14.失敗(ミス)のコスト

14.失敗(ミス)のコスト

-組み込み総合技術展での「危険学のすすめ」より-

組み込み総合技術展での「危険学のすすめ」より

 さる2007年11月15日、パシフィコ横浜の展示ホールならびに会場センタにて「組み込み総合技術展2007」(Embedded Technology2007)が開催されました。主催者の発表によると、本年の展示会では、組み込みソフトウエアの開発に係わる400社を超える企業が 参加されたそうです。さすがの大会場も参加企業の皆さんで埋め尽くされていました。
 組み込み総合技術展は「マイコンシステム&ツールウエア展示会」(通称MST)を引き継ぎ今回、21回目を迎えている展示会だそうです。
 展示されたのはデジタルコンシューマ(DTV、DVD,デジタルカメラ、ホームエレクトロニクス等)、オートモティブ(カーエレクトロニクス、ナビゲーション、ITS等)、FA/ロボティックス(産業用コンピュータ、生産自動化システム、各社ロボット等)、モバイル/ユビキタス (携帯端末、RFID、ワイヤレスネットワーク)の4分野です。
 さらにリコー常務執行役員の国井秀子氏による「組み込み系ソフトウエアのパラダイムシフト」、トヨタ自動車常務執行役員の重松崇氏の「組込みソフトウ エア開発におけるトヨタ自動車の挑戦」といった基調講演等、100個以上のセッションがもたれました。その中かにはベンチャーに関連しそうな講演がいくつ もあったと思いますが、今回は、畑村氏の「危険学のすすめ」について、皆様にご報告したいと思います。

危険学のすすめ

 「危険学のすすめ」は「失敗学」の権威で、工学院大学教授(元東京大学教授)の畑村洋太郎氏が講演をされました。畑村氏は、最近の機械はほとんど、組み込みコ ンピュータシステムで制御されており、機械システムの安全性は、組込みコンピュータの設計次第で決まるといってもいいくらいである。今回の講演依頼には2 つ返事で受けさせていただいた。これまでの失敗学を一歩進めて危険学として、発展させていきたいと、本講演に対する意気込みから話が始まりました。

今回の講演の内容は以下の5つでした。
1.機械と事故
2.人間と機械
3.どうすれば危険が消えるか
4.危険学プロジェクトとは
5.危険学プロジェクトの事例

 機械と事故の関連について:
 そもそも機械(システム)の企画を行っている時には、うまくいったときのことしか考えていないのがほとんどである。こ れは、機械は本質的に安全なものであるとの神話があるからではないか。現在順調に動いている機械(たとえばエレベータ)にしても、たまたま、現在使用して いるのが「苦労の末見つけた安全の範囲」に入っているに過ぎないということを忘れているためである。結果としてまずくなった時の設計は十分ではなく、時に は意図的に考えないようにしているようにも写る。さらに事故が起きた後の専門家の対応も、自分の専門の範囲で論理的(机上の)な話をしているだけで、それ を実現するための具体策、もしくは現場感覚が不足していると指摘されていました。

 人間と機械とのかかわりについて:
 コンピュータの進歩、ユビキタスの進展とともに、これまで人間が行ってきたことがどんどん機械に移行していき、 人間の命を守るための個人の知識まで、周りの機械に移る傾向にある。その結果暗算が出来ないために、結果の規模や大きさが直感的に判断できなくなっている 人、地図感覚がなく何か事があっても、カーナビ等から適切な情報が得られなくなると行動のよりどころを失う人、字の選択はできるが字がかけないため、観光 地から葉書すら出せない人が出てきそうです。従ってこれから機械システムを考える人は、今まででは、考えれないようなミスを犯す人間が出てくるとの前提で 計画する必要があるとの事でした。(このあたり、ベンチャーが活躍する余地がありそうな新しい世界です)

どうすれば危険が消えるか(減るか)

 この後は、私の創作をも交えて、危険をなくするための2つの方針を書いておきます。

1.危険のありかを知り、それを関連する人に知らせる。
  (設計者はシステムの設計にあたり、利用者にはシステムを使う時にどこで失敗を起こしそうかを知らせておく必要がある。このためには、どこにリスクがあるかを書き込んだ危険マップを作成し、関係者に配布しておく必要があり、関係者はそれを守るよう訓練しておく必要がある)。
 これが意外と難しい。たとえば、駅にはエスカレータが急停止した時に利用者が転げ落ちることがないように、「エスカレータに乗る時には、手すりに掴まるこ と」との注意がきがあとのこと。しかし、現状は2人並んで乗れるスカレーターの場合、東京では、急がない人は左に立ち、急ぐ人は右を歩いて昇降する習慣が ある(右の人は手すりを掴んでいない)。このような現状を見る時、エスカレータに人が挟まった時、急停止する機構を作っていいものか迷わざるを得ない。混 んでいる時にそんなことをすればきっと大事故になる。気の毒だがエスカレータに挟まった人が大怪我をしても、急ブレーキをかけないほうが被害が少なさそう である。(その代わり施設管理者はマスコミの餌食になることは最近の報道を見ればわかる) 正解は一人しか立てない幅の狭いエスカレータにすることかも知れない。(そういえば最近追越が出来ない狭いエスカレータが家の近くの駅にも出来た。混んでる時はいらいらしながらケチと思っていたが、深い意味があったのだ)

2.危険の程度を知り、対策を立てる

 畑村氏の話によると、発生確率が高い事故(ミス)は、前もって対策が取られる事もあり、たとえ発生してもたいした被害にはならない。一方、発生確率が低い事故やミスは、発生しないものと処理され、対策の検討もされていないのが実情である。

 ところが、そのようなものの中にも、発生すると人間の死亡に繋がるような重大な事故にいたるものが含まれている。これまでは、そのような、発生確率 の低いものは、たとえ発生が確認されていても、例外として処置されてきた。このような例がガスストーブによる死亡事故や電機製品の火災による死亡事故であ る。

 最近はこのような事故も、報道の対象となり、場合によっては大変な費用をかけて、回収や、修理に応じなくてはならない状況となっている。大企業の場 合は、マスコミにたたかれながらも、何とか持ちこたえられかも知れないが、ベンチャー企業のように、規模が小さい場合には、事業の継続そのものが危機に瀕 することも考えられます。
 危険を何を持って評価するのか、危険の単位についても社会情勢を鑑みながら決める必要があります。
 死亡者数
 事故補償の費用
 事故の件数
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 どの単位を取るかにかかわらす、危険度は次の式で表されます。  
 危険度=発生確率×被害の大きさ

ビジネスチャンスはどこに

 危険学について、畑村氏は、危険学プロジェクトを2007年4月7日に立ち上げられ、活発な活動をされています。またニュースに注意していれば、ほかでも、同氏によるセミナーの情報が入りそうな状況です。

 コストが発生する場所は、それを改善するビジネスチャンスがある場所でもあります。したがって、危険度に関する検討を行っておけば、新規ビジネスの危険度が低くなることは当然ですが、危険度を避ける技術や考え方そのものが強みもしくは商品の核と なって、既存ビジネスをまったく新しいビジネスへと転換させることが出来るかも知れません。ベンチャー企業がブルーオーシャンを開拓するための強力なツー ルとなりそうな予感がするエリアです。皆様の固有のノウハウと組み合わせて、ベンチャーの成功に役立てていただければ幸いです。

2007/11/29 文責 瀬領浩一