金沢大学の新技術説明会は2015年8月18日(火)12:25~16:00にJST東京本部別館で、開催されました。
開催の挨拶の中で金沢大学の向 智里理事より金沢大学としては「世界的に通用する研究機会」となるような新技術の提案をしていきたいとの 意気込みが語られました。会場のJST東京本部別館1階のホールは写真にあるように広く、それを埋め尽くすように、多くの方が参加され盛大なものと なりました。
JSTのホームページによれば新技術説明会は「大学、高等専門学校、独立行政法人、大学共同利用機関法人等の公的研究成果(特許)を実用化 (技術移転)させること」を目的として、新技術や産学連携に興味のある企業関係者に向けて、研究者(=発明者)自らが直接プレゼンする特許の説明会」 となっています。(注1)特許といっても未公開特許を多く含むため、「公的研究機関の最新の研究成果の情報を企業へ提供することを目的 としています。ブラックボックス以外にビジネスとなる新技術は特許であるということを改めて思い起こさせてくれた説明です。
今回発表された特許(技術シーズ)は次の7つでした。
お一人の説明時間は25分で内容は以下の5つに整理してご説明を頂きました。
発表の内容は、
技術の概要に加え、
従来技術・競合技術との比較、
新技術の特徴、
想定される用途、
関連情報として実用化への課題、企業に期待すること等
ビジネスマッチングを意識したを内容を丁寧にご説明いただきました。
具体的な発表内容は「発表技術アーカイブス」としてJSTのHPに掲載されています。今回の発表技術にご興味のある方はそちらをご参照ください。 (注1)
普段私はこのような会いに出席する時には、自分に興味のあるテーマだけをお聞きするのですが、今回は新技術説明会のすすめ方も知りたかったので、 全説明者のお話をお聞きしました。
案の定、新技術の中には技術の概要をお聞きしている時は話の内容がわからないものもありました。
例えば物質の分子構造のご説明を頂き、その構造で発揮する物質の性能、それを変える新しい物質構造に変更したところグラフのような性能を達成 しましたとお聞きしても、自分の知識不足のため「どうしてそうなるのか」とか「どうすればそれができるのか」といった技術の本質が全く理解できない のです。しかし、その後従来技術・競合技術との比較や、新技術の特徴をお聞きし、少しお話の技術概要を理解できるようになり、やっとその技術の良さを 理解できたような気がしてくるのでした。さらに想定される用途をお聞きし、ようやく自分なりの新技術の使い道が理解でるという次第です。そうなれば、 発表者(研究者)の発表態度を見て嘘が無いと信ずることができれば、自分の価値観に従って用途開発を考える気になります。
ここまでは発表特許技術(シーズ)中心に考えてきましたがここからはそれを利用するニーズを中心に考えてみます。
ニーズは、上記発表の想定される用途に書かれています。今回用途として挙げられていたものを、私なりに独断と偏見で並べ直したものを以下にまとめました。 従ってこの分類は発表者の意図や発表技術の分類とは関係はありません。
システムやデザイン 関連
遠隔操作システム全般における操作器としての利用
物の大きさが実感できるネットショップやグルメサイト、電子博物館、電子百科事典
人物やボール等を実寸表示したり、同じ大きさで表示し続ける業務用TVカメラや
個人用ビデオカメラ
マルチメディア・ゲーム関連でのヒューマンインタフェースデバイス
バーチャルリアリティ分野
装置・部品 関連
有価証券の真贋判定装置
非破壊検査装置
超高ビット数、超広ダイナミックレンジ計測用ADC
微細製造プロセスを用いた組み込み用ADC
高速、高精度無線通信用ADC
回転センサ
高周波用低損失カバー
フレキシブルプリントサーキット
フィルター
素子や材料 関連
家電用インバータ素子
電気自動車用超高耐圧素子
再生可能電源用インバータ素子
ガス・有機分子分離材料
電極材料
分子フラスコ
と多くの用途を想定されていました。これらの用途は、体系だって整理されたものではありませんが、技術開発者や、特許関連者以外にも、 新ビジネスを考えている人(アントレプレナー)が自社の商品の差別化を実現するツールを検討する際の参考には出来そうです。
25分のご発表の後、5分間会場の外の廊下で発表者と名刺交換をしながら意見交換をしたり、更に詳しく知りたい方から個別面談の申し込みを 受付ていました。
多くの方がご興味をお持ちになられるようで、どの説明者の場合も写真のように長い列となっていました。
佐藤教授の画面上で大きさが分かる実寸写真と実寸動画表示のお話の後には、実施に写真を取ったあとに実寸版の写真や動画をディスプレイに表示する 実演も行われました。
参加者が手に持っているものを動画にとって表示すると、カメラに近づいたり離れたりしても持っている手の大きさは変わることなく拡大縮小されて ディスプレイに写っていました。この時クレジットカードのように大きさの決まったものを同時に写しておくことがこのシステムのキーポイントです。 講演中にお聞きした話や画面に写っていましたがいろいろ質問をしながら実物で確かめることができ、技術をどのように使えばいいのかを参加者なりに 考えることができたようです。
やはり、お話より実物というところでしょうか。 プレゼンテーションは、注意を引くことを目的としてご自身で行い、納得していただくためには実物若しくは実物のモデルがあったほうが良いことを 感じさせられた実演でした。
これまで、新技術の発表会に参加する時には、自分に関係のありそうな技術や自分の理解できそうな技術を元に、テーマを選び参加してきました。 今回JSTの新技術発表会に参加して全ての発表を聞きながら感じたことは、自分にとって関心のある用途に関連していることを選んで参加する方法もある ということでした。もちろんそのためには発表概要をお知らせする時には想定する用途もしくはそれに類する情報を事前に流し、検索可能にして頂くことが 必要です。
こうした情報が手に入るようになっておれば、アントレプレナーを目指す人は、その情報にアプローチするでしょうし、その発表内容に共感できる ことが分かれば、容易にコミュニケーションが取れると思います。アントレプレナーを目指す人もお時間のあるうちに自分の想定している ビジネスで不足している新技術がないか若しくは重複している技術が無いかを「新技術アーカイブス」で検索しておくのはどうでしょうか。 (注2)
注1)新技術説明会の詳細はHPをご覧頂ください。http://shingi.jst.go.jp/index.html
注2)発表技術アーカイブスのHPはhttp://shingi.jst.go.jp/list.html
そのなかで今回の金沢大学のケースはhttp://shingi.jst.go.jp/abst/2015/kanazawa/tech_property.html に掲載されています。
2015/8/20
文責 瀬領浩一