開催日時:2007年4月9日 開催場所:丸ビルホール 東京都千代田区丸の2-4-1 主催者:独立行政法人科学技術振興機構 参考URLhttp://jst-entry.homeip.net/entry/
さる4月9日に大学発ベンチャー活性化セミナーが丸ビルホールにて行われました。このセミナーは2006年<3月に策定された3期科学技術基本計画の「大学発ベンチャーをはじめとする研究開発型ベンチャーは、イノベーションの原動力として、新産業の創出や産業構造変革、大学等の研究成果の社会還元に重要な役割を担うべき存在である」、さらに「大学発ベンチャーについては、その創出支援を引き続き行うとともに、創出されたベンチャーが成長・発展するよう競争的に支援する」との趣旨を受けて行われたものである。
全国の大学発ベンチャーの創出は、すでに千数百社に達しており、当初の計画、千社の目標は十分に達成されている。その意味では大学発ベンチャー千社計画の成果を振り返り、ベンチャー政策のひとつの区切りをつけるために行われたようにも見えます。このシンポジュームでは、これからは「わが国の企業風土に合った大学発ベンチャーのしくみや、質の向上の観点からの充分な議論を行っていく必要がある」とのことで、大学発ベンチャーにかかわる問題への対応策や新たな展開についての意見の交換を行うことを目的としている。
大学発ベンチャーの基本的な問題は、パネルディスカッションに参加された文部科学省研究環境・産業連携課長佐野太氏の右の図に集約されている。すなわち、わが国における大学発ベンチャーをとりまく環境は決して楽観できない」、しかし産業の将来を考えると失速させてはいけないので、これからは「量」に偏ることなく、「質」を重視する政策への転換を行わなければならない。 ということで、氏は次のような5つの視点を提案されていました。
1.人材確保・人材育成
2.技術優位
3.競争優位を確保する経営
4.「自立型」で「継続的」な地域発展への貢献
5.撤退と再チャレンジ
特に項目5はこれまでの、行け行けドンドンで千社達成を果たした現状を踏まえ、そろそろ新しい視点を加えていくとの象徴的な視点と見受けけられました。撤退については、現在の必ずしも寛容でない日本の社会風土に鑑み、撤退しやすくする仕組みつくりを目指し、再チャレンジは失敗経験を生かし、新たな発展につなげられる仕組みつくりを目指すと言っています。企業社会では当たり前の原則を、大学発ベンチャーにも取り込んで行くとの決意と感じられました。
基調講演は「イノベーションと大学発ベンチャー」 と題して、総合科学技術会議議員、東京工業大学学長である相澤益男がなされました。
講演資料はhttp://jst-entry.homeip.net/entry/pdf/aizawa.pdfに掲載されているので、詳細はそちらを参照していただきたいが、今なぜイノベーションが必要か、日本のイノベーション戦略、第3期科学技術基本計画における大学発ベンチャーについて、イノベーションの種を作り出すこと、起業しやすい環境の整備、さらにベンチャー関係の人材の育成が重要であるとの説明がありました。その後大学発ベンチャーの問題点の分析や業種分類等についての調査と分析結果についての説明がありました。最後に、東京工業大学でのベンチャーの推進についての説明もありました。 ベンチャー支援の体系として、
1.人員面ではベンチャー支援専門教員として、元経営コンサルタントやベンチャー起業経験者を採用し、この人たちが同窓会と一体となって相談室を開催したり、ベンチャーキャピタル、金融業界、他大学や公共機関や事業会社とのインターフェースを取っている。
2.設備面からは各キャンバスにインキュベーション施設を持ち、創業支援を行っている。
3.制度面からは東工大発ベンチャーの称号を与えたり、大学知財のライセンシングや事業許可で優遇するといった、大学を挙げての支援を行っている。とのことでした。
そのほかにも、イノベーションマネジメント研究科ではMOT教育(専門職大学院)とイノベーション専攻(博士課程後期)を通じて人材育成を行っているとの説明がありました。
東京大学の藤田産学連携本部長より東京大学のベンチャー支援体制についての説明がありました(参照:http://jst-entry.homeip.net/entry/pdf/fujita.pdf)。東京大学では産学連携本部を主体とし、東京大学エッジキャピタル、東京大学TLO(CASTI)との三者連携というユニークな運営体制により、学内の知的財産の発掘・評価にはじまり、起業・事業化に至るまでの支援を一貫して行う体制を確立しているとのことでした。三者が大学発ベンチャーの支援をどのように行っているかを事例を挙げて紹介していただきました。同大学はベンチャーへのライセンス対価としてストックオプション制度を導入してベンチャー企業の立ち上げの資金負担を減らすなどのベンチャー支援策を講じているところなど参考にできる制度がいくつかありました。さらに東大発ベンチャーを下記にあるようにいくつかのタイプに分類しそれぞれの特徴を話されました。ベンチャー支援施設として東京大学アントレプレナープラザの紹介や学生起業啓発プログラム(対象は学生・院生・ポスドク)として東京大学アントレプレナー道場の紹介がなされました。
北九州市立大学の矢田俊文学長からは地域連携の例として北九州学術研究都市の紹介がありました。北九州学術研究都市は2001年に北九州の北西部の35haの広大なゾーンにオープンし、大学の枠を超え地域ぐるみ産学連携に取り組むんでいる様子の説明がありました。そこでは、右図にあるように、九州工業大学、北九州市立大学、早稲田大学の国公私の3大学の1学部3研究科が同一キャンパスに立地し、160名の教員、2200名の院生・学生がそこに集積しているとのことでした。またこれらの研究者の集積を産学連携と結びつけるべく、「(財)北九州産業学術推進機構」が設置され、各組織の繋がりを人とお金の面まで突っ込んで説明されていました。「研究開発は、煎じ詰めると人と金」をしみじみ感じさせる説明でした。この人と金を使った推進機構を中心として、6年間にわたる産学連携、企業立地、大学発ベンチャーの成果についての紹介がなされました。このクラスターにおいて数社の大学発ベンチャーが生まれ、中には相当の売上げを上げる企業も現れてきたことが紹介された。またニーズオリエンテッドな研究開発も重要であることが言及された。
大阪大学の大学院医学系研究科教授でアンジェスMG株式会社取締役もある森下竜一教授より、パネルディスカッションに入るにあたり、「大学発ベンチャーが担う化学技術駆動型の地域活性化」というタイトルで、バイオベンチャーがいかに画期的な医薬品の開発に役立っているかを具体的に説明をいただきました。 大学発ベンチャーは知的クラスターを通じてRD費の増加・Uターン人材の増加やリスクマネーの提供システムの構築により地域社会への貢献ができるとの説明は、説得力がありましたが、その前提として成功事例の構築が重要であるとくだりでは、皆さんため息でした。
最後に大阪大学のベンチャー支援ネットワークの「青い銀杏の会」の紹介がありました。この会は青い銀杏の会は、大学発ベンチャービジネスの創造的な新事業や製品・サービスの開発を支援し、大学間 ・世代間交流、産学官連携推進及び大学発ベンチャーの活性化に関する事業を行うことにより、地域ならびに世界の発展に寄与することを目的としているそうです。東京工業大学や大阪大学の事例は、地域社会とどのように連携をとっていくかの参考になりそうです。
2007/6/15 文責 瀬領浩一