで、社会課題がもっと効果的に解決できる道があるはずだという自信があるのではないかということです。寺田さんの場合、それは政府や自治体に補助を求めるのではなく、集まった寄付金を運用し、その運用益で、学費の無償化を実現しようという"知恵"でした。
2つの種類のビジネスが、決して対立するものではなく、協調することで、関わる全ての人が幸せになる道があるのだということを教えてもらうことができました。
<計画とは何か>
「社長の教祖」と呼ばれた経営コンサルタントの一倉定(いちくら さだむ)さんは、「計画とは、『将来に関する現在の決定』である」といいます。平たく言えば、「将来のことをあらかじめ決めること」です。あらかじめ決めてしまうのですから、そのとおり実施する責任が生じます。
一方、「今年のプロ野球はどこが優勝するだろう」とか、「今度の日本ダービーは・・・」というのは「予想」であって、当たろうが外れようがその結果に対して責任を持つ必要はありません。
電車の時刻表は「計画」です。電車はこれより早く走らせても、遅れてもいけないのです。予定より早く駅についたときは、定刻まで発車を待ちますよね。早く着くからいいわけではないのです。新聞のラジオ、テレビの番組表も「計画」です。その通りに番組が放送されなかったら視聴者は混乱します。
「計画以上ならいいだろう」という考え方は間違いなのです。品質管理は品質をよくする活動ではありません。あらかじめ計画した品質どおりのものをつくる活動なのです。もっと品質を良くする必要があったら、どのような良い品質にするのかをあらかじめ計画し、そのとおりに実現させるように努める。これが品質管理の正しい姿です。
さらに「計画」は「できるだけ主義」ではいけない、と一倉先生は教えます。「できるだけ多く作る」、「できるだけ売上を増やす」、「できるだけ良い品質の製品を作る」。これらの表現から最大限の努力を払うという気持ちが伝わってはきますが、問題は「できるだけ」というのがいったいどれだけなのか、誰にもわからないことです。「できるだけ」主義には基準がなく、したがって評価のしようがありません。「計画」は「できるだけ主義」ではいけない。「いつまでに完成する」、「これだけ安くする」、「決算を5営業日で完了する」という「これだけ主義」でなければならないのです。
松下幸之助さんは、「3%のコストダウンは難しいが、30%ならすぐできる」と言い残しています。3%のコストダウンは今までの延長線上でできそうに考えるが実は簡単ではない。それが30%下げる「計画」を立てるとなると、従来の考え方にとらわれず、商品設計をゼロからやり直すことになる。そこに進歩が生まれる、というのです。
私たちの目標設定も「計画」でなくてはいけません。それもあらゆる智慧と工夫と行動を動員して初めてなし得るような高いレベルの「計画」でなくてはなりません。そこに革新や進歩が生まれるのです。
(参考)マネジメントへの挑戦(一倉定 著)日経BP
<"初音ミク"の生みの親に学ぶ>
Forbesに当社が掲載されたことを機に、様々な分野の人と知り合う機会が増えました。バーチャルアイドルシンガーで世界に名をとどろかせる"初音ミク"の生みの親、クリプトン・フューチャー・メディア社長の伊藤博之さんもその一人です。
伊藤さんは、音楽界の大スターを生み出した「業界人」のような人とは対極の、地味で静かな方です。それもそのはず、伊藤さんはもともと北海道大学の事務官でした。地方の公務員として働くかたわら、好きな音楽をコンピュータで再現する技術に興味を持ち、音声合成ソフト「ボーカロイド」を使って様々な音楽を再現する「コンピュータ・ミュージック」を専門とする小さなソフトウェア会社を立ち上げたのが始まりです。せっかく楽器のコンピュタライズ化ができるなら、歌唱の合成までやろう。さらに、歌を歌えるソフトウェアができるなら、それにキャラクターをつけてみようと、次々と「妄想」を「構想」に変えていきました。そうして生まれたのがバーチャルシンガー"初音ミク"だったのです。
"初音ミク"のワールドツアーは今年、北米で21公演、ヨーロッ6公演、オセアニア5講演、中国11公演、全31都市で動員数は18万人にのぼりました。そこまでの人気スターに上り詰めた秘密は、伊藤さんの著作権の考え方にありました。
オリジナルの著作権を徹底管理して一分のスキもなくしているディズニーキャラクターと真逆で、著作権をフリーに開放しているのです。小学生でもマニアの大人でも、同社グループが提供する権利クリアランスサイト「ピアプロ」に登録さえすれば、初音ミクを自分流に変えてアップしたり、コラボ企画するのを自由に認めています。「デジタルコンテンツは使えば使うほど価値が上がる」と伊藤さんが信じているからです。さらに、国を越えた「創作の連鎖」が「共感の連鎖」を呼ぶと信じている伊藤さんは、参考にしたN次著作者にお礼を言うエチケットを推奨し、「感謝の連鎖」を世界中に広げたいと思っています。
伊藤さんの凄いところは、このように世界に展開しつつも、いつも根っこに地元北海道があることです。北海道は農産物の一次生産高は全国一ですが、付加価値指数では全国の最下位。この付加価値をつけることが苦手の北海道に、テクノロジーと組み合わせて付加価値をつけることのできるクリエーターを増やしたい。これが伊藤さんの地元への強い思いなのです。
このような話を、小さな声で静かに語る伊藤さんに、人となりも含めて感動してしまいました。異分野の人との出会いの機会で学ぶことの何と多いことか、と思いました。
<仕事を楽しもう <2025年度入社式 "ナマ達也"からのメッセージ>>
AI達也にご紹介いただいた、私がナマ達也こと、社長の米川達也です。
Aさん、Bさん、Cさん、Dさん、Eさん、白山への入社おめでとうございます。白山の全員が、皆さんをお迎えできたことを心から喜んでいます。今日から皆さんは私たちの仲間です。楽しい時もうれしい時も、苦しい時も、皆さんには、いつも、この仲間が寄り添います。今までの学生生活から初めて社会人になる人も、様々なキャリアを重ねて入られる方も、もともといる社員も、GLも、部長も、私のような役員もみな平等に、白山という会社のもとに集まってきた仲間です。
今、私は、アメリカのサンフランシスコから参加しています。
こちらの4月1日からサンフランシスコで開かれる光通信関係の展示会に初出展するためです。工場からもFさんとGさんが参加しています。
これも白山は今まさにグローバル化の真ん中にいることの表われです。世界に当社の製品を展開していくために世界のお客様と直接対話をすることにしています。
世界に展開しつつも、私たちの心は、石川県や埼玉・東京に根差しています。特に一昨年の元日に起こった能登半島地震からの地域の復興に、貢献していくことも忘れてはなりません。
そしていつでもその中心にあるのはヒトです。「ヒト・セントリック」を合言葉に、まずは社員の皆さんに幸せになってもらいたい。そして幸せな社員が提供する製品やサービスがお客様を幸せにしていく。それがおのずとパートナー企業の人々の幸せにつながり、支えて下っている地域の人々全体に広まっていく。関わってくださるすべての人を幸せにする企業。白山はそのような企業を目指していきます。
孔子の言葉に、「これを知る者は、これを好む者にしかず。これを好む者はこれを楽しむ者にしかず」という言葉があります。「理解している人には知識があるが、好きな人にはかなわない。好きな人はそれを楽しむ人にはかなわない」という意味です。
仕事を楽しむようになってほしいのです。
仕事は始めは与えられるものです。まずは数をこなさなければなりません。何十回なんてものでなく、何百回、と繰り返すと、「数」が「質」に転換する時がやってきます。そうなると次第に「与えられた仕事」が「自分の仕事」になり、面白くなってきます。さらに繰り返す中で自分らしい工夫や改善策を思いつき、取り入れていきます。ますます面白くなり、「仕事が楽しくなる」のです。仕事が楽しいというのはそういうことなのです。
ディズニーランドよりも楽しい白山にようこそ!一緒に新しい歴史をつくっていきましょう!!
<思わず人に話したくなるような面白いストーリーに <中期事業計画の作り方>>
大好きな映画「大脱走」を昔録画したCDで久しぶりに見ました。「ローマの休日」と並んで、私が最も好きな映画の一つです。ドイツ軍の捕虜収容所から200人を超える米国兵の集団脱走を企てたロジャー少佐が、脱走用のトンネルを掘る戦略を、実に生き生きとしたストーリーとして部下たちに伝えるシーンがあります。この映画の面白さは、「情報屋」、「トンネル屋」、「偽造屋」、「仕立て屋」などの役割を分担した人たちが絶妙の連携で作戦を実行していくところにありますが、脱走の成功のためにそれぞれの担当者がいつ、何を、どうすべきかを、ロジャー少佐はみんなが引き込まれるような見事なストーリーで語ります。
映画の鑑賞者もまたこの見事なストーリーに引き込まれていき、3時間近い映画を一気に見てしまうのです。面白いストーリーには人を引き付けて離さない魅力があります。遭難したピレネー山脈登山隊が、隊員の一人のポケットにあった地図の切れ端をもとに下山のストーリーを皆で共有した結果、無事に帰還することができた話もありましたね(実はその地図はヒマラヤ山脈の地図であったというオチで有名です)。
今、新たな中期計画を策定している真っ最中です。あなたの担当する事業のストーリーは、思わず人に話したくなるような面白いストーリーになっているでしょうか?「面白いわけないだろう。苦しいだけだよ」という声が聞こえてきそうです。でも苦しいストーリー、あるいはストーリーにもなっていないブツ切りの目標値の一覧を読み上げるだけでは人は動きません。そのストーリーに一本スジの通った論理と、それぞれの担当者が分担する役割に強い因果論理があって、「これを○○さんがやると△△ができるので、それを活かして□□さんが✖✖すると、それで☆☆さんの出番が回ってくる・・」といった戦略ストーリーになると、話す方も聞く方もワクワクしてくるはずです。「そうすることで、この業績が現実になるのです」という結論に、みんなから思わず拍手が起こるかもしれません(きっと)。
自分が面白くてしかたがない戦略ストーリーであれば、それを伝えるのも苦になりません。それどころか、何度でも自然に人に伝え、共有したくなります。聞いた人も自分の言葉で人に伝えたくなるはずです。
「ストーリーとしての競争戦略」の著者楠木健さんは、「面白い戦略ストーリーのツボ」は「一見非合理」な要素がその中に含まれることだといいます。スターバックスがフランチャイズ運営ではなく、敢えてコストがかかる直営運営方式を採っているのは、どうみても非合理なので他社はマネしません。しかしスターバックスのコンセプトである「(家でも会社でもない)第三の居場所」の演出には直営運営が最も合理性があったのです。このように部分的には「非合理」でも全体戦略の中では「合理的」である要素が、他社にマネされない独自のポジションの源泉なのです。白山の「一見非合理」については次回お話ししましょう。
<白山の"思わず人に話したくなるような面白い戦略ストーリー">
前回の続きです。
前回、筋の良い経営戦略は、「思わず人に話したくなるような面白いストーリー」でなくてはいけないという一橋大学の楠木健教授の話を紹介しました。中期経営計画づくりも同じだとお伝えました。
昔から物語には「起・承・転・結」があります。導入の「起」、それを受ける「承」、話が一転する「転」、そして最後の結末「結」です。この中で何と言っても重要なインパクトは「転」です。楠木先生はその「転」が「一見非合理だけど、全体を見るととても理にかなっている」場合に「思わず人に話したくなるような面白い戦略ストーリー」になると言います。「非合理」に見えるから同業者は近寄りもしません。勇気をふるってその部分だけをマネしても必ず失敗する。したがって競争優位が持続する、という訳です。
スターバックスの「一見非合理」は、フランチャイズ方式ではなく莫大な初期コストのかかる直営方式にしたことでした。アマゾンの「非合理」はEコマースをやるというのに巨大な自前倉庫にとんでもないお金をかけたことでした。90年代のアマゾンが大幅な赤字を抱えながらも倉庫への投資をやめなかったため、投資家たちは「あの会社はすぐに潰れる」と言って離れていきました。しかし、それから30年経った今、全世界に巨大な情報武装された倉庫を持つアマゾンだからこそ、広いセレクションと最速のデリバリーが可能な革新的サービスを世界中の消費者に提供できているのです。
では、白山の「一見非合理」はどこでしょう?
私は時系列的に2つの「一見非合理」があったと思います。
一つ目は、10年以上前に、MTフェルールという「一見勝ち目のない」分野に集中したということです。広い用途がある単心フェルールならともかく、多心フェルールの市場はごく小さい規模でした。既にUSコネックという「デファクトスタンダード」の座を占めている米国企業がいる小さな市場に、全てを賭けようとする白山の戦略は一見「全く非合理で無謀」な戦略でした。
二つ目の「一見非合理」は、約1年前から、それまでの商社に依存する間接営業から、大きな稼働を要する「海外顧客への直接販売」へとシフトしていったことです。
しかし、一つ目については、「ニッチ」という小さな市場の「すきま」も、「グローバル」になると裾野が広がり、規模の経済が成り立つという「広い視野における合理性」があったのです。データセンターやAIの進展など当時予期しない需要増もありました。
二つ目については、海外のお客様企業とのダイレクトなコミュニケーションが信頼を深め、ニーズを肌で感じて開発や量産に即応したくなる動機づけになり、商社にマージンを取られることなく、製品単価が大幅に大きくなるという合理性があったのです。
<「目的」と「目標」の違いを知る>
「目的」と「目標」は違います。
「目的」とは会社の存在意義であり、個人の存在意義です。一方、「目標」というのはそれを達成するための手段で、客観的な評価のできる形式のものです。売上高や利益、シェアなどがそれにあたります。個人でいえば、人生の途中で通過するライフイベントです。
企業にとっての「目的」は「何のためにわが社は存在するのか」という問いに対する答えですから、商品やサービスを通じて社会に貢献すること、そこで働く人をはじめ、お客様やパートナーや、地域の人たち、すなわち関わりのある全ての人たちを幸せにすることなどです。もっと大きく世界平和に貢献する、という目的をもっている会社や組織もあるでしょう。
売上高や利益、シェアなどは「目的」ではなく、「目的」の達成度合いを表わす「目標」であることを忘れてはなりません。しかし、実際に売り上げ目標を立てて、競争して、それを数字で評価されることを繰り返しているうちに、売上を上げることが「目的化」してしまいがちです。売上の数字を「目的化」してしまう会社や組織では、ノルマを達成した途端に、どうせ来月も大変になるのだからと、以降の売上を来月に回したりします。
しかしお客様や社会に貢献することが自社の目的だということが徹底されている会社では、ノルマなど関係なしに、「もっと貢献しよう」「もっとお客様に喜んでいただこう」「もっと社員に幸せになってもらおう」としますから、数字が達成したからと言って力を抜くことはありません。結果として、意識しなくてもそういう会社の売上や利益は"自然に"上がっていくのです。
この意識を植え付けるためには、自社の製品やサービスが、どのように社会に貢献しているか、自分のやっている仕事が、どのように社会の役に立っているかを語れるようにしておかなくてなりません。すなわち自分の「仕事の意義」を語れなくてはなりません。
三人の石工職人の話を思い出します。
旅人が途中で出会った三人の石工職人に「あなたは何をしているのですか?」と聞くと、
一人目の石工職人は「カネを稼いでいるんだよ」と答え、二人目の石工職人は「国一番の石工になるために技術を磨いているんだ」と答え、三人目の石工職人は「村の皆の心の安らぎの場所(教会)を創っているんだ」と答えたという話です。三人目の職人だけが、キチンと自分の仕事の意義(ビジョン、パーパス)、すなわち「目的」を語っていますね。
「目的」と「目標」の違い、分かっていただけましたか?
2025/6/14
文責 米川 達也