今年もまた(昨年の報告はこちら)、テクノトランスファーinかわささき2008が7月9日から11日にかけて川崎市のサイエンスパーク(KSP)で開かれました。会場には左の写真のように、涼しげな看板が立てかけられていました。
昨年と、今年で何が変わっているのだろうかと、興味新進で、除いてきました。展示会場の基本レイアウトは、ほとんど昨年と同じでしたが、展示内容には、いくつか変わったところも見受けられました。
会場のかながわサイエンスパークは1989年に、日本最初のサイエンスパークとして誕生したもので、ハイテク型企業や研究機関が集積する日本の科学技術創業拠点の一つです。 都心から約16kmと立地条件に恵まれ、交通の便もよく、研先端的企業や大学・研究機関が高度に集積している都市型サイエンスパークです。また、国内最大級のビジネスインキュベータとしての評価も高いところです。この施設は、次に示す3つのビルから成り立っているそうです。
● R&Dビジネスパーク・ビル
12階建ての大型研究所マルチテナントビル。
● イノベーションセンター・ビル西棟
郵便局、銀行ATM、書店、コンビニエンスストア、各種飲食店といったファシリティが充実し、宿泊施設やケイタリングなどに役立つホテルKSPとともに、解放された都市空間として、研究者の憩いの場となっています。また、国際会議、レセプションが可能なKSPホール、各種セミナーや会議に便利な貸し会議室などもあります。
● イノベーションセンター・ビル東棟
研究所仕様の6階建ビル。
昨年は、起業の方法論やコンサルティングについての展示がいくつか見られましたが、本年はこれらに対してほとんど目立った展示はありませんでした。
代わって、身近なものや分かりやすい製品の展示が多く見られました。
たとえば、写真に展示されているものはペンダントのようにも見えますし、先にぶら下がっているものはUSBメモリーのようにも見えます。 しかしこの商品は、補聴器です。ずいぶん従来の耳にかける補聴器や腰につける補聴器とは様子が違います。
これからの、高齢者社会を考えると補聴器の需要は増えることは確実です。しかし、それでもいかにも補聴器つけていますというような大きなものは嫌だし、かといって記憶力も減退している中で、小さすぎて紛失してしまうのももったいないと考えるのも当然です。こんな装飾品のような補聴器であれば、それなりの大きさがあっても気にすることなく使えそうです。
今回はこのほかにも、軽くてやわらかいプラスチック(このあたりにハイテク技術が隠されているのかも知れません)で出来た子供と遊ぶ道具等、身近で確実に需要がありそうな製品の展示がいくつか見られました。
テクノロジートランスファーの展示会もいよいよ論理や技術から商品や製品と言った用途や中身に重点が移ってきたようです。技術は裏に隠し、需要を前面に出した展示(デザインで勝負)を行う時代のようです。
こちらの写真は、紙による記録・表示の時代から、コンピュータによる情報記録・表示の時代への移行を感じさせる電子ブック・電子カタログの展示コーナーです。社長自らお客様に新サービス・新商品の説明を一生懸命行っているところです。
キャッチフレーズは"オンラインで本を見る便利な時代になりました"で電子ブック制作ソフトによる電子ブック・電子カタログ制作サービスと電子ブック制作ソフトの販売を展示していました。紙媒体とWebコンテンツではなしえない特徴を持つマルチメディアによる情報制作をサポートするとの触れ込みです。
電子ブックが必要となるのは、
●コンテンツに対する認識変化に対応
●コンテンツの統合管理が必要
●オン・オフライン媒体の同時要求
●多様なマルチメディアを取扱たい
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とその動機を説明し、それを実現するための機能を整理していました。
そして実務的には、「PDFデータ、MS-ワード、エクセル、パワーポイント等の文書データに加え、イメージ、動画、FLASH、音声、HTML等のデータを使った電子ブックや電子カタログを制作するサービスです」と明確に主張していました。
具体的な、技術については聞かれない限り説明せず、商品(サービスと製品)の用途とそのメリットをこの"テクノトランスファーinかわさき2008(先端技術見本市)"に来場するであろう、"新しいもの好きの見込み客"に売り込もうという姿勢が読み取れました。
左の写真は、「ロボット技術を応用した異型断面形状のスピニング加工」法をビデオで展示しているところです。すなわち回転軸に直角な断面が円形ではない中空の製品を作る方法です。製品サンプルとビデオを見ながら、加工ローラを正確に素早く動かすものだと感心シながらみつめていました。
加工方法には力制御スピニング法と同期スピニング法とがあるとのことだが、
①ローラの慣性の影響をどのようにして、除くのか?
②円形から直線へといった形状の変化にどうやって追随していくのだろうか?
③形状データを先読みして制御をするのだろうか?
④加工精度をどのようにして確保しているのだろうか?
などなど、技術的興味はつきませんでした。
しかし、先の二つに比べると、これをどのように使っていくのだろうかと言うところがいまひとつ理解できませんでしたし、展示物の中には、どこに使うのかもしくはこの技術を使った製品の持つ特徴が述べられていないのが残念でした。この方法で創った製品が従来の円形スピンニング法で作った商品に比べてどのような特性があるのかを理解させない限り、普通のエンジニアは、こんな厄介な形状を設計しないでしょうし、たとえ思いついたとしても、凹凸が浅いものであれば絞り加工でも同じようなものは作成できるはずですから。
ただ、この展示は、制御技術を使えば「①力がかかる②高速で③複雑な動きを④再現できる」と言うことを実証していいることは確かです。いつの日かこのような要件を必要とするニーズがあったときに思い出せればと思いながら後にしました。
昨年のレポートで大学の出展を見てきましたが、本年も多くの大学が出展されていました。
出展大学もしくは関連する機関は、次の18組織でした。
①神奈川工科大学、②神奈川大学、③関東学院大学、④慶応義塾先端科学研究センター(KLL)、⑤産業能率大学、⑥芝浦工業大学、⑦首都圏大学東京産学公連携センター、⑧専修大学ネットワーク情報学部、⑨東海大学、⑩東京海洋大学、⑪日本獣医生命科学大学、⑫日本大学産学連携知財センター(NUBIC)、⑬広島大学、⑭武蔵工業大学、⑮明治大学、⑯横浜国立大学、⑰よこはまティエルオー株式会社、⑱早稲田大学理工学術院総合研究所でした。
ほとんどが、首都圏にキャンバスを持つ大学で、それぞれ大学の特徴を表に出した技術を展示・説明されていました。大学の先生、TLOの担当者、大学の学生さんと多彩な人々が、展示ブースで自分の展示品の説明を頑張っていました。
本年も昨年に続いて首都圏以外の大学として広島大学が出展されていました。活発なことです。展示内容は①廃棄物の再資源化、②繊維状材料の配列法、③プロトン伝導体開発、④オンデマンド製造、⑤超音波除塵装置、⑥高張力鋼の加工法のポスター展示とさすがに人手をあまりかけていませんでした。
後の二つのケースと先の二つのケースを比べると、違いは明確です。後者は技術を説明しようとしており、前者は来場者を見込み客と認識していることです。大学等と企業の見本市に出品する際の心構えの違いを見せ付けられた次第です。
文責 瀬領浩一