2016年11月9日から10日にかけて幕張メッセにてCybozu Days 2016が開催されました。このフォーラムの主催:サイボウズ社は1997年にビジネス向けWebサービスの開発、 販売、保守の会社として設立され、2007年に国内グループウェア市場でシェア1位となった会社です。私はたまたまサイボウズ商品のユーザーから話をお聞きしたことが ありましたので、他にどのように使われているのか知りたくて、参加させていただきました。
このフォーラムの対象者はCybozu Days 2016のホームページに書かれているように「サイボウズ製品をご利用のお客様や、エンジニアの方向けに、事例セッションや ハンズオン講習会、各種ワークショップをご用意しました。製品をご利用でないお客様もご参加いただけますが、製品の基本知識があることが前提となるセッションが 中心となりますことをご了承ください」となっています。そのため、第1日目のUser's Academyはスキップし、第2日のConferenceのみ参加いたしました。商品の機能の 紹介ではなく、商品の用途の説明です。サイボウズ製品を知っている人々に対して、製品の狙いとしている提供分野や、うまく使っている事例等を紹介する形と なっています。
今回のテーマは「共に生きる」でした。以下その中から印象に残ったことをご報告いたします。
折もおり、2016年9月27日に「一億総活躍プラン」活動の一つ第1回「働き方改革実現会議」が開催されました。そこでの安部首相のお話は 働き方改革実現会議-平成28年9月27日(政府インターネットテレビ)に載っています。
首相はその中で働き方改革実現会議の目標として次の9つを挙げています。
1番目に、同一労働同一賃金など非正規雇用の処遇改善。
2番目に、賃金引き上げと労働生産性の向上。
3番目に、時間外労働の上限規制の在り方など長時間労働の是正。
4番目に、雇用吸収力の高い産業への転職・再就職支援、人材育成、格差を固定化させない教育の問題。
5番目に、テレワーク、副業・兼業といった柔軟な働き方。
6番目に、働き方に中立的な社会保障制度・税制など女性・若者が活躍しやすい環境整備。
7番目に、高齢者の就業促進。
8番目に、病気の治療、そして子育て・介護と仕事の両立。
9番目に、外国人材の受入れの問題。
一方、厚生労働省では、20年後の2035年を見据え、技術革新による経済・社会の変化なども踏まえた上で、多様な人材が一人ひとりの個性を活かして働くことが できる未来の働き方を検討するため、本年1月から「働き方の未来2035: 一人ひとりが輝くために」懇談会を開催してきました。
8月2日、これまでの議論を踏まえて上記ホームページにある報告書が取りまとめられ、金丸座長より塩崎恭久厚生労働大臣に手交され公表されました。その「2035 年に 向けての提言」は次のようなものです。
①技術革新は、大きなチャンスをもたらす
②チャンスを生かすには、新しい労働政策の構築が不可欠
③働き方の変化に伴うこれからのコミュニティのあり方
④人材が動く社会と再挑戦可能な日本型セーフティネット
⑤働く人が適切な働き場所を選択できるための情報開示の仕組み
⑥これからの働き方と税と社会保障の一体改革
⑦早急かつ着実な実行を
この報告書を基にして週刊朝日では「2035年正社員が消える...20年後の「働き方大革命」報告書」 という記事を載せています。この中でサイボウズ社の取り組みを、「時間や空間に縛られない働き方」の手本として紹介しています。
今回のフォーラムはPCやスマートフォンを使って、クラウドに保管される仕事についての情報を会社のみならず、自宅や遠隔オフィスでも、移動中でも共有し コミュニケーションできるツールを使って、これらのテーマのいくつかに答えることができることをアピールしていました。
この日の基調講演は「共に生きる」をテーマにした、サイボウズ株式会社 代表取締役社長 青野 慶久氏 のお話で、サイボウズの誇れる製品はサイボウズlive(無料のグループウエア)とチームワーク溢れるサイボウズなどとジョークから始まりました。そのような 取り組みを始めたのは図1のように、2005年に就職1年後の離職率が28%になったためでした。このあたりに関係することは注1)を御参照ください。
そして残念ながらその時のサイボウズはチームワークが溢れていない会社で、長時間労働は当たり前・休日出勤は当たり前であったと説明されました。
100人にいれば100通りの人生がある。このように一人一人個性が違うのだから同じ働き方をさせようとしてもダメだ、ということで個性に合わせて多様性を 受け入れて現場を作っていくという働き方改革を始めたそうです。たとえば働く場所・時間を自由にし、副業も可能にする、サイボウズを一回やめても戻れるようにする、 といったようなことです。
その結果離職率は図2にあるように2005年の28%から現在は4%以下へと低下しました。同社ホームページ「 ワークスタイル」には多様な働き方を可能とする制度としてつぎに示すものがあげられています。詳細は同ホームページをご参照ください。
育児・介護休暇制度(2006年~)
選択型人事制度(2007年~)
在宅勤務制度(2010年~)
ウルトラワーク(2012年~)
育自分休暇制度(2012年~)
副業許可(2012年~)
このお話をお聞きしながら私なりのその当時のソフト業界を思い出していました。
1990年代のITソフトの開発は、顧客の業務に合わせてそれぞれ作成した顧客のシステム仕様書に合わせ必死にその機能を実現するソフトウェアをつくる方法で 行われていました。海外ではすでに多くのアプリケーションパッケージが開発されてはいましたが、すでに自社開発されたシステムを持つ日本の企業は、それを捨てて パッケージに合わせて仕事のやり方を変えることはできませんでした。その理由はパッケージに機能向上の部分があったとしても、機能低下の部分はユーザーに負担を かけることや、これまでやってきた他社との差別化(これらの多くは企業特別の習慣のため、パッケージには入っていない)ができないためでした。
したがってこれまでのシステム機能を拡張しながらパッケージの使えるところは使うという考え方で、ユーザーごとにシステム開発をしていました。特に資金力のある 大企業ほどその傾向が大でした。
大手ハードウエア会社と関係の深いソフトウェアベンダーの下請けとしてソフト開発を行っていた多くの中小のソフトウェア開発会社は、プログラム開発工数(人工)に 合わせた収入を得ていました。このためできるだけ低賃金で仕事の出来る人を集め(年功序列制なので若いほど良い)できるだけ長時間働かせることが会社の利益を上げる 秘訣でした。これでは、先が思いやられるとパッケージを作ろうという考えた会社もありましたが、なかなか成功しませんでした。そういう意味では当時は勘定系に くらべると市場が小さいが顧客の旧システムも少ないオフィス系(それまでは勘定系が多かった)で中小企業向けのパッケージ開発を始めたのは大変先見の明があったことと 思います。そうでなければ、こんな状況ですからどの会社もどうしても労働環境は悪くなったはずです。たまに費用や納期について交渉を始めようとすると、それならいいよ A国ではプロラマーは寝袋を持ってきて会社に泊り、賃金は日本より安いのだからと言われる始末でした。
図2を見ると人工ビジネスからパッケージビジネスに変わった時を狙って、新しい働き方の追究が始まっています。
パッケージビジネスでは、人工といった社員数に比例するビジネスではありません。製品の機能・質・使いやすさ・マーケティングが売り上げを決めるわけです。従って 社員の質を上げ、新しいことに挑戦する人材が必要となったこの時に働き方改革に取り組んだことに先見の明があったわけです。
改めて基調講演のガイドに書かれていた、次の言葉の重みに気付きました。
「日々変化するビジネス環境、社会の中で、「共に生きる」ことによって強さが生まれるとサイボウズでは考えています。」
今回のキーワードは「変化する環境」と「共生」です。
このあとは、以下の4人ゲストの方を順次迎えての図3のようなスタイルでお話をお聞きしました。
図3の左は青野氏、右は白河氏です。白河氏は女性問題の専門家です。男女平等について1947年に憲法では男女平等となっており、1986年には男女雇用機会均等法が 施行されていたのに、実態は2016年の女性活躍推進法でようやく具体的な対策が 始まったばかり とお話されました。実施に為の仕組みづくりが遅れていたということです。白河氏の働き方改革実現会議での発表については、注2)を 御参照ください。
これに対して、次の武蔵大学の田中氏は男性学の専門家です。男性は家族のために強く元気に働かなくてはならないというのが社会常識でした。それができないと 差別を受けていると主張されている方です。そのため人に悩みを相談すると、女々しく思われ、弱音を吐くと友達がいなくなるといった差別を受けている。このあたりは 「「男性学」が読み解く「働く男のしんどさ」とは?働き方の変革は、企業にとっての「リスクヘッジ」 」に記載されていますので詳細はこちらをご覧になってください。
京王電鉄バス株式会の虻川氏はkintoneを使って、4名で120本のプログラムを作成し、社内業務のも効率化・迅速化を図った経験をお話になりました。その様子は 「kintoneで150のアプリを次々開発、京王電鉄バスが業務改革の切り札に」 に記載されていますので、詳細はそちらをご覧になってください。
医療法人ゆうの森 理事長の永井氏は終末医療をどう考えるかのお話でした。
親にどうしたいか聞くのは難しいので、本人の気持ちになって考え、例え直せなくても支える医療行動したらといったお話をされました。自分の場合を考えると、毎日 最後と考えて最後まで自分らしく生きるのかと思うと、切なく感じた次第です。その様子は「 別々の時間に別々のスタッフがチームとして機能するために」に記載されていますので、 詳細はそちらをご覧になってください。
ここで一つ面白いことに気付きました。今回ゲストになられた方のお話を理解するに必要な情報は、すべてインターネットで探すことができました。詳細は 著書などを読まなくてはいけないとしても、大まかなことはそれで十分です。さすが新時代の経営者や働き方に携わる人達は、普段からこのような情報の提供に 慣れていらっしゃるようです。さらにアップされた場所もいろいろです。中には今回取り上げたサイボウズ社のサイトに上がっているものもありました。情報伝達も マーケティング戦略に欠かせない時代となっているようです。
図4「ホッとする雰囲気を醸し出す」の左の図は今回の会場の広場にある「サイボウ樹」でこの下に会場の案内係がいらっしゃいました。スタンプラリーの 抽選所とかkintoneツアーの集合場所といった、ふれあいの場としても使われています。今回のコンファレンス会場の幕張ではそれほど違和感はありません。しかし 以前サイボウズ社のにお伺いしたときです。本社ビルの入口を入ったばかりのところに、図の右にある左の写真とよく似た樹がありました。ここは、本社ビルに おいでになったお客様の集合場所または説明の会場、さらには社長の朝礼の場として使われていました。ここもまたふれあいの場です。東京の地下鉄日本橋駅を出て そのまま入れる東京日本橋タワー27階の本社でこのような場所に出会った時には驚くと同時に心がなごみました。両方ともサイボウズ社の「人にやさしく」を演出 しています。
本社ビルのオフィスは特定の業務の人以外は、フリーアドレスで、図5「整理整頓されたきれいなオフィス」にあるようにスッキリしています。共用の資料はそれぞれ 定められた場所に整理・保管され、個人の利用する資料はすべて個人カートに入れておき、会社に来た時にその時座る机のところに持ってきて仕事を始めます。ここまでは フリーアドレス方式をとっている会社では普通のことです。
その上、もちろん会社やチームの人々に仕事を依頼するときに必要な顧客情報や商品情報打ち合わせ結果、仕事上の問題点は常に最新の状態で、取り出すことが できるよう普段からサーバーやクラウドに入れて保管してあります。こうしておかないと、自宅勤務やモバイル勤務などができるはずがありません。整理整頓は基本中の 基本だということがよくわかります。これらは先進的な日本の生産現場では当たり前のことです。
ついに生産現場の管理技術が、事務部門のルーチンワークと言われるところにまで入ってきたようです。つぎに事務の自動化が待っていることは容易に予測できます。 これからの働き方改革には、当然取り入れるべきです(新しいビジネスチャンスの芽が見えてきます)。
サイボウズ社の話はよくお聞きしていましたが、今回Cybozu Days2016に参加して、今や新しい働き方がここまで来たかとの思いを強く感じました。世の中何かが 変わり始めているようです。
このシリーズの「主体的に未来を築く」で リンダ・グラットンの「ワーク・シフト」をご紹介しました。この本は働く人の立場にたって書かれていましたが、今回のフォーラムは経営者の立場で考える 「ワーク・シフト」です。
最近の世界の政治情勢を見ていても、これまでのように、過去を引きずりなんとかしようとしているリーダーばかりでなく、もう一度根本に立ち返って いかにあるべきかを考え直そうという人が現れ、実権を握り始めています。
このように今や「人生」・「経済」・「政治」いずれの世界でも「シフト」が起き始めているようです。「変化する環境」と 「共生」はこのいずれの世界でも通用します。ここで「共生」には「利害関係・立ち位置・価値観が 違う人が共に生きる」との意味で使っています。
まさにあらゆるものが「変わりつつある今」これからはアントレプレナーにとっては、久方のチャンス到来です。 「主体的に未来を築く」でIOEとひとまとめにした 「IT技術に加え」に「アントレプレナー精神」を身につけておくことが重要であると再認識させてくれたフォーラムでした。
注1)
サイボウズのイクメン社長は本当に育児しているの
http://dual.nikkei.co.jp/article.aspx?id=3625
第2回 「青野慶久『太陽にほえろ!』の残像が男を苦しめる」
http://dual.nikkei.co.jp/article.aspx?id=3627
第3回 青野慶久「育休取ると出世するから若い人は取りな」
http://dual.nikkei.co.jp/article.aspx?id=3628
20130513 なぜサイボウズは働く「時間」と「場所」の制約をなくせたのか?(前編)
https://cybozushiki.cybozu.co.jp/articles/p8328.html?8328
なぜサイボウズは働く「時間」と場所の「制約」をなくせたのか?(後編)-変革のカギは社員の自立-
https://cybozushiki.cybozu.co.jp/articles/p8562.html?8562
注2)白河氏の「働き方改革実現会議」での発表資料は以下の通りです。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/hatarakikata/dai1/siryou5-1.pdf
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/hatarakikata/dai1/siryou5-2.pdf
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/hatarakikata/dai2/siryou4.pdf
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/hatarakikata/dai2/siryou4_2.pdf
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/hatarakikata/dai3/siryou2.pdf
これからもいろいろ発表されると思いますのでご興味の有る方は
「働き方改革実現会議」のホームページで時々関連資料をチェックしておくのも良さそうです。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/hatarakikata/index.html
2016/11/26
文責 瀬領浩一