「Co-Cafe」の原案をお送りしたところ、ステークホルダーの合意形成が難しいとのコメントをいただきました。その時、IT企業で顧客の意見集約につかっていた CPS(Customer Planning Session)を思い出しました。当時この企業では、大企業向けのマーケティングプログラムとして、CPSを盛んに行っていまいた。幸いにも 2013年7月にこの考え方を愛知淑徳大学の教授梅田敏文氏が「グループ創造セッション」として出版されました(注1)。そこでこの本も参考にしながら、中小企業の 共創プロジェクト計画手法の原案を作成しました。
梅田氏の本ではセッションを「メンバーの対等性が確保され、真剣勝負で議論しテーマを考え、情報を議論し、メンバーが情報を創造し意思決定 する場」とされています。そして、普通のグループ活動ではなくて、創造するグループ活動の方法の一つであるとしています。
図1は同氏が説明されている「普通のグループ」とセッション方式が対象とする「創造するグループ」との違いを示しています。テーブルの左側の欄「通常の グループは」友人、クラスメート、会社の同僚、同じ趣味や考え方を持った人々が集まり一緒に何か(仕事や趣味)をやろうという場合のグループです。多くの場合は 現状を前提とし、その中でできるだけ効率よくもしくは気持ちよく(楽しく)何かをやろうとする集まりです。参加メンバー互いに持っている知識や資源を出し合う ことにより、悩みも解決し、今まで以上に効果的な仕事のやり方見つかることを期待しています。Co- Cafeに集まられる方々も最初はこの状態に近いのではないかと 思います。多くの場合はこうして話し合うちに問題が解決し、共に作業を行いながら、新しい可能性が見つけます。
しかしながら中には、「普通のグループ活動」では解決が難しく、新しい試みを始めなくてはいけない場合もでてきます。また、いろいろな人が集まり、仕事の 環境を変え、あたらしいやりかたにすれば問題が解決する方法を見つける人もいるかもしれません。そして「普通のグループ」に集まっている人を相手に「この指とまれ」 と新しいチームを結成を始める人も出てきます。
梅田氏はこうして新しいことをやりたいと集まった意欲あるチームを「創造するグループ」と呼んでいます。このような現状に満足できない人は。同図の右にある ようなそれなりの準備をしてでも何かをやり遂げたいとの情熱を持っているはずです。このような「創造するグループ」の皆さんにセッション方式を適用してみようと 言うのが今回の提案です。起業家グループは「創造するグループ」の典型的な事例です。
こうした「創造するグループ」の集まる会議をすすめるセッションでは次のような役割果たす参加者が必要です。
セッション方式の会議には、新事業の当事者であるプロジェクトリーダー、メンバーに加え、事務局、セッションリーダー、オブザーバー時にはスポンサーが参加 します。参加メンバーそれぞれの役割は次の通りです。セッションリーダーは結論が出るまでグループを導いていきます。セッションリーダーはメンバーのどなたの肩を 持つわけでなく、スポンサーの意図を外すことなく論理的に会議の進行をコントロールします。そのためにメンバーの意見とその反対意見も聞きだし、論理的には どうあるべきかを議論できるように導いていきます。このため、セッションリーダーの導き方によってはいろいろな結論が導かれる可能性がります。したがって、 前もってスポンサーやプロジェクトリーダーの意図をお聞きしておく必要があります。さもないとかないと、折角作った計画がスポンサーやプロジェクトリーダーに 拒否されることにもなりかねません。このような事態を避けるためにはスポンサーやプロジェクトリーダーの意図はセッションリーダーが納得できるものでなければ いけません。納得できない場合には、事前に調整し、セッションリーダーの考えを変えるかスポンサーやプロジェクトリーダーに意図の修正をお願いすることも必要です。 めったにないことですが、このどちらの調整もできない場合は、セッションリーダーを降り、他の人にお願いすることも必要かもしれません。すなわちセッションリーダー 自身の世界観に合わない時はとても引き受けかねるということです。
プロジェクトリーダーはこのセッションが終了した後で、セッションで決めた計画にしたがって実際の事業を開発する責任者となることが期待されています。新規 事業であれば事業責任者や起業家の候補者です。
メンバーは新規事業に利害関係を持つ人々です。新規事業の立ち上げになんらかの形で参加することが期待される人々(ステークホルダー)となります。すなわち メンバーにとっては、セッションは自分自身の将来を決める事業計画の作成の場デモあるわけです。建前を言っていたり、きれいごとを言っていたり、既得権益を 守ろうと考えていては、自分の将来が破綻してしまう立場です。人数は多くて10人程度を想定しています。
スポンサーは、自分の思いを実現するためにプロジェクトリーダーやメンバーを支援する立場の人です。
オブザーバーはセッションのメンバーだけでは不十分な情報・知識・知恵を提供していただく人々です。
このような様々の立場の人で、かつ普段は同じ部屋にいるとは限らない人々が集まって、新しい事業を始める計画ですから、その準備や環境整備も大変です。 それを円滑に進める役割を担うのが事務局です。事務局は、セッションがうまく実施されるよう部屋を準備し、時には後で述べるように合宿会場を予約し、そこに必要な モノや資料を準備し、プロジェク参加者がセッションをしやすいように準備する人々です。
セッションのすすめかた
セッション会場でメンバーは低いテーブルを前にして、全員セッションリーダーがいる白板・スクリーンを見て座ります。白板に一部にはにはセッションで出た意見 を記録するくA1サイズ位の紙(これをフリップチャートと読びます)をぶら下げます。一枚のフリップチャートには図2右のようなセッションルール(セッションで メンバーが守るべき約束)を書いて、セッションリーダーの近くの壁に貼っておきます。このフリップチャートはメンバーが長々と自分の意見を話していると、「トークネット」を指さし「意見はもっと簡潔に言って下さい」といった具合に会議の進め方を注意する時に使われます。セッションで話し合われる 内容はセッションごとに千差万別ですが守るべきルールはそう多くはありません。
会議の進行中、セッションリーダーはメンバーの話す内容を、フリップチャートに簡潔な言葉で記録していきます。メンバーはノートを取り ません。そしてメンバーの発言が終わるとセッションリーダーは自分が書いた短文を見せ言いたいことはこれでよろしいですかと発言したメンバーに確認します。 発言したメンバーの意図と違っている文章の場合は発言者に直していただきます。このようなことを繰り返しているとメンバーの発言から無駄な言葉は少なくなり、 的確な文章表現に変わってきます。また最初の記録はセッションリーダーが書くわけですから誰かが発言している時に、他の人が何か言ってもすべて無視されて しまいます。したがって発言者以外のメンバーは話している人の意見を聞かざるをえません(自由発言の禁止 )。社会的に上位と 思われている方であってもそれは違うと言うだけでは、取り上げられません(全員対等)。自分が正しいと思うことを対案として短文で 表現することを求められます(建設的に)。こうした対案と元の案のどちらが適切か議論され残った方が記録されます。これを繰り返し対案が 出なくなった時にセッションリーダーは「修正された文章」に 全員合意ですねと確認し次のテーマに移ります。したがって対案を示せなければ上位者といえども無視され 賛成したことになります。
こうして合意を得られて意見を書き込んでいく内に、用紙には余白が無くなります。この用紙は後で参照できるように壁に張り出され、新しい紙を使います。壁に 張り出された会議資料は、会議終了後縮小印刷され参加者に配布されます(したがってノートを取る必要はありません)。こうして「その後のセッションでは常に それまでに合意したことを前提に意見を述べることが出来るようになります。
セッションに疲れた頃には適度に休憩をとり、お菓子を食べ飲物を飲み、過去の資料にもさらっと目を通しセッションの再開を待ちます。
このような進め方をしていると、なかなか意見はまとまりません。当初はいつ終わるのだろうと思うくらいゆっくりとした進捗です。しかし時間と共にやり方に 慣れてきますし、早く切り上げて帰りたいとの気持ちが出てくると、メンバーは自然と頭脳フル回転させ建設的な意見を出そうと努力する ようになります。また短文で表現することにも慣れてくる頃第一回目は終了です。大抵はこの時には外は暗くなっています。セッションの終わりがすべて午後に スケジュールされのはこのような事情が有るからです。
セッションルームの後には、資料を置く台も準備します。ここにはメンバーが用意した紙の資料だけでなく、他のメンバーにできるだけ直観的に理解して いただけるようにと、提供したいサービスやモノを表現するデッサンや模型を飾ることもできるようにしています。
このような調子で進めるのですから、とても1回で計画が作成出来るわけが有りません。典型的なセッション推進のステップ案は次の通りです。
最初の「グループ結成」のステップは未だ本格的なセッションではありません。参加メンバーの紹介、参加者を取りまく社会・経済・技術の現状や、なぜこのような セッションが必要になったのかとグループ結成の目的を説明しメンバーへの動機付けを行います。セッション方式の説明を行い、進め方についても理解を得るように しておきます。そして次回以降のセッションの参考になる資料の配布を行い事前準備のお願いをします。
「現状分析」のセッションでは、事務局が準備した資料の説明に加え、参加メンバーや属する組織がおかれた状況やメンバーが思っていることをセッション方式で 整理し、現状に対する共通理解を得るようにします。最近の日本の社会・経済の現状を見ていると、新しい事業を始める時には立場の違う人からいろいろな顧客ニーズに 対してどのような価値をどのように提供するかを(すなわちサービス)をお聞きし十分に検討しておくことが重要となっています。このように考えるとモノは新しい サービスを行うためのツールという位置付けとなります。
とはいえ、これまで優れたモノづくりを強みとして、それをベースとしたサービス提供を行ってきた人対には、突然すべてをサービスの立場から見るのも難しい のかもしれません。解決のヒントの一つがエコノミックガーデニングです。エコノミックガーデニングでは、"農園での常識を地域興し" に使います。それなら"モノづくりの常識をサービスづくりに生かす"という考え方をすれば過去に蓄積された経験が使え、モノづくりの 会社もスムーズに新しい時代に対応できそうです。
現状認識について共通理解が得られた後は「問題分析」です。図3 あるようにグループが抱える問題や課題(ニーズ)をセッション方式で整理し、主要な問題が 出尽くしたと思える段階で重要と思える問題の原因や課題の理由(仮説)を整理していきます。ここまでは発散指向でセッションを進めるため、無数の原因や理由が 上がってきます。
原因や理由が明確になったところで、1週間ほど間を空けて、次のステップ「プロセス革新」すなわち新しいビジネスモデルづくりに進みます。このステップと次の 計画作成ははいつもの場所から離れて合宿方式でやることを薦めています。このためメンバーはセッション開始までに原因や理由を解決する為の自分なりの解決策と 対応策を作成しその根拠となる情報を収集し準備を完了しておく必要が有ります。
合宿の前半では、こうして準備された根拠ある多くの解決策から重要なモノを選び出し、合宿の後半「計画作成」では選び出された解決策を仕組み仕掛けに分類し 責任者を決め、達成目標を設定し、期限を決める全体の整合性を取ります。通常はこのセッションに参加し計画を作成した人メンバーが計画実施の責任者となるため、 成功の可能性も高くなるはずです。何しろ自分たちで作り合意した計画ですから失敗は誰にも転嫁できない自責となるのですから当然です。
とは言え、こうして作られた計画が必ず成功すると考えるのは早計です。そのような制約を付ければ、だれも危険を冒そうとしなくなり、参加者は誰でもできる 平凡な計画作りに逃げ込んでしまいます。これではわざわざセッションをやってまで挑戦する意味はありません。この状況から抜け出す方法の一つは「リーンスタート アップ」で検討した方式です。
リーンスタートアップ方式とは、図4にあるように、スポンサーの承認を得た後、新しい仕組みを組みたてていく段階で、計測するパラメータ(方向転換が 必要となる基準)を決めておきます。常にパラメーターを計測しておき(観察しておき)おき、パラメーターが基準を超えた時や超えることが予測される時には、 方向転換を図るための計画確認セッションを随時開催することです。こうして方向変換を行うことにより、当初計画を修正しながら当初目的(狙い)を実現する可能性を 向上させることができます。
セッション方式を成功させるには、スポンサーやプロジェクトリーダー適切なメンバーを選出ことのほかに、適切なセッションリーダーを選ぶことも重要と なります。セッションリーダーには、問題解決の概念と手順、さらにはそれをうまく運営するために必要な知識や検討テーマの業務内容の理解できるだけの基礎知識、 関連する業界、外部環境についての知識、更には改革を進めるため必要な最新の情報システムの使い方を理解できる程度の最新知識といった様々な知識が必要となります。
更にはこれらの知識を有効に活用するために、メンバーの話を正確に聞き正しく理解できる力、意見を論理的に整理する力、意見が出ない時にはみずから質問し メンバーの意見を引き出す力やメンバーが話したことを簡潔明確な文章で表現する技能も必要となります。
そのほかにも議論を論理的に進行させ、具体的な事実に基づいた発言を重視し、メンバーの人間関係も見据えて議論を発展させるとともに、メンバーより先に 頭脳回転させ、ユーモアの心を持って明るくふるまい、話上手であることなどが要求されます。
このような人材は大企業であれば、社内のシニアな人で経営企画や業務企画の経験のある人、もしくは協調性・知識・技能のある人で手法を学習しながら仕事の中に 取り込むための無理がきくな若くて体力ある人が候補者となります。しかしながら、これから起業しようとする人や中小企業ではこのような人材は十分ではないかも 知れません。このような時には、グループの自立性を重視して会議の運営・問題解決の推進・合意形成が上手な人間関係技能を持つファシリテーター、業界や外部環境の 情報提供でき最新事例の情報提供やベンチマークを実施できるプロセスコンサルタント、大学がからむ場合にはリサーチアドミニストレータやコーディネータ等の中から 選ぶ方法もあります。
私がCPSでセッションを行ったのは大企業の情報システム計画作成の時でした。今回は、その時の経験を思い出しながら、産学連携や中小企業のグループ事業開発 計画もしくは起業の計画作成(共にいわばアントレプレナー精神を持った新事業を立ち上げたいグループ向け)セッション方式を適用する案を簡単にまとめました。 CPSをもじって「CCS(Co-Creation Session):グループ活動計画作成手法」です。大企業の情報システム計画プロジェクト」と共創型プロジェクト計画の大きな違いは スポンサーがメンバーに対して持つ力の大きさです。少なくとも共創プロジェクトを始める時はスポンサーは明確ではないし、リーダーの強制力も限られています。 新事業を立ち上げの場合でもスポンサーとなる人を決めその人の意図もしくは狙いを実現するようにしないと、一貫したセッションの運営は難しくなります。また セッションのステップも、ここであげたステップにこだわる必要はありません。合意形成のテクニックについても効果が期待できればどんどん新手法を取り入れていけば よいわけです。ただ計画作りと、実施状況の確認にはきちんとした方法で関係者の合意が取と続けておくことが重要と思う次第です。
セッション方式に興味をもたれ、セッション方式を検討してみたいとお考えの方は(注1)にあげた資料を参考にしいただければ幸いです。
(注1)「グループ創造セッション」 プロセス革新をめざすグループによる問題解決の方法 梅田敏文著 株式会社ユニーテ出版
2013/11/11
文責 瀬領浩一