40.未来を開拓する研究

40.未来を開拓する研究

-金沢大学創基150年記念ー

看板

 2010年2月6日(土) 13:00から16:00にかけて学術総合センター 一橋記念講堂にて第2回金沢大学未来開拓研究公開シンポジウムが実施されました。

 金沢大学未来開拓研究公開シンポジウムの第1回目は昨年、人間社会研究域は,金沢市,輪島市の2会場で行われました。その時の様子はホームページに次のように記されています。『2月7日(土)北國新聞赤羽ホールで「交響する文化学~異文化接触と新文化創出のために~」をテーマに開催した金沢会場には,高校生や市民など約400名が参加しました。3件の研究報告とパネルディスカッションにより,ある国や地域で,いかにして異文化が受け入れられ,相互に響き合って普遍的文化価値が獲得されていくのかを解明しました。また,日本の伝統文化である「太鼓」が海外で新文化として開花した実例として,シンガポール,サンフランシスコから招いた太鼓チームが,日本人に劣らぬパフォーマンスを披露しました。
翌8日(日)輪島市文化会館で「輝ける能登,未来に向けて」をテーマに開催したシンポジウムには,市民など約100名が参加しました。第1部では,本学が重点的に展開している能登半島復興事業の現状と課題について,3件の報告とパネルディスカッションが行われました。第2部の交流イベントでは,海外太鼓チームと地元輪島市の「御陣乗太鼓」「輪島・和太鼓虎之介」が競演し,会場は力強い太鼓の響きに包まれました。』

今回の第2回目のテーマは「人と環境の交わりを考える~能登半島,東アジア,そして世界~」ということで基礎研究から実践研究までの 成果を金沢大学の3学域それぞれの代表者から発表がありました。さらに現在最も注目されているテーマのひとつ「環境」に関する特別講演もありました。その後在京の人々との交流会ということで、下記のようなプログラムとなっていました。

セミナーの内容は以下の通りでした。

発表内容発表者
講演 「住み続けられる地域を創る-能登からの発信一」 人間社会研究域
井上英夫 人間社会環境研究料長  教授
講演 「能登に吹く風から見える世界一「境」を趣えて環境を考えるー」 理工研究域
岩坂 黍信 フロンティアサイエンス機構 特任教授
特別講演 「25%の光と彰一持続可能な社会の構築に向けてー」 安井 至 製品評価技術基盤磯椿理事長,
同際連合大学名貴別学長,東京大学名誉教授

講演  「北隆からベトナムヘ-環境保健の国境を越えた展開ー」
医薬保健研究域
城戸 照彦 医学系研究料教授
金沢大学 交流会

ベンチャーは環境問題にどう向き合うか?

 特別講演は、安井至氏の「25%の光と彰-持続可能な社会の構築に向けて-」でした。氏の書かれた本「図解雑学環境問題ナツメ社」があり、その見識の広さはよく知られています。それで、今回はどんなお話かと興味を持ってお聞きしました。講演内容は、人類のエネルギー消費の急増から始まり、「鳩山総理大臣が2009年9月22日に国連で主要国の参加による「意欲的な目標の合意」を前提に、2020年までに1990年比で25%削減を目指すと表明した」こと。そして、それを実現するためにどのようなことを考えなくてはいけないかを解説するものでした。前提となる大量のグラフやデータを元にした論理的な説明でしたが、その元データを検証するもしくは妥当性を判断する知識を持たない私には、判断するすべがありませんし、中には理解できない数式も入っておりはかなり難解の部分もありました。

 ただ身近にある問題の説明はよく理解できるものでした。2人乗りの電気自動車で航続距離が30㎞のものがあったとします。通常はこれで十分です。しかし時にはもっと性能が高い車が欲しい場合があります。たとえば、家族4人で旅行に出かけたいときはどうするか→2両連結でいいでしょうとか、さらに長距離旅行をするときにはどうする→バッテリーカーを連結すればどうだろうかといった具合に、課題を画像を使って説明されるところなんか、慣れたものです。これなら現在の鉛バッテリーでも十分対応可能ですといった具合です。実際にスイスのツェルマットで電気自動車が使われている(ここでは大型の重機といった特別の自動車以外は電気自動車しか走ることが出来ません観光地でありながら、観光バスも入れず、観光客は隣の駅で電車に乗り換えてくるしか方法がありません。)のを見ました。その時は、山間の小さな町だからこれでいけるので、日本では難しいだろうと、その実用性を疑問視していましたが、こんな考え方をとれば、何とかなりそうです。鉛バッテリーであれば、リチュームイオン電池の電気自動車のように、自動車価格の半分以上が電池の費用で、その電池は自動車の寿命より短そうだ(買い換えるか廃車にするか)なんて問題はクリア出来そうだし、何より今すぐ実現できる技術です。聞いていると、なるほどそれならいいかと思わずうなずいてしまいます。

経済発展と低酸素経済

 しかしながらこれまでの自動車は、大型化・快適さの追求であり、そのために高速で強力な自動車がいいものだとして発展してきた歴史がありますと言っての左図を出されました。例えば、現在のプリウスを購入される方々は、今までと自動車に求める性能が違ってきているとして、氏はそれをマインドセットの変更と説明されていました。スピード競争の車でなければ、実質的に快適であれば必要以上の性能は要らないとの考え方です。価格は、おおむね一人当たりのGDPが限度といったところだとか。インドのタタの自動車もこのような考え方だとのことです。ところが、もっと節約したいとなると、自動車を所有することをやめてしまう。いわゆるカーシェアリングがおきるかも知れない。として、これは、別の価値平面であるとて、薄緑から薄青の価値平面に変わることですと説明をされていました(価値観の断絶)。とても現在の自動車産業のメンバーには、起きて欲しくない状況です。しかし、こうなったらベンチャーの時代です。氏は、テクノロジーロードマップ風に起きるケースを①快適なエコプレミアム型、②カーシェアリングによる節約型③下手をすれば「亡国型技術」」の三つに分けていらっしゃるようです。私が思うには、少数のお金持ちが現在のような高速高性能な自動車を持ち、それ以外の大衆は自転車を乗るような気持ちで貸自動車をつかう。少なくとも、自転車よりは雨風にはあたらなくで移動できるし、家族旅行も出来る。さらに貸自動車で、使う時に必要な大きさの自動車を自由に選べるとなれば、現在のように、たまにしか使わない家族全員が乗れるような大型の車の需要は激減するでしょう。家から、電車の駅やスーパーまでいければそれで十分となれば(スイスでは駅ビルの中や駅の近くにスーパーがあるのを見てきました)、自動車運転の疲れも少ないし、駐車場費用もかからない。いいとこだらけのようです。

日本の産業の問題点

 問題はこの時です。上記の考え方が正しいとすれば、今は、ベンチャー、もしくは新しいアイデアを持った起業家あるいは現状を転換できる企業家にとってはすばらしい状況が目の前に来ていることになるはずです。このような状態は、現行の多く大規模な自動車関連企業にとっては耐え切れそうもない、まさにベンチャー向きの時代です。それでも、現行の高性能・マニアックな車を作る自動車会社は必要です。ただ、それほどの規模はいらないような気がします。」

しかし、もっと大きな問題は、インドを先頭とする海外のメーカが持ち込んでくる一台数十万の低性能車が町を走るとなったらどうでしょう。現在の自動車を製造している 大企業は太刀打ちできません。撤退するか、転進するかしか対策が無いかもしれません。古い話では駅馬車は鉄道に置き換わりました。日本ではほとんどの石炭産業は石油産業に置き換えられてしまいました。もっと最近では、コンピュータの世界で起きています。ほんの数十年前の超大型コンピュータと同じかそれ以上の性能を持った パソコンが誰の手にも入るようになりました。その結果、多くのコンピュータ会社は昔のような大型コンピュータを製造していません。パソコンを中心とした企業が最大のコンピュータ会社となっています。その上、せっかく大型機からパソコンにシフトしたのに、そのパソコンからも撤退した会社もあります。 ただし、これらは、より便利で、強力な代替ビジネスが、古いビジネスにとって変わった例です。環境能力の有限性のために、不便な代替案にシフトしなくてはいけない場合ではありませんでした。それでも次の城戸先生の公害問題と同じく、生命が危機にさらされれば新しい道を探さなくてはいけません。ところが、日本 産業もしくは日本人の問題点として、①やはり失敗が許されない社会(優れた個人の足を引っ張る社会=悪平等、ゼロリスクが人生の目標になっている、そのため、ベンチャーが育たない)②既得権益が増えすぎた(足かせが多い、反対することも既得権益の一部)③結果的に、「苔むした産業構造」になっているとして上図を説明されました。 そ して再活性化をする原動力が環境エネルギーであり、工 夫次第でベンチャーにもたくさんの機会がありそうですというのが今回の結論の一つのようにように感じました。どの方法が生残るかは判かりませんが、無数のやり方が考えられそうです。手をこまねいていないで、やってみないとしょうがないと いう状況のようです。さもな ければ「亡国技術」となりかねません。このあたりの問題意識は、前報の「起業家は世界も視野に入れて」で議論されたものとよく似ています。多くの人が、現在の閉塞感に問題を感じ、不満を持っていらっしゃるようです。

この報告は私の感じたことをまとめたもので、氏の講演をすべて述べているわけでも、講演内容を忠実に再現しているわけでもありません。氏の実際の講演資料(http://home.catv.ne.jp/rr/y-art/index.html)は安井氏のホームページからダウ ンロード出来ます。画像ファイルも見れ、音声ファイル聞けるようになっています。ご興味のある方、氏の生の声をお聞きになりたい方ははそちらをご参照ください。

環境保健の国境を越えた展開

坂戸先生

 自動車の温室効果ガスの問題 は、後世になると、あの時判っていながら、なぜ適切な手を打たなかったのかと、言われそうなことなのだと感じさせてくれてのが

 城戸先生の「イタイイタイ病」と「枯葉剤」のお話でした。今となっては、原因となった工場の対策も行われ、枯葉剤を散布するような戦争は行われていませんが、その影響が直接被害を受けた当人のみならず、その子供や孫にまで及んでいることを聞くにおよび、科学技術を自分の利益ばかりを考えて使うことが、どんな結 果を引き起こすかを見せ付けられた思いです。

 講演の内容は、イタイイタイ病の症状や枯葉剤の影響による健康被害がどんなに悲惨であるかを示すビデオと、水銀を流した河川の流域とイタ イイタイ病の発生地の相関関係、枯葉剤散布とその語の被害の調査といった、公害発生の原因追求の苦労を具体的にお話されていました。

 犯罪追求の刑事のような役割と、被害者救助の医者の役割を同時にやることの難しさを感じさせられました。公害のケースでは公害の原因となっているのは往々にして、権力を持っているか、金を持っている人です。そのような人たちもしくは組織の中の人々は、自分の組織を守るために、組織に不利になるようなことは積極的に言わないこともあるかと思います。いわば弱者の立場に立った権力闘争です。そのような、調査活動もままならない中での研究実証の苦労を乗り越えて、淡々と事実を報告し、 その事実が意味する結論を述べられる先生の言葉は非常に重く感じられました。

旧交を暖め、新しい友と何かを変えよう

元共同研究センター長山本先生東京オフィス若林氏

 セミナーの最後には、交流会がおこなわれました。交流会は中村学長の挨拶で始まり、田中理事の絞めでおわりました。多くの人が、交流会に参加され、広い会場は人で埋まりました。講師への質問や議論をされるかた、久振りのにお会いしましたねご挨拶をされる方、今は東京にお住まいの元金沢大学関係者が現在の担当者と、金沢大学東京オフィスにお勤めの方と金沢の関係者等、普段会えない人達同士が互い楽しくお話をされていました。安井氏の日本産業の問題点で言われたような、「苔むした産業構造」にならないように、起業やベンチャーの新しい触れ合いのきっかけになってくれればいいなと感じた次第でした。、

2010/02/08
文責 瀬領浩一