2011国際ロボット展は、2011年11月9日から12日にかけて、東京国際展示場で開催されました。 主催者の発表によると今年の入場者はこの4日間で102,361人で、1昨年とほぼ同じでした。 国際ロボット展の中心(花形)は産業用ロボットでした。展示場では多くのスペースを占めており、 見上げるばかりの巨大な産業用ロボットも出展されていました。 会場でこのように、大規模で複雑な仕事をこなすロボットが動いている様子を見ると、 どうして東日本大震災によって発生した、 原子炉の爆発後処理のような危険な現場で日本製のロボットが素晴らしい働きをしなかったのか不思議でもあり、 残念でもありました。 このような中、今年のサービスロボットビジネスフォーラムは、災害対策ロボット をテーマとするということ、さっそく参加してきました。 次はその報告です。
図1 サービスロボットビジネスフォーラム
サービスロボットフォーラムは、これまでも開催されて来ましたが、3月の東日本大震災を反映して、 今年のテーマは以下のプログラムのような、 「災害対策ロボットと復興支援ロボット」でした。
テーマ | 講師等 | |
基調講演 | 「東日本大震災からの復興」-医療・福祉現場の再建を支えるサービスロ ボット- | パナソニック(株)代表取締役 副社長 桂 靖雄 |
パネルディスカッション第1部 | 「東日本大震災を教訓とした災害対応ロボットのあり方」 | 東京大学 浅間 一、東北大学 田所 諭、千葉工業大学 小柳 栄次、 日本原子力研究開発機構 川妻 伸二、東京消防庁 町田消防署 高山 幸夫 菊池製作所 一柳 健、 コーディネーター 石黒 周 |
パネルディスカッション第2部 | 「復興支援でのRT活用に向けた取組」 | 福島県 南相馬市 村田 嵩 東京大学 佐藤 知正、産業技術総合研究 所 柴田嵩徳 パナソニック 本田 幸夫、本田技術研究所 伊東寿弘 セコム 小松崎 常夫 コーディネーター 石黒 周 |
基調講演では、パナソニック(株)代表取締役副社長でロボットビジネス推進協議会会長の 桂 靖雄氏より、「東日本大震災からの復興」と題したお話をいただきました。 桂氏からは、「サービスロボットが日本そして世界を救う非常に大事な技術である事」、 「今回の震災への対応を通して新しい産業が勃興し豊かになる可能性がある事」、 「そのためにしなければならない事」といったお話を頂きました。
桂氏は、サービスロボット適用例として、「オフィス・家庭・発電所等を結ぶ・ エネルギーマネジメントロボット、オフィス・ショッピングセンター等を結ぶ公共空間移動ロボット、 介護リハビリ施設・スポーツ・カルチャー施設等を結びつける高齢者・障害者の社会参加支援ロボット、 家庭・病院等を結びつけるテーラーメード治療・在宅治療ロボット、 病院を結ぶ介護看護支援ロボット等いろいろなロボットシステム」を挙げられ、 いろいろな場所で使われるようになると説明をされました。
こうなると、いまやサービスロボットは、社会システムと社会システム、 更には社会システムと人間を結ぶ機械系そのものです。 人間と関わるあらゆる機械にある程度の自律性を持たせ、 それをシステム的に統合していく巨大なインフラをベースとした、サービスシステムです。 サービスロボットと言えば、ホンダのアシモや、漫画の鉄腕アトムのように、 独立して自由に動く機械をイメージしていた私としては、なんとなく違和感を感じました。 パナソニックは、サービスロボットのマーケットとして、医療、 なかでも調剤の自動化から着手したということのようです。 自社の病院での薬剤調合システムを導入し運用しているビデオを見せて頂き、 なるほどこのような使い方があるのだと気づかされた次第です。 お話を聞きながら、30年以上前(若いころ??)、 製造工場での自動倉庫システムのソフトウエアの開発に携わった経験を思いだしていました。 自動倉庫システムと薬剤調合システムのピッキングやコンベヤには類似性があります。 製造業発展の20世紀後半を経験した日本は、 そこで培った工場の自動化技術やノウハウを、21世紀に入った今、巨大な病院と いうサービス機関の自動化に向けて利用していこうとしているとも言えそうです。 財政難のため何時か何処かで、財政規律を立て直さなくてはいけない昨今、 いつまでも医療関係の需要増大が期待できるのかどうか分かりませんが、少なくとも現在は、 可能性・新規性が期待できるビジネスエリアであることは確かです。 そのうち、IT産業で大型計算機の時代からパソコンの時代が始まったように、この世界でも突如、小 型で低コストの家庭医療自動化 の方法が見つかるかもしれません。 その時はまた違った形でサービスロボット化の動きが始まるような気がします。 興味の尽きないビジネスエリアであることを再認識しました。
このあとのパネルディスカッションは「東日本大震災を教訓とした災害対応ロボットのあり方」 ということで、識者の皆さんによるパネルディスカッションでした。 最初に各パネリストからお話をお聞きし、次いでそれらを踏まえた討議ということでしたが、 パネリストのみなさんの内容の濃い話は、一つ一つが講演のようになり、とても制限時間に収まりません。 それだけ、興味をそそる得ることの多いお話でした。
地震災害対応と原子力発電所の事故対応は人の力だけでは何とも出来ないというところは同じですが、 放射能の人体への影響といったところが根本的に違っているとのご指摘でした。 皆さん同じように言われていたことは、放射能汚染の危険がある原発事故処理では、 ロボットに頼らざるを得ない必然性が有り、期待度は高かったとのことでした。
原子力発電所の事故 対応・復旧 | ミッション | 冷却系の安定化、封じこめ、廃炉、現場作業員の被ばくの低減 |
タスク | がれき除去、サーベイマップの自動作成(放射線測定)、建屋(原子炉建 屋、タービン建屋)内調査(画像、温度、酸素濃度、等)、計測機器などの設置、サン プル採取、遮蔽、除染、機材の運搬、配管・機器の設置 | |
その他の災害対応・ 復旧 | 被災者探索・レスキュー、プラント・設備の調査、診断、修復、水中 探査、被災地のマッピング、重作業のパワーアシスト、被災者のメンタルケア |
ところが、こんなに期待されているのに、問題が大きかったのは、原子力発電所の事故対応・復旧のへの対応の方のようでした。 命をかけて現場で作業を行っている人達のお話の端々から聞こえてくるのは、 人が見ていないと使えないような未成熟なロボットは使う気にならないということのようです。 あたりまえです。 このような専門知識が必要で人間が立ち会わなければ使えないロボットであれば、人間が直接やっても危険度は変わりません。 それなら、装備の種類は少ない方が人手も少なくて済み、使う方としては楽なわけです。 結果、ロボットには任せられなかったということのようです。 また廊下の大きさに合わせて、ロボットを作ったのに、現地で使ってみたら、ロボットの回転が出来ない。 理由は、ロボット設計の際入手したビルの廊下の図面はビルを建築した時の図面であり、 その図面に合わせてロボットを作ってしまった。 ところがその後建屋の修理で通路の幅は小さく変更されていたため、動けなかったとのことだったようです。 このような情報は、非常階段のような限定されたエリアであれば普段から注意が行き届くように徹底出来そうです。 しかし、その他のすべての通路で、通路情報の共有をおこなうとしたら、大変なことです。 他にも、同様に必要な情報はいっぱいあるはずです。何十年に一回あるかどうかわからないことに対して、 ルールを決め、それを徹底させることなどほとんど不可能に見えます。 他にも、メンテナンスロボットは作って用意してあったが、十数年誰も使った事もなく、 事故の時には動かなかったといったお話もありました。 半導体通信機器は、原発事故のような高放射線のもとでは、耐久性に問題であるとの調査報告があったがその対策までは手が回らなかったこと。 これらは事故が起きなければ問題にはならなかったはずの話です。 しかし事故が起きた時に機能しないような事故対策は、あまりにもお粗末というしかありません。 「癒しロボットは避難所では大変喜ばれました。」と御話をされた後、もっと充実したいので、 出来ましたらご寄付をとのお話もありました(そんなに評判がいいのであれば、他の予算を 削って買ったらいいのではとつい考えてしまします。 優先度の高いのはどっち?)。といった具合に、あちこちお話が行き来し大変でした。 さぞかし司会者の石黒さんは神経を使われたことと、思いました。
結局、このような状況になるのは、まだまだ、エンジニアが理屈で考えるほどには、原発事故用のサービスロボットは必要とされていなかった ためかもしれません。このあたりを、東京大学の浅間教授は原発事故対 応のためのサービスロボットの課題を、次のように纏められていました。
ユーザー(消防、防衛、警察、電力会社)と一体となった実用機開発プロジェクトになっているか。 災害時緊急的にシステムの導入を可能にする組織運用体制はできているか。 そのための制度設計は行ったか。関連組織の取りまとめが自動的に出来る仕組みになっているか?等々 技術以外に考えなくてはいけないことが山積 しているようです。
被災地の皆さまには申し訳ないことですが、残念ながら起きてしまった事は元にもどせません。 これからは科学技術を過信することなく、真摯に反省し、科学技術力、産業競争力を高めるようにしようということです。 やっぱり科学と違い技術はニーズオリエンテッドに考えなくては話にならないようです。
一般ロボットとは違い災害対策ロボット開発には産業用ロボット開発の前提に、 次のような前提条件を加えなくてはいけないようです。
更に、福島第一原子力発電所事故への緊急対応からの教訓(やらなくてはいけないこと)として、 つぎのようなまとめのお話がありました。 なかなか大 変なことで、研究者や技術者だけでは解決のつかない問題がほとんどです。 ご参考までに。
しかし、大災害はまれにしか起きません。結局は、原発事故時にも使える一般ロボットを開発す るか、一般ロボットに何か追加の機能・装置をつけて原発事故用に使えるようにすることになるのかもしれません。 今のところ、人のいるところの大災害が問題なのですから、調査ロボット以外には、原発事故対応の専用ロ ボットを創るより、普通の人が使える普通のサービスロボットを創るほうが良さそうな気がし ました。原発事故対応は、これらの一時的転用でなんとかしのいで行くしかないのかなと感じた次第です。 普通のサービスロボットであれば、要件も決められるし、ビジネスとして立ち上げることも可能ですから、 どんどん進化させることもでき、まさかの時に動かないなんてことも起きません。
産学官連携に関係のあるものとして、RT交流プラザもありました。 このコーナーは「学・官が有する、ロボットに関する技術シーズを産業界に発信し、 そのPRと連携に向けた交流を図り、次世代ロボットの市場創生の加速化を促す」ことを目的としています。
このコーナーに参加されていた大学・公的機関は次の通り、16大学3公的機関でした。
早稲田大学、金沢工業大学、大阪大学、産業技術総合研究所、山梨大学、東京工業大学、明治大学、 東京大学、電気通億大字、日本工業大学、東海大学、宇都宮大学、豊橋技術料学大学、東京農工大学、 明治大学、中央大学、宇宙航空研究開発機構(JAXA)、海洋研究開発機構、東京理科大学
図2 金沢工業大学のブースにて
図2の写真は、石川県から唯一参加されていた、金沢工業大学のブースです。 朝一番に見に行ったこの写真は、学生さんが最後の調整をしているところです。 展示されていたのは、福祉向け車いすロボット(KuruRobo)、自律走行ロボット、 レスキューロボットということでしたが、残念ながらこの時は実演を見ることができませんでした。
このような、展示ステージだけではなく、プレゼンテーションスペースもあり、 どの大学・公的機関もその準備に追われている様子でした。
今年はどんなテーマで、どのような内容のモノがロボット大賞受賞されたのかを、見て回りました。 今年受賞されたのは下記一覧表にある12テーマでした。 その内訳はサービスロボット部門5テーマ、産業用ロボット部門3テーマ、 公共・フロンティア部門3テーマ、部品・ソフトエア部門1テーマでした。 時代の流れを反映してか、サービスロボット部門の受賞が一番多いようです。
『第4回ロボット大賞』受賞ロボット一覧
賞の種類 | 受賞内容 | 産学官連携 |
第4回ロボット大賞 | 安全・快適に人と協働できる低出力80W駆動の省エネロボ | ○ |
最優秀中小・ベンチャー企業賞 | HAMD-AS (八ムダスアール)豚もも部位自動除骨ロボット | |
日本機械工業達合会会長貰 | 注射薬払出口ロボットを起点とした薬剤業務支援ロボット群 | |
中小企業基璽整備機構理事長賞 | 超高圧送電線の活線点検ロポット「Expliner(エクスプライ ナー) | ○ |
日本科学未来館館長賞 | 『きぽう」ロボツトアーム | ○ |
優秀賞 | 細胞自動培養ロボットシスデム | ○ |
イチゴ収穫ロボット | ||
サイバネディックヒューマンHRP-4C | ||
ジョイスティック式自動車運転システム | ○ | |
ゲンコツ・ロボットシリーズ | ||
消防用偵察ロボットFRIGO-M (フライゴー・エム) | ○ | |
D3モジュール |
先に「サービスロボットの基調講演」でお話のあった、パナソニックが開発した 「注射薬払出口ロボットを起点とした薬剤業務支援ロボット群」システムは、 日本機械工業達合会会長賞を受賞されていました。 ロボット群となっているのは、薬剤部での「注射薬払い出しロボット」とそれを各病棟に運ぶ 「自律搬送ロボット」からなっているからです。
図3 消防用偵察ロボットFRIGO-M (フライゴー・エム)
もうひとつ面白かったロボットは、優秀賞の消防用偵察ロボットFRIGO-M (フライゴー・エム)エムでした(図3)。 なんとなく柔軟で、いろんなところを自由に動きまわれそうです。 受賞担当者のコメントによると、受賞後しばらく反応はなかったが、3月の震災後、「 海外製ロボットが活躍しているのになぜ国産ロボットは活動出来ないか」との苦言が来たそうです。 このロボットには、災害初期において先行的に用いる補助資機材として、下記のような活動が期待されているとのことです。
残念ながら、原発事故処理は明示的には対象とはなっていないようです。 その理由は、次の特徴からもうかがえます。
これでは放射線の高い現場では、その特徴を生かす事はできません。 やはり今の段階では、一般災害対応と考えるのがよさそうです。 この商品は、三菱電機特機システム株式会社と総務省消防庁消防大学校消防研究センターの協働開発との事です。 この組み合わせは、 技術・ビジネスを担当する産、シーズを持つ学、ニーズを持つ官が協働して進める 産学官連携に理想的なチームのようにみえました。 これなら企業は、ユーザーニーズを吸い上げるために、いったん、ある程度普及させたあと、どう展 開するか を考える事も出来るかもしれません。
2011/11/28
文責 瀬領浩一