113.自業戦略と計測尺度

113.自業戦略と計測尺度

-「@自業塾」の戦略再検討-

はじめに

 「自業計画書案の書き方」で紹介した「@自業塾」は無事スタートできることになりましたが、実際のチーム活動はなかなか始められませんでした。 それまでは、ともかく活動を開始し、うまくいっていなければ、それを改善しながら進めればいいと考えてスタートしました。しかし、その後他の仕事も入ってきて、@自業塾の仕事は後回しになってしいました。パートナーとなってやってくれるはずの人からは、情報は来ているがミーティングはどうなったのと聞かれる始末です。

 これではいけない、こんど仕事を再開するにあたっては仕事の進度をチェックする仕組みも取り入れる必要もあると、そのために使える計測尺度(以後KPIと略す)を作ろうと考えてネットで調べていたら、バランス・スコアカード(以後BSCと略す)が目につきました。そういえばと自分の書棚を見ると、十数年前に買った書籍が3冊もありました。それを見ながら、最近はこのタイプの本はあまり見かけない、時代が変わったのかと思い、図書館で新しい本を探しました。そこで見つけたキャプランら著の『戦略マップ(復刻版)』p.61では、戦略マップとBSCについて次のように述べています。

 「戦略マップは戦略のロジックを表し、価値を創造する決定的に重要な内部プロセスおよびその内部プロセスを支援するに必要なインタンジブルに関する戦略目標を明確に示す。BSCは戦略マップの戦略目標を尺度および目標値へと変換する。・・・企業はすべて尺度に対して設定された目標値を達成可能にするアクション・プログラムに着手しなくてはならない。」

 しかしながらBSCの使用例としては、営利企業、非営利組織はあるが、感謝されることを目的とする個人活動のような自業ものの尺度(以後KPIと略す )は見つかりませんでした。そこで、今回、「自業戦略」の例を自分なりに作り、BSCを「マンダラ記法」で整理したものを報告します。

1.戦略のつくりかた

 自業戦略を作成するために採用した戦略マップとBSCの使用を1枚にまとめたのが図表1「自業塾戦略の作成方法」です。

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図表1 自業戦略の作成方法
 

 図表1の自業では、「自業計画書案の書き方」で取り上げたものと同じで、通常の事業が「お金になること」を活動分野選択の条件としているのにたいして「感謝されること」を活動分野選択の条件としております。このため表中のBSCで「財務の視点」としているところは「自業の視点」に変更しました。そこに、その他の「顧客の視点」、「内部プロセスの視点」「学習と成長の視点」を加えてBSCと同じく「@自業塾」の4つの視点としました。

 さらに、図表1にはマンダラ思考でよく使っている次の4つ軸も、重ねて表示してあります。
空間軸:アクティブシニアを対象に自業家の立場で戦略を検討する。
時間軸:まず戦略を構築し、戦略マップを作成して、戦略目標と実施項目を決める。
仕組軸:どのような顧客価値を提供するかを決め、必要な内部プロセスを設計する。
仕掛軸:自業の視点から感謝されること最重要課題として、そのための学習とすべきことと成長(強化)すべきことを明確にする。

 また自業は、個人もしくは、それほど大きくないチームの人々で運営されることを前提としているため、BSCで重要視している「部門間の調整」といったこと は重要課題としておりません。 同様なことは、ヘンリー・ミンツバーグ著(1999)『戦略サファリ』のp.131で10個のサファリ・ツアーの一つ「アントレプレナー・スクール」について次のように述べています。

 ただ一人のリーダーに戦略形成のプロセスを集中させただけでなく、さらに、直感、判断、知恵、経験、洞察など、人間の知的活動に特有な要素を強調した。そして方向性を示すイメージや感性を伴うビジョンを示すパースペクティヴとして戦略を捉える考え方を広めたのだ。

 すなわち、BSCを自業家の見識の一つとして使い、とりあえず「ビジョンにあった戦略」を決めればいいとしています。

 ということで、ざっくりと考え作成したのが図表2の@自業塾の戦略構築の例で示している、ミッション、バリュー、ビジョン、戦略です。

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図表2 @自業塾の戦略構築の例
 

 ミッション、バリュー、ビジョン、戦略についてさらに詳しい説明をお知りになりたい方は、二ヴン著(2009)『BSC戦略マネジメント ハンドブック』の p101-134に言葉の説明、作成方法、事例、重要性についての詳細な説明がありますのでそちらをご参照ください。お時間のない方は図表2の項目に書かれている短いコメントを参考に、自分なりに書いていけば少なくとも素案はできあがります。これらの項目はチームづくりを始める時の自業計画書に書き込み、メンバーの理解を得ておくことが良さそうです。
 そしてこの図のミッションは「自業計画書案の書き方」の「2.1やりたいこと」のミッション欄に記入しました。

2. 4つの視点の整理

 こうして作った戦略に沿った戦略目標を作成するために、以下の4つの視点についで考え方をまとめます。

2.1 自業の視点

 まずは、自業の視点です。自業では活動エリアの選択を通常の事業の目的である「金を儲けること」をから「感謝されること」に変更したことに合わせて変更しています。

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図表3 自業の視点

 このため、図表3の自業の視点では、「自業計画書案の書き方」の活動分野を設定する時に使った3つの円を、

やりたいこと、できること→ 資産の有効利用   
感謝されること      → 感謝 に対応させて  
そこに自業らしく調達費用を最小限にするために仕損を排除し、活動の歩留まりを上げることを追加し作成しました。

 すなわち感謝されることが自業の最大のリターンであり、それによって幸せを味わおうというところが、金を稼ぐことにより、達成感を得る 事業との違いであることを表しています。

2.2 顧客の視点

 顧客の視点では、自業を続けていくために必要と思われる要素を、4~5個選べば良いと思います。特に思いつかない場合はアルムキスト著(2017)『顧客が欲しいと思う30の「価値要素」』を参考にして、自業で対処可能で重要と思われる価値要素を選べば良いかと思います。選んだ価値要素は機能、感情、人生の変化、社会への貢献の4つの分類の中のどこかに分類して記入します。

2.3 内部プロセスの視点

 顧客に価値を提供し、感謝されるために自分もしくは自分のチームがやらなくては必要な仕事(内部プロセス)の中から重要な4~5個を選 び、それを業務管理、顧客管理、イノベーション、規制と社会の4つに分類して記入します。

 内部プロセスの視点で取り上げられた、仕事をこなすために不足しているものは何かを抜き出し、それを人的資本(やる気、スキル、訓練、知識・知恵、感謝することができる)、情報資本(システム、データベース、ネットワーク、AI、ポータブル)、組織資本(活動の場(チーム)、企業文化、戦略への方向付け、 リーダーシップをとるために必要な対応能力)に分類して記述します。

 内部プロセスの視点はこれまでの多くの戦略論にあったような「価値創造とは何であるあるか(What)」でなく「どのように価値を創造するか(How)」に視点を移すものです。

 業務管理のプロセスは製品やサービスを生産し、市場に提供するために必要な基本的なものです。購買から廃棄処分に至るまでのライフサイクルをどう管理する かであり、TQCもそのひとつです。しかし規制と社会のプロセスについては、外部とのかかわり合いをこなすために必要な社内プロセスであり、その他の3 つとは性格が異なります。 二ヴン p177

2.4 学習と成長の視点

 上記のような内部プロセスに視点に取り上げられている、仕事の進め方を素早くスムーズに進めるためには、ものでは表せられない能力を持つ必要になります。BSCではこれを学習と成長の視点から見て「インタンジブル」と読んでいます。『戦略マップ』ではインタンジブルについて次に示す3つ資本を例示しています。

a)人的資本 従業員と戦略を整合させる

  内部プロセスの視点に記載される重要プロセスの実現に不可欠で、顧客価値提案を向上させるために役立つ分野のスキルの現状と目標のギャップを明らかにする。「人の能力をあるがままに受け入れるのではなく、企業価値を増大させる特定の領域の人材育成を評価可能な形で行う必要があります。

 バスに適切な人材だけを乗せ(そして不適切な人材を下ろして)、その後何処に行くかを決める。しかしこれを言うには言葉を選び、従業員に不満が残らないようにする。さらに後継者育成も重要な項目です。

b)技術革新

 技術革新とITは車の両輪、ともに重要としています。

c)組織文化

 組織文化は組織メンバーが共有する信念および期待のパターンです。これらの信念および期待は、人々やグループが行動する様式を強力に形成するという規範を生み出します。

3.戦略マップの作成

 ここまでで4つの視点から見た、戦略考察のための資料は集まりました。4つの分野ごとに2~5に項目を絞ったのは、あまり多くなると考慮すべきことが多くな り、始末に負えないからです。こうして抽出された8個から20個の項目を「仮の戦略目標」と考えて先に進みます。間違っておれば、後ほど修正しましょう。それより計画に時間ばかりかけていないで、早く実施に移しましょうという考え方は、ここでも生きています。

 図表4はこうしてできた戦略マップの例です。この中の楕円部分が戦略目標の候補です。

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図表4 戦略マップ
 

 図表4では、4つの視点で書き出した目標を1枚の絵の中に書き移しています。しかしながら全ての戦略目標が単独で達成できるわけでもありません。たとえば自業の視点の「感謝される」を実現するには、顧客の視点の中の感情の価値要素が必要であり、感情の価値要素の中で選択した「不安の軽減」や「つながり」さらには学習と成長の視点の中の「やる気」や感謝されるだけの「スキル」をベースとした「人的資本」が重要となります。戦略目標相互間にこのような因果関係があれ ば、それらの戦略目標の間の因果関係を矢印で結びます。さらに顧客の視点の「不安の軽減」のためには「顧客管理」が十分になされていることが必要であるといった具合に、因果関係のチェーンができてきます。

 今回の戦略マップ作成の目的は、ビジョンを達成するための、戦略を見つけ出すことでした。 といことで、最終的な因果関係が感謝に結びつく戦略間の因果関係は太い矢印で、結びつかない因果関係は細い矢印で結びました。この結果重要な戦略目標は次の10個になりました。  
自業の視点・・・・・・・チーム参加者に感謝される、知無参加者に感謝する  
顧客の視点・・・・・・・機能面からの面倒の回避、顧客の不安の軽減、情報提供、つながり  
内部プロセスの視点・・・チーム参加者の業務管理、顧客管理、イノベーション  
学習と成長の視点では・・人的資本、情報資本

4.実施計画の作成

 こうして各視点での戦略目標が決まったので、次はそれを実施する計画を作成します。

 すなわち戦略目標の達成度を計測するための計測尺度(KPIとも呼ばれている)がなければ、戦略を実施しているか、していないのかの判定はできません。またその目標値がなければ、どれほどの時間を割くべきか、どれほどの効果が必要も知る由もありません。また実施するにしてもその計画の中に実施項目(何をするのか)必要資源(誰が、どれくらいかけてやるのか)が示されていなければ、誰も着手することもなくてもての内容がありません。ということで、戦略目標には計測尺度と実施計画を明記しておく必要があります。

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図表5 戦略目標と実施計画
キャプラン(2014) 監訳 櫻井 戦略マップ[復刻 版] p421-455を参考にして作成
 

 また@自業塾のプロジェクト進行状況は、自業の生産性を検討するほどには作業が固まっていないため、図表5では図表4の戦略マップの連携の中から感謝に影響を及ぶものに絞って戦略目標と実行計画を作成しています。

おわりに

 本報告では、どうやらBSCの考え方を使って自業戦略をたて、その実施計画を立てるところまでは来ました。

 あとは最も大事なこれをどう実施するかです。こちらは別の機会に(内部プロセスの視点の管理問題です)。

 もうひとつの問題は、@自業塾への参加を期待している「あ・そうかい(アクティブシニアの会の一つ)」の人々や、同年代の人たちの中にはこのような計画を立てることに価値を認めない人もいらっしゃるかもしれません。すなわち、そんな苦労して考えるよりも、ゆったりと過ごしたいと思ってるためかもしれません。さらには、健康その他に不安を抱えている人々の中には、未来を予測して活動しても、最後まで行き着ける保証はない。出たとこ勝負で過ごし、最悪の場合は誰かに助けを求めるのはどうだろうか?などと思っている人もいらっしゃるかもしれません。

 またサービスを受けることになる社会の人たちには、年金暮らしの人の活動に、費用を払う必要がないと考えている人がいるかもしれません。しょせん、ボランティアとは無料で働くのが当たり前と考えているわけです。しかし元気な高齢者は元気で幸せに生きるために、体のトレーニング、ノイローゼ等の心理的災難に合わないために、若者と同じようにそれなりの時間と費用を費やしているのだから、お金もかかります。そのため、意欲も体力もあっても活動資金も集めることが出来なければ、よほどのお金持ちでないと、自業活動は出来なくなります。一方将来、同一労働同一賃金が普通になれば、高齢者の人も、感謝を得られる活動や人のためになる活動であればそれに費やした時間と費用を請求していいのではないかと考える人も出てくるかもしれません。そうなれば、高齢者も若者に負けない体力、知力、人的ネットワークのなかで楽しく生きていく方法を自ら提案することが必要になります。

 ただし、こちらの議論は今回の自業の事例に取り上げた@自業塾戦略の話の範囲を超えています。現在の@自業塾ではここで上げたような戦略の実行から始め、実績を上げ、更にブラッシュアップし、楽しく幸せな時間を過ごしながら、世間(社会)の考え方を変えるために役立てばと思っています。

参考文献

エリック・アルムキスト ジョン・シニア ニコラス・ブロック 有賀裕子, 2017.03 「顧客が欲しいと思う30の価値要素」『HBR201703 顧客は何にお金を払うのか』、ダイヤモンド社 P.55-65
ロバート・Sキャプラン、デビット・P・ノートン著 櫻井道晴 監訳, 2001 『キャプランとノートンの戦略バランスト・スコアカード』東洋経済新聞社
ロバート・Sキャプラン、デビット・P・ノートン著 櫻井道晴 監訳, 2014 『戦略マップ バランスト・スコアカードによる戦略策定・実行フレームワーク [復刻版]』東洋経済新聞社
ロバート・Sキャプラン、デビット・P・ノートン著 吉川武雄訳,  2000『バランス・スコアカード~新しい経営指標による企業変革~』生産性出版
ポール・R・二ヴン著 清水監訳, 2009 『BSC戦略マネジメント ハンドブック』中央経済社 p101-134
ヘンリー・ミンツバーグ、ブルース・アルストランド、ジュセフ・ランベル著、斎藤嘉則監訳, 1999、『戦略サファリ 戦略マネジメント・ガイドブック』 p.121
松原恭司郎 著、2000、『バランス・スコアカード経営―何を優先したら"勝者になるか!?―』 日刊工業新聞社

2017/12/18
文責 瀬領 浩一