前のレポートで報告したようにモノづくりコンファレンス2008のテーマは「ビジョン実現を支える次世代経営力」でした。そこでは、製造業にこれから必要になることは「機能の実現、コストの低減だけではなく、消費者の感性に訴える」こどだとしていました。「ものづくり国家ビジョン」によれば、「消費者の感性に訴えるために、共創、伝統、素材、技術、環境」をテーマにしたイノベーションが必要であると言われています。
このイノベーションに必要なシーズの新たな提供源の一つとして期待されているのが、これまで高度の知識を持ちながらあまり事業化に関心をもってこなかった大学や公的研究機関ではないかと思います。ということで、最近はこれまでのやり方の反動とも見えるくらい、産学官連携についての各種の施策が実施され始められました。正に第二次世界大戦末期の「学徒出陣」ならづ「教徒出陣」の様相です。ただ、「教徒」側が交付金の減少を補うために、このまでと同じく研究費の足しになればといったの気持ちで、公的資金を利用している限り、「教徒出陣」は思ったほど効果が出ないかも知れません。そして、ついには第二の公共事業費の無駄遣いと非難され、費用削減の対象になルカも知れません。
一方、産業界の役に立ち、投資に数倍のリターンを上げることが出来れば、これはいい方法だと研究費が集まり、潤沢な研究資金を必要とするような、高度な研究すら活発に開始できるチャンスでもあります。今回は、起業という視点からこのチャンスを生かすアイデアを、見ていきます。
現在の大学で実施されているの起業支援は図のようなものです。
新学期が始まるごとに告知される、学部生向けのベンチャ関係の教育カリキュラムや、大学院のMOT塾のような教育プログラム。
イノベーション創生センター等が開催する、知財セミナや起業化塾、ベンチャコンテストといったイベント型プログラム。
JST等公的機関が募集している、3月に締め切られたシーズ発掘試験、6月に締め切りがくる「革新的ベンチャー活用開発」プログラムといった各種補助金制度。
大学の保有する設備の利用状況を見て募集がかかる、共同研究センター、インキュベーション施設、ベンチャラボラトリ等の利用案内。
コーディネータやプロデューサと呼ばれる人による、研究プロジェクトの支援。
等々、いろいろな目的を持った支援策が、いろんな部門から提供されています。
さらに最近「金沢大学イノベーション創成センター(旧 共同研究センター)1階セミナ室」にて「産学官連携に係る国・県・ISICO等の助成金制度説明会」も行われ、国の制度、ISICO((財)石川県産業創出支援機構)の制度、県の制度の説明会も開かれています。
こんなに多くの支援策があるのだから、さぞかし大学から多くの起業がなされているかというと、現実はそれほど楽観できるものでもありません。出口から見ると、何か問題が隠されていると考えざるをえません。
起業支援と研究開発活動をつないでいくと、左のような図になります。同図では、起業に視点(焦点)を当てている関係で、人材育成関係や、シーズ発掘試験研究のようなものは、周辺に配置されてはいる。しかし、これらが起業と直接矢印で結ばれています。すなわちにあるとこの図の作者(実は私)、シーズ発掘試験研究と起業とは密接な関係考えていル事が分かります。
このように、多くの部門から、各種の情報が送られてくるとき、それをどのように使いこなすかは、受けての考え方や対応の仕方次第です(この図は受け手によって異なったものになると言うことです)。しかしながら、すべての研究者が十分に時間をかけ自分に必 要な情報だけをもらすことなく自前で集め整理出来ることが理想かも知れません。しかし多くの場合、研究者にはそのようなことに一番興味があるわけでもないし、そのための十分な時間があるわけでもありません。そのようなときに、研究施設・設備と研究・研究者を結び、各種研究資金の確保やその成果の有効利用を図ることに活躍するのは、コーディネータとかプロデューサと呼ばれている人たちです。これまでの組織管理者や事務の人たちがこの仕事を行うのはそれなりに難しいのが現実です。コーディネーションを効果的に行うにはそれに必要な知識を習得し、実務を通じた経験が不可欠です。さらに、シュンペーターが言っているように、「イノベーションが新結合」であるとすれば、その数を最大にする仕組みの基本は「ネットワーク型結合」です。これまでの、階層関係や永続的な関係をベースにした仕事のより方ではうまく行きません。必要な時に必要に応じて集まり繋がる。そんなグループがネットワークの中に自然と作り上げられていく。そんな仕組みを用意しておくことが必要と考えます。
このような、各種のプログラムを利用して、自分の研究を起業に結びつけていくとどのようになるかをシナリオ風にしたのが、上図です。ここではシーズ発掘試験研究の成果を例にとって、それをどのように生かしくかについてのシナリオを絵にしたものです。前の図をもとに、これから起きる可能性がある線(必ずしも、研究者やコーディネータが望むものとは限らない)を選んで結んで作成したものです。
このあとは、シーズ発掘試験から、起業にいたるシナリオの概略例の説明です。(文字の色と、戦の色を合わせてあります)。
シーズ発掘試験の研究成果を、実用化に持っていく時、最初の関門はベンチャビジネス型研究を行うのか、企業との共同研究のどちらに進むかです。緑色の線はベンチャビジネス型研究です。公的資金やそれに近い企業の競争的資金を確保して事業化へ向けての研究(実態は開発)を行います。この段階で参加された人は、この研究成果はどうであれ、専門知識と起業家知識を手に入れることになるので、大学のひとつの目的である、訳に立つ人材の育成には貢献することになります。研究結果が思わしくなければ、このやり方は断念し、別の道たとえば、共同研究に進むか実用化を断念することになります。
ベンチャビジネス型研究が成功したらいよいよ起業です。起業に当たっての注意点のいくつかは既に「起業の計画」にもアップしてあります。そちらをご参考に、プロジェクトのすすめ方を吟味することになります。
起業の後事業が急成長する可能性が出てくれば、ベンチャ資金の獲得も可能になり、将来はお金も名誉も獲得といった最も望ましい結果になります。ただなかなか難しい道のりです。志半ばにして失敗し、お金を儲けるどころかお金を失うこともあるかもしれません。そんなことにならないよう、十分準備と、適切な人材の確保を心がけなくてはなりません。(プロヂューサーの実力発揮の場所です)
一方、シーズ発掘試験研究の成果を実用化したいという企業が現れた場合は、その企業との共同研究になります。この場合は、大学の人材・設備・機器に加え、共同研究先の企業の人材や設備・機器も利用できることになり、成功の可能性はあがります。共同研究企業がベンチャ企業であれば、「革新的ベンチャー活用開発」と言った資金援助を受けること可能か(審査があります)も知れません。
共同研究が成功した場合は、共同研究先企業と協力して、その企業の製品改善、新製品の開発、新規事業の発掘もしくは関連企業として事業化等が図られます。企業に協力して、開発を行った場合はその企業と事業化を図るのは自然でしょう。共同研究先が歴史のある起業であれば、マーケットも十分確保できるであり、その点からも貢献度が大きくなる可能性が期待できるシナリオです。
上記のように、シーズ発掘から起業にいたるまでには、分岐点があり、いくつかの道が考えられま。その時々、研究の進み具合、周りの人々の研究の進捗度合いによっても、自分の研究の実現度は変わってきます。これらの状況を勘案して、研究者とともに必要な人々と連絡を取ったり、交渉したりして実用化へ向けてリードしていくのが、コーディネータとかプロデューサと言われる人達です。研究者とはまったく資質や行動特性を持った人ですので、研究者に任せるのは得策ではありません。大学や研究機関がイノベーションをビジネスとする組織として生き残っていくためには、人事異動をしてでも人材を育成し必要人数を確保するか、間に合わなければお金を払って専門組織に依頼してでも強化すべき、今すぐ必要な、重要なプロフェッショナルと感ずる共このごろです。
文責 瀬領浩一