先日原宿のクリスマスイルミネーションを見に出かけました。原宿では見ている場所により豪華絢爛で素晴らしく豊かな感じと、気楽で楽しめる感じの2つの全く異なる感じを体験しました。ビジネスや人生の世界で、立ち位置の違いにより求められるものや夢が違うのと同じ体験でした。今回は立ち位置の違いを魚眼マンダラで整理することにより、状況に応じた対応方法検討の糸口にする方法を纏めました。
原宿で見たイルミネーションは図1左のように大きな道路の左右の歩道に生えている木の枝につけられた無数のライトが輝く素晴らしいものでした。その様子を写真に撮ろうと思っても、道路の真ん中からの写真は撮れませんでした。歩道を渡っている時には警備員が立ち止まらないでくださいと叫んでいるので写真を撮ることはできません。その他のときは沢山の自動車が走っていて危険で道に出ることもできません。タイミングを 見てなんとか撮ろうと思ってもなかなかそんなチャンスはきません。諦めて、綺麗なイルミネーションを見ながら歩いていると歩道橋がありました。あの上からならいい写真が撮れそうと思って近くづくと、「横断歩道橋は使用禁止です」との立札と侵入禁止のテープが貼ってあり上ることができません。ということで大きな道路の両側の歩道を歩きながらの見学となりました。表参道の両側には、イルミネーションの外にも CHANEL, Dior, LOUIS VUTTON, BURBERY,COACH,Gucci,といった高級品のお店や表参道ヒルズのような アーケードが立ち並んでいます。
表参道ヒルズの中には巨大なクリスマスツリーがあり、キラキラ輝いていいました。その近くの階段付近に はクリスマスツリーを背景に写真を撮ろうと図1右のように列を作って多くの人が並んでいました。両側の通路に は立ち並ぶお店への出は入りする人に加えて、上からツリーを見て楽しんでいる人もいて、日本というより どこかユーロッパの繁華街にいるような豪華な雰囲気でした。
一方竹下通りは図3にあるようにほとんどの建物は数階建てのお店です。お店も庶民的、道も狭く車も走っておらず歩く人の絶えるところがありません。
更に表参道の交差点の近くには図2右のような気楽な一休みするところもあります。ここでは若者が多く ちょっとした飲み物とお食事といったムードでイルミネーションのあった表参道とは全く違った雰囲気でした。
図1の表参道は制約があるが豪華絢爛で素晴らしく豊かな感じを受けますが、すぐ近くにある図2の付近は 非常に混み合っているが気楽で楽しめる感じと、受ける雰囲気は全く違います。半径300メートル位の範囲にあるこれらの場所は、隣の県からイルミネーションを見に来た私にとっては同じような場所です。しかしながら、 JR原宿駅を降りて表参道口に出るか竹下口を出るかによって全く違う2つの楽しみを体験できるようになって います。
そういえば、今回の散策は、イルミネーションを見に行くことでした。当初の予定通り(意図)であれば、図1のイルミネーションを見た段階で帰れば良かったはずです。そうすれば豪華なイルミネーションを見た私の 印象(記憶)だけとなり、原宿は豪華な街という印象(記憶)だけが残ったはずです。一方別件で図2の竹下通りと表参道駅近くを見て帰れば、私の原宿の印象(記憶)は楽しい街となったはずでした。ということは、現在(過去の出来事の集積)についての印象(記憶)は何を見たかった(視点)どこから見たか(視座)によって 全く違う可能性があったということです。いわば見る人が同じでも、見ている場所が違えばどれだけ正確に 記憶しても、その様子を十分に説明したことにならないという例です。
「 大学はやめないぞ」で紹介した金沢大学の人材活用術の一つ「自分への備え」の授業で、もし何かの理由で 両親からの仕送りが来なくなったらどうするかの課題(プランB)をだしたことがありました。
図3はこの時に、組織の目的達成と自分の目的達成が「Win-Winの関係」の関係で重なるところにあれば成長の場として使えそうですとしてその重なるところで一般論ではなく自分独自の夢や目的のプランBを考えてみましょうと話した時使ったものです。組織は問題の原因を探りながら解決策を探して組織目標を達成しようとします。一方そこで働く個人は自分の立場から現状が持つ問題点の原因を探りその解決すべく自己啓発を 図りながら人生目標を達成しようとしている状況を想定しています。組織の繁栄と人生の楽しみ若しくは生活費を稼ぐといった目的も異なりその対策も違いますがそれらの違いを踏まえたうえで、両者の目的を 達成できるよう現実を見つめるための図です(ワーク・ライフ・バランスの特殊例)。こちらは、想定された 外部条件が同じですが、宿題の回答者によってそれぞれ違ったレポートが出たという例です。
似たようなことを経営大全で、企業とそこで働く社員を例に述べています。その例では左の青い円には 組織の目標として利益・長期的成功・経済への貢献・社会への貢献・卓越した品質の5つの項目、右の赤い円の 中に社員の目標として給与・成長・良好な手当て・安全な職場・やりがいのある仕事、更に両者に共通の 目標として長朗的な相互繁栄を記しています。また両者を繋ぐのが相互信頼としています。こちらは企業と そこで働く従業員の間では総合信頼の絆が必要という例です。
図1と図2は豪華絢爛たる街並みを構成する組織グループと、人ごみを楽しむ場の提供を行う組織グループのようにまったく性質の違う組織グループが異なった顧客層に対してビジネスを行いながら共存共栄している様子を写しています。
また図3の3つの円(楕円も含めて)を45度右回転させて魚眼マンダラの上に被せると図4の青と黒と赤の3つの円になります。
上の青色の円は外部資源、環境、理性を中心とした魚眼マンダラ
下にあるの赤色の円は感性、立ち位置、保有資源を中心とした魚眼マンダラ
真ん中の黒い楕円は二つの立ち位置を考慮して現状、今ここで何を、夢を整理するのが自分の置かれた環境での実行案を表現しています。
相互に相手の状況を反映しながらも、現状から夢に至る実行計画は違うものになります。自業家思考図や起業家思考図で「自分のやりたいこと」と 「自分の立場」と二つの自分についての魚眼マンダラ図を作成しているのはこのためです。「自分のやりたいこと」は起業家や自業家として仕事での役割から図4の青色の円を元に魚眼マンダラの絵を描き、「自分の立場」では仕事から離れた自分・もしくは個人の楽しみを中心に図4の赤色の円を元に魚眼マンダラの絵を描き整理しています。
従って自業家や起業家は実行にあたって2つの立場がある事ことを認識して、2つの「実行案」をこなしていくことになります。いわば自業家や起業家のワークライフバランスです。従って、自業家としての自分の保有資源例えば能力については、個人の持つ能力に加え、個人の人脈を通じて行使できる外部資源の能力を 追加することができます。一方自業家としての感性の一つやる気は、自分のやる気よりもチーム全体としてのやる気が自業家チームのやる気になるといったこともあるはずです。
他にも起業の管理者の場合(オーナーや社長ではありません)は個人としての自分と管理者としての自分、更に会社それ自体の法人とそのメンバーとしである管理者としての自分の3つの実行案を考慮することになる はずです。更に顧客、供給者・・・と立場によっては留まることがありません。
そこで「シリコンバレーで学ぶ人材活用術」で説明したように、ともかくも個人の魚眼マンダラ(自分自身の)を作り、ついで所属組織若しくは所属チームの魚眼マンダラを作り必要があればそれを拡張していくことをお勧めいたします。
図5 重要イベントは何か
個人の魚眼マンダラを作るには、図4の9つの枠を埋める必要があります。「 環境・立ち位置」などは現在の自分を中心に考えれば描ける でしょうが、自分の保有資源屋や感情・外部資源・ここで何を・現状といったことは、過去の人生で獲得したものの集積が中心となります。ということで、これまでの自分を振り返る必要があります。この時いつどんな学校に行ったか、過去に勤務していた企業はどこかといった、履歴書に書くような事だけが重要なわけでは ありません。もっと重要なことは子供の頃の印象に残っていること、学校や会社で獲得した技量・知識・知恵、 更にどんな人脈を築いてきたか、活動の動機付けとなっているのは何かといったようなその時の体験内容です。
これらをまとめるには、今迄にどんなことがあったかを洗い出す必要があります。全てを洗い出そうと すると大変です。過去の日記や生活の記録がきちんと整理されている人は少ないと思います。しかし、全てを 網羅的に集めることが重要なのではなく、今の自分に影響を及ぼしているような経歴を洗い出すのが目的です。 ということなら、図5の左図にあるように、とりあえず記憶に残っているイベントを書き出す事から始めれば 十分です。また仕事に関係ある事だけでなく、心に強く残っているトラウマのようなものや幼児や子供時代の出来事で覚えていることも書き出しておきます。私の場合終戦間際の頃警戒警報が鳴り響き家族や近所の人達と一緒に防空壕に避難したことや、幼稚園に入った初日から友達にいじめられわずか3日位で幼稚園をやめてしまったことなどが時々思い出されるのです。一緒に逃げ込んだ近所の人が誰であったとか、私をいじめたのは誰だったかといった細かいことは全く記憶にないのですが、なにかの折にふと防空壕に逃げ込んだことや幼稚園をやめたことが頭に浮かぶのです。こんな悪い思い出がひどくなればトラウマに なりますが、私の場合はほとんどは楽しい思い出です。これらの思い出は普段はほとんど表に現れることが なくても意思決定の時に知らず知らずその結果に影響を及ぼしているかもしれません。井深大氏の人生は三歳までに作られるというお話もあります。注2)思い出すのであればこのような幼い時のことも書き出しておいても損はありません。
こうしてかきだされた重要イベントはその図4の 「現状」をまとめるために役立ちます。
さらに自業を始めたいと思った時にリーダーシップを発揮できそうなことは何だろうかを整理する時には 図5の右側のような軸で記憶に残っているイベントを整理しておけば、「感情 」の原因を整理するのに役立ちます。
図6 自分流のやりかた
こうして集めた重要イベントを見ながら何が自分の強みを生み出し何が自分の弱みを生み出したのかを 考えながら自分の強みや弱みを書き出すことができます。またこの重要イベントでお世話になった人や組織を 思い出せればこれが「外部資源」、学んだことが「理性」、自分が得た強みが「保有資源」となります。強み弱みを整理した結果自分のめざす方向が決まれば、右図のようにして自分流の「夢」を描くことができるようになります。この夢を達成するためのステップを考え、そのステップでの実現を阻害する原因を見つけ、それを解決する自己啓発(研鑽)がとりあえず「今ここで何を」やるべきこととなります。
こうして「自分の立場」での魚眼マンダラが完成です。
その後は対応すべきケースに応じて図3にあるような種々の魚眼マンダラを作ることになりますが、 その度に新しい立ち位置や視点が追加が追加されたり、既存の魚眼マンダラを修正することとなります。行動は徐々にパターン化し以前の魚眼マンダラを参考に新しい魚眼マンダラが作成できるようにもなります (ルーチン化)。
またその度に個人の魚眼マンダラを見直すことになり、徐々に練られたられた人生観や夢になることが期待できます(人生目標の明確化)。
原宿で綺麗な写真が撮れなくて、ムシャクシャしていたのですが、この記事を書いているうちにスッキリ しました。「不快な体験もまた楽しい」の例です。魚眼マンダラの立ち位置はこのように現在の状況を見ている場所を示します。ものを見るときの3つの要素(視点・視野・視座)の視座です。視座は同じ組織の中にいる ときはその上下関係(高さ)ことを表すことが多いようですが、チームや地図のように平等の場合は上下関係で なく場所(立ち位置)と考えた方が良さそうです。上記原宿の写真の例で言えば撮影した時のカメラの位置ですし、産学連携の場合は組織の価値観の違いが立ち位置になります。
また、このシリーズの「自業の夢を描く」では自業の夢を表す魚眼マンダラの作り方を説明しておりますし、「シリコンバレーで学ぶ人材活用術」ではビジネスの相手ごとに、「魚眼マンダラ」を作ることをお勧めしています。今回はその両方に関わる最初に作らなくてはいけない「個人の立場」を中心に魚眼マンダラ作成時のポイントをまとめました。「個人の立場」は自己紹介時に相手の立場を思い浮かべながら話すときにも役立ちます。
このように、魚眼マンダラは、それを描く人の立ち位置、目的(視点)、視野の広さによりそれぞれ違ったものになります。また他人の作成したものは参考にはなるかもしれませんが自分の役に立ちません。 まずは各人が自分の人生目的を考えながら「個人の立場」描いてください。最初から完璧を狙う必要は ありませんのでとりあえずすぐに思いつく範囲の経歴を整理して「個人の立場」を1枚描いてみませんか。その後実行計画をまとめる作業をしていて、気が向いたら「個人の立場」を見直しながらその実行計画に関わる新しい「魚眼マンダラ」を描き足してください。そのうちに自然と役にたつものが増えてくるはずです。
注1)出典 「トヨタ経営大全2(上)」 ライカー 日経BP社 P125
注2)「幼稚園では遅すぎる」 井深大 サンマーク出版
2015/12/21
文責 瀬領浩一