人と地域のWEBマガジン ISHIKAWA DRAWER

Kaichiro KazumaRepresentative director of sake brewery

数馬嘉一郎数馬酒造 五代目蔵元

やとう。はたらく。つくる。能登のために、ひとつずつ。

Person

#01

2016.03.31

まずは、好きになってみる。

社長になった当初は、社内で自分を「認めない」みたいな空気はありました。結果を出しても、認めてくれる方もいれば、そうじゃない方もいる。もう、ひたすらコミュニケーションですよね。何を話していいかも分からなかったけれど、思いを行動で示していくことで、徐々に溶け込んでいけたかなぁという感じです。

まずは、好きになることからですね。僕の中で「何でこんなことができないの」みたいな思いがあったけど、でも、そういう自分がだめなんですよね。松下幸之助さんの側近が書かれた本の中に「神様は、何て素晴らしい方々を置いてくださったんだ」という言葉があって。自分も周りに感謝して引退したいという思いがあるので、感謝して、社員さんのいいところを見るようにしています。

 

弱みを補えるのが組織だと思っているんで、仕事では、苦手なことを克服するよりも、強みを伸ばす時間にしてほしい。縁あって集まっている仲間なので、ここでの時間を楽しくし、いい人生を過ごしてほしい。経営は、関わるすべての人を幸せにする仕組み。取引先や社員さん、家族。すべてを幸せにできる組織でないといけない、というのが大前提としてあります。始めの頃は外に出てばかりでフォローができなかったので、1年くらい前からそこに重きを置いて。まだまだ口だけのところもあるんですが、そういう意識でいます。

※松下幸之助さん…パナソニックを一代で築き上げた“経営の神様”。名言「事業は人なり」はあまりにも有名。
1894~1989。

しぼって、やめて、きてもらって。

社長になって変えたことはいろいろあります。まず、商品数を一気に絞りました。特に思い入れもなかったんで、数字とかポジショニングを客観的に判断して。農家さんから直取引で酒米を仕入れるようにもしました。お互いのいいところで契約しました。また、今年からラベルを全部チェンジし、杜氏制も廃止しました。会社として、一番大事なお酒の品質を司る人が社外にいるというのはどうなんだろうというところから、社員で責任を持ってやっていこうと。社員も新しく2名雇用して。そのうち1人は東京からの移住者です。農家さんと2社で雇用しようと「米作りからお酒づくりをできる仕事です」とフェイスブックで呼びかけました。お酒をつくる量が増えればお米の量も増えますよね。これから能登では、何社かで1人を雇用することが増えると思うので、受け入れ態勢を整え、メリットやデメリットを知っておこうと思って始めました。今の時代、いろんな仕事をできることを望む方が増えてますよね。田舎では人材の確保が大事になってきますし。

 

外部の方にも酒造りを体験してもらっています。基本的に、酒蔵は神聖な場所だから外の人は入ってくるなという感じだったんですが。人が来ることで緊張感も増しますし、教えることもあるので、蔵人さんのいい刺激にもなる。業界内にある、明確な理由がないダメなものってチャンスなんですよね。

何たって学生がすごいので。

学生が米づくりから日本酒に関わる「N-project」のサポートもしています。2年くらい前ですかね。「カクマノヒロバ」の仁志出君たちと「何か一緒にできたらね」と話していたのが始まりで。農家さんの知り合いもいるから、学生に米づくりからやってもらって、彼らがつくりたいお酒をつくってもらったら?みたいな。過疎化や、若者が農業やお酒に興味を持っていないなど、さまざまな課題解決の動きができればと思って。

学生向けのお酒だったら、学生がつくればいい。学生や若い層に日本酒を訴求するためには、そもそも彼らにお願いした方が良くて。言葉は同じでも、自分と学生が感じる「甘い」や「フルーティ」は違う。味のアドバイスなど、大枠の部分はこちら側で行いますが、月に3回以上集まらなきゃダメとか、学生が自分たちで決めて取り組んでいます。学生もかなり自信がつくみたいです。結構大変なんですよ。わざとですけど、僕らが「いつまでにやれ」「原価は?」「それくらいの効果に対してこれだけ払って大丈夫?」とか、いろいろ言うので。

酒造りに取り組む学生たち。蒸しあがったお米をほぐすの図。

学生を見ていると、自分の頭が固いなと思います。僕らじゃ絶対できないラベルだし、どんなお酒を飲みたいという集計なんて、自分の業務内ではできないんで。PRで沖縄に行ったり、アワードを見つけて申請っていうのは、どうしても間に合わない。賞も獲っていて、エナクタスで準優勝しましたし、いしかわエコデザイン賞で金賞も獲りました。ほかにもいろいろあります。学生がすごいです。

この取り組みを知ってもらうことで、農業や酒造業に対するイメージを変えられたりというのもあるんですが、一番大きかったのは、石川県に残ろうと思ってくれる学生が増えたこと。今持っている課題を解決しようと思っていたんですが、経営者になりたいとか、地元のことに貢献したいからっていう人が増えたのが一番の学びでした。イベントに出た学生が、挨拶の時に「自分は県外に出ようと思っていたけど、県内に残ってデザインの力で石川県に貢献したい」と話していて。泣きそうになりましたね。こんなこと言うようになったかと。

※仁志出君…学生プロデュース事業などを手がける金沢の団体「カクマノヒロバ」代表の仁志出憲正さん。
※エナクタス…次世代のビジネスリーダー育成を目的とした学生対象の教育プログラムで、39カ国、1600の大学・学生が参加。毎年国内大会とワールドカップが開かれている。運営本部は米国ミズーリ州。

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鳳珠郡能登町字宇出津へ-36
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