「新技術説明会」はいろいろな大学と科学技術振興機構が主催して、2週間に1回くらいの頻度で開かれています。その目的は大学、公的研究機関およびJSTの各種事業により生まれた研究成果の実用化を促進することです。詳細や最近の状況は、下記ホームページを参照してください。http://jstshingi.jp/
以下、私が参加した2つの新技術説明会の様子と共通の課題をひとつ報告いたします。
一つ目は、6月29日13時30分から行われた、金沢大学の新技術説明会です。主催者によれば約200人の方々が参加されたようです。
写真にあるように、皆さん、金沢大学の発表者の話を食い入るように聞き入っていました。
「新技術発表会」では大学の研究者により、研究の元となっている基本的な知識についての説明、研究領域における問題点の説明、発表の中身である研究内容についての説明がありました。 そして最後にご興味をもたれたかたがたに対する連絡先(TLOの担当者)の紹介がなされました。
発表内容と研究者は 次の6つでした。
「レーザ光照射と切削による簡便な微細溝の形成方法」
大学院自然科学研究科機能開発システム 助教 田中 隆太郎
「金属間に二重結合を持つ新規の有機金属化合物」
大学院自然科学研究科物質科学専攻 助教 中井 英隆
「体内で生分解する除細動用心筋パッド」
医学部附属病院心臓血管外科 医員 飯野賢治
「特徴的な指向性を持つマイクとスピーカ」
大学院自然科学研究科情報システム 教授 西川 清
「特徴的な指向性を持つマイクとスピーカ」
大学院自然科学研究科電子情報科学専攻 准教授 北川 章夫
「走行中障害物即時認識システム(Vision Chip)」
大学院自然科学研究科 電子情報科学専攻 講師 秋田 純一
さすがビジュアル時代を反映し、写真や動画をふんだんに取り入れ、研究者の熱意が伝わる発表でした。中には現物を持ち込んでデモを行われた研究者もいらっしゃいました。 各研究者の発表は30分と時間が限られていたため、それでは不十分な企業さまには、別途研究者との相談会ももたれました。 さらに、すべての研究者の発表の後に、交流会がもたれました。写真のように参加者は研究者を取り囲み、名刺の交換をはじめとして、親密な情報の交換を行っていらっしゃいました。金沢大学としては、関東地方の企業の皆様との貴重な意見交換の場となっていました。
二つ目は、7月6日(金)に行われた、首都大学東京の新技術説明会の様子です。首都大学東京とは旧都立大学、都立科学技術大学、都立保健科学大学、都立短期大学を統合し2005年4月に開学した公立大学と、2006年度(平成18年度)開設された大学院大学「産業技術大学院大学」からなる公立大学法人です。URL:http://www.tmu.ac.jp/
こちらの説明会も大盛況で、写真のように教室にいっぱいの人々が熱心に大学の研究者の説明に聴きいっていました。
こちらの方は、地の利を生かし、朝の10時から始まり、17時ころまでまる1日がかりで、「新技術説明会」が行われました。説明内容は以下の10テーマでした。
「スターリングサイクル機関の効率向上」
都市教養学部理工学系機械工学コース 教授 太田正廣
「車両情報取得システムシステム」
デザイン学部ヒューマンメカトロニクスシステムコース 教授 武藤信義
「通信機器等に有用な超高周波デバイス用ジャイレーター」
都市教養学部理工学系電気電子工学コース 准教授 須原理彦
「同期式ディジタル回路のノイズによる誤動作防止方式システム」
デザイン学部情報通信システム工学コース 准教授 三浦幸也
「優れた衝撃吸収特性を有するポーラス金属」
システムデザイン学部航空宇宙システム工学コース 准教授 北薗幸一
「抗酸化機能を増進する遺伝子、食品、化合物の探索法」
都市教養学部理工学系生命科学コース 教授 相垣敏郎
「薬剤を用いない電気泳動とパルス放電による滅菌処理システム」
都市教養学部理工学系電気電子工学コース 准教授 内田 諭
「身体不自由者用の動作支援手すり」
健康福祉学部理学療法学科 教授 新田 收
「宇宙構造物の制御や宇宙の浮遊物回収等、作業用テザーの張力制御機構」
システムデザイン学部航空宇宙システム工学コース 教授 藤井裕矩
「振動を利用して微小部品を任意に微小移動させる滑り移動装置」
システムデザイン学部ヒューマンメカトロニクスシステムコース 助教 舘野寿丈
上記の写真からも見とれられるとおり、参加者は研究者の説明を真剣に聞いていらっしゃいますし、参加者の数も十分でした。 しかしながら、2つの説明会ともテーマ(説明の内容)と研究者の専門は広範囲にわたっています。研究者の所属ひとつを見ても、両大学の間に共通性はまっ たくありません。研究者による技術説明がこのように広範囲にわたっていると、研究の内容を理解するためには、企業からの参加者は相談会や交流会に参加 し、聞き逃したところや、不明な点、将来の研究方向について個別の話し合いを行わざるを得ません。したがって「技術説明会」での発表の本質は、個別の話 し合いに持ち込むためのスクリーニングの仕組み(TRIAGE)となるわけです。
「技術説明会」がTRIAGEの性格をもっているのであれば、たとえ理解できない理由が参加者にあるとしても、それを超えて説明し納得していただかない限り、目的は達成することができません。 とすれば、参加者の立場を考えて参加者が興味を持つ内容を、注意をひきつけながら説明することは「説明者」の義務で す。 しかしながら、研究者がそのための準備を企画し、効果的なプレゼンテーションを任せるのは荷が重いようにも思えました。 競争的資金を獲得すること が今後さらに重要となってくるとすれば、研究内容を充実させるだけではなく、これからは大学にも、「技術説明会」のようなイベントを演出するプロデュー サーの役割をする人も準備しなくてはいけない時代になってきたようです。注)新たに、そのような人を採用するか、起業支援研修で紹介した、目利き研修のような人材育成プログラムを利用して、右脳の発達した人(情や直感の働く人)のスキルを磨く必要がでてきたようです。
注) いろいろな研究がなされているようですが、研究者が得意な分析は左脳で、経営者の得意な直感は右脳で との研究もあるようです。これでは、普通の研究者(通常は分析的思考に慣れている)は経営者を説得するのは大変なことです。何しろ、経営者は意思決定の 時に、意識にも上がっていない右脳の活動結果を突如認識するといっているのですから。となれば、右脳の発達した人でなおかつ、分析的に説明のできるプロ デューサーが望ましいということになるのですが・・・。
2007/07/09 文責 VBL 瀬領 浩一