今回のレポートを執筆させていただている現在で、株式会社HeartLanguage(以下、当社)は5期目を迎えています。経営者としても5年目に入り、経営者の"年齢"としてはまだまだ若い方ではありますが、経営者暦で見れば、初心者を脱したくらいでしょうか。もはや、若手起業家かスタートアップという言葉に違和感を感じざるを得ません。
そんな中、先日公正取引委員会から1通の面白い書類が届きました。それは「スタートアップの取引慣行に関する取引実態調査について」というものです。この調査の目的としては、スタートアップのノウハウ・知的財産が公正に取り扱われているのかなども含め,公正かつ自由の競争の促進という観点から,取引慣行の実態を明らかにするためなのですが、そもそも創業してから5年目を迎え、かつ金沢を拠点に地元企業のWEBまわりの受託制作やマーケティングサポートが主な事業の当社がなぜ、スタートアップ企業という位置づけで、本調査の依頼が来たのかが至って不思議でなりませんでした。さらに当社の資金内訳としてもベンチャーキャピタル等からの出資はないため、もはやスタートアップというカテゴリーに入るとは思えず、私自身も、昨年度より「若手起業家」や「スタートアップ」「ベンチャー」といった類の言葉を使ってはいないのです。
少し前置きが長くなりましたが、今回は起業家精神(アントレプレナーシップ)についてではなく起業の目的と言いますか、起業のスタイルについてお伝えできればと思います。
先ほどの公正取引委員会の話によれば、スタートアップの定義は「スタートアップには,決まった定義が存在するわけではありませんが,創業してから数年から10年程度であり,アイデアの創出により,革新的な事業に取り組んでいる事業者とされることがあります。」(令和元年12月11日付 事務総長定例会見記録より)とのことです。このような定義であれば、当社もスタートアップという位置づけには納得ができるのですが、これから起業を志すものにとっては自分自身がどのようなビジョンを持っているのか、それにはどのような起業スタイルが合っているのか、ということを把握することは起こした事業の成否に極めて重要なことです。さて、スタートアップの定義に話を戻しますと、決まった定義はないものの「単なる「新興企業」を指すのではなく、シリコンバレーで見られるように、主に新しい市場やビジネスモデルに挑戦している、つまり「革新的な事業」に取り組む企業を指す。」(引用元:https://blog.hubspot.jp/what-is-startup)がしっくりきます。つまり、単なる起業との違いはひとつの革新的なプロダクトやサービス、ビジネスモデルを軸として圧倒的な速度で成長を目指すということです。この点においては「ベンチャー」とも類似していますが、スタートアップとベンチャーの違い、さらには単なる起業との違いは資金調達の方法に着目するとその違いがかなり見えてきます。
まず「今から起業しよう」と思った時にあなたの設備資金や運転資金といった初期費用はどこから捻出されるのでしょうか。自己資金なのか、借入金なのか、出資金なのか。今ではクラウドファンディングという手もあります。もちろん初期投資がほとんど掛からないビジネスもありますが、自分自身が描いた事業には少なからず初期投資が必要になってくるのではないでしょうか。スタートアップの定義は「主に新しい市場やビジネスモデルに挑戦している、つまり「革新的な事業」に取り組む企業」でした。このような革新的な事業を行なうことを目的に起業しようとする場合、金融機関からの借入はまず期待できません。なぜなら金融機関の融資は0(ゼロ)か1(イチ)か融資額と利息の回収の検討がつかないものには実行しないからです。そうなってくると出資者(投資家)を見つけるしかありません。またそのようなファンドをVC(ベンチャーキャピタル)と言ったりもしますが、彼らの目的は、出資額が何倍にもなる大きなリターンを得ることです。その点において、革新的な事業が一発当たれば大きなリターンを得ることができるため、資金の投資先として相応しく、その事業に魅力があれば出資を実行してくれます。
こうして投資家の目的と革新的な事業を成功させたい起業家の目的が同じベクトルを向くことで、創業時の資金調達の課題をクリアした「革新的な事業に取り組む企業」が狭義の意味での「スタートアップ」だと言えると思います。したがって、投資を受けておらず、別の方法で創業時の資金調達の課題をクリアした「革新的な事業に取り組む企業」が「ベンチャー」という位置づけがしっくり来るかと思います。このような観点で見ると良いか悪いかは別として「単なる起業」とは「革新的な事業に取り組んで"いない"企業」と定義できるかもしれません。そのような起業スタイルに出資がつくことは逆に期待できず、事業内容が確実性を帯びたものであれば金融機関からの融資は十分期待できるのではないでしょうか。
さて、当社の話をすると私は学生時代に考案し各賞を受賞させていただいたスマートフォンアプリ事業は「革新的な事業」と言えるものでありました。度々レポートでも書かせていただいていますが、私自身が「この事業で一発当ててやろう」という気が起きることはなく、私の起業の動機は会社をつくりたかったことにあります。それも若者だけで何億円も稼ぐ企業をつくりたかったというのが本音です。このような動機であったからこそ出資という選択肢を取らず、またスマートフォンアプリ事業で成長を目指すことをやめ、事業内容においても「革新的な事業アイデア」が当時は他になかったため、融資を受けることで起業をした経営者が若いというだけの「単なる起業」を私はしました。
これまで、起業の目的、起業のスタイルについて書かせていただきましたが、ここで一番にお伝えしたいことは自分自身の起業の目的に合った起業のスタイルを取るべきであるということです。もし起業の目的とスタイルが異なれば、自分がイメージした企業の成長は実現しません。出資や融資を受けるということは会社にステークホルダーがつくということです、彼らの目的は前述した通りです。もし「革新的な事業」で起業したスタートアップの場合、途中で成長が伸び悩み資金がショートしかけた場合には別事業に転換(ピボット)するための追加の出資が実行されるかどうかは事業の魅力次第なので難しいところですし、融資を受けた企業にとっては毎月の借入の返済があるため、現在の事業を放り投げて革新的な事業に取り組むことも非常に困難と言えます。今年に入って世間を騒がせている新型コロナウイルスの感染拡大への警戒感が再び強まったことにより株式市場は大幅下落しています。経済の波によって出資や融資が渋られてしまう時期というのはありますが、これから起業を志す人にとっては自分自身の起業目的にあった起業スタイル、資金調達を行っていただきたいです。
2020/03/07
文責 田中 瑞規