140.未来から現在を考える

140.未来から現在を考える

-ステークホルダーの立場でパーパスを-

はじめに

 このシリーズの「139.みんなで世界を良くしよう」の図表5.ビジネスモデル・マンダラの階層に書いたように、これからの会社は財務中心(利益確保)の事業運営では十分ではなさそうです。社会・従業員等も含めたステークホルダーの立場から会社は何のために存在するかを考える必要があることがわかりました。それなら、と個人の立場は松下 幸之助の「人間としての成功」、企業の運営方針は今はやりの「パーパス(Purpose)」で設定する方法をまとめました。

第1章 人間としての成功 

 やり方はともかく、どこに焦点を当てようかと考えていた時、松下 幸之助の書かれた本を思いだし、書棚から『人間としての成功』(松下 幸之助、1994)を見つけました。図表1はこの本の目次をマインドマップ風に整理したものです。

vbl-mrkrgn01.jpeg図表1 人間としての成功 目次

出典 『人間としての成功』(松下 幸之助、1994)を参照して作成
図をクリックすると拡大して見られます

 この本の「文庫版発行に当たって」によると、松下幸之助が「これが人間らしい生き方ではないか」「これこそ人間としての成功者だろう」 と時に考え、感じてきたことを昭和52年(西暦1977年)に産能大学より請われ、通信教育用テキストとしてまとめたものです。このテキストを松下 幸之助が亡 くなった平成元年(西暦1989年)にPHP研究所から再刊したものを、平成66年(1994年)に文庫版として発行した本ですと書かれています。すなわち今から約40年前に松下 幸之助がどう考えていたかを知るいい手掛かりになります。これまでは古い本だから、今や通用しないかもしれないと思いながら時々眺めてきただけの本でした。今回は高度成長期の日本の経営者の意気込みを知ろうと、この中から「第1章.生きがいをもって」と「第2章.人間としての役割」についてまとめました。

1.1 生きがいをもって

 『人間としての成功』(松下 幸之助、1994)」の第1 章(p19-p44)には次のようなことが書かれています。

1.成功しやすい時代
 生きがいとは例えば家庭、仕事、趣味やスポーツといったように、人によって場合によって異なります。ただ共通することは第三者もそれを承認するものでなくてはならない。さもないと、盗みや殺人のようなものまで含まれてしまいます。封建社会時代のように町人の子は町人、百姓の子は百姓というように身分がきちんと決められていた時代は、どのような道に進むかは制限されていた。ところが現在は職種も増え、誰でも大学等で学ぶことにより、自由に人生を選べるようになりました。また、家庭に縛られていた女性も、まだ十分とは言えないまでも男性と同じように自由に働くことができるようになりました。

2.私の生きがい
 松下 幸之助は満9歳の時、尋常小学校を4年で中退し、宮田火鉢店に丁稚奉公に出て丁稚小僧としての経験を積み、この時はせめて番頭さんになりたいと思って朝から晩まで働きました。16歳で電灯会社(現:関西電力)に入り配線工として6年ほど勤め技術を磨き1917年に退職、その後独立して事業を始めたそうです。このようにその時その時に合わせ生きがいを求めつつ働く方法もあれば、芸術家のように一生を通じて同じような仕事につぎ込む方法もあるかと思いますが、各々の人が自らの生きがいをしっかり持っている人が多く集まってほしいと思っていると書いています。

3.打ち込むならば
 生きがいは働きがいにも通じると思いますが、厳しい環境の中で働いていても、それに没頭して打ち込んでいれば、あまりその厳しさも苦しくないでしょう。そればかりかやり終えた後に、なんとも言えない爽快さを身に覚えることも多いのではないかと書いています。すなわちやるべきことに打ち込めば、効率的にできるし、得をした気分になると言っているわけです。

4.前向きにみる
 やっていることに、不平や不満をあたりかまわずこぼす人もいます。しかし、そのような欠点に気づいたことは、本人の自主的な態度であり、率直に受け取り、改善の糸口として、前向きに考え、将来への備えをする方がよさそうです。できればやっていることの中から、いいことを探し、それを身近な人に伝えることです。こうするとその人を育ててきた人は安心すると同時に、うれしくなるものです。こうして心を伝え合うことにより、真心や誠意を共有できるようになり、また何かの時に助け合うことができます。

5.天分に生きる
 お互いそれぞれの天分、適正というものを十分発揮する道を求めたいと思うのですが、仕事によっては、できる限り早くその道について身をもって成功するコツを体得することが必要と考えています。すなわち、できるだけ早いうちからその道に入って覚えないと一人前になれないというか結局はうまくいかない場合も少なくないようです。その事例としてホテルのボーイさんの例が載っています。

1.2 人間としての役割

 『人間としての成功』(松下 幸之助、1994)」の第 2章(p45-p74)に、地球上に人間として生まれたら果たすべき役割について次のようなことが書かれています。

1.値打ちを知る
 ここには、人間が他の動物と大きく違うことの一つとして、物事の道理とか価値というものをよく知って、これを巧みにお互いの日常生活に生かしている点ではないかと思っていいます。その例として石油は単にエネルギー源としてだけではなく、プラスチックや薬品の原材料としても使っているように、いろんな用途に使っていることをあげています。会社もより良いものをより安く提供し社会に貢献する努力をする。国の関係にしても、何かあったった時に、日本と取引しないと言われないように、謙虚に物事を考える必要がある。ものが豊かになってきても、浪費しないよう、物事の価値認識を正しくできる豊かな学習が必要と言っています。

2.新しい人間観
 宇宙に潜む様々な心理なり法則を見出し、これを応用して自他の利益を図る力を持っています。このような人間の優れた能力も個々の人の力だ けでは発揮できないので、個々の知恵を集めた衆知の力によってはじめてできるのです。ただ個々人もしくは個々の国の思想は違っていることがあるので、自分の知恵だけを正しいと思ってはいけません。互いに率直な心で知恵を出し合い個々の知恵を超えた高い知恵を生み出すことを忘れてはいけないのです。

3.人間道を歩む
 まずは人間同士も含め、万物一切をあるがままにみとめ、容認すること。そのうえでどのようにしたら適切に処置、処遇することになるかを知ることです。会社内でも適材適所と言われるように一人の人にはどこで働いてもらうか、もしくは一つのポストに誰を就けるかに注意を払い、その人の喜び・働き甲斐を引き出し周囲を喜ばせるようにすること。「人にしても ものにしても、あるがままに認めたものを、それぞれの特質に応じ、全体との調和のうちに適切に処置、処遇すること。 この処遇も人間らしい豊かな心をもって行うこと。このような豊かな心がないと、争いになってしまうこともあります。

4.地球人として
 いまや、国際化の時代に入りつつあります。政治についても経済についても、あるいは資源とか食料についても、国の問題がその一国にとどまら ず関係各国もしくは世界の多くの国にすぐに影響をあたえつつあるのです。そのため世界人類的視野というか地球人の意識でもって考えなくてはいけなくなっています。ただ先進国が発展途上国を支援するときには、十分相手の国の文化や慣習に考慮して行う必要があります。

5.日本人として
 日本人に過去に起こったことの中には過ちや欠点もありました。反省すべきところは反省するとしても和を尊び、衆知を重んじ、首座を保つという日本国の伝統的精神もあります。よいところを残しながら新しい道を進むようにした方がよさそうです。同様に他の国にもその国なりの伝統的精神があるわけですから、それを生かすようにした対応をする必要があります。

以上をさらにまとめたのが図表2です。

vbl-mrkrgn02.jpg図表2 個人の生きがいと人間としての役割

『人間としての成功』(松下幸之助、1994)を参照して作成

 図表2には大事なことが書かれていますが、特に新しいことは書かれているようには見えません。多くの人は、自分はこれらを無意識のうちに実行していると思っているのではない かと思います。困難にぶつかった時や問題が発生した時に思い出し、本当に充分やってきたのかと検討し、今後の行動に役立てていけばよさそうな言葉です。

 他にも図表1にあるように次のようなことが書かれています。これらは図表2に書かれたことをあらたに見直す時に、改めて読めばいろいろ 教訓を得られます。

第3章 共に生きるために

第4章 自主独立の精神

第5章 日に新たな成長を

第6章 豊かな心で

 図表1はこの本の目次ですが、これを見ながら自分ならどうだろうと考えるだけでも、自分を見つめなおすことができます。法人も人の一種だと考え、個人の立場から考える時には参考に使えます。

第2章. 組織はどのように行動するか

 個人が幸之助のように生きるのであれば、組織(法人)だって存続し行動に必要な基本ルールがあってもよさそうと思って探していた時見つ けたのがこのシリーズの、「139.みんなで世界を良くしよう」 の最後に書いた、『ハーバードビジネスレビュー』で見つけたパーパス(Purpose)です。

2.1 パーパスとは

 ここでは、組織のパーパスを考える時の参考していただければと、パーパスについて書かれている資料から、参考になりそうなものをいくつか抜き出し、まとめました。

 「ビジョン、ミッション、バリューとはどう違うのか」(グラハム・ケニー、2019)には次のように述べられています。

ビジョン・ステーメント:会社がこの先数年のあいだにどんな組織になりたいのかを述べるもので、普通は経営層が、日常の営業活動を超え た視点で、明確かつ覚えやすい形にまとめ上げたもの。例えばエリクソンでは「あらゆる通信業界において主導的な存在となること」としている。(TO BE 有りたい姿)

ミッション:会社が関わる(そして関わらない)ビジネスを、現在および将来において説明するもの(変わり方)。

バリュー:現在の企業文化を説明するもの。それは行動上の指針となります。( AS IS現状)

プリンシパル:バリューが社員に指針を与えるのに対して、プリンシパルは社員に一連の指示を与える。

パーパス:会社が会社自体をどう展望すべきか、どのように行動すべきかをステークホルダーの立場から検討し、表現したもの。例えばオー ストラリアの不動産関連企業REAグルー プのでは「不動産取引を売買する顧客のために、不動産取引のプロセスをシンプルに、効率的に、ストレスフリーにする」といったことです。

 「パーパスの実践にあたってはまずわが身を振り返れ」(グラハム・ケニー、2019)には次のようなことが述べています。

 ミッション、ビジョン、バリューのほとんどは、組織自体を中心にすえています。ところが「パーパス」は組織を外から見つめ、事業が人の生 活にもたらす違いを考えるとしています。すなわち取引システムを関係とすることです。従業員を低賃金で働かせ、企業利益を上げ経営者が大きな報酬を得るような仕組みでは、パーパスで上げた施策を社員に徹底することはできません。こんな状況では顧客により満足できるサービスを提供といっても社員の共感を呼びません。経営者は会社のパーパスを考え、時が来たらこのようなことが起きないよう身の回りをきれいにしておく必要があります。

これらをまとめると図表3のようになります。

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図表3 ビジョン、ミッション、バリュー、パーパスの関係

「ビジョン、ミッション、バリューとはどう違うのか」(グラハム・ケニー、2019)等を参照して作成

 図表3のように、組織運営において、これまでのミッションの考え方から、パーパスの考え方に変えると、どのようなことになるかについ て、ジョージ・セラフィム、グローディング・ガーデンバーグ、2019「パーパスは収益を左右するのか」では次のようなことを述べています。

1.「ヴァージングループのリチャード・ブランソンCEOの「パーパス」について語っています。「常に目標だったのは、金儲けを超えてはっきりしたパーパスを持つビジネスを作り出すことだった

2.「パーパス=仲間意識」(「楽しい職場だ」「私たちは一緒にこれをしている」「家族もしくはチームという雰囲気がある」)とする会社と「パーパス=明瞭」(「組織がどう前進し、そのように到達するかについてマネジメントが明解な展望を持っている」)とする会社に分けてみると、「パーパス=明瞭」とする会社が財務面でも証券取引実績でも優れていることがわかった。すなわち「パーパス=明瞭」には実際的な意義があることを示しているのです。

3.「パーパス=明瞭」とするには、ミ ドル層を育成することが重要であるということもわかった。 

 すなわち、パーパスを単に仲間意識を持つことと考えるの ではなく、経営の明瞭さを持つとしている企業が好成績をあげているということです。

2.2 ステークホルダーとは

 パーパスとはステークホルダーに対するメッセージですとなっていましたので、ステークホルダーとはどのような人を対象としているのかを調べまし た。

 Wikipediaでは、ステークホルダーとは事業経営の場合は企業・行政・NPO等の利害と行動に直接・間接的な利害関係を有する以下のような役割の人をあげています
 投資家
 株主
 債権者
 顧客(消費者)
 取引先
 従業員(社員)
 地域社会
 社会
 政府・行政・国民

 20190417_「ステークホルダー(利害関係者)の意味と関連語を例文付きで解説!」、(Backlog編集部)によれば「プロジェクトマネジメント」の場合は

• 直接の取引先
• 間接の取引先
• エンドユーザー
• 経営者
• 部門長
• PM
• PL
• プロジェクトメンバー
• 協力会社
といった役割の人をあげています。

 すなわちケースによって異なるようですが「活動にかかわるすべての人」といったイメージで考えればよさそうです。

 「139 .みんなで世界を良くしよう」 の「1.安い肉の裏側」や「2.日本の在留外国人」で取り上げた問題は、組織で働く人を人とは考えず奴隷のように生産手段や装置のようにと考え、「ステー クホルダー」と考えていないために発生したようです。

2.3 パーパスの事例

スターバックスの事例
 「スターバックスはオンリーワンのブランドである」、(水口 貴文、2020)p48-p58で、スターバックスジャパンの代表取締役最高経営責任者の水口 貴文はスターバックスの経営の核にあるのが、次のミッションであると言っています。「人の心を豊かで粥力あるものにするために―一人のお客様、一杯のコーヒー、そしして一つのコミュニティから」。その後この3つについて解説し、それを達成するために、お客様目線は当然のこととして パートナーの目線を取り入れるようにしてい書いています。

ペプシコの事例
「パーパスの持つ力を伝統企業に浸透させる法 ペプシコ」、(ビジャイ・ゴビンダラジャン、2020)、p60-p73によればパーパスに対しPwP(Performance with Purpose)の 4つ目的をあげています。

1.優れた財務収益達成(財務的サステナビリティ)

2.自社製品の糖類、塩分、脂質を減らしながら、より健康的で栄養価の高い飲料製品を揃えるようなポートフォリオの変革(人間的サステナビリティ)

3.節水、カーボンフットプリント、およびプラスチィック廃棄物の削減による環境負荷の抑制(環境的サステナビリティ) 
この結果健康を意識した製品ポートフォリオは2006年収益の36%を占めていたが2014年委は50%になった。オペレーションによる水の使用量を25%削減し、2200万人の市民に安全な水を提供、2018年までに女性シニアマネージャーを39%増加。純収益は80%増加。

4 .社内および事業を行うコミュニティにおいて女性や家族に対して、新たな支援を提供することによる人々への貢献(人材サスティナビリティ)

オムロンの事例
 「強くなければ、「社会の公器」たりえない オムロン」(山口 義信、2020)p88-p99によれば、未来の視点から変革を考えるシニアエクゼクティブのチームに対して、自社事業に影響を及ぼすことが予想される将来の出来事を特定するように求めた。このチームのメンバーには、現 状に執着することが無いような人を選ぶことが必要である。

 そのうえでそれを実現するためにどのようなイノベーションが必要かどのような投資が必要になるかどのような人材を採用すべきか。

 CEOは現在から未来を向かうのではなく未来から逆算する戦略で自社が時代遅れにならないようにしなくてはいけない。

 また初期段階から新たな行動を展開するパーパスドリブン戦略が一時的な流行ではないことを示すためには、初期段階から思い切った活動を 展開する。そのための欠かせない行動は次の3つであると言っています。

1.注目度の高いリーダーシップの役職を作り、その多くを外部登用

2.「以前なら」承認されただろう決定を覆す

3.一部の従業員を解雇する

 また重要な役割の責任者例えばCSO(最高サスティナビリティオフィサー)を置かない。理由はプロジェクトが失敗したときは従業員の責任でありCSOであると言わせないため。とても印象に残る言葉です。他にも次のようなことを言っています。

 海外に展開するときには国や地域に合わせて展開することが必要。

 社外からに批判に対応するために社外の支援を模索することも必要である。

 公式目標の設定と資源配分の戦いの最中には、パーパスがパッションを必要とすること、必要に応じてパッションを追加しなければならない時もあることを忘れないで。

ネスレ日本の事例
 「経営者の仕事はパーパスを提唱し、実現すること ネスレ日本」(高岡浩三、2019)p22-p31によれば日本株式会社モデルでは経営者の任期は短い。これでは長期戦略を立てる気にならない。

 これまでのモデルを継続するやり方は人口が増え続けていた高度成長期であったから誰がやってもよかった。組織を進歩させるのが経営者の仕事ですがそれをやってこなかった。さらに時代が大きく変わった今でも昔の仕組みをそのまま踏襲している。これらは経営者の怠慢と言われても仕方がない。いまや、本国の社員を、外国のトップとして派遣する必要もなくなってきた。現地を良く知る現地社員が行う方がいい時代になった。

2.4  会社のブランド・コア

 2.1はパーパスとは何であり、その効果について。
 2.2はパーパスの対象者はステークホルダー(企業に関係するすべての人)である。
 2.3はパーパスの事例をまとめてきました。
 これからはパーパスを作るための準備として、企業のブランド・コアの見つけ方についてまとめます。ここでブランド・コアとは「ステークホルダーに対する約束の根底にある永続的価値観」を表すもので す。

 ステファンA・グレィザーは「あなたの会社のブランド・コアを見つける方法」(ステファン A・グレィザー、2020)でパーパスを永続的価値観と考え、自社にあったパーパスを見つける方法を提案しています。それが図表3.ブランドアイデンティティ・マトリックスにあるブランド・コアを見つけるマトリックスです。

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図表4 ブランドアイデンティ・マト リックス

出典「あなたの会社のブランド・コアを見つける方法」(グレィザー、2019)p78を参照して作成

 この図では、下段の赤枠は内部要素で上段の青枠は外部要素です。その中間の黒枠は内外の側面をつなぐ要素となっています。

 まずこれからやりたいこともしくは今やっていることについて、このマトリックスの周りにある顧客価値、関係性、ポジション、表現、企業のパーソナリティ、ミッションとビジョン、文化、強み・コンピタンス の8つの要素を記入します。

 図表4の各枠の内容として描かれていることは企業についての説明です。原本には左中は「パーソナリティ」と書かれていましたが個人の問題と間違えられそうなのでここでは「企業のパーソナリティ」としました。右下の「コンピタンス」も「強み・コンピタンス」としてあります。

記入するときには
1  簡潔に
2 わかりやすく明快に
3 特徴的なものを探し出す
4 現実を反映し、本当の話であること
5 時代を超えて継続するものであること
などに注意して行うことです。

 「あなたの会社のブランド・コアを見つける方法」(ステファン A・グレィザー、2020)の79ページにはノーベル賞についてのマトリックスが掲載されていますので、ご覧になってください。非常に単純なマトリックスとなっています。

 他にも、日本の組織の場合、日本の少子高齢化社会、ICTによる個人情報筒抜け、社会や貧富の差の拡大などは、起きてしまった未来と考え時代を超えて継続 するものとして考慮の対象に入れておく必要がありそうです。

 そのうえで、これらの活動に関係し、ステークホルダーに伝えたい情報をブランド・コアとして、中央に書き込みます。

 この作業は一人のリーダーが作成してもよいし、チームのリーダークラスがアイデアを出し、それを皆で話しあいながら作成してもよいとしています。この時に「図表1.人間としての成功」や「図表2.個人の生きがいと人間としての役割」で書いたような個人及び組織の役割を思い出しながら検討するのがよさそうです。

 次いでこの8つの外枠とブランド・コアに描かれていることが矛盾しないかどうかをチェックします。

 この時使うのが図表3の楕円の中に書かれた「競争」「戦略」「コミュ ニケー ション」「インタラクション」の4つの言葉(キーワード)です。この言葉の下で、楕円の下にある要素に一貫性があるかを点検し、一貫性がない場合は整合性をとれるように、ブランド・コアや周りの8要素を修正します。

 例えば「戦略」の軸では、我々のミッション、ビジョン、プロミス(約束すること)、ブランド・コアバリュー、市場で目指すポジションについて次のようなことを検討、となっています。

 「我々のミッションとビジョンは、社内の人々、そして理想的にはそれ以外の人々を引きつけ、刺激を与えるか。また組織が達成するだろうという約束につながるか。その約束は企業のポジションに明示されているか。最後にそのロジックは他の方向にも通用するか。つまり、そのポジショニングは、ミッションやビジョンに沿った約束や価値観をうまくとらえているか。といったことを検討します。」

 この時当事者の立場として「図表2.個人の生きがいと人間としての役割」に書かれているようなことを頭の隅に置いて考えることです。

 「あなたの会社のブランド・コアを見つける方法」(グレーザー、2020)p82~p83には同様なガイドが他の3つの軸についてもどのようにやるかが書かれています。これ らの点検を図表4に書かれた4つの軸すべてについて行い。それらが相互に矛盾がないように調整します。

 こうして作られた、ブランドアイデンティティ・マトリックスに基づいて、人に伝えるためのわかりやすい短文として「パーパス」を作ります。

2.5  ブランドアイデンティ・マンダラ

 図表4を見ながらブランドアイデアマトリックスも3×3のマトリックスをビネスモデルマンダラと同じフォーマットにできないかと思い付き、図表6のようなブランドアイデンティ・マンダラを作ってみました。

vbl-mrkrgn05.jpg図表5 ブランドアイデンティ・マンダラ

 いくつか案がありましたが、取りあえず作成したのが図表5です。 図表4を左に約1/4回転した図です。図表4.ブランドアイデンティティ・マトリクスと描かれている各枠の描かれている場所は違いますが、内容は同じです。出来上がった結果は「136.IT時代のコロナ対応」の「図表4.6次元思考」と同じタイプになりました。この形式なら、ビジネスモデル・マンダラのフレームワークを使って、ブラインドアイデンティティが書けます。

 十印の緑点線枠が戦略と競争(戦術の意味)、X印の緑点線枠がインタラクションとコミュニケーションの協調手段さらに左上の緑点線枠が外部、右下の緑点線枠が内部を表しており、図表4とは1/4位回転しているのが解ります。違いは、組織の内部と外部の違いも緑点線枠で描かれているだけです。図表4・図表のどちらでも使い慣れている方をお使い頂ければと、思います。

第3章 ビジネスモデルへの反映

 こうして、パーパスが決まったら、それを社内外にお知らせすることになりますが、その前に組織のビジネスモデル(もしくはビジネスキャンバス等)の見直し、実現方法を検討しておくことが必要です。この時は例えば、図表6にあるように図表5のコーポレート・ブランド・アイデンティの各項目が、ビジネスモデルのどの項目にあたるかを調べながら、ビジネスモデルをチェックします。この時、修正するところがあれば、そのためのビジネスモデル変更タスク(業務改革タスク)を開始することになります。

 こうして、組織における課題を解決する改善活動ではなく、将来の新しいパーパスを達成する働き方改革活動の案が作成できます。すなわち将来に合わせで現在を変えるという考え方です。

vbl-mrkrgn06.jpg図表6 ブランドアイデンティティ・マンダラとビジネスモデル・マンダラ

 すでに図表6の右上に位置する現在のビジネスモデルを持っている場合には、パーパス検討に参加している各メンバーの組織のビジネスモデルの図に書かれていることを参考にしながら図表6の左下のブランドアイデンティ・マンダラを検討することもできます。また、企業の規模が大きいか、部門毎に違ったやり方を行ってきた組織の場合は、部門ごとに目標を作ってきたと思います。そのような場合は、それらを包含した全社で納得できるパーパスを目指してブランドアイデンティティの要素を作成します。

 こうしして作成したブランドアイデンティティの中心要素はブランド・コアです。ブランド・コアと、パーパスの各要素の関連性や整合性をとって全社的なパーパスを作ります。

 パーパスは永続的に使える価値観ですと言っているのに図表6がループになっているのは、新事業を始めるときや企業を始める時には一度作ったらずっとそれに従うものでもなく、OODAのように結果を見ながら必要に応じて・改善して決めるのが普通です。パーパスの検討中に、企業の進むべき方向が変わるのですから、パーパスにあわせて仕事のやり方をモデル化していたビジネスモデルも変えなくてはいけません。図表5の矢印がループになっているのはそのためです。このような手順を踏んで全社的なパーパスが決まったら各部門はあたらしいビジネスモデルを検討し、全社的なパーパスを実現するための各部門で実行用ビジネスモデルを作ります。

おわりに

 ここまで、既存組織で新しい活動方針を作り出すためのパーパスを設定する方法について、図表6のようにまとめました。しかしこの方法は既存企業の改革だけでなく、新しく事業を起こすベンチャー(起業家)にも使えます。この時は新事業はこれから始める事業ですから起業そのものです。さらにブランドアイデンティティのブランド・コア作成時の8つの要素を作るときに参照する図表6の右上のビジネスモデルは、既存事業のビジネスモデルではなく、起業家が過去に経験した事業の中から参考になるモデルや、既存企業及び立ち上げ中の他社の中から最も競合しそうな会社のビジネスモデルを作成し、それらの企業に打ち勝つブランド・コアを検討する時の参考とします。

 また、2.1の最後のジョージ・セラフィム、グローディング・ガーデンバーグ、2019「パーパスは収益を左右するのか」にあるようにパーパスを実現するために.は、ミドル層を育成することが重要であるということもわかりました。これは指示待ち型の組織運用になってしまった現在の日本の多くの組織について、非常に重要なことを言っています。また育成とは 教育することではなく、「学ぶ場」を作ることです。世界の多くの国で行われている「ジョブ型雇用」への移行がテーマとなっている企業にとっては、パーパス 設定は重要なテーマとなります。

 また「就職先の企業文化が自分に合うかをどう見極めるか」(クリスティ・デポール、2021)に、就職したい会社の企業文化を知るためには、次のようなことを行えと言っています。

1.インターネットでヒントを探す
  職務記述書に使用されている言葉を分析する(企業の信念の優先順序はここにあらわれている)
  ジェンダー・アドバイス・デコーダーを使用する
  グラスドアなど求人レビューの掲示板を確認する
  最後にソーシャルメディアで調べる

2.隠れた情報を探り出す
  一般論ではなく具体的・接的な質問をする
  この答えが漠然としている時は、彼らの善意は本物ではない

3.つながる努力をする
  どんなリソース(誰)に聞けばよいのか質問する
  情報やサポートが必要な場合には質問する 

 今後このようなことが普及してくると、これらの情報を得るために人事部門や現場の中間管理職に質問が行くことになるかと思います。この時パーパスと違った答えが返ってくると、就職希望者の信用が得られず、そのような先を見る人や目的意識のある人の採用は難しくなります。

 すでに働いている人であっても、ジョブ型雇用を目指す企業からの誘いがあると、そこに転職するかもしれません。したがって、ワーカー意 識の従業員に希望を与えたり、現状維持のこだわる上位管理職に改革案を提案するのも現場を良く知る中間管理職の仕事です。ミドル層が重要というのはこのような意味も含めております。

 パーパスは、一度表現したらそう簡単に変えることの無いように十分な検討・検証をして、トップの責任事項として実行する必要があります。さもないと、顧客だけでなく従業員の信頼も失ってしまい取り返しのつかないことになります(トップの覚悟)。

 第2章、第3章のパーパスについての多くの議論は、あくまでも会社の立場で書いているので、第1章及び2.2のステークホルダーに従業員があるように、個人の立場も重要であることにも注意する必要があります。ほかにも「137.心豊かに暮らせる社会」や「138.ボランティア渇仰の危機」等にあるようにSDGs の立場、IoT技術、新型コロナや終身雇用や定年制の問題といった「社会の変化」なども出てきそうです。これらの変化等に対応してその時その時に応じて気を付けていくことになりますが、できればこのような変化があっても変わる必要がない「パーパス」を設定できればさらにすばらしいことです。


参考資料
Backlog、2019「ステークホルダー(利害関係者)の意味と関連語を例文付きで解説!」、Backlog編集部、2019年 4月17日、 https://backlog.com/ja/blog/comment-on-stakeholders/ (アクセス 2021/01/18)

グラハム・ケニー、2019「ビジョン、ミッション、バリューとはどう違うのか」、『ハーバードビジネスレビュー Purpose』、ダイヤモンド社、 2019年3月1日、p90-p91)

グラハム・ケニー、2019「パーパスの実践にあたってはまずわが身を振り返れ」、『ハーバードビジネスレビュー Purpose』、ダイヤモンド社、 2019年3月1日、p92-p93

「パーパス」は組織を外から見つめるもの

クリスティ・デポール、2021「就職先の企業文化が自分に合うかをどう見極めるか」、 https://www.dhbr.net/articles/-/7396(アクセス 2021/02/04)

ステファンA・グレィザー、マッツ・ウルデ(2020)「あなたの会社のブランド・コアを見 つける方法」、 『ハーバー・ビジネス・レビュー Purpose  Branding』、ダイヤモンド社、2020年10月、p74~p86)

ジョージ・セラフィム、ダニエラ・サルツマン、2019「法と文化の両面から改革せよ」、 『ハーバードビジネスレビュー Purpose』、ダイヤモン ド社、2019年3月1日、p96-p97)

短期志向の文化と、会社法による株主第一主義 Bコーポレーション

ジョージ・セラフィム、グローディング・ガーデンバーグ、2019「パーパスは収益を左右 するのか」、『ハーバードビジネスレビュー  Purpose』、ダイヤモンド社、2019年3月1日、p98-p99)

ビジャイ・ゴビンダラジャン、2020「パーパスの持つ力を伝統企業に浸透させる法_ペプシコ」、『ハーバードビジネスレビュー Purpose  Branding』、ダイヤモンド社、2020年10月1日、p60-p73)

トーマス H.リー アンジェラ L.ダックワース、2019「組織の「やり抜く力」を高める」、『ハーバードビジネスレビュー Purpose』、ダイヤモンド社、2019年3月1日、 p62-p73)

ロバート E.クイン、アンジャン V.セイカ―、2019「パーパスドリブンの組織をつくる8つのステップ」、『ハーバードビジネスレビュー Purpose』、ダイヤモンド社、2019 年3月1日、p48-p60)

佐宗邦威、2019「組織の存在意義をデザインする」、『ハーバードビジネスレビュー Purpose』、ダイヤモンド社、2019年3月1日、p32- p6)

瀬領 浩一、2020「139.みんなで世界を良くしよう」、2021年1月11日、 http://o-fsi.w3.kanazawa-u.ac.jp/about/vbl/vbl6/post/139.html(アクセス  2021/01/31)

高岡 浩三、2019「経営者の仕事はパーパスを提唱し、実現すること ネスレ日本」、『ハーバードビジネスレビュー Purpose』、ダイヤモンド社、 2019年3月1日、p22-p31)

中川 政七、2019「私隊は「こうありたい」を追求し続ける」、『ハーバードビジネスレビュー Purpose』、ダイヤモンド社、2019年3月1日、 p74-p85)

松下 幸之助、1994『人間としての成功』、1994年2月15日、PHP研究所

山口 義信、2020「強くなければ、「社会の公器」たりえない オムロン」、『ハーバードビジネスレビュー Purpose Branding』、ダイヤモンド社、2020年10月1日、p88-p99

2021/02/08
文責 瀬領 浩一