昨年末から今年にかけてIcTやIoTに関する新聞記事、書籍、セミナーが氾濫しております。注1)~注10)更にそこで使われている言葉も いろいろです。ここでは話を簡単にするために下表のように用語を整理しました。
1から5の用語の意味は上記のように異なるのでしょうが、これらの用語を解説している記事にはどれも「ネットワークを使っていろいろなものを結合して 使うことにより、接続されているモノを有効に機能させることが出来、時間短縮・機能追加・コスト低減といった経済効果がある」と言ったような効果を 述べているため資料を読んでいると用語の差異が分からなくなってしまいます。
ただ、1から4までは、システム化技術の有効活用を中心に述べているのに対して、5のIndustry4.0はそこで使われるシステム化技術は1から4までと 変わりはありませんが狙いは国家政策(戦略)であるということだけは明確です。
この後は、これらの用語の厳密な定義は避け、1から4までのシステム化技術をまとめてIoTで代表し、起業家もしくはアントレプレナーがどのように 役立つかを纏めました。
資料に書かれたIoTシステムを読みながら、私なりに纏めたIoTシステムの機能的な構造は以下の通りです。
上図で表現されたIoTシステムの要素は次のように分類できます。
1.従来のモノの部分(上部の白抜きの部分と黄色のヒューマン・インターフェース)
2.モノに付属するセンサーの情報を処理し、インターネットとやり取りをする端末機能部分
3.個々のモノが自由に情報をやりとりするために必要なインターネット部分
4.端末から送られてきた情報を蓄積・整理し有効な情報を創りだすWebアプリケーション機能の部分
すなわち、IoTでは2と3の機能が従来の個々のモノに付加されるので、ネットワークを通じて自分以外のモノが持つ能力の一部を利用できるところに 特徴があります。たとえば、情報をやり取りするモノの数が増えるとWebサービスの部分で作られる情報の精度はどんどん向上します。その上、インターネット上 では種類の違ったモノも平等に繋がりますから、種類の異なったモノの情報を使った、新しい機能を追加できるようになります。
更にこれらの機能を制御するのは端末に入っているソフトウエアですから、ハードウエアとしてのモノから独立して、機能拡張や修正を行えます (Software Defind)。この機能拡張の魅力は、スマートフォンやパソコンをお使いの皆さんは十分ご理解いただけると思いますが、モノ(ハードウエア)を 買い換えなくてもソフトを追加することにより用途を増やすとか、用途の変更ができることを意味し、モノの寿命を延ばし、モノ単体の時に比べ費用の低減を もたらします。さらに機能修正(広義のソフトウエア修正)の魅力はソフトウエアサービスを行っているものから見ると、最初から完全を満たさなくても、 基本機能さえ満たせば出荷でき、初期の開発費用を下げることができ費用の早期回収が可能になります。
このように個別のモノづくりでは、埋め込まれた機能が差別化要因で無くなるとこまるので、最初からやたらと性能を向上させることや機能を増やして 提供してきました。これからのハードウエアはモノはものとしての基本機能をきちっとこなすことが目標となります。このためハードウエアは大量生産の コストダウンの効果を維持したまま、顧客ひとりひとりの要求に答え製品を供給する個別商品としての提供が可能となります。このあたりは同じパソコンが 使う人の必要性や好みによってそれぞれ違う用途に使えるのと同じです。
製品供給後も、利用者の環境情報をセンシングしてデータを収集できるようになります。収集したデータを分析・フィードバックしたり、モノが他の 利用者との接点になったりして、「モノを介在させたサービス」が実現します。「製品をユーザーに販売したらそこで終わり」という従来の物販の ビジネスモデルから、「製品利用期間を通じて継続的にサービスを提供できる」ビジネスモデルが構築可能になります。これはインターネットの持つ情報の 双方向性(インタラクティブ性)とモノとの組み合わせで発揮される、大きな特性です。
しかしながら、このようなことを実現するためには、インターネットでやり取りするモノとモノとの情報のやり取りのルール(プロトコール)が 公開されていることが重要です。更に同一目的を達成するルールが共通化されておれば、データ交換のためのやりかたを相手に合わせて選択し実行する必要が なくなり、ソフトの開発やテストの工数を劇的に減少させることができます。共通インターフェィスの設定にはデファクト標準(勝ったものが残る)の採用か、 ISO規格のように共同で標準を決めるといった方法が考えられます。
ドイツのインダストリー4.0はこの後者を狙い、国家を挙げて共同標準を決め、いち早く世の中にだし世界標準を狙う国家戦略(早いもの勝ち)のようです。 こうして世界標準をにぎれば、それまで密かに開発を続けてきた企業は、その世界標準をはるかに凌駕する新しいコンセプトをもとにした破壊的イノベーション でない限り、再開発・再テストを強いられます。その結果開発コストは膨らみ、商品投入時期も遅れます。こうなれば最終的には市場から撤退となることは 目に見えています。これは、ベータマックスとVHSの戦いや、iphoneが日本のガラケーを駆逐したストーリーと同じことが他のモノ(商品)でも起きることを 意味します。必ずしも技術的に優れたものが残るのではないということです。
環境変化への対応、過去の経験、得意技等をベースに、新たにやってみたいことを実現する方法はいろいろあります。たとえばIT関連の企業はIoTの 関連事業として端末としてのスマートフォン、Webアプリケーションの開発を行い各種サービス業務やコンテンツの提供を行っているかもしれません。 これら関連事業行ってきた企業は、すでに誰かがIoTに関連する何かの検討をしている可能性があります。問題は既存事業のモノの考え方を否定することに なりがちなIoT化ですから、社内から適切で優秀な人材を集めることが難しいことです。このため人的資源が不足で新規事業を躊躇している場合は、 企業買収によって不足人材を補い既存事業から分離し企業内起業とすることになるかもしれません。
企業内起業として社内に新たに検討チームを作る時には
現行部門から完全独立したチームとし
目的を明確にし
過去の成功にとらわれることなく
現状を重視し
リスクをオープンにして対策を取れるようにしておく
といったことが重要になります。
一方既存組織内の先行プロジェクトとして検討するとなると多くの場合は
担当者は現状を第3者的立場で分析し
まずはプロフェショナル・ワーカーとして貢献し
自分最大の強みを発揮できない時には
できるだけ早く自分プロジェクトを開始する(修破離)ことも辞さない覚悟が必要です。
更にIoT型ベンチャーを成功させるには、過去の業績にこだわらず起業家精神旺盛な下記のような能力を持った人が必要となります。
コミュニケーションが上手
人脈がある
対象業務をよく知っている
モノづくりの技術を理解できる
IoTアーキテクト
IoT技術
起業型業務のプロジェクトマネージメント
資金の工面ができる
とはいえこれらすべてを備えた人少ないでしょうから、上記のいくつかの素養を持ったデジタルネイティブと呼ばれる人材を中心に(人材発掘)起業チームを 作るのはいかがでしょうか。
動機や方法はともかく、やりたいことを元に人が集まりチームが結成されたら、最初にやることは、スタートアップ時のチーム戦略の決定です。
マイケルポーターの「IoT時代の共創戦略」では「接続機能を持つスマート製品が普及した状況下では、企業は10の新しい戦略の選択肢に直面することが] わかった。」として下表にあるような選択肢を挙げています。注6)
上表の右コラム(ベンチャー起業では)は人的資源の乏しい、立ち上がったばかりのベンチャーチームを想定して、私が独断と偏見で一般論を記入した ものです。実際のケースではここに自分のチームのケースについて事実を具体的に記入していくことになります。
たとえば、1番の「接続機能を持つスマート製品の機能や特性のうち、どれを追求するか」では、チーム員みんなで実現したい製品や特性を上げ、 そのビジネス成果を検討すると同時に、チーム参加者の過去の実績・保有する能力・スキル・やってみたいことを説明していただき、新製品や新機能の開発が 可能かどうかを件としてから決めるのが良よさそうです。早くもこの段階で新しいチーム員が必要であるとか、貢献する役割の無いチーム員が出てくるかも しれません。チーム再編成といたごたごたにならないよう注意がひつようです。「IoT時代の競争戦略」では具体的な例を挙げて説明したいますから、 これらもを参考にしながらも自分のケースを作成することです。
大企業の平時のオペレーション戦略を考えているわけではありませんから、
着眼大局着手小局の考え方で、
自分の強みを活かし、
できるだけ早くスタートし、PDCAを回す(参照 イノベーションの探索)
ということが求められるかと思います。
また「商品コンセプトの探索」でご説明した、 多次元思考図を参考にビジュアルにものを考えるのも面白いかもしれません。
この時製品設計に取り入れるべき点としてはカストマイズはソフトウエアに任せハードウエアを規格化する。一方ソフトウエアにより個客対応化、 機能のオンライン更新、予測機能、改良サービス、遠隔制御サービスは忘れないようにしましょう。
競争優位の要素としてモノの機能や性能に加え アフターサービスに必要な機能、顧客情報を利用したマーケティング、顧客の人材開発、ネットワーク 切断時の機能保証、セキュリティ対策といったことを考慮しておきましょう。
最近のIoTの情報を見ながら、常々感じていたことをまとめました。IoT化は決して特別なものではなく、今後社会の多くのものや仕組みが影響を受ける 基本的な考え方のようです。馬車に変わってガソリンエンジンを使った自動車が普及し時間が大幅に短縮(タイム・ワーカーの没落したこと)、 人力によるモノづくりが機械を使ったモノづくりに変わったことや電化製品の普及で生活様式が全く変わってしまった(パワー・ワーカーの没落) ことと同じことが、モノづくり以外でもインターネットを使った世界で始まろうとしているようです (ナレッジ・ワーカーの没落)。このような事態に備えて事業を行うには、既得権益に対抗し新しい時代を築く アントレプレナー(起業家)の必要性を感ずる次第です。
注1) 2014年11月21日発行の「すべてわかるIoT大全 モノのインターネット活用の最新事例と技術 日経BPムック」このp214にモノづくりベンチャー6社 として以下の事例が掲載されています。ご興味のある方は読んでみてください。ベンチャーを目指した方がどのような考え方でIoTビジネスを立ち上げたかが お分かりになるかと思います。
電動2輪者 テラモータース 世界発のiPhone連動で新興国攻める
ネット接続機器:Cerevo 多分野の技術が必要な製品で世界へ
電動車椅子:WHILL 格好良さを追求し乗る人の個性に
エネルギー管理システム:Sassor モノ×情報×ネットで巨大価値を目指す
腕時計玩具:Moff 子供の「動き」をビックデータに
タブレット端末:ユキピキタスコンピューティング ユーザーのリソースを借りて進化する
注2) 2015年1月21日のモノづくり日本会議での、「製造業において、今後、IoT/CPSに対して求められる課題と取組み」と題する第3回新産業技術促進検討会
注3) 2015年1月30日の日経新聞朝刊の大容量データ拠点整備という記事ではIoT(インターネット・オフ・シングス)を『自動車や家電工場の設備など様々な 「モノ」をインターネットにつなぎ、得た情報を使い動作の制御やデータ分析をする仕組み。』と解説しています。
注4) 2015年3月12日~13日 ザ・プリンスパークタワー東京でのIoT Japan
注5) 2015年3月17日 日本経団連発行の未来創造に資する「科学技術イノベーション計画」への進化を求める報告書に盛り込まれた"ICTによる産業革命"
注6) 2015年4月号 ハーバード・ビジネス・レビューの特集「IoTの衝撃」
注7) 2015年5月発行の「まるわかりインダストリー4.0 "あなたの仕事が機械に奪われる"日経BPムック」
注8) 2015年6月17日~19日 スマートコミュニティJapan2015でのICTまち街づくり推進フォーラム
注9) IoT & Enterprise Forum 2015 ~全てがつながる社会へ―事例で学ぶ「次の10年」~reviewが次のURLに掲載されています。 http://special.nikkeibp.co.jp/atcl/ITP/15/iotenterprise0804/
注10) 2015年07月15日 日経テクノロジーの「海外の巨人は、IoTビジネスの本質を見抜き走り始めている」
2015/9/2
文責 瀬領浩一