2009年11月25から28日にかけて2009国際ロボット展が東京 国際展示場で 開催されました。 主催者の発表によるとこの4日間の入場者数は 101,090人と1昨年とほぼ同じでした。
展示会開催の趣旨は「国内外における産業用・民生用ロボットおよび関連機器を一堂に集めて展示公開し、技術の交流、利用技術の向上と市場の開拓などに貢献し、産業技術の振興に寄与する。」でした。
写真は会場正門前に置かれた看板です。 同期間にロボット展と並行して、下記のようなイベントが開催されました。
「2009部品供給装置展」(主催:日本部品供給装置工業会、日刊工業新聞社)
「SAMPE JAPAN2009」(主催:先端材料技術協会、日刊工業新聞社)
「 産学官ビジネスフェア2009」(主催:日刊工業新聞社)
「システムコントロールフェア2009」(主催:日本電機工業会、日本電気制御機器工業会)
「2009韓国部品産業展」(主催:KOTRA(大韓貿易投資振興公社))
会場に入っての第一印象は、「以前よりスマート」でした。 一昨年、同じこの展示会を見に来た時は、会場いっぱいに産業用ロボット(工場内で使われる工作機械)がうなりをあげて動いていました。 そこでは、大きな展示会場の天井近くまでそびえたった巨大ロボットがあちこちに展示されていました。 今年もそのようなロボットも展示はされていましたが、数も減り大きさも少し控え目という感じでした。 これが昨今の経済状況を反映したものか、それとも今後の今後のロボットの発展方向を示すものかは定かではありませんが、日本のロボット産業が置かれている状況を表していることだkrは間違いありません。
ROBOLINK FORUM 2009 のテーマは「サービスロボットビジネスフォーラム」で副題は「サービスロボットの事業展開の戦略と課題」でした。行われた基調講演並びに講演 は以下の通りでした。
発表内容 | 発表者 |
---|---|
基調講演 人と共生するパートナーロボット ~夢と希望~ |
内山田竹志氏 トヨタ自動車代表取締役副社長 ロボットビジネス推進協議会会長 |
ロボット開発共通プラットフォーム ~ロボットサービス産業に向けた第1歩~ |
ステイーブ・カズンズ氏 ウイローガレージ 代表取締役社長兼最高経営責任者 |
キャラクターに生命を与える | アキール・マダ二氏 ウォルト・デイズニー・イマジニアリング テクニカルスタツフデイレクター |
福祉ロボット:開発と普及における課題 ~食事支援ロボットマイスプーンでの経験~ |
杉井清昌 セコム顧問 |
Honda歩行アシスト | 及川清志氏 本田技術研究所 基礎技術研究センター第2研究室主任研究員 |
Q&Aまとめ | 進行:石黒周氏 ロボットビジネス推進協議会 幹事 |
基調講演の 内山田竹志氏の「人と共生するパートナーロボット ~夢と希望~」では トヨタ自動車における人と共生し役に立つパートナーロボットの開発についてのお話がありました。 超高齢化社会の到来時には、介護などの労働負荷の増大や自立した生活への要求が高まると予想され、「トヨタ自動車では、介護、家事、製造、短距離パーソナル移動の領 域を人の役に立つ重点領域として開発を進めている」とのことでした。その要素技術である全身運動能力と歩行能力、指の能力と腕の能力につ いての基本的な考え方を、現状と将来ビジョンとしてご説明いただきました。 またロボットビジネス推進協議会会長の立場から、同推進協議会としては安全性検証と安全性証明といったことについて力を入れていくとのお話をされていました。
その他の講演も、それぞれ面白いものでしたが、ここでは「ベンチャーもしくは起業」の視点から、興味をひかれたウイローガレージ代表取締役社長兼最高経営責任者のステイーブ・カズンズ氏の「ロボット開発共通プラットフォーム」の講演を取り上げます。
ウイローガレージ社は産業界と各界の交流の中から、非軍事目的のロボットとオープンソースのロボットソフトウエアを開発するために2006年に設立されたベンチャー企業です。同社はパーソナルロボット業務の開発に必要な「ハードウエア」と「オープンソースソフトウエア」を提供する会社です。「オープンソースソフトウエア」ROS(Robot operatingsystem)は、ロボットの知能化に重要なソフトウェアやツール群を、コーザーが共有し効率よく開発できるように無償で提供されています。このROSを、間もなく公開され無償提供ざれるPR2(Personal Robot2)開発プラットフオーム(写真参照:但し面白く見えるようかなりデフォルメしてあります)と組み合わせることで、ロボット産業の開発速度をあげることを目指しているとのことです。
氏によると、パーソナルロボットとは人間の大きさのロボットで、このロボットにより、それを使う人には多くの余裕時間がもたらせるようになるという事です。 機能とか性能といった工学的あるいは経済的価値観を超えて、人間的もしくは心理的価値観をめざしていることに大変共感させられました。
そしてその実現方法として、パーソナルコンピュータで実現している、階層構造アプローチをとっているのも、私の興味を引いたところです。 氏の説明で使われた階層は非常に簡単で、Application階層、SystemSoftoware階層、Hardware階層の3つです。たとえ に出た製品はApplication階層としては表計算ソフト、SystemSoftoware階層としてはLinxやWindows、Hardware階層としてはIBM互換PCやMACでした。PCの階層モデルがパーソナルロボットのビジネスにも通用するかどうかは不明ですが、ひょっとしたら成功するかもしれないと取り組むアメリカのベンチャ精神には敬意を表せざるをません。立地条件はスタンフォードを選んで現在もの優秀 な人材を集めているベンチャーのようです。共通に使える基本的なところに特化し、アプリケーションのようにユーザーニーズを色濃く反映させなくてはいけない部分には手を出さないという方法あたりも、アカデミック型のベンチャーとして見習うべきと感じた次第です。また東 大でのセミナにPR2の情報が載っています。 お時間のある方は参考にしていただければ、幸いです。
この講演では、大学発ベンチャーにも参考になるような教訓として、次のようなことを感じた次第です
同じような目的をもった活動は日本においても1998年から経済産業省の「人間協調・共存型ロボットシステムの共同開発」(HRP: Humanoid Rootcs Project)として5年間実施された二足歩行ロボットHRP-2があります。 さらにその後継機としてのHRP-3、2009年3月 16日発表のHRP-4Cについての情報も、会場に出されていました。 HRP-4Cは「人間に近い外観と動作性能を備えたロボット」でありそのポイン トは•リアルな頭部と日本人青年女性の平均体型を持つ人間型ロボット、•人間に近い動作や音声認識にもとづく応答を実現している、•エンターテインメント 分野や人間シミュレーターとして機器評価への応用に期待となっています。
写真はは日本の産業ロボットとドイツのサービスロボットです。どちらも丸くて柔らかい。サービスロボットが丸いのは分かる、産業用ロボットが なぜ丸いのですかと展示担当者に聞いてみるとその答えは「自動車だって丸くなっているでしょ」と何を今更という答えでした。 そうか、今や工場といえども 効率一辺倒ではないのだと。時代の流れを、思い知らされた次第です。余談ですが、サービスロボとを見ていると、ロボットが私のほうに寄ってきました。 やり取りをしていると、ロボットさん私の希望に応じて、お茶のペットボトルを持ってきてくれました。ロボットのサービスを受ける体験は初めてですが、 それほど違和感はありませんでした。 ただなんか不思議な感じです。こんな心理的バリアーを超える研究が今後必要となりそうな体験でした。
不思議なロボットがいくつもありました。2輪のロボットもその一つです。本来なら不安定なはずの2輪のロボットが会場の中を行ったり来 たり。人間の乗る1 輪車が倒れないのだから、上手に制御すれば可能であることはわかりますが、そんなことをロボットに実現させてしまう現在の技術もすごいものです。もっとも一 度倒れてしまうと起き上がることはできませんでした。私の常識から行くとフェールセーフをどう考えるが課題と感じられるテーマでもあります。
垂直な壁 を登るロボットを見て、どうして落ちないのですかと思わず聞いてしまいました。静電気を発生させてその吸引力で落ちないようにしているのですとの事。 静電気で吸着ということは理解出来ますが、それでかなりの重量を支えることができるというあたりがすごいと感じた次第です。この調子で研究が進めば、天 井 でも歩くロボットができるかもしれません。何しろ蝿でもでもできることですから。
いよいよ原理的に可能なことはなんでもできるという時代のようです。そろそろロボット開発も、シーズが可能性をプッシュする時代から、ニーズが実用化を プ ルする時代に入ってきたことを感じさせるデモでした。
産学官ビジネスフェア
産学官連携に関する展示会場は1昨年に比べると、なんとなく活気がない。会場の後ろの広い商談コーナーもほとんど使われていない。 企業の、新技術探索する意欲が減ったのか、大学のシーズに対する企業側の期待が下がったのか、他にも展示のチャンスが増え、ここでの需要が減ったのか。 い ずれにしてもさみしい次第でした。
広い場所をとって、韓国企業による、部品の展示が行われていた。地味ではあったが、一つ一つの製品の出来栄えは、日本企業のものと変 わりはな い。全体イメージも石川県で見たMEX金沢の展示とさした違いはない。現在の部品精度十分な成熟技術になると日本の製造業の強みの一つで あった中小企業に よる精度の高い部品生産は韓国に移りそうである。組立産業も部品を輸入して日本で組み立てるより、韓国で完成品にまで組み立ててしまった方が、納期・コ スト の面で有利という時代がやってきたことを感じさせる展示でした。いよいよ日本の製造業の考え方を根底から変えるような新 しい、ビジネスモデルを持った製造業を目指すベンチャーの必要性を感じさせるコーナーでした。
2009/11/30
文責 瀬領浩一