7月10日から12日にかけて、石川県工業試験場において工業試験場の成果発表会が行われました。この発表会では、以下のようないろいろな発表が行われました。中にひとつ、株式会社コマツの中谷顧問のお話になった「苦戦楽闘」という特別講演の中に「品質を向上させるためには金がいる」との面白い話がありましたので、プログラムの概要と一緒に紹介させていただきます。
発表会の概要は、以下のようです。
特別講演
「苦戦楽闘のものつくり」
「古九谷と再興九谷窯<吉田屋>について」
研究・指導成果発表/新製品開発事例発表会は工業試験場の以下の各部からおのおの5グループに分けて計20テーマの発表がありました。
繊維生活部
電子情報部
化学食品部
機械金属部
各グループの発表は、たとえば、以下の繊維生活部の例にもあるように、「工業試験場のメンバーからの3つの研究発表と、企業さまからの2つの相談発表」になっていました。
光エネルギーを利用した環境適応型染色システムの開発 沢野井康成
ヘルスケア繊維素材の研究開発 守田啓輔
天然物由来抗菌コーティング材の開発 吉村治
世界一薄く軽い衣料繊維物「天女の羽衣」を用いた商品開発 天池合繊(株)
シートベルトカバー「あや」の開発 (有)ブイティク
天池合繊から、世界一薄く軽い衣料繊維物「天女の羽衣」を用いた商品開発ということで、下の写真のような衣料の発表がありました。 天池合繊につきましては、下記URLを参照してください。 http://amaike.jp/index.html
大量生産の低コスト商品は、ほとんど中国をはじめとして東南アジアの国々にその生産を奪われてしまった。今となっては、生き残るためには、企画提案型の商品を開発し続けなくてはならないとの危機感からこの商品を開発した(ピンチはチャンス)との社長の言葉でした。この言葉は、ベンチャー企業とて同じです。また、プレゼンテーションも見事なものでした。理屈は商品の特徴を説明するものにとどめ、ともかく「まずは商品と会社を知っていただきたい」が前面に出ていました。
写真にあるように、透き通るような布地が実現しましたとの実物を展示しての発表でした。写真おマネキンに見るように、白い腕が透き通るように見えるのがお分かりのことでしょう。このショールや衣服は、7デニール(1デニールは9000mの繊維の重さ(グラム)が1グラムであるような糸の太さをあらわす単位)のポリエステルの糸を使った布で製作したものとのことでした。ただこの商品、製造原価が高く、販売価格も高く設定せざるを得ないとのこと。このため、普通の衣料として売るには高すぎる。現在はファッション業界を中心に、国内外のファッションショーに高級品として出品していただくことでマーケットを開拓中とか。
7月11日のコマツ中谷兼武顧問からは、「苦戦苦闘」ではなく「苦戦楽闘」というタイトルで、元コマツの粟津工場長、コマツキャステックスの社長時代の経験を元に、中小企業の経営者向けの話をいただきました。
氏は、まずコ マツの紹介と建設機械業界について細かく説明されました。昔、コマツがまだ小松製作所とよばれていた時代に、まるA作戦・まるE作戦を支援する情報シス テムの構築でお世話になっていたころと様変わりの状況を、ただただ感心して聞きしていた次第でした。続いて このセミナーに参加されている多くの「ものづくり中小企業の経営者」に 向けての話になりました。氏の中国での会社設立から、今に至るまでの状況について、経験の説明をいただきました。氏は、成功したこともたくさん合ったが、今回はあえてうまくいかなかったことについてお話をしますと、中国の鋳造会社の設立からこれまでの苦労話をされました。参加されていた人々は、時にはうなづきながら、時には目をつぶって話に聞き入っていらっしゃいました。
ベンチャー企業の立ち上げ促進に携わるものの立場で、お話をお聞きしていましたが、特に印象に残ったのは、中国の工場運営時に発生した、品質問題の話でした。ものづくりを行っていると、時には品質を満たさないものも出来たことがある。しかし、品質の改善は一筋縄ではいかなかった。「品質問題はお金がなければ容易には退治できない」ことを痛感したと。品質が悪いからといって、品質管理の先生(専門家)をお呼びして、QC活動をやっただけでは効果はない。ものづくりの中小企業ではきちんとした生産技術を持つことはもちろんではあるが、「品質の根本的な問題解決には、設備の更新でしか対応できない」の一言でした。次のプログラムの中に「鋳造シュミレーションを用いたモノ作り支援」があるのを見越したようなお話でした。
設備更新の費用を出すためには、売上第一主義の経営を行っていてはいけない、「利益を考えた経営」 に徹するべきであるとの話で全体をまとめられていたようでした。何せ、前日と変わって、大きな部屋でのセミナーで、故あって遅れて入室した私には、後ろのほうでしか話を聞くことはできなかった。講師の顔も、画面の細かいところもよく見えない。ベンチャーの立ち上げと同じく、タイミングを逸した参入は、 メリットを十分に得られないとの教訓を身をもって体験した、セミナーでもありました。
2007/07/26 文責 瀬領浩一