2014年10月15日から17日にかけて、東京ビックサイト国際展示場にて日経BP社が主催のITproEXPO2014 が行われました。ITproEXPO 2014はIT関係者向けの展示会でCloud Day Tokyo 2014、BigDataEXPO 2014、Smart phone & Tablet 2014、Security 2014、Japan Robot Week 2014、Mobile & Social EXPO 2014、IoT Japan 2014と同時に開催されました。主催者の発表によれば上記展示会の参加者は3日間で合計64,458名です。 今回はITproEXPOでの大前氏の基調講演、本年のロボット大賞とRT交流プラザについてまとめました。
会場では開会と同時にセミナー会場アリーナで「ビジネス・ブレークスルー大学 学長 大前 研一氏による 「2020年、日本企業飛躍のカギ」というタイトルの基調講演が行われました。事前登録に遅れ、セミナー会場には入れなかったのですが展示場のメインシアター で大前氏のお話をお聞きすることができました。写真は同会場のスクリーンに映し出された大前氏です。
講演は「2020年は東京オリンピックの年であり、今はそれに向けて日本を再成長軌道に乗せる絶好の機会である。そのための最大の課題は国家債務、少子高齢化 であり、これに関連したIT活用のあり方に対して、以下の5つのことを話され、それらを実践することが重要である」というお話でした。
①古い秩序を破壊する
20世紀の日本は大量生産大量消費の時代で質のいい人間を多く育成する必要があったが、21世紀の日本はこれとは異なり、既存の秩序を破壊し新しい価値を創造する 抜きんでた人材が必要な時代となった。また音楽、スポーツや芸術の世界では世界1の若者がいるのに、ビジネスの世界ではそのような若者が少ない。 その理由としてコントロールが行き過ぎて古い秩序が破壊されていないためと説明されました。例えばドイツでは7割の人が中学時代から職業訓練を受けているのに、 東京では7割の人が大学進学をめざしている状況をお話されていました。米国ではスティーブ・ジョブスな亡き後も尖った人間には事欠かかないと、スクエアのCEOである ジャック・ド―シーの話とかテスラモーターズの創業者であるイーロン・マスク氏の例を説明いただきました。要は上司の言うことだけ聞いている人間だけでは、同じ ことしかできないため、古い秩序を破壊出来る人間にはなれないと言うことでした。
②3つのクラウドをフルに利用する
新しいことを考える時のヒントとして、ITにかかわる次の3つが重要とのお話でした。
Ⅰクラウド・コンピューティング (Cloud Computing)
Ⅱクラウドソーシング(Crowd sourcing)
Ⅲクラウドファンディング(crowd founding)
クラウド・コンピューティングでは、大型のコンピュータを持たなくても情報システムを利用できます。そのため新しい事業を開始する時最先端の技術であって もを小さい組織(例えば零細企業やベンチャー企業)で利用できることになります。
クラウドソーシングは自分だけではできないことを、ほかの人の支援を受けて行うことで、例としてご自身の本の翻訳者を募って2500万円くらいかかるところを 数十万で行なったと説明されました。クラウドファンディングは事業に必要な資金を多くの人から少しずつ集める方法です。
③練習する
上記3つのクラウドをうまく使うには、何度も使って慣れておく必要があります。そのためには仮想のテーマを取り上げ、それを解決する方法を考える練習を行って おくことです。そして次のような仮想のテーマ例とその説明を頂きました。
「セコム」を潰す。
「マイナンバー」を止める。
「メディカルシステム」の構築。
「GPS リアルタイムシステム」
④外国を訪問する
日本以外に行ってみることも推められました。これは実現可能な新しい環境を知るには素晴らしい方法です。どこかで行われていれば、前提条件が異なっている とはいえ、不可能ということではないわけですから。新しい仕組みづくりの大きなヒントになることは間違いありません。
大前氏は、お奨めの国としてエストニア、ベラルーシ、インド、フィリピン、中国 遼寧省大連をあげ、なぜいいかについて説明されました。
⑤サイトを知る
色々なサイトも訪問するようにとお話されました。色々なサイトを訪問することにより、現在どの程度のことが可能であるかよく理解できるためと思われます。
お奨めのサイトはo-desk、イノセンティブ、クラウドワークス、BBT大学院でした。
これらのお話の要点をマンダラ風にまとめたのが下図です。
この図に基づいて、大前氏のお話で学んだことを、私なりに次のように整理しました。
日本の繁栄のためには
⓪ ITの経済性を最大限に利用する。
① 2020年に向けて現在の秩序を破壊し新しい秩序を打ち立てる必要がある。
② そのためには、海外の成功事例も参考にグローバルな視点で考えるのがよさそう。
③ 日々の練習を通じて自分を磨き、周りの人の力を活用するのが成功の秘訣である。
④ 同時に秩序破壊を行う仕掛け(動機づけ)も用意しなくてはならない。
⑤ 今やこれらのことを行うにはITの力は必然であり、有効でもある。
となりました。
一言でいえば、「秩序の破壊ができるような人材となるために演習を通じて自分の考える力を付けろ」ということでしょうか。
上図の⓪ITの経済性は、ITproEXPO 2014に参加されている皆さんの暗黙と了解事項として、お話にならなかったのではないかと思い、私が追加しました。 ただ20世紀の日本を支えた質のいい人間を多く育成する必要性は無くなったとは、一言もおっしゃっていませんでした。あくまでも日本企業の飛躍を考えると秩序の 破壊ができる人材も育成しなくてはいけないとお聞きしたほうがよさそうです。
ITproEXPO 2014の会場にはITにまつわる多くの企業の商品の展示を見てまわった後、通路を挟んだ反対側で同時に行われていた(株)日刊工業新聞社主催の Japan Robot Week 2014、モノづくりマッチングJapan2014、Vacuum2014真空展、2014洗浄総合展 にも顔を出してきました。その中からロボット関係の展示を見た感想を簡単にまとめました。ロボット大国日本の雰囲気を感じていただければ幸いです。
会場にはロボット大賞の受賞作品の展示がされていました。上の写真は優秀賞を受賞された 手術支援ロボット iArmS®です。立ったまま写真の黒い台(赤矢印の先)の上に腕のひじを乗せてあちこち動かすと、黒い台は肘に密着して付いてきます。腕の動きを止めると 黒い台座の動きも止まりそのまましっかりと動かなくなります。いわば机に肘を付いて書き物をするイメージです。これを使えば、腕を自由に動かしどこにでも止めて、 長時間手術が行えるわけです。手術作業が終わり腕を動かしたい時は、手でレバーを押すと黒い台はまた自由に動き出しますので、次の作業に適したところに移動 できます。私も手を台の上に載せて動かしてみましたが、ロボットの応答時間は早くほとんどストレスを感ずることもありませんでした。実に気持ち良く動きます。 ただ手術する人に密接してロボットを設置する必要がありますのでその分だけ手術室が狭くなり、手術器具の置き場所やサポートする人との距離が長くなるかも しれません。十分広い手術室で、器具の置き場を工夫すれば問題なく使えそうです。
まだ新しい技術ゆえ、コストが高いとか新しい問題が発生してくるとは思いますが、用途が明確になり低価格化すれば、ほかの用途も普及しそうな技術と感じ ました。この器具は基本的には長時間(人によって物理的な時間は異る)同じ姿勢 (やることによってブレの大きさは異なる)を保つ(どこに保つかは用途による)ことが必要な動き (仕事や遊び)の補助装置です。
このように考えると現在このロボットは医学現場に限られた、技術として考えられていますが、前項の5つの課題の"③練習"のための課題にも使えそうな 幅広い用途が期待できそうです。
そのほか、今回ロボット大賞では以下の方々が表彰されました。
第6回 ロボット大賞 (経済産業大臣賞)
モジュール型高速多機能装着機 NXTⅢ
最優秀中小・ベンチャー企業賞 (中小企業庁長官賞)
静電容量型力覚センサ「Dyn Pick®」
日本機械工業連合会会長賞
全自動連続薄切装置ティシュー・テック スマートセクション
審査員特別賞
ロボット技術を応用した臨床リハビリテーション部門と研究開発部門を融合したロボットリハビリテーションセンター
優秀賞
狭小空間点検ロボット「moogle」
手術支援ロボットiArmS®
排泄支援ロボット「ベッドサイド水洗トイレ」
原発対応の小型遠隔除染装置「RACCOON」
自働化コンテナターミナルシステム
物流現場の自動化を実現する「医薬品物流センター高度化ロボットシステム」
ロボット大賞とは何か、その目的はないか、さらには今回2014年の受賞についてもっと詳しくお知りになりたい方は 第6回ロボット大賞ガイドブックが参考になります。
RT交流プラザではロボットに関係する大学や各種機関の製品が展示されていました。大学や各種研究機関の発表の場だけあって、若い人た ちで一杯でした。
出展されている大学や機関は秋田県立大学、大阪工業大学、大阪大学大学院、宇都宮大学、岡山大学、金沢工業大学、公立はこだて未来大学、岐阜大学、 芝浦工業大学、首都大学東京、東京工業大学、東京理科大学、徳島大学大学院、電気通信大学、日本工業大学、奈良先端科学技術大学院大学、兵庫県立福祉のまちづくり 研究所、法政大学、明治大学、山梨大学、早稲田大学等です。
どのようなものが出品されていたかにご興味のある方は、出展者一覧をご参照ください。出展者一覧にはRT交流プラザの大学だけではなくJapan Robot Week 2014 に出展されている公的機関、企業の名前と出展を予定されていた商品等の情報が記載されています。その中の出展企業・団体のいくつかにはリンクが張られています。 自分の抱えている問題や課題が明確になっておれば、このような企業や団体から解決のヒントやロボットに興味を持つ人々とのネットワーク構築のきっかけとできる かもしれません。(大前氏のクラウドソーシングのロボット部門の候補の一つとしても期待できそうです)
2014/10/23
文責 瀬領浩一