横浜ランドマークタワーで今年も光り始めたクリスマスツリー、今回はこのクリスマスツリーを製作された日崎工業株式会社様へ企業訪問を通じて得られた情報を題材として、それをマンダラ風に整理する方法を纏めました。
先日(2010年11月4日)横浜ランドマークタワーに行ってきました。以前、といっても随分前のことでしたので、その時訪れたときとはまわりの様子は一変していました。街には人があふれ、サラリーマン風の人々がさっそうと歩いていました。周りのビルには明かりが煌々と輝いていました。とても、不況で失業者のあふれる日本の様子ではありません。そして本年は、APECの会議が横浜で行われるため、横浜ランドマークタワーだけではなく付近の鉄道駅やビルの中から、ゴミ箱までも取り除かれ、とても清潔感のある街となっていました。横浜ランドマークタワーも11月7日から11月14日まで厳重警戒との張り紙が貼られ、あちこちで警備のかたがたが目を光らせているという状況でした。尖閣島事件、北方領土問題等が発生する中で、人の出入りを監視しにくい港近くでの国際会議、定めし警戒は大変だろうと察した次第です。そんな中でひときわ目立ったのが、図1に載せた、プラザ1階のクリスマスツリーです。大きなビルのイベント空間の中で、悠然と立っていました。写真の右下の説明板に「スターライトジングルは17:00~22:00の30分ごと」と書いて あったので何が始まるのだろうと、しばらく待っていました。 時間になると、音楽が鳴り、それまで白色で地味な色をしていたツリーは突然写真のように色とりどりに輝き始めました。ある時は明るく、ある時には激しくきらめいていました。その時ようやくスターライトジングルとは時報のことだと気づいた次第です。ホームページによると昨年は「オーセンティックで赤と緑」となっていましたから今年はそれとはは対照的な「クリスタルツリー」の演出のようで す。
ここに来たのは、先日(2010年10月20日)川崎市産業振興財団主催の大学キャラバン隊の企業訪問で訪れた、日崎工業様で製作中であったクリスマスツリーが飾られているはず、「ぜひ見る必要がある」との口実を思いついたからです。本音は・・・。昨年の展示は12月6日からとなっていたのでまだ飾られていないかもしれないと若干心配でした。ただ企業訪問の際、今年はAPEC開催があり、その頃は展示機材の搬入は出来ないため、いつもより早くから展示されますとのお話をお聞きしていたので思い切って出かけてきました。おかげで、きれいなクリスマスツリーも見れたし、おいしい食事にもありつけました。大学キャラバン隊については、以前このシリーズの「会社発展の道筋」にも載せてありますが「企業と大学に顔の見える相互信頼関係づくり」を目的として川崎市産業振興財団が主催で実施されている、産学官連携の人々の企業訪問ツアーです。昨年初めて参加した時、大変興味あるお話をお聞き出来たので、本年も参加させていただきました。
今回の、キャラバン隊参加機関は以下の通りですが複数の方がご参加された機関もありましたので、20人を超える方々と企業訪問をしました。去年と参加大学が若干変っていますし、近郊の自治体からの参加も増えていました。
参加機関名 | 所属 |
---|---|
神奈川工科大学 | 工学教育研究推進機構 リエゾンセンター |
金沢大学 | イノベーンョン創成センター |
関東学院大学 | 総合研究推進機構運営課 |
慶応義塾先端科学技術推進センター | リエゾンオフィス |
東海大学 | 産学連携センター |
東京都立大学 | 社会連携統括課・研究協力 |
横浜国立大学 | 産学連携推進本部 |
神奈川県産業技術センター | 技術支援推進部 |
(財)神奈川科学技術アカデミー | イノベーションセンター |
相模原市産業振興財団 | 事務局長 |
(財)横浜市企業経営支援財団 | 経営支援部 産学連携課 |
川崎市経済労勘局 | 産業振興部工業振興課 |
川崎市産業振興財団新 | 産業支援部産業振興 |
今回のプログラムは、 川崎市産業振興会館に集まりそこから全員バスに乗って最初の訪問企業日崎工業様の工場に伺い、その後川崎の新しい交流拠点である殿町地区の日崎工業様 の本社、第一高周波工業株式会社、最後に川崎駅近くでの交流会と盛り沢山なものでした。殿町地区は多摩川を挟んで新国際空港となった羽田空港の向かいに ある立地条件の良い「神奈川口」にあり、これから発展が期待される地域です。このレポートは、今回の訪問先の一つ日崎工業様の工場での「クリスマスツリー」製作の様子を材料に産学官連携の情報整理についてまとめました。
図2 三瓶社長の説明 |
図2の写真は大川営業所(工場)で説明していただいた日崎工業株式会社の三瓶社長です。当初、「三瓶です。案内させていただきます」とだけ自己紹介されたので、随分若々しいスマートな方が案内されているなと思ってお話をお聞きしていました。途中で主催者川崎市産業新興財団の桜井課長が「今お話されているのは社長の三瓶さんです」と言われるまで気がつかない位気さくなお方でした。(前もってホームページで社長さんのお名前を知っていたのにと反省)三瓶社長が手に持って説明されているのはこれから組み立てに使う機材です。横でじっと社長を見つめているのは、今回の大学キャラバン隊の事務局として、参加の皆さんの面倒を見て頂いた川崎市産業新興財団の堀さんです。2人の後ろには今まさにクリスマスツリーの製作を行っていらっしゃる作業員の方が映っています。こんな感じで一生懸命お仕事をなさっている中を全員で見学させていただきました。
図3はクリスマスツリーの台座、図4は先端部分の骨組です、この2つを見れば、出来上がるツリーの大体の形は想像出来ます。ランドマークタワーに行ったのは、実際にクリスマスツリーが飾られた姿がこの時思い描いたイメージと合っているか確認し、それがどのような場所に飾られ、さらに、みなさんがどのように見ているのかを知りたかったからです。形は想像していたとおりでしたが、大きな工場でそれなりに大きく見ていたものが、巨大なビルの中に飾られてみると、少し小さく感じさせられました。人間の感覚とはずいぶん相対的なものだと改めて感じさせられた次第です。 図1の写真にあったように、飾られた場所や周りとの調和の様子はすっきりと悠々としたものでした。まわりの階上から多くの方が見学していらっしゃるのも見てとれます。
図2、図3の写真の赤い色をした機械は、大型の金属切断機(シャーリングマシン)です。他にも大型の金属曲げ機(ベンディングマシー ン) が設置されていました。また、従業員の数に近い数の溶接機があることが、会社のホームページやパンフレットに記載されています。このような工場の大型設備と従業員それぞれが使う道具がある様子を見るにつけ、この会社のこれまでの発展の力がどこからきているのかがよくわかります。この設備とそれを使いこなす人がいらっしゃるからこそ、あのような大きなクリスマスツリーが作れるわけです。ランドマークでの素晴らしいツリーを見て感心しているだけでは知ることの出来なかったはずの力の源を見学させていただいた大川営業所(工場)見学でした。
図3 台座 | 図4 先端部分 |
大川営業所(工場)の見学の後、殿町にある本社に向かいました。そこにはCADを使った設計部隊と新しい部品の溶接や加工を行う人が働いていらっしゃいました。そこで、改めて日崎工業様の御話をお聞きしました。先代は東京都北品川で証明器具のスチームフレームを製作することからで事業を始められたこと。さらにその後1967年に川崎に引っ越され、その時川崎の「崎」にちなんで「日崎工業」と名付けられたとのこともお聞きしました。その後現在に至るまでの様々な企業活動や、最近の代表的な製品のご紹介をいただきました。
主力は「日本一高い板金屋」と言われるような高級な看板とその設置ですと、各社のロゴサイン、石川島公園、湘南台の楽器オブジェ、都庁駅前アーチ状オブジェ、有名企業の案内看板やショウルームの看板、モーターショ ウ等のイベントでの展示ブースや表示板等の美しい写真入りのパンフレットをもとに、その説明をいただきました。
2008年からは「メタルセンス」と言うオリジナルブランドを立ち上げ、技術の集大成と有名デザイナーとの協業をはかり、中には一脚が75万円もする高級椅子から図5の写真にあるようなステンレス製の靴べらまで高級商品の販売を始めていること。
2009年からは「R-DRPO」と言われるインターネット通販サイトサイトを立ち上げ、美容室・飲食店・飲食店・ペットショップ向け 看板の販売と顧客層の拡大を測っていること。
さらに材料としては、必ずしも金属にこだわることなく、プラスチックなども取り入れて業容を拡大を計画しているとのことの説明をいただきました。
こうした取り組みにより、現在の特定大規模顧客からだけではなく、新しいマーケットの拡大へ向けて、自社の立ち位置を変えていこうとされている三瓶社長の意気込みをお聞きすることが出来ました。
このケースにはいろいろ面白いところがあるのでまとめてみようと、以前このサイトの「魚眼マンダラで一枚に」に述べたマンダラ整理法で、日崎工業様の「戦略と仕事の進め方」の整理に取り掛かりました。或る程度整理が進み、いよいよ今後の進み方について、どう表現しようかと考えている時、フッと金沢大学のMOT塾用の宿題として利用してみようと思いつき、「図6宿題のケース設定」に記したようなものを作りました。ちなみにこのMOT塾で私も講義を担当しているのは「産学官連携と産業創出」です。
宿題の用紙に記入してあることは、「関係」の部分を除けばほとんどここまで説明してきたことと同じです。 ただ、分かりやすいようにと少し変更・単純化さらには無名化してあります。 MOT塾の宿題の焦点は2回の講義を参考にして「自分の立場で(例えば自分の研究室の強みと自分の強みを生かして)このケースの会社に何か、産学官連携を提案してみてください。」というものです。この図の「宿題」の部分を「理性」(科学技術や経営理論)に、「あなたの強み」を「感性」に、「何を提案」を「今の行動」に置き換えるとこのシリーズの「プレゼンファイルのモジュール化」 の「図1魚眼マンダラのフレームワーク」に示した図とほぼ同じ形になります。いずれにしても、MOT塾に参加された方々がどんな結果を報告されるか楽しみにして います。
現実の世界ではもう少し複雑な作業が必要となります。まずは大学の研究室のマンダラ図、次いで訪問企業(もしくはその一部門)のマンダラ図を纏めてから、図6にあるような産学連携提案のマンダラ図のブランク部分を描き、それを正当化するように、その周りの現在記入されているところを提案用に作りなおして行く手順になります。例えば「立ち位置」の部分は産学連携プロジェクトの「担当チーム の立ち位置」に修正しなければなりません。
産学官連携に従事する人は、これまでも大学の研究室の強みと企業の要望を整理し、その二つの共通点を見つけ産学連携の提案を描いているわけです。この時、意識することなく頭の中でマンダラ図に記され ているような論理を組み立てているとのではないかと思います。この論理を図に表わす方法として前出の魚眼マンダラ法がつかえます。私はこうして思いを何かに描きだしておけば、関係者の意識の調整に役立つのではと思っています。いづれにしても、この三つのマンダラ図(すなわち大学の研究室・訪問企業企業・産学連携の提案)の真ん中で一致する部分が大きけれれば大きいほど、産学連携の可能性があるということになるのではないでしょうか。この考えをベースにで、産学官連携に携わる人がやるべきことを纏めると次の4ステップになります。
こうして整理してみると、新規起業か企業内起業であるかは別として、大学発アントレプレナー(ベンチャー)は産学官連携に従事する人が、これらすべてを一つの会社で経験出来る可能性がある理想的な仕掛に見えてきます。
文責 瀬領浩一