2017年1月6日朝日新聞朝刊に「高齢者、75歳から」という記事が掲載された。1)
一般的に65歳以上とされている高齢者の定義について、日本老年学会と日本老年医学会は5日の提言では高齢者は75歳以上とし、65~74歳は「心身とも元気な人が多く、 高齢者とするのは時代に合わない」として、新たに「准高齢者」と位置づけた。この世代を「社会を支える人たち」と捉え直し、より多くの人が参加する活力ある 超高齢社会につなげる狙いがある。また、平均寿命の伸びなどを考慮して、90歳以上は「超高齢者」とした。そして提言は「「あくまで医学・医療の立場からの提案で、 国民がこれをどう利用するかは別の問題」と報道された。(編集委員・田村建二、川村剛志)
高齢化社会の将来に不安を感じている人にはどうすればいいのかわからないニュースだ。
ちょうどそんな不安に合わせるように、2016年11月にリンダ・グラットン/アンドリュー・スコット著の「LIFE SHIIFT」が発行されていた。2)
その本の41ページでは、2007年生まれの子供の半数が生きて到達する年齢は、日本では107歳となっており、アメリカ、イタリア、フランス、カナダ、イギリス、ドイツも それに続き100歳を超えていると書かれている。既にいくつかの国では、コホート平均寿命が100歳を超え始めたている。それに従ってどのように生き様を変えれば 良いかのヒントが「LIFE SHIIFT」に書かれている。
今回はリンダ・グラットンの著書に書かれていることを整理し、簡単に自分なりの人生計画を作成することのできる一枚の用紙を作成したので、その概要を報告する。
今回、主に参考にした「LIFE SHIFT」の目次は次のような構成になっている。
序 章 100年ライフ
第1章 長寿という贈り物
第2章 過去の資金計画 教育・仕事・引退モデルの崩壊
第3章 雇用の未来 機械化・AI後の働き方
第4章 見えない「資産」 お金に換算できないもの
第5章 新しいシナリオ 可能性を広げる
第6章 新しいステージ 選択肢の多様化
第7章 新しいお金の考え方 必要な資金をどう得るか
第8章 新しい時間の使い方 自分のリ・クリエーションヘ
第9章 未来の人間関係 私生活はこう変わる
終 章 変革への課題
機械とエネルギーを使ってものづくりの効率を飛躍的に向上させ、今日の豊かな時代のベースとなった産業革命は、その機械を使って生産を行うために、工場に 集まり共同して効率的仕事を行うことが常態化した。個人がこのように大きな設備を用意することは難しいため、働く場所の多くは会社組織となった。働く人は、 大人になると、一斉に①仕事に必要な教育をうけ、②会社で働き、ある年になると③引退するという3ステージの生活が普及し始め、これまではそれが働き方の 標準となっていた。
そこに、グローバル化により仕事の場所が国を超えて移動可能となり、テクノロジーの進歩が早くなり、仕事のやり方も短期間に変化する時代が始まった。 同時に医学の進歩により人は長寿という贈り物も手に入れた。このため入社前に教育を受けて身に付けた知識や技能の陳腐化が早まり、まだ働ける年齢であるにも かかわらず、得意な仕事が消えるとか、少なくなることも発生し始めた。こうして教育を受け、働き、退職するといった一斉行進のような人生モデルはもはや不可能となった。
この本のテーマはこのように人生が100年となった時に発生するいろいろな問題に対応する「マルチステージライフ」という方法を提案することだ。
図1の左下の「これまでの70歳人生」の枠は、この本に例として取り上げられている1945年生まれの仮想の人物ジャックの例である、1945年生まれで平均寿命は 70歳前後で、18歳から25歳までは教育を受け、その後60歳まで会社で働き引退した今は平均寿命を迎える状況である。教育で学んだ知識で充分仕事をこなすことができ、 その知識の多くが有効に使える生活を送ってきた。教育時代に鍛えた体も壊すこともなく定年を迎え、その後の人生を楽しむことができた。働き始めた頃はマイホームの 費用を払うために貯蓄は増えることは無かったが、給与が増えた後半の期間には、マイホームの費用を返済しながらも貯蓄を増やすことができた。定年後はその貯金と 年金を使って、安心して過ごせた。という幸福な人生である。まだ余生が残っているとしても、少々の貯蓄も残っているのでたいした心配はないという話である。 定年後に必要となる費用は図1右下の有形資産の枠内に書かれた条件で計算している。老後の生活資金すなわち引退後の生活資金は最終所得の50%くらいで、年金ももらえ、 給与も上がり、貯金に利息が付くのが前提だ。このあたりの条件は日本の現状とかなり異なっている(高齢者は75歳からと言いながらそれまでの雇用確保の方法は 確立していない、長期金利の利益率は低い、所得の上昇率は低い、そのうえコホート平均寿命は長いというのが現在の日本の条件だ)。これだと対策は「老後の生活資金を 最終所得の50%以下に引き下げる」という方法になる。年金制度は崩壊しないとしても高給をもらっていた裕福な人たち以外はかなり厳しい生活を強いられることになる。
これ以降に生まれた人たちでは、これまでの70歳人生を楽しめる人は徐々に少なくなる。これまでの70歳人生に挙げられた3つの生き方に加え、マルチステージの 提案で挙げられた、つぎに示めす新しい働き方3つの生き方と移行期間という人生も考えた方が良くなる。その新しい3つの生き方とはエクスプローラー(探検者)、 インディペンデント・プロデューサー(独立生産者)、ポートフォリオ・ワーカー(同時に複数の生き方をする)である。エクスプローラーは新しい生き方を求めて、 新しいところで収入は少なくても貴重な経験を得る生活である。インディペンデント・プロデューサー(独立生産者)は起業家に近い仕事を行う人達である。 ポートフォリオ・ワーカーは、エクスプローラー時代に磨いたスキルや会社で働いた経験を活かして自分で事業を行う人達である。新鮮な感覚を持つ若い人たちや経験豊富な シニアワーカーにとってお面白い生き方になりそうです。少なくともシニア起業家はこの部類に入る。
こうした新しい生き方を可能にするには、生きていくのに必要な資産が資金(貯金)やホーム(家)といった有形資産だけでなく、将来の仕事に必要とされるであろう 3つの無形資産を蓄積しておく必要がある。3つの無形資産とは生産性資産(スキルを得ること)、活力資産(体力的はもとより精神的な疲れから回復し、 新しいビジネスに取り掛かる能力)、変身資産(今行っている仕事がグローバル化やテクノロジーの変化によって無くなりそうな時に、新しい仕事に必要な能力を 獲得する能力)である。
現在の学生を代表する仮想の人物ジェーンは、図1の右上「100歳過ぎまで生きる」枠に示されたような人生を送る可能性が高い。何が自分に適切なのかやってみて、 できたら独立してそれをやってみる。仕事をしては、疲れたら休みとリハビリを取り、時にはお金を貯めるのに専念することもある。引退間近になると、いろいろな仕事を 組み合わせ少額でも良いから楽しみながら稼ぐといったポートフォリオ・ワーカー(マルチセグメントの人生を送る事)となる可能性がある。
マルチステージライフを記入しながら感じたことは、資産とはなんだ。ワーク・シフトで提案されていた資本とはどう違うのか等の説明が難しかったので、 レイアウトを図2のように変更し、仕組、仕掛、価値、時間の4次元の魚眼マンダラ風に変えて記入用紙を作成した。3)
まずは、新しい人生を築くために経験しておきたい活動や仕事を具体的に「活動事項」枠の中に記入する。
ついでその活動がもたらすであろう、効果をイノベーション一般に必要な事を獲得するために必要なこと、LIFE SHIFTで上げているもの、 WORK SHIFTで上げていることを参考に記入する。
イノベーション一般に言われているような効果があれば図2の左上「環境」枠に記入する。
この図ではたとえば生産性資産の「スキル・知識」、「評判」、「職業の人脈」は、個人能力の「スキル・知識(生)」、外部資産の「評判(生)」 外部人脈の「職業の人脈(生)」いう具合に別々の枠組みの中に入れ、( )内に元の資産の頭文字を入れて区別ができるようにしてある。
またWORK SHIFTでは次のようなことを言っている。
1.ゼネラリストから「連続スペシャリスト」になるための知的資本を築くために、 未来に押しつぶされないキャリアと専門技能を選ぶ、あくまでも「好きな仕事」を選ぶ、高度な専門技能を身につける、移動と脱皮で専門分野を広げる、 セルフマーケティングの時代、自分の刻印と署名を確立する。
2.孤独な競争から「協力して起こすイノベーション」を起こすための人間関係資本を築くために、 頼りになる同士を作る、ビッグアイデア・クラウドを築く、自己再生のコミュニティを築く。
3.大量消費から「情熱を傾けられる経験」へ移行するための情緒的資本を獲得するために、 バランスのとれた働き方を選ぶ勇気、消費より経験に価値を置く生き方へ、重要なのは選択肢を理解すること、自分で自分の未来を築くと言いたことを行っているので これらに関連する活動があった場合はこれらも記入しておく場所を確保してある。
一通り「活動事項」枠とそれに関連する事柄を書き込んだら、人生が最も楽しくなるように順序立てて活動を「100歳まで生きる」枠に書き込む。 そして全体を見ながら追加、修正、削除を行い完成させる。
図3に私の書き込んだケースを事例として載せた。「過去 これまでの人生」枠には大学から極最近までの私の人生を簡単にまとめてある。大学院の機械工作の 研究は当時、興味を持っていたものづくりを極めようと始めた探索型教育であったが、その研究の中で経験したコンピュータの威力を経験したとき、この道には先は ないと感じて方向展開した探索の失敗事例である。つぎに将来性ありと選んだ外資系コンピュータメーカーは当初は面白いことの連続で生きがいを感じて仕事に人生の 全てを投入するような働き方をしたが、企業の業績悪化を機会に、あっさりと転職となる。しかしこの時期の最後にコンサルタント事業立ち上げの経験は私にとって、 技術者からマネジメント職への変身のための重要な移行時期でもあった。
大学勤務は技術者と販売業務経験、コンサルタント経験、マネジメント経験を組み合わせて大学の改革に貢献したいと初めたが、大学の伝統はそんなに簡単に 変えられるものでもなく、目標達成は失敗。その後は非常勤講師その他の仕事をしながら、その暮らしのポーフォリオ・ワーカーのような遊び半分の生活で完全赤字の 生活である。
現在の活動は「活動事項」枠にかいてあるような趣味のような「学会活動」「地域とのコミュニケーションを維持するアクティブシニアの会」「将来の起業に 備えた起業スクール」「活力と健康を維持するためのテニススクール」の4つである。そしてこれからの人生は「100歳まで生きる」枠の中に青色の文字で示した インデペンデント・プロデューサーを狙う活動で、4,5年楽しんだら誰かに譲ろうと考えている。
この図で「黒文字部分」は「LIFE SHIFT」からのガイド
「赤文字は部分」は「WORK SHIFT」からのガイド
「青文字部分」が「私の個人的な人生活動」に関するものが示されている。
2017年1月6日の新聞記事の1面を見て始めた人生計画の作成。私の場合は平均余命の12年をいかに過ごすかということになり100歳迄はいきませんが、それはそれなりで楽しい時間をすごすことができた。
1年の計は元旦にありという言葉があるが、
シニアな皆さん(高齢者)は残り少ない人生。図3にあるような1枚を書いて、ムダを省いて少しでも多く楽しめれば幸いだ。そして事業継承を視野に入れれば もっと夢を膨らませる事ができる。
それより若い人たちは、できるだけこれまでの人と違ったセグメントを設計して、新しいことに挑戦してみるのはいかがでしょうか。奇抜な案であればあるほど、 大きな計画作りを楽しむ事ができる。
注1)
田村建二、川村剛志 編集委員「高齢者、75歳から」朝日新聞東京本社 朝刊 13版
注2)
リンダ・グラットン/アンドリュー・スコット著 池村千秋 訳 「LIFE SHIIFT」2016 東洋経済新聞社 原題は「THE 100-YEAR LIFE」 リンダ・グラットン著 池村千秋 訳 「ワーク・シフト」2012 プレジデント社 原題は「The Shift」
注3)
魚眼マンダラについてお知りになりたい方は 瀬領浩一 「魚眼マンダラで一枚に」
https://o-fsi.w3.kanazawa-u.ac.jp/about/vbl/vbl6/post/046.htmlをご参照ください
2017/1/25 文責 瀬領浩一