日経ビジネスアソシエ(2009年10月6日号)ビジネスシンキング特集に板橋悟氏の「日経新聞をよりよく理解する方法」としてビジュアル思考法の記事がありました。 ここでは、ともすれば技術論に流れがちな大学発ベンチャーのビジネスモデルの作成時に、この記事の中から取引の仕組み(交換の原則)を表記する方法を拝借し、ベンチャー企業の立ち位置の確認に役立てる方法を紹介させていただきます。
永遠の真理を探求しています。特許を語る人は何が新しいのかを主張しているが、儲かるかどうかについては何も語っていません。一方ビジネスマンはどれだけ、儲かる可能性があるかに興味を持って話を聞いているわけです。
イノベーションやベンチャービジネスを実現しようとすると、このように通常はほとんど接点のない3者がコミュニケーションをとらなくてはなりません。このためには普段はビジネスのことを考える機会の少ない科学や技術志向の研究者もある程度はビジネスモデルを理解せざるをえません。こんな時、図書館で日経ビジネスアソシエを読んでいて「ビジュアル思考法」の記事を見つけました。この記事は、著者の板橋悟は日経新聞の読者がビジネスについてより深く理解できるようにと考えられて書かれたれたようです。それならビジネスのプロでない研究者が参加する、ベンチャービジネス企画時の資料作りにも利用可能ではと考え、利用した事例の報告です。 表記ルールは簡単もともと、ビジュアル思考法の新聞を読んでダイアグラム(図解)を描くまでの方法は次の3ステップです。
大学発ベンチャーのモデル作りに使うために非営利組織の特性を考えココロのマークを加えることにしました。その結果、表記ルー ルは図2のに 示したようになりました。利用する図形は法人 個人 モノカネ ココロのの5種類。それと 流れを示すモノとカネの2種類の矢印です。 この表記法をお借りして、ベンチャービジネスの計画時にビジネスの取引構造図を交換の原則にもとづいて描いて みようというのが 今回の趣旨です。元の記事は日経新聞を読み解くためにとなっていましたが、ここでは大学発ベンチャーの企画用として、次のような意味で図2の記号を使うこととします。
矢印は次の2つです
シーズから取引モデルに技術の事業化を図る時、そのもととなる技術の概要もしくは特許出願の概要を見直し、
検討しなくてはなりません。その一部はすでにこのシリーズの「ビジネスチャンスはどこに」でマトリックス分析手法 を使って、シーズとニーズの整 合性を取る方法 について検討しました。この方法は、何をなすべきか、何から始めるかを検討する方法です。ここでやろうとしようとしているのは、それを一歩進めそれをどのような仕組みで実行するかを検討するすることです。 図3の左の図はマトリックス分析等で対象としている何をなすべきか、そうすればどれくらい儲けることが出来るかを表しています。それに対して、図3の図は、具体的にどのような仕組みで、だれが何をなすのかを表すために使うものです。とくに、事業として成り立つために「仕組みをモノとカネとの交換」 と言う形に簡略化し、取引として表記しています。例えば法人が個人にたいして製品(モノ)をこれこれの価格で(カネ)で売るのかといった具合にやり取りされている状況を表示するものです。図3右の図の法人と個人とはあまり気にすることはありません、大きな意味では取引主体をヒトとして表現しているにすぎません。 この手法を新聞記事を読むときに使う時は、その会社はどんな計画をしているのかと会社の意図を解釈し、事実をつかむことですが、ベンチャービジネスの企画時には、そのベンチャー企業の意図を書くために利用します。次のステップは分析で足りない所を見つけ補うことになります。そして最期にデータで確認し、どのように実施するのかという戦術を検討したあと図に表記していくことにより取引モデルを完成させます。 試しに使ってみました図4はある研究者が持つ特許を企業化するベンチャー企業設立の企画時、最初の段階で整理した時の取引モデル図です。ただし、組織名や取引先は、抽象化・一般化して記述してあります。見事に大学発ベンチャーの 「バリューチェーン内での立ち位置」が表現されています。こうして最初の段階でも かなりいろいろな組織や個人と関連を考えなくてはいけないことがわかります。まだ企画レベルですから、具体的な取引先が決まっていないものもあるし、企業は決めてはあるが、取引量や取引単価が明確に決められいないものもあるかもしれません。これでは、キャシュフロー計算の準備も出来ないし、必要な立ち上げのための資金計画も立てることができません。早急に不足しているところを補足しなくてはいけないことが解かります。このような感じでこの図を修正・補足していけば、考えなければいけない範囲は少しずつ明確になるとはご理解いただけるかと思います。例えばマーケティングでは顧客の顧客を考えることは必須と言われていますが、この図では取引先である製造パートナーの主要取引先がまだ考慮されていないことや、大学研究室での研究活動を行う人が学生や研究生のみで、給与等の支払いを考えていないが、このような状況で、納期や成果物をコミットした活動が出来るか疑問が出てきそうです。たとえ立ち上げ時は可能であってもビジネスボリュームを増やしていくには、別途人員を用意しなくてはいけないかもしれません。その場合は、どれくらい資金が必要であるか、そしてそれをまかなう計画になっているかを検討しなければなりません。こうして、具体的な交換行為を通して取引先の取引先まで見えるようになっているため「時系列で発生する問題」を明らかにすることも期待出来ます。 図4に見るように、この図は「カネ・ココロを軸とした取引モデル」で、ベンチャー企業のすべてを明らかにしているものではありません。とくにお金に直接関係しない、社会貢献、権利関係、人材育成、人脈管理などは知ることはできません。それでも、企業が継続して存在するための最低限の条件である、キャシュフローを計画るために、どこを押さえどう関わっていくかの基礎情報を整理することはできるはずです。他にも、ビジネスのモデル化手法はいろいろありますが、これなどは簡単で誰でも使えるので、まずはこの手法から始めるのはどうでしょうか。この図を一度作っておけば、ベンチャー設立後問題が出てきた時、当初考えていたことと何がどう違うかを検討しやすくなります。追加で調べなくてはいけないことのみならず、対策がもたらす新たな問題も簡単に分かるようになります。新しいメンバーでベンチャーを起こす時はこれまでのやり方を検討・修正するという方法を使えないわけですから、仮説でもいいからここのようなモデルを作ってみる意味がありそうです。 2010/12/02 |