大学の基礎研究がなかなか産業界に届かないというのは、産学連携にかかわるものや、社会貢献を行いたいと思っている研究者の共通の悩みではないかと 思います。去る2007年11月1日に行われたCIC大学連合フォーラムの中に、その回答の一つとして、大学発ベンチャを利用する方法の発表がありました ので、フォーラムの概要と一緒に、そのアイデアをご報告いたします。
CIC大学連合フォーラムは、東京三田にあるキャンパス・イノベーションセンター(通称CIC)東京に事務所を構えている大学のいくつかが、合同で大学の研究成果を報告するフォーラムです。本年は第3回ということで、2007年11月1日にキャンパス・イノベーションセンター東京の1階の国際会議室と5階の会議場で行われました。
フォーラムの参加大学(主催大学)は以下の19校でした。
秋田大学・山形大学・常磐大学・千葉大学・東京農工大学・新潟大学・北陸先端科学技術大学院大学・金沢大学・山梨大学・静岡大学・奈良先端科学技術大学院大学・鳥取大学・広島大学・山口大学・愛媛大学・九州工業大学・同志社大学・久留米大学・鹿児島大学
なお、(財)スズキ財団、(独)国立大学財務・経営センター様より御後援を頂きました。
ご参考までにキャンパス・イノベーションセンターは、「知の創造と継承」を担う大学の英知を結集し、これを広く社会に還元 していくための「知の集積拠点」として設立されました。サテライトキャンパス、リエゾンオフィス、多目的スペース等様々な機能を有する施設で現在東京と大 阪に設置されています。 現在ャンパス・イノベーションセンター東京では29大学2独立法人が拠点を構えており、上記フォーラム参加大学は、すべて東京事務所に拠点を構えていま す。また、多目的スペースは国公私立大学等の一時利用が可能になっており、地方の大学の東京・大阪での拠点として利用されております。
フォーラムのテーマは「環境問題と大学の役割」でフォーラムのプログラムは以下のとおりでした。
基調講演
本田における環境問題への取り組みと大学への期待 パネルディスカッション
環境問題と大学の役割 環境技術成果・事例紹介
6事例
環境関連研究成果・取り組み事例のパネル展示
東京農工大の教授より、環境問題の解決の事例として、アルマイト触媒を用いた排ガス処理装置の開発についての発表がありました。
アルマイト触媒の提案の骨子は 従来の充填層反応器は、伝熱性が悪く外部から十分に熱の供給や除去がされにくいため、大きな温度差と伝熱面積を必要としていました。その結果、反応容器が 大型化し、エネルギー損失も大きく、負荷変動への応答が遅いという問題がありました。それに対して、アルマイト触媒研究所の亀山方式では、アルミニウムを 使用したプレート状触媒を使うため、伝熱性と成形性がよくなり、反応器の小型化・軽量化・負荷変動対応の迅速化・低コスト化がはかれるといった特徴がある とのことです。
このような特徴を持った、アルマイト触媒を使った、排ガス処理装置の実用化にあたり、亀山先生らは2つの大学発ベンチャを設立した。一つが「アルマイト触媒研究所」であり、もう一つが「(株)アルキャット」です。「アルマイト触媒研究所」」は大学の研究室の知的財産を核に企業から研究開発の受託を受ける会社です。完成した技術はこの会社を通して企業に技術移転されます。 農工大のホームページによれば、アルマイト触媒研究所の概要は、下記のとおりです。
株式会社アルマイト触媒研究所
代表取締役社長:トラン タン フォン
社長補佐:佐藤 尚雄
取締役:亀山 秀雄 (農工大技術経営研究科教授)
所在地:〒184-8588 東京都小金井市中町2-24-16 農工大インキュベータ1403室
設立年月日:2004年10月1日
業種:研究開発会社
資本金:1000万円
従業員数:11名(役員2名、顧問4名、社員2名、パート3名) 研究員5名(亀山研大学院留学生)
研究開発だけではなく、装置が必要な場合は、その製造と販売は別の大学発ベンチャー「(株)アルキャット」で行われます。アルキャット社のホームページよれば、会社の概要は、以下のようになっています。
株式会社アルキャット
代表取締役:渡辺 博司
取締役:山本 泰宏
取締役:町山 紀郎
監査役:原田 学
所在地 :〒184-8588 東京都小金井市中町2-24-16
東京農工大学工学部 インキュベーションセンタ内1102号室
設立年月日:2001年8月1日
資本金 :15,500,000万円
事業内容: □ アルマイト触媒を用いた触媒燃焼式脱臭装置の設計・製造・販売
□ 上記装置の触媒取り扱い・保守メンテナンス・その他
□ アルマイト触媒に関する工業用脱臭技術の開発・産業化
資本金が大きすぎるような気がします。たぶん万円ではなく 円ではないかと思います。
文部科学省の浦島邦子氏より、「イノベーション25」 に基づいて、我が国の科学技術の振興策の説明がありました。細かい内容は官邸のホームページを見ていただくとして、冒頭にお子様向けイノベーションのニュースサイトの紹介ありましたので、以下にチョット受け売りです。
プレゼンの説明は、きれいな図面と一緒になされたのですが、コピーするのもはばかりますので、絵を見たい方はここをクリックしてしてください。その中で「街のイノベーション」で取り上げられていたのは以下の10個です。
ここに上げられている10個の技術は、キッズのための夢物語ではなく、実際に日本の将来に必要な技術です。ベンチャを目指す人たちが、新しい事業領域、もしくは技術領域としてニーズ発見のヒントに使って見るのも面白いのではないでしょうか?
本フォーラムのパネルディスカッションで金沢大学薬学部の早川先生が、21世紀COEプログラムの成果を踏まえて、「環日本海域の環境計測と長期・短期変動予測」を発表されました。
日本・中国・韓国を巻きこんで、日本海を中心とする環境汚染の現状を図やデータを持って説明されるのを聞いていると、日本の環境問題はもはや国際問題になってしまったようです。
日本の高度成長期に川上の企業が、川を汚染し、川下の住民が深刻な公害に悩まされたと同じことが起きているようです。すなわち、発展著しい中国や韓国の風上企業が大気を汚染し、風下の日本(それも主に日本海側)の住民が公害に悩まされることになるようです。
今後、汚染の程度がどれくらい進行するのか、自然の浄化の能力がどれくらいあるのかは定かではありませんが、何らかの備えをしておくことくらいは、必要な ようです。過去の公害問題や薬害問題のように、産業の振興や政治問題化を恐れるばかりに、問題を先送りすれば、問題が取り返しが付かないくらい深刻になる かもしれません。そして、水俣病や薬害エイズのように最後の手段としての訴訟問題が起きてから、対策を採るはめにならなければいいのに、と祈るばかりで す。
2007/11/09 文責 瀬領浩一