36.プロフェッショナルの育成

36.プロフェッショナルの育成

-ITpro EXPO 2009より-

prfsnl01.jpg今回は左図にあるようにITproEXPOに出席してのご報告です。

ITpro EXPO 2009の概要は、主催者によると以下のとおりです。

 第1回はICタグとワンセグ放送に,そして第2回はグリーンITの実践と携帯電話向けEXPOサイトに取り組みました。そして今回は,クラウド・サービスを 利用した展示会情報提供サービス「EXPOクラウド」としてネット上のバーチャルな展示会「バーチャルEXPO」が行われています。展示会はこのオフライン版(実は普通の展示会)です。まもなく始まる景気回復期において弾みをつけるべく,企業システムを強くするさまざまなICTソリューションを,ITpro EXPOサイト,展示会場,セミナー会場にて情報発信します。
 展示会場内には,業務アプリケーション設計/開発 OS/DB/ミドルウエア サーバー/ストレージ 運用管理 ネットワーク セキュリティ 通信サービス クライアント/OA機器 その他の商品が展示されていました。

 ITpro EXPO 2009は9月から12月半ばまでの間以下の要領で行われています。 私が、今回参加したのはそのうちの展示会です。
開催概要
  名    称   ITpro EXPO 2009
  イベント期間   2009年9月~2009年12月中旬(情報発信期間)
  展示会会期   2009年10月28日(水)~10月30日(金) 10:00~17:30
  会    場   東京ビッグサイト 東4-5展示ホール <交通アクセス>
  主    催   日経BP社
  後    援     総務省、経済産業省、アメリカ合衆国大使館 商務部
  協    力   日本経済新聞社、テレビ東京
入  場  料 2,000円(消費税込、事前登録者は無料)
  同 時 開 催   eドキュメント JAPAN 2009

基調講演から

タイトル発表者
ITプロフェッショナルに期待すること

三菱東京UFJ銀行
取締役会長 プロジェクトマネジメント学会員
畔柳 信雄 氏

進化し続けるIT組織
-事業戦略の実現とビジネス変革牽引への挑戦-
リクルート
執行役員
藤原 章一 氏
Change by IT
~景気回復局面に向けたIT戦略のあり方とITリーダーの役割~

パネリスト:
 ソニー   業務執行役員 SVP/CIO   長谷島 眞時 氏
 大和証券  常務取締役 管理副本部長 兼 業務・システム担当 兼 制度ビジネス担当  鈴木 孝一 氏

モデレータ:  日経コンピュータ編集部長  桔梗原 富夫

 展示会と同時に、上記の3つの基調講演ほか多数の特別講演やセミナーが行われました。その中で、起業を心がける人(特に起業家)の参考になるのではと考え、時の先端技術を武器に、敢然と新しい分野に挑んでいかれた三 菱東京UFJ銀行の取締役会長 プロジェクトマネジメント学会員 畔柳 信雄 氏「ITプロフェッショナルに期待すること」を中心にご報告します。

prfsnl02.jpg 今回の発表者の畔柳 信雄 氏 は1965年に東京大学経済学部を卒業し、三菱銀行に入行されました。そして1980年~1981年 マサチューセッツ工科大学留学後の実務を行っていたが、1985年に第3次オンラインシステムの開発責任者としてプロジェクトを仕切ることになった。システムとの付き合いはそれ以降づっと続いていいるとのこと。( 第三次オンラインとは第2次オンラインシステムで統合された預金・為替・貸付・外為等の勘定系のシステムと情報系のシステムを統合させる銀行の根幹システムを完成させるシステムのことだそうです。日本では多くの銀行で1980年代半ばに開発が行われました。)
 その後、1992年 三菱銀行取締役、2004年 東京三菱銀行頭取、2005年 三菱UFJフィナンシャル・グループ社長(現職)、2008年 三菱東京UFJ銀行取締役会長(現職)とマネジメントの頂点を歩いてこられた方です。そして昨年はUFJ銀行との合併にかかわる一大プロジェクト(合併プロジェクト)の責任者でもありました。 という簡単な自己紹介の後、経営の立場から、プロジェクトを進めていくということはどんなことなのかをお話しますとの切り出されました。また今回のお話はご自身の経験を元にお話をするので、話ネタたは少しく古くなるかもしれないとの謙遜をされていました。

 以下は今回お話された6つテーマです。

  • 1  小さく生んで大きく育てる
      会社の経営者の方が考える責任のある
  • 2 PDCA
      開発部門の方が考える
  • 3 現場百回
      現場管理のポイント
  • 4 3世代管理
      人と機械を動かすにあたっての人材管理のポイント
  • 5 夢と心
      人間である以上、また人間集団としてこれをやらなくてはいけないと思えること
  • 6 人類最後の労働集約産業
      機械万能の時代の中で、人間として生きる面白い仕事

私の理解したこと

prfsnl03.jpg 実は、この後非常に面白いお話をたくさんいただいたのですが、いかんせん、会場には左の図のようなガイドが出されており、報道関係者以外は、発表者の資料やお顔の写真を撮影することも、お話の内容を録音することもできませんでした。さらにはプレゼンアジェンダも配布されなかったため、ひたすらメモに頼る記録となりました。

 そのため、畔柳氏の面白いお話を正しくお伝えすることはできないかもしれません。 もっぱら私がこの様に理解したということでご了解をいただければ思います。氏の似顔絵も私がマウスで何とか雰囲気をお伝えしようと努力した表れです。(下手はお許しを)なおITproEXPOのホームページの基調講演のご案内の中ではちゃんとした写真を見られます。それでは畔柳氏のお話の内容です。

1  小さく生んで大きく育てる

 そもそもシステム開発はユーザーのニーズを実現するための開発です。ところが、システム部門が、開発を進めている間にもユーザーニーズ は変わり続けます。その理由はお客様からの要求が変わったからかもしれないし、技術が変化し今までのやり方が使えなくなったからかもしれませんし、さらには法規制により今までのやり方が許されなくなったからかもしれません。どれもシステム変更を要求できる正当な理由です。しかしながら開発を進める立場からは、あるタイミングでユーザーニーズをきちんと固めて進めない限り先には進めません。 こうして、開発は遅れてしまいます。大きな開発や長い開発ほどユーザのニーズが変わる可能性は高くなります。 そこで現実的な対応としては変化への対応は将来システムを拡張することにより対応すると言う約束で開発を後回しにし、小さくはじめるのがいいのではと思います。

 ただ例外はあります。合併プロジェクトだけは、すでに大きいものがすでに動いているのだから少しずつ開発というわけには行きません。はじめから大きくやらざるを得ません。 三菱東京UFJの昨年完了した合併プロジェクトはおよそ12万人月の開発工数がかかりました。(3年間平均で4000人位・ピーク時6000人の人がプロジェクト従事したことになりました)。 時には二つの銀行のどちらかの技術を継承する決断を迫られることもありました。 この時はどちらに決めても他の半分の人からは恨まれることになります。また、時には技術的に優れているものであってもやめる必要が出てきたこともありました。このようなことは企業の経営トップが決断するしかありません。 とてもシステム部門で手に負えることではありませんでした。 

 そのほかにも経営トップがかかわらなくてはいけないことはあります。例えば、オンライン開発。昭和40年代の第一次オンライン、昭和50年代の第二次オンラインのいづれの場合もアプリケーションは全面 書き換えを行いました(10年ごとにスクラップアンドビルドを行った)。これに懲りて第3次オンラインでは将来書き換えの必要のない方式で開発したいと考えました。そのためには同じ機能を実現するための投資額は増加します。部下に任せるとそのとき出来ればいいに落ち込むことは目に見えています。やはりトップでないとできない。 

 これらの教訓はベンチャーでもそのまま生きそうです。それにしても合併プロジェクトの話は長かった。よほど昨年は苦しかったに違いない。

2 PDCA

 PDCAはシステム部門にかかわらず、企業のどの部門でも必要なものではある。PDCAの本質は仕事を仕切ることである。なんとなくよいものを作ってくれといってうまくいった試しはない。ユーザー側においてどういうようなほしいのか、ユーザーニーズに対する責任はユーザー側にある。その確定したニーズをどのように実現するかはシステム開発側にある。期限と品質を守る事は、通常のビジネスの最低限のルールだかシステム開発プロジェクトではこれが難しい。きちんとした設計図が出来ていない状況では、うまくいくわけがない。 そして、概念設計から詳細設計に行くマイルス トーン管理大学発ベンチャーの成功戦略で取り上げたものです)> がしっかり出来ていないと無理。日本のものづくりの方法と同じことがいえます。

3 現場百回

 これまでうまくいっていると報告されていたものが突然うまくいかなく成りましたとの報告を受けることがありました。よく聞いてみると「ちょっ と遅れていることは分かっていたが、自分で何とかなるもしくは出来ると考えて報告していなかったのです」ということが多い。また回りの人もそれをうすうす気がついていたのだが中傷になるといけないと言い出せないことが多いようです。こんなとき、部長が現場を歩いているとなんとなく雰囲気で何かがおかしい と気がつくものです。おかしいと感じたら、普段から作ってある信頼ネットワークを使って聞き出せばいい。問題があると分かっても、決して呼びつけて怒ってはいけない。上司は、対策のための打ち合わせをやってみたらと裏からセットアップして、その部門から問題を提起を提起させ、上の責任だして他部門から応援を出したほうがいいのではないか、といった解決案を出すよう仕組む必要がある。Wikipediaによれば畔柳 信雄 氏の座右の銘は「現場百回」とか。こんな心遣いは、ベンチャーのような小さな組織ではモラルをあげるもっとも有効な方法に成りそうです。

4 3世代管理

 最初この言葉を聞いたときは、親・子・孫へと何かを伝えるのかと勘違いし、なんとも面白いことだ。どのようにやるだろうと聞き耳を立てていました。話はまったく違いました。 プロジェクトには次のような人達がチームでかかるといいとのことでした。
  初年兵      入社2~3年の        20台前半~30代
  中堅       システム開発の核となる  30代後半から40代前半の人
  リーダー層   チームをまとめる       45才~50才くらいの人

 三菱の今回の合併プロジェクトで助かったことは、第三次オンラインでシステムに応援に来た初年兵が、今度は中堅として大活躍をしてくれたことだと話されていました。またプロジェクトのあるときには大変体力が必要なときがあります。そのようなときには初年兵が一番約に立ちます。そしてその人たちが次の大型開発の時に、中堅として働いてくれることを期待しているわけです。人材の層が薄いベンチャーではこのようなことはなかなか出来ることではないとは思いますが、最初の人集めの時には十分考えるべき事柄と感じました。

5 夢と心

 ただ厳しく管理するだけでは、3年もキツイ状況が続く仕事に尽いていくはずがない。プロジェクトメンバーにはプロジェクトの意義を明らかにしておく必要があります。例えば、我々は、金融サービスで世界に伍してやっていく必要があるのだ。そしてお客様の価値を自分たちの価値とできるようなシステムを実現するのだ。そのためには、少なくとも顧客情報を顧客別にひとつのファイルとして管理する必要がある。欧米では銀行が合併してもシステム統合のような大掛かりなことはやらない。システム間をバッチシステムで繋ぎ、データの整合性を取っている。三菱東京UFJの合併では、オンラインでシステムの統合を図り、一段と高い統合された会社として経営を行うのだという考え方を採用する、そのために合併プロジェクトのようなシステム開発が必要なのである。 と説明し、プロジェクトメンバーへメッセージを送り続けてきた。出来上がるサービスの内容はそのシステムを開発する人々の夢と熱意に影響されるはずです。

6 人類最後の労働集約産業

 これまでも、人類は生き延びるためにいわゆる技術革新と称していろいろなことをやってきた。この技術革新の担い手が時代とともに変わってきている。
 例えば、もともと人間は狩猟や農業で生きてきた。そこに産業革命が入ってきた。 産業革命は煎じつめれば動力革命である。
  さらに、ITによる情報革命が入ってきた。いまや動力革命の担い手であった自動車もITなしでは走れなくなっている。そこで見られるように、生産から消費にいたる過程の主役は、ほとんど自動化された機械という時代です。農業といえども、IT時代の農業はそれ以前の農業とは一線を画したものになっているべきである。銀行においても、昔はお客にとってもっとも大切な元帳管理は窓口がやっていた。今や元帳管理はコンピュータがやっている。 窓口はお客と応対しているだ けと成っています。 
ITエンジニアこそが、その機械を制御したり・改革する力を持った人間であり、最後の知的労働であると言わんとしているように聞こえました。講演後の討議時間に、モデレーター役を務めた日経コンピュータ編集長の谷島氏も最後の労働集約産業という言葉にはどうしてもネガティブな響きがある、ともう少し言葉を選んでください(例えば人間力)と注文を付けていました。

 日本は、金融・サービスで生きていかなくてはならない中で、金融・サービス産業の競争力の源泉を作り上げているのがITエンジニアである。と今回の参加者にエールを送ろうとした言葉ではないかと勝手に想像した次第です。

起業家への教訓

 巨額の資本を持つ金融業のシステム開発と、常に資金と人材に問題を抱えるベンチャービジネスを同列に考えることが出来ません。しかし、新しい技術 を使って、事業のフロンティアに挑戦するところのように、ベンチャー企業と共通する部分も多く見受けられます。この立場からお話を整理すると、今回の畔柳氏のお話はそのままベンチャービジネスにも通用する部分が多いのではないかと感じた次第です。こう考えると畔柳氏の6つテーマは例えば次のように読み替える事ができます。

  1. 小さくはじめて大きく伸ばす  顧客ニーズ・技術や法律は変わる。新しいことは変化に耐え大きく成長できる仕組みで、出来るところから早く始める事。決して合併プロジェクトの例にあるような、最初に経営資源を膨大に必要となる事業には手を出してはいけない。
  2. PDCAをきちっとまわす  品質と納期を守るために、日常業務をきちんと仕切ること。
  3. 現場百回  ベンチャーは失敗するのが当然のように言われているが、問題・課題の兆しは、現場に行けば早期に発見できるはず。常に第一線にでて何が起きようとしているかを観察し、自らの責任で対応策を作り上げること。
  4. 3世代管理 ベンチャーといえども会社の継続と成長を前提とした世代をまたがる人材を意識して集めておくこと
  5. 夢と心  厳しく時間に追われる毎日ばかりでは、心が持たない。将来の夢を語り合えるような会社運営に心がけること
  6. 人間らしい知的な仕事   大組織による伝統維持の機械的な文化に対して、新しい可能性を模索するのがベンチャーと位置づけてみました。

 最後にモデレータの谷島氏の質問に対する畔柳氏の回答が大変印象に残りましたので、追加させていただきます。 私も初めてマネージャー職に従事した時、この心がけがあれば、今の人生はもっと違ったものになったのではと、感じいった一問一答です。

 谷島氏の質問
最近20年前のシステム開発にかかわった方のお集まりの会合の時。そこで畔柳会長が20年前のシステム部員の名前を覚えていらっしゃったということで感激した人がいたと聞いたが、若い人の名前を長く覚えていることは大変なことだと思いますが、何か秘訣があるのですか。

 畦島氏の回答
突然システム部門に来て、急遽新人を100人システムに集めることになりました。その後もシステム部門は強化され500人くらいの所帯になりました。こうして、とても顔と名前が一致しなくなりました。ということで、チームごとに写真を撮ってもらっておき、アルバムにして頂きました。そして毎日現場を歩きながら覚えるよう工夫していた。また帰ってきたときもあの人はどこに座っていた人だと思い出しながら整理していました(これも現場百回)。システム開発経験がないものでどうしたらお役に立てるかを、情緒的もしくは体育会系の手法で補っていました。ともかくチームワークにはこだわりました。20年前のシステム開発にかかわった方のお集まりの 会合の時には、前もってその時の写真を見て思い出していたのです。

これって人生成功の秘訣ですね !

同時開催のeドキュメントJAPAN 2009

prfsnl04.jpg同時開催のeドキュメントJAPAN 2009には

 おなじみのPFUさまが出展されていました。多くのeドキュメントJAPAN出展者の中ではもっとも大きなスペースを構えていらっしゃいました。 会場に入ると、すぐ左側にあり、いやでも注目を引く展示でした。 ドキュメントファイリングシステム・カラーイメージング・OCRイメージエントリーシステム・イメージングハードウェア・ ECM(エンタープライズ・コンテンツ・マネジメント)等を展示されていました。本社は川崎市ですが工場が石川県にあるので、いつも目を引かれてしまいます。

eドキュメントJAPAN 2009は社団法人日本画像情報マネジメント協会(JIIMA)が主催しています。主催者の言葉は大略以下のとおりです。

「金融危機や景気減速が叫ばれる今、効率化やコンプライアンス、リスクマネジメント、BPM等が企業改革の大きな目的に取り入れられ、文書情報マネジメントが必須となってきており、また法制面でも、金融商品取引法、新会社法、e-文書法、公文書管理法(案)等が整備されてき ており、文書情報マネジメントの必要性が高まっています。このような時期に、JIIMAはeドキュメントJAPAN 2009をITpro EXPO 2009と併催により開催いたします。"加速する統合文書マネジメント(ECM)"をテーマに、入力、保管、保存、配布、マネジメントの各部門システムや統合システムのハード、ソフト、アプリケーションをマイクロからデジタルまで数多くそろえ展示いたします」。

最後に

 現在の経済界・ひいては国際社会を揺るがしている金融ショックは、まさにIT技術が人間の欲望と結びついて起きた悲劇です。自動化のための便利な技術と考えられていたIT技術(もしくはICT技術)はこれからもまだまだ変化し続け、これからも人類の将来にさまざまな影響を及ぼすことは間違いありません。しかし取り扱いを間違えれば原子爆弾のように、人類の滅 亡に手を貸す可能性さえ否定できません。テクノロジーだけにとらわれることのないITプロフェショナルが必要と感じた次第です。といった理由で、今回 参加させていただいたセミナーや展示会では他にも面白いものがありましたが、あえてプロフェショナルの育成にこだわって、この講演をご報告させていただきました。

主催者の発表によるとITpro EXPO 2009の展示会への60,702名とのことでした。私の参加した展示会は終了しましたがは12月中旬まで、レビュー記事を始めとする 関連情報を発信する予定だそうです。インターネットではITpro EXPO 2009のホームページ( URL http://itpro.nikkeibp.co.jp/expo/2009/introduction/index.shtml)から見ることが出来ます。 次回の「ITpro EXPO 2010」は、2010年10月18日(月)~10月20日(水)、東京ビッグサイトで開催するそうです


2009/11/06
文責 瀬領浩一