86.体験を生かした起業提案

86.体験を生かした起業提案

アントレプレナーコンテストに参加して

はじめに

 平成25年11月19日(金)15時00分より、自然科学系図書館棟G1階G15会議室で、金沢大学ベンチャー・ビジネス・ラボラトリーの「平成25年度  アントレプレナーコンテスト」の発表、審査、表彰会が行われました。発表された中に、現在ネットワークで活動しているテクノアルタを育て起業に持っていければとの 面白いお話がありましたので、今回はそのあたりを中心にまとめてみました。こんな話があるなら一緒にやってみたいなどと思っていただければ幸いです。

アントレプレナーコンテスト概要

 アントレプレナーコンテストは、平成11年度から金沢大学の学生を対象として開始されたもので、今回で15回目です。
今回の発表タイトルならびに発表者は以下の通りでした。

発表者タイトル一覧

 発表者は学部、修士課程並びに博士課程の学生さん、そして専攻は自然科学ならびに医学系の学生さんでした。以前からの工学系の学生さんを中心とした研究成果の 実用化を目指すシーズ指向の発表に加えて、ニーズ指向のサービスに焦点を当てた発表が増えているようです。とはいえ起業として成り立つためには、その業務に関する 卓越した製品またはサービスが出来ることはその前提条件でもあるわけです。そのためアントレプレナーコンテストでも自分の強みを新しいビジネスチャンスに対して どう生かすかをきちっと説明する必要が有るとの意識に変わってきているように感じました。

 審査員は次のとおりでした。

審査員一覧

 今回も、「熱意をもって相手が聞きたいことを話す」でご説明した平成23年度のアントレプレナーコンテストと同じように、素晴らしい説明をお聞きすることが できました。皆さん上手に現状の問題点をとらえ、それを解決する自分のプランを作成し、それを見事に審査員の前でプレゼンされました。

 舞台裏では、以下の金沢大学ベンチャー・ビジネス・ラボラトリー(先端科学・イノベーション推進機構)の皆さんのコーディネートのもと、コンテスト発表に 至る次のようなプログラムが実施されました。

コーディネーター一覧

 7月:アントレプレナー学入門受講の学部学生に対して、アントレプレナー基礎セミナーと本コンテストに対する説明と勧誘を実施。
 7月~10月:計3回の説明会を設け、一般学生への応募勧誘を実施
 10月初旬~:本コンテストのプロポーザル提出の後、コンテストの参加者は商品開発セミナー、特許セミナー、プレゼンセミナー、ビジネスプランセミナーに 参加し準備万端でコンテストの準備を行いました。その間はテーマごとに、応募者の悩みを聞きその解決にも答える個別指導を行ってきました。

 単にアイデアをまとめるだけでなく、他人に訴える能力をも鍛える素晴らしいプログラムです。その上、優秀者は賞金までいただけるのですから、こんな楽しい プログラムはそうそうありません。

 なお、本年の表彰者は以下の通りでした。

表彰者一覧
表彰者の写真
図1 表彰者の写真

 

 本年の参加者の中には、昨年も参加された方もお二人参加されています。
昨年はどんなテーマで参加され、どんな結果であったかに御興味のある方は「若者の力を生かす仕組み」を見ていただきご確認ください。 いずれにしても、こうして何度も参加される方の出てくるのもありがたいことです。今度は起業してみましたなどと言う方のお話や、その途中経過ですなどと言う お話でもお聞きできればもっと盛り上がることは間違いありません。

 プログラムの詳細や発表内容にご興味のあり、詳細をお知りになりたい方は下記にご連絡先・ご相談ください。
金沢大学ベンチャー・ビジネス・ラボラトリー 林、塚林
〒920-1192 金沢市角間町
T E L :076-234-6874
F A X : 076-234-6875
E-mail:kvbl@adm.kanazawa-u.ac.jp

「テクノアルタ」ってなに

 今回最後に発表され最優秀賞を受賞された川上さんによれば、3Dプリンターや3Dスキャナーが使える時代となり東京渋谷での FabCafeが開かれるような状況に なっており、現在ニコニコ動画には27.082件を超えるものづくり系の動画が登録されているそうです。

 趣味とは言え、以前のような大変な思いをしなくても新しいものを造れる時代になりました。その中には自動で動くゴミ箱や自転車の電飾アクセサリーのように 商品レベルのプロとタイプ作品も多数見受けられるとのことです。
 さらには、このようにして作られた発表されたものの動画を再生する人も多いので、中にはそれを欲しいと思う人もいるはずです。

 ところが、このようなアイデアを考えた人も、趣味の範囲で1個や2個なら少々時間がかかっても作ることは可能としても、それを100個もしくはそれ以上 作ろうとすると時間がかかり大変です。さらに、売れるだろうとの思い込みで100個も作っても売れ残ってしまうとその費用は馬鹿になりません。ということで、 なかなか商品化されません。これではいいアイデアであったとしても、埋もれてしますのはあたりまえです。

テクノアリタの機能

図2 テクノアルタの機能

 ということで川上さんのグループは10名のメンバーで2014年5月12日に「作りたい人と欲しいい人」を結びつける図2に示すような 役割を持った組織「テクノアルタ(https://sites.google.com/site/technoartha/)」を設立し、作品つくりを始めました。

 このグループには、金沢大学の学生と教員、企業の社員が参加しております。そして作りたい人には商品開発の支援として、開発ノウハウの共有を持ちかけたり 人材の斡旋さらにはアイデア作りのインキュベーション機能を提供します。さらにこうして出来た商品に対しては、欲しい人が買ってから思ったものと違うといった クレームは発生したり、壊れたときの面積事項についてのサポートや小ロットの生産手配さらには在庫管理や物流管理を行います。いわば商品開発と生産販売管理の 支援を行うという形です。

 テクノアルタの商品化第1段は「電子ガジェット×キャラクター(http://www.nicovideo.jp/watch/sm22537534)」です。これは、冷蔵庫の扉を開けると 話しかけてくるキャラクター(発音ミク)です。2013年11月3日と4日に東京でに行われた「Maker Faire Tokyo 2013(http://makezine.jp/event/mft2013/program/)」 に出品されたとのことです。Maker Faire Tokyo は3Dプリンターなど自分で作る人のための世界的祭典Make Faireの東京版です。まずは5000円で100個くらい売る ところから初めて見ようということです。

今後の展開について

 今後の次のような商品の開発を予定していますと、簡単な商品説明を頂きましたが詳細は省略させていただきます。

  • 心拍コミュニケーションガシェット
  • LED Tile
  • EdelViewer

 起業への取り組みとしては、事業コンセプトや考え方は素晴らしいものでしたが、現在は起業のステップ0と考えていらっしゃいます。

 むしろ、プロトタイプから商品への壁を越える勘所を掴むことを目的としたい。そのために趣味・副業として、商品化をめざすところから始め、 できるところからできる範囲で始めたい。そして小さく始め大きく育てる形で運営していきたいとのことでした。

感想

 今回の発表をお聞きして感じたことは、これまで日本の経済を支えてきた大量消費型日用品ビジネスには関係の無いテーマばかりであることした。そのかわり、 趣味に近い世界、医療・障害者支援、教育支援といったテーマが取り上げられていました。

 この傾向が続けば、以前に北欧を訪問した時感じた落ち着いたサービス中心の社会で、国家予算の主要な収入は消費税といった社会がやってくるような気がします。 ただ資源小国の日本でこのような社会を実現するには、国民が食べていけるだけの食糧確保のための農業振興と今以上のスピードで人口を減らす政策が必要になります。 これも時代の流れかも知れませんが、世界に製品を輸出してきた戦後の日本の発展を知る身としてはなんとなく寂しい気がします。

このような将来を考えると趣味にこだわり、今はまだ事業採算の目処が立たない案ではあるが、すでに始まっており今後とも発展し続けられる可能性が高い発表が、 最優秀賞を得たのも頷けるところです。この発表で今後の展開のところで「小さく始め大きく育てる」と言うところも「リーン・スタートアップ」でも取り上げた素晴らしい考え方であり、 大いに賛同するところです。

 本業のあり方もが変わり続ける現在、今回アントレプレナーコンテストに参加され就職される皆さんは、本業から事業ノウハウを吸収しながら趣味や副業に頼った アントレプナーを目指だけでなく、今回体験したアントレプレナーの考え方を本業にも取り入れ本業が崩壊しないためのイノベーション対策も考えて頂きたいと思う ばかりです。

2014/1/12
文責 瀬領浩一