関連URL 東京大学アントレプレナー道場
先日東京大学のアントレプレナー道場を見学してきました。この記事は、そのときの様子と感じたところをまとめたものです。アントレプレナー道場は自分のアイデアや研究成果を活用した起業・事業化に関心のある東京大学の学生(学部・大学院)、ポスドクを対象として学生の自発性・自主性を発揮させようとして企画されています。本学でもベンチャー・ビジネス・ラボラトリーの池田特任教授によるイブニングセミナーが始まっています。どちらも大学の教科ではなく、出席しても単位は認定されることはありません。学生さんのアントレプレナーに対する興味と新しいことにチャレンジし・成長したいという意欲、さらにはそれに答える先生方の熱意から成り立っています。ぜひこのようなセミナーや道場に関心を持っていただければと思い、ご報告させていただきます。
参加させていただいたのは、道場の3つのコースのうち、最初のステップである初級コースです。このコースは勉強会と位置づけられており、これからアントレプレナー道場を進めていくための基本知識や、メンバー集めが目的となっています。初級コースは4月後半から毎週1回19時から約2時間行われているようです。私が参加した5月22日の参加者は東京大学のいろいろの学部からの学生さん、大学院生、ポスドクの方々約60人でした。このコースを主催されている東京大学の産学連携本部の各務教授によると、勉強会が進むにつれて参加者が増えているとのことです(途中参加可となっています)。
初級コースでは、ベンチャー企業の経営者のよる、モチベーション向上の講義のみならず、経営の基本となる戦略や考慮すべき事項についても講義が行われていました。
具体的な知識は、右図にあるように、資本主義の本質や戦略の本質といった理論的なものに加え、PPM(ProductPortfolio Management)、経験曲線、競争環境の分析といった経営管理手法について基本的な考え方について説明を行われていました。
さらには当日は初級コースの総仕上げで中級コースへのエントリーの条件である、初級ビジネスサマリーを作成するために必要な知識についても説明が行われていました。このような知識としては事業の持つ新規性やニーズについての考察、代替商品との競合に対する対策、事業としての将来性を含めた事業の魅力に関する情報、さらにその魅力や将来性を担保する技術力に対する情報、さらには経営者の能力や資金についても考慮する必要があることを説明されていました。また、説明を行っていただいた東京大学の産学連携本部の白石特任准教授による、「起業にあたっての最重要事項は顧客であり、ついで商品、さらには顧客獲得や商品開発のプロセス、そしてそれを保証する金」という説明には、思わずうなづいてしまいました。私には、白石准教授の本音は、「技術は必要条件ではあるが十分条件ではない」ということを参加者に伝えようとしていらっしゃるように見受けられました。ともすれば、技術や理論に傾きがちな大学の研究者(大学院学生やポスドクの参加者)に対する、警告と受け止めました。
この日の参加者の反応について、感じたことを一言。19時に始まった勉強会は白石准教授の静かな講義から始まりました。最初は、参加者はおとなしく白石先生のプレゼンテーションを聞いていました。ところが、チームつくりのリハーサルとして、起業のテーマを持っている人の周りに集まっての話し合いが始まると俄然動きが変わってきました。自分のやりたいことは動物の介護を中心としたビジネスだが、自分の専門からは手の出ない部分に対するところを補足してもらえる賛同者はいないかと、一生懸命説明する人、IT関係のビジネスをやりたいのだけれども、マーケット等でアイデアをいただいたり協力を得られないかと自分の構想を説明する人がいたり・・・・・で、大変にぎやかしいものでした。
さらに、一応の講義が終わってからの各務先生からの次回からの交流会の説明が行われました。ついで交流会のやり方についての相談の時間になると、やり方について先生に相談する人、待ちきれなくて勝手に打ち合わせをはじめる参加者たちとにぎやかしいものでした(写真はそのときの様子です)。その結果、時間を大幅に伸びてしまい、会場施設がクローズされるからということでようやく納得してもらってお開きになりました。参加者のこのような熱意のこもった道場のような方式は、元コンサルティング会社のパートナーをなさっていた各務先生の経営に対する実務的ノウハウ、アセットマネジメント会社のアナリストとして金の取り扱いのプロであった白石先生のノウハウがあって初めてできることです。また、交流会のあとにはオフラインのコースもあるよとの各務先生の話をお聞きするにつけ、道場方式は講義方式に比べて主催者側の負荷も大変だとの感じを受けました。なんらかの仕組み的な方策を考え開催者の負荷軽減も必要かと感じたしだいです。
初級コースは、勉強会といわれるように、アントレプレナーになるための基本的知識を参加者にお渡しするのが目的ですが、中級コースは起業・事業化を構想をつくるためにセミナーを行いとチームの持つ課題を具体的に解決することを目的としているようです。このときは、産学連携本部のメンバーによる支援も行われるようです。昨年のこの様子は URL"http://www.ducr.u-tokyo.ac.jp/dojo/story/story_3.html"に掲載されています。上級コースは中級コースのビジネスプランを審査し、参加者が決まり、合宿でメンターとともに事業化プランを作成します。その後、下記にあるように発表と表彰がなされる予定です。表彰されたチームの喜びの状況は URL"http://www.ducr.u-tokyo.ac.jp/dojo/story/story_1.html"、 URL"http://www.ducr.u-tokyo.ac.jp/dojo/story/story_2.html"を参考にして下さい。注目すべきは、このコースの目的は実際に社会に受け入れられるようにすることであり、最優秀チームに対する設立出資まで検討するところにあります。このあたりのルールは教育としてのプログラムというより、事業化とのプログラムであるところが従来の大学の範囲を超える面白い企画となっているように思われました。そうは言っても、この道場ではビジネスプランのなかの顧客、ビジネスプロセス、利益計画を中心に評価を行い、実際の経営者を決めたり金の調達先までは答えを出さなくていいと言うことで、教育プログラムとしての配慮もなされていました。
2007/6/14 文責 瀬領浩一