2019年5月21日、東大MMRCのセミナーにおいて、パイオニア株式会社技術開発部戦略部企画担当部長、Shin Pioneer Project(以下PJ)エンパワーメント担当の 富樫 淳 氏による、『技術部門発のイノベーションチャレンジ~人を「覚醒」させる仕掛けと「本質」からのイノベーション ~』という講演をお聞きしました。
お話いただいたのは1時間くらいでしたが、現在の日本企業に欠けているものは何かを事例を上げて説明をいただき、大変印象に残りましたので報告させていただきます。
説明の内容は、講演者の所属組織の失敗例をパターン化して説明したうえで、そのような状況を打ち破るべく始めたShin Pioneer PJで行われた以下のような活動の詳細を説明頂きました。
1.イノベーションを取り巻く環境とShin Pioneer PJの仕組み
2.活動の詳細
3. 人と社会をより輝かせるために
説明の進め方は
1.まず、質問をして参加している人に考えてもらう。
2.そのあとで、参加者の意見や感想をお聞きしてから。
3.用意した資料に従っての説明です。
富樫 淳氏のあいさつと自己紹介の後、本題に入ったときの最初の質問は「あなたは楽しく仕事をしていますか?」でした。参加者は座っている席の横または前後の数人と数分(2、3分)話し合って、何人かが簡単な発表をしました。このため参加者は自然とテーマについて自分の考えをまとめ、話し合うことになりました。時間が短いですから、参加者は十分考えての結論ではなく、思いついたまま話し合いをしているうちに自然とその質問テーマに関心が向かうことを体験します。こうして注意力をテーマに向かわせたあと説明に入るため、印象に残る説明となりました。
そのうえ、「自分の欲しい!」と思うものを作れていますか?家族身誇れる仕事をしていますか?誰かに自慢したくなる仕事をしています か?仕事に夢中になっている瞬間はありますか?子供に楽しそうに語っていますか?といった細かい質問の例が入った膨大な資料を基にお話が始まりました。興味を持った人はその配布を申し込むことができましたが事前配布はありません。このため、誰がこのテーマに興味を持ってくれたかを発表者は知ること もできます。
単なる講演ではなく、参加意識を引き出しながら伝えたいことを話す方法を体験させ、講演者にはだれが興味を持ってくれたかが解る素晴らしい進め方でした。
結果として、講演の最初の講演者と参加者の立場の違いが、今回のテーマ「私たちが置かれていた環境」について会社の願いと技術者の願いが同じなのに、なぜか対立することを体験させてくれました。
次の項目はイノベーションを起こすために次のような改革をやったがうまくいかなかったというお話でした。
・社長直下に新事業開発室を作ったが、いきなり大きな成果を目指し迷走した。
・具体的なテーマや課題改革のプロジェクトを発足させたが、具体的な課題に対して成果を求めるあまり目先の議論から入り小さく終わった。
・外部イノベーション研修受講者を増やしたが、職場に戻ると目の前の火事が最優先で現実に埋没。
・若手が自主的に進化地創造活動をやっていたが、忙しい現業とのバランスでだんだん縮小、自然に消滅した。
・小さな改善の積み重ねが改革につながると思ったが、改革にはつながらなかった。
1.そこでとったShin Pioneer PJでの対策は次のとおりでした。
・皆ただでさえ忙しいので指名でなく、やりたい人を公募した。
・ブレストでなく「本質」を見極める力を鍛えた。
・日程を固定して活動に集中できるようにし、日程調整を省いた。
・組織構造や高度機能分化組織は作らない。
・アイデアを出す訓練の前に、自分たちの「夢」「意思」を強固にする。
・経営指標を強化するのではなく、顧客価値を最大にする。
・社外秘にしないで、社内外に情報を公開し、周囲の協力を得る。
2.そのうえで次のような活動を行いました。
2-1.人と組織を覚醒させる 出る杭を育てる研修
2-2.達成したい世界観/夢を作る AICHAKU model
2-3.本質からのイノベーション Value Thinking
2-4.イノベーション企業がなすべきこと コン-ソシアム戦略
2-5.顧客価値を最大化する技術者とは Shin Pioneer PJの意義
まずは2-1の人と組織を覚醒させるについて
イノベーションを起こすのは「人」ですから人を育てず仕組のみを作っても無駄だということです。このイノベーションを起こす人を「出る杭」と呼んで「出る杭」を育て普及を進める組織にすることです。
通常日本では「出る杭」というと尖ったやつ、生意気な奴、跳ね返り、問題児、異端児、野生児ということで、良い意味では扱われていません。英語では 「Tall tree」であり風に強く多くの人を守る存在、すなわち全体最適や社会を重んずる人という意味に使っています(小学館プログレッシブ和英辞典、 1999 によると「出る杭は打たれる」という諺は「A tall tree catches much wind」となっています)。
図表1のT字型人間とI字型人間にあるように、世界が考える「出る杭」をT Shaped person(T字型人間) (グローバルコンサルファーム)と呼んでいますTという字の横棒が全体最適、縦棒が部分最適を表しています。
図表1 T字型人間とI字型人間
プレゼン資料を参考に作成
日本の多くの企業では、部門別に階層ツリーが作られており、意思決定はそのツリーの中で上下に行われています。すなわち上司が部下に指示を出し、部下はその指示に従い仕事を行いその結果を上司に報告する仕組みになっているため、他部門の上司はそれを知ることができません。こうして直結し た部門内での最適化が進んでいきます。例えば、図表2の製造小売業の例は、TOC(Theory of Constraint:制約条件の理論)で学んだことです。ここでは、1日5000個の製品を販売する計画を立てて、生産を開始したとします、しかし実際に店舗で売れているのは1日1000個だったとしています。
図表2 製造小売り
この時に社長に発破をかけてもらい全社に目標達成を指示してもらっても、売り上げは増えるとは限りません。こんな中で工場がどれだけ頑張っても売り上げ増加が達成できないだけでなく、社内の在庫が増えるだけです。まずは販売企画から、市場に至るまでの一連のプロセスを調べ、売り上げのネックになっているところ(制約条件)を調べる必要があります。図表2にあるように、店舗に問題があると分かったら、とりあえず営業時間を延長してでも売り上げを増やす必要があります。こうして売り上げが1日1500個になったとしてもまだほかの部門は店舗の販売能力に合わせて活動を能力以下に下げる必要があります。生産性向上など論外です。むしろ製造・物流の余力で店舗のレイアウト変更を行い店舗の生産性を上げることを支援し、店舗販売力を1日2000個上げる努力をした方がよいわけです。そのうえで製造部門の生産能力と店舗の売り上げ能力の強化を図っていくことになります。すなわち余裕がある部門は弱いところを助ける活動をするべきなのです。ここまでが故ゴールド ラッドが提唱していた制約条件の理論(TOC)です。しかしながら当時販売部門にいた私には、とても製造部門にそのようなことを言い出すことはできませんでした。
今回の話はそこで止まりません。市場が10,000個/日であれば、顧客の本当に欲しいものを企画し商品開発をすることを商品開発もしくは商品設計と考えて、より新しい市場を作っていく必要があると言っているのです。アメリカにおける日本の小型自動車、アップルのiPodは、製品の機能を絞って低コストにするが顧客の要求を満すことができ、顧客を取り込むことができてイノベーションが起きた例です。これからわかるようにイノベーションには必ずしも新技術の開発が必要なわけではありません。
しかし現状の組織で、このような新しい企画を立て、顧客を取りこみ、実行していくのは大変です。このような現行組織の慣習に逆らってまでも新しい企画を実行する人を「出る杭」と名付けています。
このような、現行の組織に現在の慣行と違った新しい風を吹き込むためには、それなりの経験や知識が必要となります。そのための研修セミナーとして、高樫 淳氏は「出る杭を育てる研を紹介されましたた。このカリキュラムは週1回×5週間=5日間(9-17時)のセミナーです。図表3にはSOSPIC社による『本質系イノベーション研修(通称出る杭研修)』に乗せられているカリキュラムをマンダラ風にまとめたものです。このホームページには、パイオニアの「Value Thinking」を組み込み外販している「出る杭を育てる研修」や日科技連版のセミナーのも紹介されています。
図表3 出る杭コースプログラム
出典 https: //sospic.com/training/ (2019/06/01 アクセス)を参考にして作成
出る杭コースプログラムの日程は
1,2日目 深く考える軸
3日目は 広く考える軸
4日目は 正しく考える軸
5日目はまとめ軸となっています。
この4つの軸図よりパイオニアの「出る杭を育てる研修」はSOSPIC社の「出る杭」とほぼ同じことも分かりました。
「この図の「まとめ」軸の部分は出る杭プロジェクトを行う手順で「広く考える」軸はそのための思考範囲を表しています。両方で時空空間となります。「深く考えると」部分と「正しく考える部分」は仕組軸と仕掛軸となります。「深く考えるは軸は」仕組軸ですから、「人」「もの」「金」「情報」をどのようにどう投入するかという重要なことを、仕事人や企業人として考えることです。「商品」、「価値」、「顧客」「市場」「良さ」「正しさ」と考慮すべき点は多く、その活動は単に社会や企 業の表面的な行動ではなくそれを行う「出る杭」の心に潜む「本質」にあっているかを検討することとなっています。同様なことは「正しく考える」軸にも言えます。各軸の両端に置かれた8個マス枠にはその軸に対応する検討テーマが置かれています。各軸の右もしくは上部に位置する枠には標準的もしくは広義のテーマ対応で外的要因対応のテーマを、左もしくは下の枠には内的要因にもしくは個別に対応するためのテーマを書くようにしています。さらに4軸が交わる中央部はここで学んだことを生かす場としました。4軸で考え決めたことが同時に発生するわけですから、そこで4軸の調整とバランスを取った行動を書くために必要なことが出てきたら記入する部分としました。
例えば、左上の【知】の枠には、情報とは何か、知識とは何か,知恵とは何か、言葉とは何か、思考とは何かといったテーマが、右下の【情】と【意】にはそれを理解するための個人が感ずることもしくは行うことが書かれています。
今回のセミナーの詳細を理解しているわけではありませんが、私が金沢大学に赴任して最初の仕事で2004年に開始した「人材活用術」の進め方を思い出させてくれました。この時は、前回出された宿題の数人の学生さんが発表し、みんなで議論し、その後新しい議題について簡単に解説をし、次回の宿題とするループを繰り返す方法です。授業の中心は学生さんの発表とそれについて議論でした。この方式のいいところは、翌年は前年度の意見を取り入れて議題の解説や討論ができることで、徐々に広義の中身に学生さんの悩みが取り込まれていくことを体験しました。当時の資料を取り出し見ると、講義の目的は「終身雇用制度や年功序列制度が崩れてきました。個人としてどのように生きていくかが重要になります。本講義では、その基本となる思考プロセスとリーダーシップ確立の方法を擬似体験を通して学びます。」となっています今回のセミナーと合い通じるものを感じた次第です。
ということで、コースでのお話に内容はどのようなものかを調べていると、「出る杭」の提唱者である横田宏信の書かれたホームページ (https://mine.place/user/289d5473-3233-408b-ba26-25d4d8a5b239、 (2019/05/22アクセス))が見つかりました。その中に45回にわたって「出る杭」の話が載っていましたので、そのタイトルを図表3の枠組みの中に入れ図表4の出る杭コース概要に示しました。
図表4 出る杭コース概要
横田宏信,『出る杭がいない? 育てればいいんです!』の 記事 紹介から独断で作成
この図の見かたですが、たとえば、左上にある『19「情報」とは何か』 は 横田宏信氏の書かれたホームページタイトルの『出る杭がいない?育てればいいんです!(第19回) 【「情報」とは何か】』を示していますのでその記事を読めば簡単な説明があり、横田 宏信 氏の言わんとすることがを理解できま す。
例えば、図表3の【知】の部分に
・情報とは何か
・知識とは何か
・知恵とは何か
・言葉とは何か
・思考とは何か
があるので 図表4では同じ【知】の部分に
19 「情報」とは何か
20 「知識」とは何か
21 「客観」とは何か
を入れました。
21 客観とは何かは図表3の出る杭コースプログラムのメニューにはないのですが、最も関連ありそうとここに入れました。ひょっとしたら論理的思考に入れるべきかもしれません。このようにしてあやふやなところがありますが、45の記事のタイトルのすべてを図表4に書き込ました。
その結果この図表の中央部分には
1 はじめに
2 「出る杭」は火星人
3 全体最適を重んじる「出る杭」
4 「出る杭」=「T字型人間」
5 「出る杭」はイノベーター
6 偉大な創業者は、みな「出る杭」
7 世界のイノベーションは減っている
8 日本人は、空気なんか読んでる場合ではない
12 「出る杭」研修の構成
45 おわりに
といったどこに入れてよいか分からなかった記事が入れています。
『はじめに』、『おわりに』、『「出る杭」研修の構成』は全体のまとめですから、詳細から外して考えることにします。『2 「出る杭」は火星人』には「出る杭」は「記事」「変人」「尖ったやつ」・・・といわれ、もはや人間ではない「火星人」と言われるような排斥的言葉に見える ことがあるが、見方によっては今の日本には「出る杭」が必要であるという説明であるとしています。こうしてのここに残った記事は、セミナーの内容ではなく「出る杭」が日本で今なぜ必要なのかを書いた部分で、セミナーそのものではありません。しかし、横田 宏信 氏や高樫 淳 氏が日本人に訴えたい理由がここにあるように思い、【出る杭の必要性】としました。「出る杭を育てる研修」セミナーはそれを実現する手段の一つであり、 それを実現することを訴えるセミナーと考えるのがよさそうです。
このように、見る人によって図表4は変わるということです。ということは、セミナーに参加するときには、そのテーマについて関係する人とともに参加 し、その場で自分なりので意思を固めて図4を書き換えていけばよいということです。詳細は別のところに書き込みながらそのタイトルやキーワードを書き込んでいけば自分用の全体図が出来上がります。
本シリーズの124回『企業文化と国民性-人はなぜそのように行動するのか-』(https://o-fsi.w3.kanazawa- u.ac.jp/about/vbl/vbl6/post/124.html,(2019/06/03アクセス)の図表2カルチャーマップの8指標のうち ④のリード指標と⑤の決断の指標にあるように、日本は世界でもまれな階層主義で合意志向文化の国です。このため一度なされた意思決定が覆ることは少ないが、決定までのスピードは遅れがちです。国際社会では基軸通貨をベースで考えると、戦後の日本は低賃金、長時間労働であったため、欧米で確立された技術を 国内に導入し日本で生産すれば、生産に失敗することも少なく、価格も安く、競争力がある製品が作れました。現在の開発途上国と同じ状況でした。そのような 環境の中で生産コストを下げるべく上位下達でど んどん改善を積み上げることにより、さらに競争力が上がり、欧米の現場労働者の職を奪うようなことがあったとしても、日本の成長は可能だったわけです。
しかしながら、円高により日本人のドルベースの人件費が上がり、情報システムの普及並びに物流体制の確立や情報伝達のスピードが上がると、そのころの開発途上これまでのでの日本と同じことができるようになりました。このため日本の製造業では原価を下げるために生産工程の一部や部品製造 の下請けのために海外調達や非正規現場労働者を低賃金で採用することで対応してきました。こうして今や日本企業の正規の現場労働者の職が奪われ、給与上昇が抑えられることになりました。
一方、社外や海外生産により生産プロセスが複雑になると、間接業務もそれなりに複雑になり人手不足になりがちです。そのため間接業務も外注に頼りがちになりました。ところがアマゾンやグーグルは「無料で検索情報提供」を行っているように見せながら実態は注文や配達までの状況管理、支払い等の事務作業をITに任せ、売り上げデータ入力やステータス管理の入力を顧客に無料でやってもらっているわけです。これは新技術によるイノベーションではありませんが、原価低減と情報サービスの向上を図る方法として採用しているわけです。
すなわち、生産から顧客までの一連のプロセスにかかわる多様な事務作業を無料で行うイノベーションを起こしたわけです。このようなことは上位下達の独立した階層構造の日本では、思いつくはずがありません。
このため、出る杭が先頭に立って従来の組織の上下管理や役割分担を取り払って、自由に実行できる体制をつくる必要があるわけです。その方法はこのシリーズの『タテ社会からの脱皮-進化型組織ってなんだ』(https://o-fsi.w3.kanazawa- u.ac.jp/about/vbl/vbl6/post/121.htm ,(2019/06/03アクセス))の図5 進化型組織への道で示したテール組織の一つのホラクラシー組織として報告させていただきました。
このホームページで紹介したグジバチの『ニューエリートを目指す-AI時代のエリート』(https://o-fsi.w3.kanazawa- u.ac.jp/about/vbl/vbl6/post/118.html)では資本主義時代の成功者を「オールドエリート」と言っています、すなわち「オールドエリー ト」は規則を作り、それを部下に指示し、管理しながら仕事を進める人です。軍隊やこれまでの大企業の管理者のように部下を統制しながら仕事を進める下記のような人としています。(グジバチ,p24参照)
性質は強欲、
求めるものはステータス、
行動は計画主義、
考え方はルールを守る、
消費行動は目立つため としています。
なかでも行動は計画的に、ルールを守って計画するなどは、目指すべき目標を達成する必要条件であり、当然のことのように日々勤しんでいる方は多いと思います。
急激な変化に対応し、新しい価値をつくる人「ニューエリート」は、部下のことを考えて、社会にどのように役立つかを考えながら仕事を進める人です。
性質は利他主義、
求めるものはインパクト・社会貢献、
行動はオープン、
考え方は新しい原理や原則、
消費行動はミニマリズムとしています。
この中には「性質は利他主義」「行動はオープン」など、今の日本の会社員がこのようなことを言っていたら、敵に情報を漏らし、自社の利 益を減らすことにな ると上司に怒られそうな項目も入っています。
しかしながら、『自助の精神でニューエリート-天は自ら助けるものを助ける』(https://o-fsi.w3.kanazawa- u.ac.jp/about/vbl/vbl6/post/119.html)(2016・06/04アクセス)にまとめたように、福沢諭吉の「学問のすすめ」とともに、イギリス人のサミュエル・スマイルズが1858年に出版した"Self-Help, with Illustrations of Character and Conduct"を翻訳し、ベストセラーとなった「西国立志論」には以下のようなことが書かれています。
人生の最高の目的は、「人格を鍛えあげ、可能な限り心身を発展向上させていくこと」である。
世間・社会は、考えるにとどまらずそこで実践もできる学校である。そこにはものを言わない無数の手本がある。 たとえば、現在の苦難は過去の行動が起こした結果の一つである。 この「問題を自分の目の前に広げてじっと見守り問題を発見する。発生した問題を、今まで知らなかったことを知る(学ぶ)機会と考え、現状をよく調べて対処し、「成長」の糧とする。 それを自分の力を信頼し、旺盛な活力(向学心)と不屈の決意を持っておこなえば、何とかなる。 こうして高い「知的素養」が仕事を通して生まれる。したがって、事態を知り、自制心をもって耐えるための実務能力を自ら育成するためには 「注意力、勤勉、正確さ、手際のよさ、時間厳守、迅速さ」 の6つが必要である。
金は大切ではあるが、世論の先導役となり、真の成功を得て世に貢献する人間は、必ずしも金持ちとは限らない。 とはいえ聖人ぶって金を軽蔑するのも正しくない。すなわち、所詮世の中は変わるのだ。とりあえず間違っていてもよいからやりたいことをどんどん始め、 問題があれば修正ということで十分と言っています。それでも次のことは守るように言っています。
日ごろから無駄に金をつかわず、
世間・社会(世の中)という学校で何が起きているかよく観察し、
社会から学び、
社会に役立ち、
自分がいいと思うことを、
出来るまで勤勉にこなし、
機能や期限をきちっと守り、
結果が出るまでの間は我慢する
さらに日経BizGate,『イノベーション2.0を起こす「出る杭」の育て方~「出る杭研修」受講者が語る_HP募集』 (https: //bizgate.nikkei.co.jp/event/iddcy6yldfe2/(2019/06/03アクセス)によると今回の説明者の高樫 淳氏は屋号「エンパワーメント屋」、イノベーションストラテジストでSOSPIC社の講師を行うということですから、パイオニアの「出る杭を育てる研修」 社内改革プロジェクトであると同時にはSOSPIC社の「出る杭」の研修の外販事例であり、「出る杭」の成功事例と考えられます。
富樫 淳 氏のお話をお聞きして、感じたことを書いたのがこの記事ですが、少なくとも「出る杭」の考え方は今の日本には大変重要であることは確かです。
細かいことはべつとして私はイノベーションを起こすための新しい観点をいただきました。
キーメッセージは以下の4つでした
1.やる気のある人を育てる
2.顧客価値向上を狙う
3.本質を見極めるためには、本質で無い性質も利用する
4.個人からでなく広く社会から考える
また、プロジェクトチームを作成しプロジェクトチームの目的を設定したうえ「出る杭」になることが期待されているメンバー全員が5日間 の「出る杭を育てる 研修」に出席し、「出る杭」のやり方を体験することです。週1回1日ですから、空いている時間は自分のアイデアを練りながら研修会で発表しながらメンバー 相互の意 思を確認し、必要なら修正しながら進めていくことになります。こうしてプロジェクトチーム員の合意を取りながら始めることが重要なセミナーと感じました。 これはこの記事の「1.説明の概要とプレゼンテーションの方法」に書いたように、お話の最初に体験したことでした。
この5日間は「出る杭」を知ることではなく、自分事として「出る杭」を実施・体験する期間のようです。すなわち、この期間はスマイルズの西国立志論にあるように「世間・社会は、考えるにとどまらずそこで実践もできる学校である。」と考えて行動することです。
さらに、旧来のやり方を変えるのが、「出る杭」ですから、トップからの支持が必要であることは当然ですが、「出る杭」の候補者には、自分の思いを持ち、これまでの慣習にとらわれることなく、新しいことに挑戦することができる人を選ぶべきです。この人選を誤ると、これまでの習慣を変える活動をしている時に、 周りの人から非難を受け続けて精神障害をおこしかねません。
今回は「出る杭」を育てるためにどうするかを中心にまとめましたが、参考文献にあるように、辻野氏の『「出る杭」は伸ばせ!』では、日本でイノベーション起きない理由とその対策としての「出る杭」人材の育成が大切であることをいくつもの企業の事例を上げて説明しています。これを読んでいると日本は何とかしなくてはと動機付けられます。また柴谷氏の『出る杭を伸ばせ』では溪大学園での「出る杭」教育実験事例を故岡本学長とそこのキーマンの活動を「出る杭」活動として説明しています。これを読んでいると、やっぱり「出る杭」というのは大変なことだ、精神障害を起こさないように注意してやらなくてはと心が引き締まります。
参考文献
・S.スマイルズ著・中村正直訳,・金谷俊一郎新訳,「現代語訳 西国立志論」,PHP新書,2013
・ソスピック,「パイオニアは復活するか?」 世界が注目する中で、『パイオニアの挑戦 ~「出る杭」たちのイノベーション ~ 』という名の連続講演会が始まります!_ソスピック(https://www.zaikei.co.jp/releases/709844/, (2019/05/31 アクセス)
・ソスピック,『本質系イノベーション研修』,(https://sospic.com/training/,(2019/05/31 アクセス)
・柴谷 晋、『出る杭を伸ばせ_教育実験校「明慶学園」プロジェクト,新潮社,2009
・辻野晃一郎,『「出る杭」は伸ばせ!_なぜ日本からグーグルは生まれないのか?』,文芸春秋,2016
・日経BizGate,『イノベーション2.0を起こす「出る杭」の育て方~「出る杭研修」受講者が語る_HP募集』(https: //bizgate.nikkei.co.jp/event/iddcy6yldfe2/(2019/06/03アクセス)
・横田宏信,『出る杭がいない? 育てればいいんです!』, https://mine.place/user/289d5473-3233-408b- ba26-25d4d8a5b239(2019/05/22アクセス)
2019/06/07
文責 瀬領 浩一