127.いつ何をするか

127.いつ何をするか


- 作業・仕事の進め方  -

はじめに


 趣味としていたテニスはテニス肘の治療でお休みの状況が続き、最近は運動が少なくなってしまいました。
 その分本を読むことが多くなりました。こんな時に前回の『持続する「やる気」をいかに引き出すか 』を書かれたダニエル・ピンク著の「When完全なるタイミングを科学する」という本に出合いました。内容は人生の「いつ」をどう決断するべきかという本です。


 この本を読みだすとすぐに、日々発生する顧客の質問や悩みに答えるために、顧客訪問や調査に追われていた忙しい現役社員時代を思い出しました。今は、そんなに忙しい日々ではありませんので、この本を中心にいくつかの本をじっくり読む時間が取れました。この本は多くのビジネス書に書かれているような「何をするか」ではなくて「いつやるか」に重点を置いて書かれています。私のように現役時代には忙しく働き、顧客や上司の指示に従うことが多く生きがいが少ないと感じていた人には、自分の生きざまを考える時間を作り出すための、重要な課題であったのです。
 また、退職者になってみると別の意味で残された時間が少なくなってきていますから、今後どう過ごすかを考えざるを得ません。このように「いつ何をやるか」は現役で働いている人にも退職者にも興味ある問題です。

1  「When完全なるタイミングを科学する」という本に書かれていること


 この本は、図表1にある通り、1日、作業・仕事の進め方、同調と思考の3部からなっています。

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図表1 「When完全なるタイミングを科学する」の構成

出典 ダニエル・ピンク、「When 完璧なタイミングを科学する」、講談社、2018、目次を参照して作成

 今回はこの中から、作業時間獲得の参考になりそうな第1部と第2部を中心にまとめました。

1.1 1日をどう過ごすか


 これまでも「何をするか?」という本は多くありましたがこの本では、それに1日の「いつするか?」を加えて考えることを薦めています。なぜなら次に示すように、人は1日の時間帯によってうまくできることや感ずることが異なっているという、調査結果があるからです。
メイシーとゴールダーはポジティブな気分は午前中に高まり、午後には落ち込む、夕方にはまた高まることを発見した。 
カーネマンやクルーガーをはじめとする研究グループはDRM(Day Reconstruction Method)という方法で調査し、人の活動には次の3つのよく似たポジティブ感情のパターンが存在することを発見しました。
  午前中はうれしく感じる気持ちが高まり、午後になると弱まり、夕方になると再び高まる。
  午前中は他人に対してあたたかな気持ちが高まり、午後になると弱まり、夕方になると再び高まる。
  午前中は楽しい気分が高まり、午後になると弱まり、夕方になると再び高まる。


 また感情のバランス(ポジティブな感情からネガティヴな感情を引いたもの)は午前中に上昇し、午後に下降したのち、 夕方再び上昇することを紹介していると記述しています。

 これらをまとめると、図表2のように「感情は午前に上り、午後下がり、夕方再び上がる」ということになります。

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図表2 時間と感情の動き

出典 出展 ダニエル・ピンク、「When 完璧なタイミングを科学する」、講談社、2018、P20からp26までを参照して作成

 したがって仕事をうまくやるには、1日のうちの感情の高まっている朝と夕方の時間を重要な仕事に使い、午後は普通の仕事ことに使えばいいということになります。

 さらに人は昼行動型が基本で、通常は昼に活動的で夜に休息(睡眠)を取る動物ですが、そのタイミングは一人ひとり少しずつ異なります。  
 ティル・レネベルクは仕事がなく特定の時間に起きる必要がない日、すなわち休日の行動について次の3つの質問を行いその結果をまとめています。

1. 通常、何時に眠るか?
2. 通常、何時に起きるか?
3. その中間は何時になるか(中間時刻)?


 この中間時刻が0時から3時半までの人を朝型(ヒバリ型)、6時か13時までの人を夜型(フクロウ型)、その他の3時半から6時までを 中間型(第3の鳥)としました(これをクロノタイプと呼んでいます)。

 ティル・レネベルクによると3つ型の概要は次のようになっています。
朝 型:60歳以上と12歳以下が多い   約14%
夜 型:高校から大学生時代が多い    約21%
中間型: その他の人々         約65%

 そして、朝方の人々は感じが良くて生産性が高い(内省的で、誠実で、愛想がよく、粘り強く、感情が安定している)としています。

 夜型の人は、いくらか暗い性向を示します。朝型より開放型で外向的ではあるが情緒不安定、しかも衝動的で、センセーショナルなことを追い求める。朝型よりニコチン、アルコール、カフェインを摂取する傾向がある。

 これらの結果をもとに、この本ではグループ内で調整して最適の時間帯を作成し、次のように作業を行うことを薦めています。

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図表3 クロトタイプごとの取り組み時間

出典 ダニエル・ピンク、「When 完璧なタイミングを科学する」、講談社、2018P20p53より作成


 ここで注意するべきことは、分析作業、洞察的作業、意思決定は本人が行うことですから、本人の最適時間で「気分が高い」時を選ぶのは当然です。しかしながら図表3の「感銘を与える」場合は、本人だけでなく、相手が楽しい気分になることも必要ですから、「多くの参加者の気分が高い」ことが重要となります。このため通常は14%の朝型と65%の中間型が選ぶ「気分が高い」午前中を選ばざるをえません。そのため残念ながら、当人の好みを反映しない午前中が候補となってしまいます。その対策としては、夜型の人は翌日午前に感銘を与えるような重要な会議が予定さされている時には、前日の夜にその準備を整えておくのが良いと述べています。

 この表を利用して、各種の取り組みをスケジュールするには、各人は少なくとも自分のクロノタイプ(型)を知っておくことが必要になります。 私のように、夜9時を過ぎると眠くなり、朝は5時か6時頃になると目が覚めてしまうシニアな人間は概ね朝型となりますが、厳密には次の項目を調べてみることで、自分のクロノタイプを知ることを薦めています。

 その方法は、調査期間を1週間とし、7時から23時半まで1時間半ごとに、頭の冴え、人体的エネルギーの評価を1~10段階に分けて記録し整理する調査です。この時の調査用紙は著書に掲載されています。

 こうして準備が整ったら、自分がスケジュールを決めることができる時には、スケジュール表の空いたところに自分の得意技に応じで仕事を割り振ればいいわけです。複数の人と仕事をするときには、相手の都合にもよるし、相手の都合の良い時が異なっているかもしれないので打ち合わせて決めることになります。会議での決定事項の実行責任者や上司が自分と違った型の場合は、自分の都合だけを言っても通らないかもしれません。

 こうして時間が決まった後には、例えば会議に間に合うように、事前に自分の得意な時間でスケジュールの空いているときに、準備を進めておくわけです。 自分の得意な時間が、空いてしまった場合にはわずかな時間であっても、その時最も重要な仕事を行うように設定するように薦めています。

 要は、自分な得意な時間を知り、それに合わせて重要な仕事を割り振り、仕事の成果を上げることに心がけるということです。

 そして、例えば、良い朝を迎えるためのアドバイスとしては
1. 目覚めた時にはコップ一杯の水を飲む。
2. 起きぬけのコーヒーを飲んではいけない。
  好ましい飲み方は起床して1時間から1時間後に最初の1杯を飲むこと。
3. 朝日を浴びる。
4. セラピーは午前中に行う。
といった、細かいことまで書いています。

余談)私は、毎朝コーヒーを何杯も飲みたくなるのはこの2番目のためかと納得し、起き抜けのコーヒーはやめてコップ1杯の水とし、コーヒーは朝食後に取ることにしました。しかしコーヒーの回数は減りません。急には習慣は変えられないようです。


 ティル・レネベルクは、著書「なぜ生物時計は、あなたの生き方まで操っているのか?」のまえがきで次のように述べています。「体内時計 (生物時計)の機能は生物が長い進化の中で獲得したもので、特に新しいものではなく1日の時間を把握できる能力は人間以外の哺乳類から単細胞生物まで、 地球上のほぼすべての生物が持っている」と書いています。
注)生物学的な意味での体内時計とは、体の種々の機能や現象において、自然の周期的変化に合わせたリズムを発生させる生体機能のことを指します。 出典 明石真、体内時計のふしぎ、光文社新書、2013、p10

1.2 休む力

 ここまで仕事・活動をいつやるかについて考えてきましたが、これらの作業を能率よく進めるためには、適度のお休み(リフレッシュ休暇) を取ることが重要であり、次のような休憩をとることの効果が書かれています。

 たとえばある医療手術現場では、種々との準備が完了し、メンバーが集まった後、麻酔外科医による次のような「麻酔薬導入前の確認」というタイムアウトを取ります。
1. メンバー紹介
2. 患者の確認/順/手術、輸血、特殊研究の同意
3. 手術部位のマーキング
4. 表示されている診断結果及びレントゲン結果
5. アレルギーの再確認


 その後麻酔薬が投入され、麻酔が効きはじめ、血圧・心拍等体調も整っていることが確認され切開手術の用意ができると、外科医による次のような「切開前のタイムアウト」をとります。
1. 紹介
2. 患者ID/手順/同意
3. 左右、部位、偏側性、脊椎レベル
4. アレルギー
5. 的確な構成物質投与
6. 事前に話あった特別の薬品計画

 この仕組みを導入したことにより「谷の時間」といわれる午後の手術であっても有害事象の発生確率は従来の4.1%から1%に減ったとの ことです。そのためにケースに合わせたチェックリストも作られています。
 さらに、一般の作業の場合について次のような、ガイドが書かれています。

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図表4 気力を回復し、良い結果をもたらすリフレッシュ 休暇

出典 ダニエル・ピンク、「When 完璧なタイミングを科学する」、講談社、2018P20、p76・p98より作成


 このようにリフレッシュ休暇もしくはタイムアウトは、必ずしも自由にお休みをとることだけではありません。 時には作業をちょっと中断し、図表4のリフレッシュ休暇の考え方に基づき下記のようなガイド考事前に準備し、 タイムアウト(リフレッシュ休暇の代替)をとることもあります。
1. 全員作業中止、一歩下がって、大きく息を吸う。
2. 各自30秒で進捗状況を報告。
3. 各自30秒で次の段階について述べる。
4. 「足りないものは何か」に各自答える。
5. その欠落した部分を補う人物を指名する。
6. 必要なら、新たなタイムアウトの時間を決める。
 このような手順で、一般的に特に楽しい気分を感じない午後に、しっかり休みを取ることを薦めているわけです。
 このようなことを考慮しているのでしょうか、近所の開業医の午前の診療受付の午前の終了時間は12時ですが、 午後の診療開始時間は3時頃となっています。

 運動をすることもスケジュールに入れておくのもよさそうです。テニス肘になって気づいたことですが、テニス肘になってパソコンのキー入力を行っているときにも肘や肩が痛くなりました。テニスとは関係はないのにと思っていると今度は腰まで痛くなり、机に座るのも楽ではなくなりました。 テニス肘の治療中に発見した肩痛や腰痛をこれ以上悪化させないためには、痛い肩の方の手では重いカバンを持たないこと、 必要な医者のマッサージを受けること、腕や肩・腰に負担のかかるパソコンの使い方を変えることなどを経験しました。 
 健康にかかわるスポーツなども遊びだけでなく、仕事の進め方に大きな影響を与えることを身に浸みて体験した次第です。休憩、ランチ、昼寝、スポーツなどがもたらす体力強化や疲れなども十分考慮したスケジュールを考える必要がありそうです。

 ここまでを朝方の人を対象に1日の過ごし方をまとめてのが図表5です。

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図表5 朝方の人の1日の過ごし方

出典 ダニエル・ピンク、「When 完璧なタイミングを科学する」、講談社、2018、を読んで作成)


 各自この本を読みながらご自身の1日の過ごし方(パターン)を作成することをお勧め致します。仕事のタイプや、お付き合いの相手によってもことなるでしょうし、季節によっても変わるかもしれません。 必要に応じていろいろ作ってみるのもよさそうです。どれが良いかではありません、タイミングを意識して活動することが重要なようです。

2 作業を進めるタイミング


 ここまでどのように意識してやるかについて書いています。

2.1 開始のタイミング


 ここでは、以前と違った何かを始める時を開始と呼ぶことにします。例えば、学校に入る、就職、転職、結婚、転勤などが開始になります。
 ティーンエイジャーより年齢が下の児童の場合は、午前中に実施される標準テストの方の成績はいいが、ティーンエイジャーは午後のテストの方が成績はいいとの報告があります。一方、高校から大学生に多いクロノタイプが夜型の場合は、午前それも朝早く授業が始まることは苦痛かもしれません。ところが多くの学校では、朝方の小学生と同じようなスケジュールで授業が始まっているようです。ティル・レネベルクは「なぜ生物時計は、あなたの生き方まで操っているのかの」第13章で「学校の始業時を遅くせよ!」と言っています。 そして「生徒に学校に来る時間を決めさせる」方法も提案しています。

 景気の悪い時に卒業したリ転職する必要性がでてきたときには、前もって準備し、自分の強みを結果で示せるようにして、モチベーションの高まるような準備をし、小さくてもよいから成功体験をかさねて意識を高めておくことが必要です。いろいろな準備について書いています。例えば結婚する時のことも書いています。さらに単に仕事の準備だけでなく、何かを始めるときには、最悪の事態を避けるために、開始時に失敗したときどうなるのか検討も忘れないようにとしています。事故が起きてから、想定外だなどと言うようではだめです。当たり前のことですが、開始時にプランBの検討をしておくことです。

2.2 中間時点の中だるみとレビューの実施


 こうした準備をして何かを始めても、たいていの場合、作業の中間点で、気のゆるみが発生してしまいます。不思議なことに、これは人生においても同じで図表5にあるように50歳中年には中だるみの時期があり、それが過ぎるとまた回復するというデータです。

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図表6 幸福感は中年時に落ち込む(詳細図)

出典 ダニエル・ピンク、「When 完璧なタイミングを科学する」、講談社、2018、p149より作成)


 ただこのデータは0~10段階評価で開始時6.9くらいだったものが6.3くらいまで下がりその後7くらいに上がるという図であり、 図表6に見るように10段階評価で見るとほとんど度変わりはないという結果にも見えるのでそれを前提として利用することが必要です。

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図表7 幸福感は中年時に落ち込む(10段階評価)

出典 ダニエル・ピンク、「When 完璧なタイミングを科学する」、講談社、2018、p149より作成)


 とはいえ、中間で落ち込んでいるのは確かですから、中間目標を設定し、少しでも状況を改善することを薦めています。

 同様にプロジェクトや任務の中間地点でも同様なことが起きています。そのような時にモチベーションを呼び覚ます5つの方法として以下のものを挙げています。
1. 中間目標を設定する。
2. それを達成することを公約とする。
3. 中途半端のままで文章を終える。
   未完成の課題はよく覚えている。
4. 鎖を断ち切らないこと(サインフェルドのテクニック)。
   実行したらカレンダーにXを入れる と続けば鎖になり切れないようにしたいと思うようになる。
5. 自分の仕事が役立つ、という人を1人思い浮かべる。

 私も、その昔販売システムのプログラム開発プロジェクトを行っていましたが、そのうちの1つのプロジェクトが終了し、利用開始間際になって、お客様が発注した外注先のプログラムが出来上がっていないことがわかり、大慌てで、社内の複数の知り合いSEに緊急に参加してもらい年末年始の休日を返上し、徹夜して不足プログラムを開発し、スタートに間に合わせたことを思い出します。ここでは大プロジェクトでなく普通の仕事の中間時点での進捗チェックの重要性を取り上げているわけで、なるほどこれはいいアイデアだと感じた次第です。

 ほかにも、人生の中盤のスランプに立ち向かう5つの方法として次のようなことが挙げられています。
1. 目標に優先順位をつける(パフェットのテクニック)。
   残りの人生で最も成し遂げたい25の目標を書き出す。
   そのリストで間違いなく最優先となる5つの目標に〇をつける。
   まずは上位5つの目標を達成する計画を立てる。
   残りはできればやればいいが捨ててもいい。
2. ミッドキャリア層のためのメンターシップを導入する。
   メンターを途中で終わらせないこと、少なくともスランプには対応できる。
3. ポジティブな出来事を頭のなかから取り除く。
   ポジティブな出来事をリストアップする。
   その背景もリストアップする。
   起きたかもしれない出来事や、下さなかった決断をすべて書き出す。
   そのうえで、現在までの人生を振り返る。
   意外と思っているより、晴らしいと思うかもしれない。
4. 自分を思いやる短い文章を書く。
   後悔やはずかしさや失望感で自分の胸を一杯にする事柄を突き止める。
   そしてそれを思い出すとどんな気持ちになるかをいくつか具体的に書き出す。
   そのようなあなた同情や理解をしめすメールを2段落にわたり書く。
   想像上の友人の立場から自分にメールを書く。
5. 待つ。
   最善の行為は時には何もしないことかもしれない。

 ここで中間時点での危機をまとめると次のような図になりました。

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図表8 仕事の進め方

出典 ダニエル・ピンク、「When 完璧なタイミングを科学する」、講談社、2018、
古市幸雄氏の『「1日30分」を続けなさい! _』、マガジンハウス、2008』等を参考にり作成)

 
 とはいえ、中間で落ち込むのは確かですから、自分用の図表8を作成し中間目標を明確にし、成果を確実に達成するようにすれば良いわけです。

2.3 終了


 こうして、プロジェクトや作業の中盤を過ぎると、いよいよ終了の準備が必要になります。
1. 目標に優先順位をつける(パフェットのテクニック)。
   残りの人生で最も成し遂げたい25の目標を書き出す。
 思い通りいかない仕事をいつ辞めるかと考えているなら次の質問をして2つ以上ノーと出たらやめどきです。
2. 次の就職記念日に、この仕事をしていたいだろうか?
3. 現在の仕事にやりがいを感じられ、自分でコントロールできるか?
4. 上司はあなたが最高の仕事をできるようにしてくれるか?
5. 3年から5年の昇給のチャンスから外れているか?
   3年以下では市場価値のあるスキルを身に付けるには短すぎる。
   5年以上たつと上司との関係も深まり新天地で再出発するのは難しくなる。
   (早く昇給したり、やりたいことをやるには再出発(転職)が重要という文化の国の話です。)
6. 日常業務が長期目標と一致しているか?

 HPにも「When 完璧なタイミングを科学する」の紹介記事があります。概要を知るには十分かと思います。

 これも参考にして、どうにかダニエル・ピンク、「When 完璧なタイミングを科学する」を読み終え、これは面白い、これから自分の時間をどう使うかが重要である理由を理解できました。いづれにしても、本のタイトルにあるように、あくまでも科学的に考えて、納得してやってくださいという論理的な姿勢の本です。

 ダニエル・ピンクの最後の一言は次の通りです。
「以前はタイミングがすべてだと思っていた。今では、すべてがタイミング次第だと思っている。 」

3. ほかにも資料はいろいろ


 日本の文化で特有の何か特別なことはないかと、小林弘幸著、 「自立神経が整う時間コントロール術」という本を見つけ読み始めると、こちらは、あまり理屈は書いてないが、どのように行動すべきかについて、具体的に書いてある本でした(章立ては参考文献を参照してください)。 第2章はダニエル・ピンク本とは用語も・理論も違い、著者、出典、論理展開の部分はあまり細かく書かれていません。しかし、ダニエル・ピンクの本で、時間管理の重要性を学んだあと、日本の文化の中で、どのように実行するかについては、こちらの本のほうが具体的にわかりやすく書かれていますので、参考までに。

 まだ、そんな気はないと思われている方には古市幸雄氏の『「1日30分」を続けなさい! -人生勝利の勉強法55』、マガジンハウス、2008』をお読みになることをお勧めいたします。筆者は、プロローグで人は通常、 大学または高校に入学するまで、ある程度勉強します。しかし他人と差がつくのは卒業後にどれだけ勉強を続けたかで、勉強を続ければ、 ぶっちぎりの差をつけることができるといっています。 そのモチベーション(動機づけ)がわかないのは、勉強したくないのですから無理することはないとの立場です。

 しかし第1章では「勉強したい」と思ったときには、そのタイミングを逃さずこの本に書いてあるようなことを1日30分、一つ一つ初めてくださいと記しています。

 第2章では勉強時間を捻出する方法について次のようなことが書かれています。
1. テレビを見なければ、1年間で約2か月分の時間を捻出できる。
2. 会社には勉強のツールがすべて揃っている。30分から1時間早く出社して勉強しよう。喫茶店も勉強空間になる。
3. 片道45分の通勤時間を勉強に当てれば、年間約450時間の勉強時間が捻出できる。
4. 移動時間(車・徒歩)に「ながら」勉強をする。
5. 生活習慣を朝方にして、朝に勉強した方が効率的
などと具体的に時間を作る方法が書かれています。

 こんなことができるかどうかは本人の心次第という考え方です。勉強したくないが給与が低いなどと給与の低い原因を他人のせいにしないでください。自分の意志で決めたことですと言っています。

 今後は本来働く人が自分でどのように働くかを考えることが重要な時代になってきそうです。例えば2019年9月3日の朝日新聞の朝刊には、「仕事量を変えず・・・全社員週休3日効果は」というマイクロソフトの8月の試行の記事が載っています。この試行では、介護やMBAの勉強はやりやすくなりますが、仕事量を変えず週休2日制から週休3日制になるのですから、労働日は週5日から週4日へ減少するが、仕事量は変えないと言っているわけです。企業の方は「会議は基本30分、5人以下」「相談はチャットで」などの指針を全社に出したが、日常の仕事や会議時間を20%くらいの効率化させる方法は自分で考え実行せざるをえません。試行の結果、少なくとも8月の第4週までの成績は前年を上回っているとのことですから、社員としては何とかできたようです。これを読んでいるとマイクロソフトのような先端企業においてさえもまだ効率化できるところがあり、効率アップをできない社員はプレーヤーと見なされなくなリ配置転換や解雇の時代が来そうなことを感じさせます。

 このタイプの配置転換はアメリカや欧州では行われているようですが、終身雇用の日本でも、こんなことが行われ始めた兆しを感じさせる記事でした。さらに山本興陽報告のように過去最高益であっても「先行実施」型の早期退職を行っている例もあります。同様なお話は「セブン 1000店閉鎖・移転」として2019年10月11日の朝日新聞の1面にも載っています。企業業績が良くてもをこれこそ『 持続する「やる気」をいかに 引き出すか』の「7-1 日本の終身雇用について」で述べたような基本賃金は確保されるという前提で 「非正規社員」に近いルールで「正規社員」を採用できる方向への一つになるかもしれません。同時にそこで述べられていた「自律性」に繋がります。野球でいえば選手(プレーヤー)になる方法を述べているのであり、球場整備員になる方法を述べているわけではありませんということでしょうか。

 ちょうどこんな時に、こちらはダニエル・ピンクの言っている「活動の生産性」ではなく「健康」を中心にとらえた調査を見つけました。2015年10月17日の週刊現代の『オックスフォード大学の衝撃レポート-「早起き」すると寿命が縮む!』という記事です。英オックスフォード大学 の睡眠・概日リズム神経科学研究所の名誉研究員、ポール・ケリー博士の研究によれば、早起きをすると心筋梗塞、脳卒中、糖尿病のリスクが倍増するという報告です。この報告では起床時間は青年期(15-30)は9時、壮年期・中年期(31- 64)は8時、高齢期(65歳以上)7 時となっています。また起床後の活動開始時刻は青年期は11時、壮年期・中年期は10時、高年期は9時が最適だと分かったとのことです。たとえばIT企業のグーグルは社員の能力と睡眠の関係性を重視して、フレックスタイムを導入し社員が自由に出社時間を決められるようにしているために、午前中のオフイスはまばらとのことです。

 三瓶恵子、「人を見捨てない国、スエーデン」、岩波ジュニア新書、2013、p17によればスエーデンのフリースクールの一つ「クンスカープスコーラン」の特徴は「自分自身の学習進度に合わせて、生徒がコンピュータを使って自習する」ことですと書いています。少数の一斉授業を除いて、基本的に暮らす全員に共通する時間 割はない。といったことが許されて国もあります。こうしたフリースクールも国の機関である学校長から認可を受けないと設立できないため、公立学校と同様、 国が決めた学習指導要領による教育を行っています。効率との違いはその教え方にかなり自由度があることです。これならポール・ケリー博士の青年期の活動開 始11時を守ることもかなり可能です。

おわりに


 ダニエル・ピンク著の「When完全なるタイミングを科学する」はプレーヤーを目指すこれからの学生や現役の活動家が1日の時間をどのように使うのが効率的かを「体内時計」の考え方で、 朝型・夕方前・中間型に分けて整理し、休暇の必要性について述べています。さらに作業の「開始」と「終了」時に何を行うかとその「中間時点」で何をチェックすべきできかも述べています。今後はこの考え方をもとに自分用の「図表5 1日の過ごし方」や「図表8 仕事の進め方」を作成しそれを修正しながら行動すれば、現在の労働者のほとんどは、今より効率は上げることができそうです。

 ところが、いろいろな業務が混じっている人はいいが、教育のようなスケジュールの決まっている学生の場合はどうすればいいか、現在の仕事に自分の方が合っていないと感じた時はやめても次の働き場所は見つかるかどうか、集合しやすいように会議の時間を短くするにはどうすればいいか、移動中や介護中の会議にはどのように出席するか、個人が自分の就業時間を自由に決定できるのか、といった各種の問題があることも分かりました。IT (AIやネットワーク)はそれらを解決するための道具です。

 ここまでは時間の管理を働く人の立場で、すなわち「働き方改革」として述べてきましたが、これらの中には「始業時間のように」個人の努力だけでは実現できないものもあります。働かせる側の組織や企業にも、仕事の開始時間を変更したり、働く人の生産性や健康条件に合った勤務を実現する場を提供する必要があります。 今回は省略いたしましたが、「組織のマネージャー」にはフレックスタイムの採用、在宅勤務、リモート会議自動化装置の導入といった「働かせ方改革」 も重要な業務となります。

 そして最後に行きついたのは「早起き」すると寿命が縮む!でした。ここまでほとんどは仕事の効率だけを考えてきたがこれからは働く人の健康のことも考えて仕事を行うことが必要というお話です。体力のある年齢の人が働く時代はともかく、高齢化社会を迎える日本の65歳以上の高齢者が活動するには、健康を害しないように「遅寝遅起き」に合わせた人達の「いつ」も考慮しなければない時代が来たということです。


参考文献
ダニエル・ピンク、「When 完璧なタイミングを科学する」、講談社、2018
 全てはタイミング次第。ベストなタイミングを取りに行け!
ティル・レネベルク、「なぜ生物時計は、あなたの生き方まで操っているのか?」、インターシフト、2014
 24章にわたり、内部時間の事例とその背景となる知識を説明している
明石真、体内時計のふしぎ、光文社新書、2013
 現代社会において体内時計がうまく機能しないと体に何が起こるかを一般の方に向けにやさしく解説した本です。
 第1章 体内時計と現代病
 第2章 体内時計が関係する病気
 第3章 体内時計で病気を予防する
栗原史子、「仕事量を変えず・・全社員週休3日効果は」、朝日新聞、2019/9/3 マイクロソフトの8月の試行
小林弘幸、「自立神経が整う 時間コントロール術」小学館、2016、p20
第1章 時間との付き合い方を変える
第2章 自立神経を考えた1日の計画
第3章 ゆっくりを意識した時間
第4章 1週間から1年間の予定の立て方
第5章 ゴールデンタイムを生かす仕事術について具体的どのようにすれば良いかが書かれています。
山本興陽 「キリンが早期退職を実施、過去最高益なのにリストラ着手の裏事情」
(http://cl.diamond.jp/c/aevObRnMzpx7xYac) (20190927 アクセス))
古市幸雄、『「1日30分」を続けなさい!_人生勝利の勉強法55』、マガジンハウス、2008
第1章 人生は勉強したものが勝つ!
第2章 勉強時間を捻出する方法
第3章 勉強に集中する方法
第4章 短期集中型・長期計画型
第5章 本気の人のための勉強法
第6章 勉強を成功させるための目標設定法
第7章 勉強効率アップのための食事・睡眠
第8章 勉強効率アップのためのツール
ホームページ 「When完璧なタイ」ミングを科学する
 (https://syuyu.work/everything-depends-on-timing(2019/08/22 アクセス))
オックスフォード大学の衝撃レポート_『「早起き」すると寿命が縮む!』,週刊現代、2015年10月17日、p160-162
 (https://gendai.ismedia.jp/articles/-/45782(20190920  アクセス))
三瓶恵子、「人を見捨てない国、スエーデン」、岩波ジュニア新書、2013、p17

注)クロノタイプは体内時計によって強く影響されており、朝型と夜型の人をくらべると、体温やメラトニンといった体内時計を反映する機 能のタイミングが朝 型で早く夜型で遅いことが知られています。また、夜型の人ほど体内時計が持つ1日の長さ(周期)が長いようです。双子の研究によると、クロノタイプは 50%程度遺伝的に決定されています。このように、クロノタイプは個人が生まれつき持っている体内時計の特徴を反映したものと考えられています。*1 「クロノタイプ(Chronotype)」という言葉は朝型夜型に関わる特性を表しますが、研究者によって少しずつ定義が異なります。また、「日周指向性 (Diurnal preference)」や「概日リズム型(Circadian typology)」という別の呼び方もあるようです。(https://mctq.jp/about/)


2019/10/14
文責 瀬領 浩一