2010年7月31日 川崎市産業振興会館研修室(神奈川県川崎市幸区堀川町にて第66回 かわさき起業家オーディションビジネス・アイデアシーズ市場最終選考会が行われました。会場の川崎市産業振興会館はJR川崎駅北側にありJRに沿って東京方面に徒歩約10分くらいのところにあります。私の記憶によれば、このあたりは工業地帯だったはずなのですが、今や写真のような緑の多い通りに沿って、商業施設、公的私設がずらっと並ぶ素晴らしい環境です。
主催者の財団法人川崎市産業振興財団によればこのオーディションの趣旨は次の通りです。【「さああなたの出番です! 川崎には、いつでも創業・新分野進出のチャンスがあります!「かわさき起業家オーディション ビジネス・アイデアシーズ市場」は、あなたの夢の登竜門です。川崎発の元気な企業を育てるために 年6回、広くビジネス・アイデアを募集します。優れたアイデアには、販路拡大、資金調達の支援やベンチャーキャピタリスト、ビジネスパートナーとの出会いの場の提供などアイデアを実現するためのサポートを行ないます。 このオーディションは、平成13年11月の第1回から平成22年3月までで、全64回のオーディションを開催し、応募は学生を含めて1412件に達し、受賞も454件を数えています。 募集対象は、創業または新分野進出を前提とするアイデアです。 夢の第一歩を踏み出してみませんか。あなたの応募をお待ちしています。】
選考会の発表会場での主催者のあいさつの言葉でも、このオーディションは1年に6回開催(2カ月に1回)している事を強調されていました。今回の応募は21件、その中から7件が本日の最終審査に残ったとのこと。これまで全国各地の人材を受け入れ、全国に向けて発信してきたそうです。 今後とも起業にふさわしい人をバックアップしていきたいともおっしゃっていました。 さらに続けて今も丁度この上の階では小林稔侍の出演するテレビの撮影が行われているし、10月21日には羽田空港(東京国際空港と言われているが川崎市とも隣接しています)も国際化していきます。川崎市産業振興財団としては、川崎市内にこだわることなく、いろいろな機会を捉えて、日本に世界に情報を発信ていきたいとのことでした。どうやら地方自治体のマーケットも全日本さらにはグローバル志向になってきているようです。次の表は今回の最終選考に残られた7団体です。
№ | 法人名 | 代表者名 (所在地) | ビジネス・アイデアのテーマ |
1 | アースクリーン(株) | 佐藤 一芳 (川崎市宮前区) |
石膏ボードの壁に重量物を掛ける為の、補強・補修工事が 大規模工事なし、低価格で実現 |
2 | (株)エコアース | 林 葉之 (神奈川県藤沢市) |
ワンストップ・サービスによるリサイクルビジネスの一つの最終型 |
3 | ビタミン愛 | 伊藤 紀美 (茨城県取手市) |
あっとマイシューズ |
4 | (株)盤水社 | 中山 貴之 (石川県金沢市) |
学校配布型キャリア(職業)教育支援情報誌の発行 |
5 | フィールイメージ(株) | 小林 健一 (広島県広島市) |
易化工学を取り入れた技能伝承&作業マニュアル |
6 | ケイ・クリニック | 瀧澤 清 (東京都千代田区) |
高精度で高速な遠隔医療システ |
7 | 個人 | 小池 吉昭 (千葉県船橋市) |
水の添加で電池になる電源機材の開発 |
上表の最終審査に残った団体を見ると、川崎市からのエントリーは1団体に過ぎません。主催者の言葉通り開かれたオーディションのようです。たまたま目についたのが、石川県金沢市からの中山氏でした。故郷の石川県の名前にひかれ中山氏の話に注目してを聞いてみることにしました。
発表に先立ち、司会者より氏の略歴が紹介されました。ところがそこでは、会社の住所は神奈川県横浜市と紹介されました。確か案内には石川県金沢市とあったのに、変だなと思いながら聞き始めました。理由は簡単でした。昨年10月に横浜市に一人で出てきて本年7月5日横浜川崎版を出したばかり、とのことでした。さすが起業家、チャンスを求めてどこにでも動くのだなと感じた次第です。以下は若干私の解釈も加えられてはいますが基本的には、中山氏のプレゼンの受け売りです。
昭和48年のサラリーマン人口4割から今や8割へと増加し、家で働く親の姿を見ることも少なくなってきました。このため、昔なら子供のころに、家で働く自分の親を見て、もしくは家で働く友達の親を見て何時の間にか学んだ「働くことの大変さ、面白さ、意義」を見ることは少なくなってきました。その上、それまで受験勉強に専念してきた大学生が3年生になって、突然就職を考えることになる。勢い多くの学生が取りあえずの選択として、「労働時間が短く、給与が高く、安定した組織(イノベーションのない)」を選ぶのは仕方がない。この結果、就職した後で、自分の思っていたことと違ったとして、短期間に退職することになっているようである。もっと若いうちに(中学や高校の6年間に)、きちっとした就職に関する情報を得られるようにして(現在は実にお粗末と氏は高校生に対する求人情報を見せてくれました)、就職に対する意識を磨いておかないと「何のために働くのか、何のために大学に行くのか」と言ったところがボケてしまうのではないか。そんな中で就業人口がが過去17年間で4割も減っているので中小企業の求人はますます難しくなって来ています。中小企業はこれまで以上に「若者にビジョンを伝えて、学歴より現場能力を重要視していることを、地元の学生に訴えていく必要がある。」と、職業観を植え付けてそれをアピールする事はビジネスチャンスになるのではないかとキャリアオリエンテーションマガジンを作って学校に無料で配布するビジネスを開始した。学校によってはキャリアオリエンテーションの教材に使っているところもある紹介されて、たくさんの記事を見せて頂きました。配布された資料のビジネスアイデアの概要によると、【「さくらノート」は、地元企業で働く様々な職業の人を紹介するフリーペーパーとなっています。B5サイズ、オールカラー、約40 ページのこの冊子は、年4回(1回8万部)発行され、毎号20~30人の様々な職業の方が登場します。現在、先行発行している「さくらノート石川県版」はすでに98%の中学、高校および大学に直接配布され、中学、高校では総合学習の時間にこれをテキストとして授業で活用したり、朝学習の時間にも読まれています。】となっています。
今回オーディションに参加された目的は「ビジネス・パートナーもしくは各種の協力者を求める」と言うことで、簡単なビジネスモデルを話されていました。 それによると氏のビジネスモデルは以下の通りでのようです。
そして印象に残った言葉は「鮭は故郷の水に戻る。地方を活性化させる若い人のためにそんな情報発信をしてみませんか」、でした。
プレゼン後のQ&Aで「不況のおり、脱退される企業が多いのではないのか」との質問に答えて、「継続される企業が7割と多いです。高校生に対する従業員募集の狙いもあるが。会社にとっては既に働いている従業員のエピソードを載せることにより、従業員のモラルアップの効果が大きく、一度入会するとなかなかやめられない事情もあるようです。さらに、こうして会社を社員を紹介していけば、5年後には意欲に燃えた従業員が入ってくるのではとも期待があるのだそうです。」
オーディションに参加された方々のお話をお聞きしながら、どの方の計画も儲かりそうで、興味をそそるものでした。一つ一つのお話は具体的で、みなさんが現在ビジネスを成功させるために、何に重点を置いて頑張っているのかを説明されていました。話が具体的であるだけに、アイデアを超えた代表者の意欲がリアリティを持って伝わってきました。 起業という、現在最も力を入れていることをお話されているわけですから、研究者のシーズを事業化するといった大学の起業家コンテストとは違った新鮮さを 感じました。研究者のビジネスプランとビジネスマンのビジネスプランの違いを、感じさせてくれました。考えてみれば話を聞いて面白いビジネスと思ったら時間やお金を投じて、そのビジネスに参加する人を集めるの がビジネスプランコンテストです。ビジネスをどのように成功させどれだけ儲かるかを聞いている人に伝えるのが第一の目標であることを改めて知らせらました。今回の応募用紙に記入する、新規性や優位性も説得のための 一つの要因に過ぎないことを感じさせてくれました。プレゼンではそれほど詳しく説明されていません。
皆様のご発表の後、慶応義塾大学 環境情報学部教授で株式会社 SIM-Drive 代表取役社長の清水浩氏から「21世紀社会と電器自動車」というタイトルで基調講演をいただきました。閉塞感あふれる日本社会において「やり方によっては、電気自動車にはまだまだチャンス」があるとの立場からの力強いお話でした。
基調講演の間に、審査員の審査が行われ、下表のような発表がありました。
川崎市の賞 | 法人名 | ビジネス・アイデアのテーマ |
かわさき起業家優秀賞 | (株)エコアース | ワンストップ・サービスによるリサイクルビジネスの一つの最終型構 |
(株)盤水社 | 学校配布型キャリア(職業)教育支援情報誌の発行 | |
ケイ・クリニック | 高精度で高速な遠隔医療システム | |
か わさき 起業家賞 | アースクリーン(株) | 石膏ボードの壁に重量物を掛ける為の、補強・補修工事が 大規模工事なし、低価格で実現 |
フィールイメージ(株) | 易化工学を取り入れた技能伝承&作業マニュアル | |
かわさき ビジネス・アイデアシーズ賞 | ビタミン愛 | あっとマイシュー |
個人 | 水をエネルギーにする電源 |
「かわさき起業家オーディション」では、最終審査の結果、「かわさき起業家大賞」、「かわさき起業家優秀賞」、「かわさき起業家賞」の各賞を受賞し、川崎市制度融資(創業支援資金)の融資を希望する方には同資金の利用が特典として付与されることになっていますが、今回は該当者がいらっしゃらないとのことでした。確かに配布された資料の応募の動機欄に、投資と書かれた方はいらっしゃいましたが、融資と書かれた人はいらっしゃいませんでした。最近の経済情勢から「無理に、借金する時代でない」のかもしれません。
このほかにも参加者は記に示すようないくつかの賞を獲得されました。それぞれの賞の趣旨は異なっています。さらに、該当者なしで授与されていない賞もあります。詳細は財団法人 川崎市産業振興財団の起業家オーデジションビジネスアイデアシーズ市場のホームページ(URL http://www.kawasaki-net.ne.jp/bizidea/index.htm)をご参照ください。
この中で私が、大変面白いと感じたのは会場応援賞です。これは会場に聴衆者として参加されたすべての人に、一人一票の投票用紙を配り、お一人を推薦させ、その結果を発表するものです。表彰されたのはビタミン愛の伊藤 紀美氏です。配布された資料のビジネスアイデアの概要には「知的障害を持つ方をお世話する施設では、介護者がー人ひとりに靴を履かせて あげるようとする時に、本人も履こうとして指先を動かしてしまい、益々時間が掛かってしまう。なんとかもっと簡単に履かせられる靴はないかしら、と困っていると言う話を聞いて、ただ足を載せるだけで履かせてあげられる靴の開発を目指し、あっという間にこ履けて、あっというまに脱げるシューズを開発した。今はそれを普及させるための販路を開拓中です。」とありました。
この結果を見ながら会場の皆さんの感覚と、 審査員の判断に若干の違いがあることを感じました。結果からみると、会場の皆さんは、プレゼン時の発表者の態度、説明の仕方、話の面白さと言った感覚的な部分に影響されて投票されたように思います。実は私もそうだったのです。一方審査員はビジネスの成功確率、ビジネスサイズ、産業の興隆と言ったことを論理的に見て判断されたように感じました。いわば「アマ」と「プロ」の判断の違いを感じた次第です。この意味で、会場応援賞はシーズ評価判断の新しい視点を開いてくれる賞と感じた次第です。
次の第67回の川崎起業家オーディション ビジネスアイデアシーズ市場の最終選考会は10月1日ですが、応募締め切りは8月3日となっています、この記事を読んでいらっしゃる方にはもう応募資格はありません。その次の第68回の応募締め切りは10月5日です。その後も2か月毎にお応募しているようです。 お若くて元気のある起業家志向の方は、参加して見られたらどうでしょうか。入賞を狙うのは当然ですが、たとえ入賞出来なくても、得るものはたくさんありそうです。興味ある方は、財団法人 川崎市産業振興財団の起業家オーディションビジネスアイデアシーズ市場のホームページ(URL http://www.kawasaki-net.ne.jp/bizidea/index.htm)にアクセスしてみることをお勧めいたします。
2012/12/07
文責 瀬領浩一