VBL地域横断型共同研究セミナー(2007.12.19)
以前お知らせしたように2007年12月11日に、起業支援部門主催で、V・B・Lセミナ第二回領域横断型共同研究を探るが開かれました。
発表の様子は、上の写真のように、非常に家庭的な雰囲気で、あたかも「同好の志集まる 」という感じでした。
自分の研究の成果を、参加された皆さんにもわかるようにと、一生懸命説明されていました。普段の学会の発表であれば説明する必要も無いような専門用語も一 つ一つ丁寧に説明され、研究の背景等についても随分時間を費やされていました。勢い研究内容そのものについての説明時間が不足し、フラストレーションが溜 まった人もいらっしゃとのでは無いでしょうか。
所詮ベンチャーの立ち上げは、研究者のようなスペシャリスト・ノウハウを持つ人、経営者のようなプロフェッショナル・ノウハウを持つ人、さらには経営資 金の供給をできるキャピタリストの三者の共同作業です。これら、普段はまったく異なった世界に住みノウハウ・スキルの異なった三者が協力して、商品を開発し・顧客に売り込む組織 をつくるのが、ベンチャを志すものが第一番目にやらなくてはいけない仕事です。このあたりの自分の決意をまとめて見ようというのが前にもご紹介した、起業の計画(夢を実現する創業)です。慣れないと結構大変ですが、ベンチャーを志すもの一度は纏めておくのがよさそうです。
総合司会は、がん研究所がん病態制御教授 向田直史が担当し、プログラムの式次第は以下のとおりでした。
時間 | 発表・討論タイトル | 担当者 |
16:00~16:05 | 開会の辞 | 池田 穂高 起業支援部門 特任教授 |
16:05~16:30 | DDSを目的とした高分子材料の開発 | 山岸 忠明 (工) 大学院自然科学研究科先端機能物質 准教授 |
16:30~16:55 | 小腸トランスポーターによる薬物輸送とその応用 | 加藤 将夫 (薬) 大学院自然科学研究科分子作用学 准教授 |
16:55~17:20 | イオン液体と二酸化炭素を利用した抗炎症剤の合成 | 比江嶋 祐介 (工) 大学院自然科学研究科生産プロセス 助教 |
17:20~17:45 | 整形外科領域における萌芽的研究 | 白井 寿治 (医) 大学院医学系研究科機能再生学 助教 |
ブレイク(5分) | ||
17:50~18:15 | 消化管免疫応答に影響を及ぼすトウガラシ成分とTRPV1受容体 | 高野 文英 (薬) 自然科学研究科生理活性物質科学 助教 |
18:15~18:40 | 患者別骨強度解析の骨粗鬆症診断およびインプラント開発への応用 | 坂本 二郎 (工) 大学院自然科学研究科知的システム創成 准教授 |
18:40~18:50 | 総括 | 向田 直史 がん研究所がん病理制御 教授 |
コーディネーターは
自然科学研究科生理活性物質科学 教授 起業支援部門長 太田 富久と
起業支援部門 特任教授 池田 穂高、起業支援部門 特任教授 瀬領 浩一でした。
共同研究の可能性のあるもの2つに、賞金20万円が授与されます。なおこの審査には、以下の3人が当たりました。
向田教授(V.B.L委員)
池田教授(V.B.L特任教授)
千田特別顧問((北陸キャピタル(株))
受賞の二人は、整形外科領域における萌芽的研究の 白井 寿治 助教(医学研)と患者別骨強度解析の骨粗鬆症診断およびインプラント開発への応用の 坂本 二郎 准教授でした。
白井先生からは、整形外科領域における萌芽的研究として以下の7つのケースをお話いただきました。
1.確率共振現象を利用した延長仮骨の成熟促進
2.液体窒素処理自家骨移植(左の図参照)
3.カフェィン併用化学療法
4.悪性腫瘍の血行性転移
5.遠心性トレーニングマシーン
6.近赤外線光の細胞活性作用
7.人工股関節置換技術の問題点
どれも、私には新鮮で面白い発表でした。幼少期に下肢などが短くなった骨に振動を与えることにより、骨の成長を促したり、上図にあるように液体窒素で凍結壊死した腫瘍組織細胞を治療に使うなど、信じられないような治療法の研究が行われているのは驚きでした。あらためて骨は人間の形を維持する臓器なのだと 思い知らされました。
これからの老齢化社会を迎えるにあたり、動けない老人が増えそうな時代が来そうです。生活の品質を上げる研究エリアでニーズも十分あり、構造力学の知識を持った研究者の技術や技能は、いくらでも役に立てられそうです。
坂本 二郎 准教授(自然研)の「患者別骨強度解析の骨粗鬆症診断およびインプラント開発への応用」はまさに、構造力学の権威が骨の強度を解析する技術をベースに、骨粗鬆症診断に役立たないかを追求したものでした。
最初に、見せていただいた人工関節のプレゼンテーション図はどこが人工なのかと見まがうばかりの骨格標本そのものでした。これらの骨格は人間の形をしたロボットを作るときには、そのまま使えそうな感じでした。金属もしくは炭素繊維等の強化材の入ったセラミック材料を使ったロボットの骨格をつくれば、それ自体は十分強度のある人工骨格は作れそうです。そのような骨格から、患者に必要な部位を切り出して人間に移植すれば、まさにインプラントです。残る構造上の問題は人工骨格のモデルからどの部位を取り出すのがもっとも適切で、患者本来の組織との親和性をどのように保つか、素材の自己際組織能力をどのように作り出すがわかればいい感じです。
坂本先生の方法は患者の骨の形を、CTスキャンで測定し、3次元応力解析の技術を使って、人体への負荷を計算する方法です。図はこのようにして、形状モデ ルをコンピュータに再現し、そこに力を加え圧縮時の各部の応力を計算したものです。患者の身体の特徴や形状・特性(たとえば骨の密度分布)に応じて、圧力分布が変わっているのがお分かりかと思います。この治療では、患者様ひとりひとりにあわせた、インプラントをつくることになります。適合した計算アルゴリ ズムや特性データの収集は、今後経験を積めば向上させることができる技術的問題です。本質的な問題は
1.患者の骨格を測定するためのCTスキャン等による放射線被爆の問題(おりしも12月14日の朝日新聞にがん原因「2%がCT」との記事があり、CT検査の必要性は認めつつも、健康への悪影響を及ぼしかねないとの懸念を報道していました)
2.人間の成長や老化に合わせたインプラントの構造を変形させるといった部材変形と機構維持の問題(成長もしくは自己変形する素材)
3.治療の現場の技術者に応力解析の知識をどのように習得してもらうかといった、技能訓練の問題等まだまだ一般に普及するには時間がかかるように感じました。
とりあえずは、何らかの特別事情があるケースを手がかりに、問題を解決しながら対応する必要がありそうです。さらには、骨に成長する汎用細胞との共存といったもっと、難しい問題を解く必要性が出てくるかもしれませんが、何か期待が持てそうな発表でした。
その他の皆様の発表も、それぞれ面白いものでしたが、スペースと私の知識の限界もあり、割愛させていただきます。発表者の皆様お許しください。
向田教授が最後の総括で述べられていましたが、「医学と薬学でも考え方や基礎知識に違いがあり、医学でも臨床医とそれ以外の医師でも考え方や基礎知識の違 いがあるのが実情である。特に工学部の皆さんと医師の考え方や基礎知識の違いが大きいように見えるので、医療関連の研究を目指す時には、その技術を使う医療現場に出てそ の実情や法規制等を知った上で計画を立て欲しい、そうすれば研究成果の実施可能性の高い研究に資源(時間、人、もの、金)を集中させることができる」との 言葉がありました。医学・工学・薬学といった実学に近い研究者の存在意義は、実社会のニーズに貢献することがミッションのはずです。自分のシーズがどのよ うな社会ニーズに貢献できるかは「ビジネスチャンスはどこに」(シーズとニーズのマトリックス分析)のようなことをやってみればわかります。
応用科学(もしくは実用科学というべきかも知れない)の研究者に必要なことは、自分の研究が使われているもしくは使われるであろう、ビジネスの現場を徹 底的に調査し、理解することであろう。現在我々研究者を取り巻く環境は、研究の社会的価値を理解でき、価値が高いことを理解してもらい、関係する人が納得できるように訴えることができれば(これはまたこれで大変な技能ですが)、少なくとも研究に必要な資金は手に入る時代になっているように感じます。各種技術支援団体やベンチャ・キャピタル等は、彼らの立場でそのような儲け口を必死で掘り出そうとしています。
2012/12/19 文責 瀬領浩一